解説
ABCマントは、長谷川裕一作の漫画『機動戦士クロスボーン・ガンダム』シリーズに登場するモビルスーツ用の装備品。
正式名称はAnti-Beam Coating Mantle(対ビーム塗装マント、の意)で「アンチ・ビーム・コーティング・マント」だが、略して「エービーシーマント」とも発音される。原型はF90のミッションパックの一つに搭載された装備で、前面の一部にのみ装備されているものであった。
サナリィが開発した新素材で、特殊繊維にビームコーティング素材を配合して形成した布地。ビーム兵器による攻撃を受けた場合、その部分の素材が蒸発することでビームの威力を相殺する、一種のリアクティブアーマー(反応装甲)である。耐久力は宇宙世紀0133年頃の一般的なビームライフルで5発程度だが、ビームの威力により増減する。同時代にあってもモビルスーツを一撃で沈める説得力を持った強力なビーム兵器である量産型F91のヴェスバーの直撃を受けた際、マントは一撃で崩壊したものの機体は無事であった例もある。
クロスボーン・ガンダム(サナリィの新作「F97」)が性能テストを兼ねて宇宙海賊クロスボーン・バンガードに貸与された際、ABCマントも同じく提供されて実戦配備された。クロスボーンガンダムの場合、背部のX字スラスターを折り畳んだ状態で肩部から下を全体的に覆うことができ、機動性にも不都合は生じないが、スラスターの畳めない他の機体では噴射口をふさぐ上にその部分が熱で劣化し脆くなるため装備箇所が限定されてしまう欠点が生じている。
少数精鋭で多数の敵機を相手にする宇宙海賊軍にとって、多少のビーム被弾を構わず敵機に接近し、得意の格闘戦に持ち込めるこの装備は非常に相性がよく、前述のように本来ならば撃墜必至のヴェスバー直撃に耐え機体とパイロットを救った例があるなど、多大な効果を挙げた。
弱点としては、あくまで布素材であるためビーム兵器以外の実体兵器には容易く切り裂かれてしまう点が挙げられる。またビーム兵器であっても、ビームサーベルのようなビームを長時間押し当てる事が出来る格闘兵器に対しては、あっと言う間に消耗してしまう。このため、木星帝国はクロスボーンガンダムとABCマントに対抗するために、マントを切り裂く威力を持ったクァバーゼのビーム・ソーや、マントを貫通する実体弾を撃ち込むアビジョのニードルガンなどの新武装を考案していった。
後に、積層構造化したABCマント・追加スラスター・Iフィールド発生装置を組み合わせた総合防御装備「フルクロス」も製作されている。積層化することでビームの耐久性と物理的な剛性の克服を狙っているが、すでにABCマントの在庫がなくなっているために切れ端をかき集めて積層化し、フルクロスとして仕立て上げるという苦肉の策でもあった。その考案は開発時点ですでに存在し、X-1のフルクロスはそれを再現したものとなっている。
重量に左右されずに防御力を付加するという目的で開発されたABCマントだが、上記の通りスラスターに干渉せずに効果的に使用できる機体が限られることと、使い捨て装備にもかかわらず生産コストが高いなどの都合上、消耗の激しい兵器用としては役に立たないという理由で姿を消している。ただしABC生地は有事に使用することの少ない民間用としては有効で、張ったり被せたりするだけでビームを防げる手軽な防御アイテムとしても重宝するため名前を変えて(ABCシートなど)一般に普及することとなる。
楽屋事情
作画の長谷川裕一は、この装備の考案・導入について、「ステレオタイプな海賊のイメージにありがちなマントの装備によるケレン味の付与」と、「雑誌連載というスケジュールの中で、マントによってモビルスーツの作画を簡略化するため」という2点の理由を挙げている。
使用機体
木星帝国に寝返った後の状態(X2改)では、当時の同国では技術不足なためマントの再現はできなかった。
スラスターとの干渉からスカートのように下半身にのみ装備しているが、この状態でも十分な防御力を要している。
- クロスボーンガンダムX-0(フルクロス)
黒・紺・モスグリーンなどで彩色されることの多いABCマントだが、本機では銀色の機体色に合わせて灰・銀・白などの色が用いられる場合も多い。X-0のABCマントの技術を解明し生産したものが下記のX-12の装備となる。
右手に持ったニードル・フルーレ(高収束ビームサーベル)を主武装とし、敵に左半身を向けて相対するパイロットのスタイルから、左半身にのみ装備。
なお、クロスボーンガンダムX3は作中一度もABCマントを装備することがなかったが、後年の立体物やファンアートなどではIF装備としてABCマントを付与する例もある。
関連イラスト
関連項目
機動戦士クロスボーン・ガンダム クロスボーンガンダム フルクロス
レイバー:関節部に布が被せられているが、その理由は本作と同じく作画上の都合(劇中での理由は防塵カバー)。一方でマント以上に模型泣かせ(可動範囲的な意味で)なデザインである。