作品解説
リアルな宇宙戦闘の描写が特徴。
登場勢力
地球-月連合:統一政体はなく国連の拡大版らしい、軍隊として航空宇宙軍があるが、国家内国家状態と化している。
外惑星連合:木星と土星の各衛星の植民地が地球-月連合に対して自治権獲得のために結成。
SPAと呼称される事もある(おそらくSuperior Planet Allianceの略)
当初は表向き協商連合を装い経済力や軍事力を高め、最終的には火星諸都市や小惑星帯諸国等の地球-月連合以外の全太陽系国家群の力を結集して地球と航空宇宙軍に対等の地位を求めるための国家連合であり、軍備増強はともかく必ずしも開戦を前提としたものではなかったが(軍事力はあくまで抑止力であり戦えば勝算が低い事は分かっていた)外交戦の敗北等により開戦へと至った。
第一次外惑星動乱時の参加国は木星系のカリスト、ガニメデ、エウロパ、イオのガリレオ衛星群、土星系のタイタン、先行及び後方の両トロヤ群。トロヤ群は結成後の開戦前の地球との外交戦中に参加を表明した。作中描写を見る限りカリストとガニメデが連合の盟主とはいかないまでも旗振り役だった様である。国力の問題から事実上戦力となるのはカリスト、ガニメデ、タイタンの三国のみである。
ガリレオ衛星群の中でも小国のエウロパとイオ、特に惑星上に都市を持てず国力が著しく低いイオは地理的要因や大国であるカリストとガニメデの圧力で参加させられたという意識が強く、作中において内部の描写が無いタイタンは重要計画の遅れ等何となく消極性が見られ何を考えているのか分からないとカリスト(おそらくガニメデも)を苛立たせ、カリストでも開戦前及び終戦直前に反開戦派や講話派によるクーデターが未遂も含め複数回起きる等、内憂も多く一枚岩とは言い難い。
約40年後に勃発した第二次外惑星動乱では前動乱時とは打って変わってタイタンが積極的に名実ともに盟主、というよりも支配者として振る舞い開戦に至っている。
カリストとガニメデが前動乱終結以降に課された経済制裁や動乱の最後まで戦い続けたダメージのため戦後40年が過ぎても経済が低迷しているのに対して、タイタンは先に降伏した事でダメージや制裁が軽かったため、あらゆる抜け道を使って国力と軍備を回復させて惑星配列が前動乱時と同じになる40年後に再び地球に戦いを挑んでいる。
開戦以前からの戦闘艦を始めとする各種兵器の調達や開発も、宣戦布告無しの奇襲攻撃から始まる各種作戦行動等も明確にタイタン主導で行われている。
極度の人手不足解消のためか、傭兵の雇用やそれを指揮官にした各種無人兵器部隊の運用(基地司令官が一人であとは無人兵器しか居ない、しかも司令官は基地に常駐せず外部に居る)やコンピュータシミュレーションによって開発された疑似生物兵器(自律ロボット兵器)の投入はまだ可愛いもので、敵味方の死体の再利用や死体の脳をスキャンして構築した疑似人格による無人兵器運用や電子戦を積極的に行う等、戦力調達になり振りを構っていない。
他の構成国は、カリストとガニメデは開戦直後に連合からの離脱を宣言し個別に地球側と停戦交渉しようとしてタイタン軍の無人兵器によって制圧され傀儡政権が樹立された。(表向きは主戦派のクーデター)
イオとエウロパは時機を見てカリストらに続こうと静観していたようだが事態が急激に動きそれも出来なくなったようだ。両トロヤ群は詳細は不明だがタイタンに次ぐ戦力を有しているらしい。これはトロヤ群の国力が強大化したというよりもカリストとガニメデの国力が未だに回復していないため相対的なもののようである。
汎銀河連合:汎銀河人という地球人に酷似した異星人によって構成される反地球反航空宇宙軍勢力。彼らの住む恒星系群がある宙域を汎銀河世界と言う事もある。
接触当初はろくな宇宙技術を保有していなかったが最終的に超光速恒星間戦闘艦を自力で開発し航空宇宙軍と互角以上の戦いをする様になる。
彼等が居住する惑星はジャヌーやバラティア等ネパールやインドの地名が使われている。
ジャヌーは地球人との接触以前に同じ恒星系内に存在する他の惑星からの侵略を受けて撃退したという伝説が有るらしいが詳細は不明。侵略者の惑星に今も文明が存在している或いは痕跡が残っている等の言及は作中に無い。
汎銀河世界は多少の差は有れど地球人と接触するまで個々の惑星の人口が少ない事や、更に複数の国家や集団に分かれているから等の理由で文明が一定水準で停滞しており、宇宙技術は一部の惑星が人工衛星を打ち上げているくらいである。(途中で滅んで遺跡等の痕跡が残っているだけの場合もある)
隣の惑星が相手とはいえ宇宙戦争をする(外惑星動乱時の地球に匹敵する)レベルの宇宙技術を持つ惑星は確認されておらず、その惑星だけ例外的に飛び抜けて文明が進んでいたのか、バラティアの生きたマスドライバーである蒼龍の様なトンデモ生物と汎銀河人のイカれた身体能力の力技で惑星間宇宙を渡ったのか(バラティア人は蒼龍を使いほぼ生身で弾道飛行をして衛星軌道の航空宇宙軍の宇宙船を破壊した事例が有る)、ただの御伽噺なのかは不明。
或いは汎銀河人以外の知的生命体だったのかも知れない。
作中にて使用される主な兵器
所謂爆弾であり作中世界での宇宙戦において主力となる兵器。敵艦艇の進路上に放り出し爆発させ破片をばら撒き破片と敵艦の衝突時の相対速度差のエネルギーで敵艦を撃破する。爆雷自体には母艦から離れる程度の推進力しかない。そのため、この世界の艦対艦戦は一種のドッグファイトの様相を体し、武装の威力よりも戦闘艦の加速力等の航宙性能が戦闘力に直結する。
宇宙ステーション等の位置や軌道が予め判明していて回避機動が出来ない目標に対しては長距離レーダーやセンサでもお互いが全く認識出来ないほどの遠隔地点から射出し、タイマーや無線指令、センサ反応によって起爆するという後述の機雷に近い攻撃を行う事も可能。(このため爆雷の射程は運用状況に大きく左右される)
基本的に相対速度差が大きい方が爆雷破片の威力は高いが、敵艦に命中する際は盲管銃創の様に艦体を貫通しない方が破片のエネルギーを完全に敵艦に叩きつける事が出来る様だ。(破片に発令所を貫通されて死者も出たが、重要部分は損傷せず応急修理で航宙自体は可能だったという事例がある)もっとも、稼働中のエンジンにでも命中すれば貫通等関係なく爆沈するだろう。
時代によっては爆雷の破片の飛散速度をある程度調整する事が出来るらしき描写が有る。
爆雷攻撃を受けた際の対処法としては、全力加速で確実に破片が命中する破片密度が濃い範囲(爆散円、又は爆散球と呼称)からの退避、破片が飛来する方向へ艦尾を向けてエンジンを全力噴射して推進剤ガスで破片の速度を遅くしたり蒸発させる、レーザ砲で迎撃する等があり、状況に応じてこれらを組み合わせて対処するが、当然の事ながらどれも確実に攻撃の回避を保障するものではない。(爆散円から外も破片の密度が減るだけで破片が命中する可能性自体は低くはなるが消える事はない)
例外的な方法として、第二次外惑星動乱開戦時に外惑星連合軍の仮装巡洋艦が起爆前の爆雷の信管を長射程レーザ砲で撃ち抜いて不発にするという方法で回避した事例が有る。
飛散した爆雷破片はレーザと違って時間が経っても自然に消える物ではなく、現実のスペースデブリと同様思わぬ所で衝突被害を出す事が有る。
戦場が太陽系外になった恒星間戦争時代でも同じ原理の物が主力兵器として使用されている。
機動爆雷
爆雷に強力なロケットブースターを取り付けた物で所謂ミサイル。爆雷が母艦から離れる程度の低い機動性しかないのに対し、こちらは高度な機動性を持ち、分離初期は加速せずに最終的に敵艦へ乱数加速で突っ込み破片をばら撒くらしい。ただし、威力は爆雷同様相対速度に依存する。
ブースターの分大型化するため艦艇への搭載数は通常の爆雷よりも少なくなる。例として爆雷なら四発搭載可能な艦が機動爆雷だと一発しか搭載出来ないという事がある。
核爆雷
核爆発時に発生するX線を集束しX線レーザーとして敵を撃破する。なお、他の爆雷も爆発自体は核爆発を利用している。
作中ではオルカキラーの艦載機が使用。
投射ミサイル
機動爆雷とほぼ同じ物。機動爆雷とどのような違いがあるのか詳細は不明。
レーザ砲
所謂レーザー砲。航空宇宙軍史に限らず谷甲州作品ではこう呼ばれる。(工学分野や工場の製造現場や工事現場などにおいて「ハンマー→ハンマ」などのように「最後の長音記号を省略する」慣習が有る為と思われる)
爆雷と違い威力が相対速度に左右されず主砲として様々な艦に搭載されているが、艦載可能な管制システムの性能限界(命中精度)から戦闘艦に搭載されているレーザ砲が実用命中精度を発揮出来るのは1000km程度が限界で、その距離が最大射程とされており爆雷よりも遥かに射程は短い。(爆雷はその性質上射程が状況に左右される。完全なまぐれ当たりではあるが牽制で放った爆雷の破片が90万kmも離れた敵艦に命中して軽微とはいえ損傷させた事例が作中に有る)
作中でもよほどの混戦にでもならないと対艦兵器としては使用されず、もっぱら爆雷破片に対するCIWS(近接防御兵器)として使われており、長射程対艦ミサイルの発達した現代の戦闘艦における主砲に近い扱いである。爆雷や投射ミサイルを装備しない特設砲艦等では唯一の武装であるにもかかわらず乗員から景気づけの豆鉄砲と呼ばれている程度には攻撃兵装としては心許無い様だ。
例外として画期的な管制システムを使用する射程1万kmを超える艦載レーザ砲が外惑星連合軍に存在し、搭載されている艦の性能と相まって航空宇宙軍の輸送船団を僅かな時間で全滅させた事がある。また、航空宇宙軍で計画中の惑星攻撃艦にも射程数万kmのレーザ砲を搭載する予定はあるらしい。
レーザー通信機としても使えるらしく、艦によってはやろうと思えば太陽系外から通信を送る事が可能であるようだ。
地上に設置される物はサイズや管制システムの制約が無いためか射程距離は艦載型よりも格段に長く、同時に多数の爆雷破片を追跡処理出来る性能を持つ。のだが、攻撃兵器ではないので戦略的に役に立たない(射程内に敵が来たらその戦争は詰み)という理由で陸戦隊の爆破訓練の対象にされてしまった物もある…。立地的にも都市やその他の重要施設の防空兵器としても利用できる場所ではなかった模様。
特定宙域や軌道に設置された爆雷で無線指令やタイマー、或はセンサで近づく艦船を探知して爆発する。木星系から地球圏へ向かう無人のヘリウムタンカーの破壊や木星系の封鎖等第一次外惑星動乱時に両陣営で使用され、特に木星系封鎖のために設置した機雷は使用者である航空宇宙軍の認識以上に高性能な物も多く、戦後も旧外惑星連合軍の掃海艇部隊によって被害を出しつつも掃海作業が続けられた。
重力場爆雷
汎銀河連合との戦争で汎銀河連合側が使用した兵器。航空宇宙軍側も概念は理解しているので保有しているのではないかと思われる。弾体を限りなく光速近くまで加速する事により弾体の質量を極限まで高め、その重力場によって発生する潮汐力によって影響圏内の目標を破壊する。(マイクロブラックホール?)