概要
2019年以降、標茶町内および厚岸町の隣接地域にて、夜な夜な牧場を襲撃し乳牛に被害を出した。
観測史上稀に見る巨躯を持ちながら、野生生物の領分を越えた猟奇性により、ただただ快楽のためだけに牛を殺して回る……
……というホラー映画の怪物みたいなイメージを着せられてしまった、非常に臆病で少々マヌケな普通のヒグマである。
もっとも被害規模は全然普通ではなく、被害頭数は最終的に66頭、死亡頭数は32頭、対応のために間接的に発生した損益も考慮すると被害総額は一億円を超えると見られている。
「OSO18」のコードネームは、「標茶町オソツベツ地区で発見された、足跡の最大幅18cmのクマ」の意。一般にツキノワグマに比べて体が大型化するヒグマとしても異様な大きさであり、その体重は300kg~350kgと推定されるが、肥満によりそれ以上の体重となっている可能性も高い(400~450kgと推定する専門家もいる)。偶然にも「OSO」はスペイン語で熊と言う意味がある。
その後の調査により18cmというのは測定ミスであり、実際は足跡幅16cm、体重300kg未満で極々普通のヒグマとして推定値が下方修正された。
後に判明した実際の体格も、修正後の推定値に近いものである。
そもそも野生環境での足跡はそうそうくっきり残るものではない上に、少し時間が経っただけでも風化して変形してしまう。大きな測定誤差が出るのは無理もない話である。
しかし、これらの情報が独り歩きしたせいで分析や対応に少なからず迷走を引き起こしている。
性格
ヒグマは一般的に仕留めた獲物に執着すると言われているが、OSO18は警戒心の強さが執着心を上回っており、人の気配を感じると獲物を諦めてすぐに逃げてしまう。
そうすると腹を満たすことが出来ずに次の獲物を探さざるを得ないため、結果的に被害の拡大に繋がった。
後に体表に確認された傷から、OSO18は設計の甘い箱罠に中途半端に引っかかり、結果として人工物の危険性を学習する機会を得てしまった模様である。
しかしながら目立ちにくいくくり罠に関しては警戒が及んでおらず、無防備に踏み抜いて作動させたと見られる事例が散見されている。
ただし当初喧伝されていた体重400kgの推定値に基づいてくくり罠を強化していたため、罠の動作が遅くなり空振ることを繰り返していた。
警戒心が高い一方で、OSO18には「不用意な狩りを繰り返す」という特徴もあった。
上述した通りOSO18はヒグマとしては平凡な体格の個体だが、対する乳牛は成体になると体重600kgを超える。OSO18は無謀にも倍以上の体重差がある相手に挑みかかって返り討ちに遭うことを繰り返したため、重傷を負わされただけで食害されないという事例も頻発し、これまた被害を増やすことになった。
2022年以降に被害が減少したのは、2022年8月に「リオン」と言う体重500キログラムの乳牛(元々リオンは気性の荒い性格だったこともある)を襲撃して返り討ちに遭ったからだとも言われている。
この様にOSO18は臆病な一方で少々抜けている部分があり、これらの性格が最悪の形で噛み合った結果が上述した前代未聞の被害件数だったのである。
しかし当初の測定誤差に加え、マスコミやネットの方々が、断片情報を拡大解釈した結果、体重400kgを超える日本史上でも稀な化けグマが、腹も減っていないのに快楽を得るためだけに夜な夜な牛をいたぶって遊んでいるという、実態からかけ離れ、過度に動物の思考を擬人化したような想像図が出来上がってしまうことになる。
もっとも、前例のない行状に素人や野次馬はともかく対策に当たった地元猟師も首をかしげていたほどであり、実際に牛を失った被害者の酪農家ですらマスコミのインタビューに「ハンティングを楽しんでいるような…」という、実態とは異なる印象を証言してしまうなど、クマの行動として意味不明過ぎて想像に頼るほかない状況だったため、「外野が勝手に盛り上がって捏造した虚像であり、現地関係者やプロの間にそんな話はなかった」とするのも事実とは異なる。
駆除後に判った実態
世間の耳目を集めたOSO18はNHKが特集番組を組むに至り、被害状況から対策、駆除、遺骸の調査までが事細かに記録される珍しい例となった。
駆除されたOSO18の持ち込まれた解体業者は最近処理した熊がその一頭のみで、堆肥場に埋められていた遺骨を他の熊のものに混ざることなく掘り出すことに成功した結果、上記の性格などに加えて、以下のような特徴が判明している。
- 駆除地点に至る途中のOSO18と見られる熊が目撃されており、「毛並みが悪く、老齢のように見えた」と証言された
- 駆除する際は、人間が近づいても逃げ出す様子は無かった
- 駆除後に持ち込まれた解体業者も「毛が薄くて、歳をとった熊」という印象を受ける
- しかし、駆除後に保管されていた牙を調べると、野生でも20年は生きるヒグマとしてはまだ若い9歳程度の個体との結果が出る
- 役所の資料に残された射殺後の印象は「ヒグマとしては痩せた見た目」
- 前足を実測すると16~18センチではなく20センチもあった。しかしこれは身体が大きいからではなく、皮膚病にかかっていて、掌の部分が酷く腫れ上がっていたせいだった
- 解体業者の処理場から発掘された遺骨の成分分析により、本来「植物が多めな雑食性」であるはずのヒグマであるにも拘らずほとんど肉しか食べていなかったようだと推定される
- 対策班のメンバーも「セリもフキも食った様子が無い」と語る
- 解体時の胃の中は空っぽ。つまり空腹のまま何も食べていなかった
- 牛を襲わなくなり駆除されるまでの時期はヒグマの繁殖期に重なっており、OSO18の行動圏には競争相手となる他の雄ヒグマが複数侵入。それらの雄を引き寄せるであろう雌ヒグマもいた
まとめれば、OSO18の実態は簡単に手に入るはずの植物は空腹になっても食べず、不自然に肉ばかり狙っては失敗する、実年齢に見合わないほど不健康そうな痩せ熊であり、駆除に至った要因についても「自分より強い雄ヒグマにはじき出されるように移動した結果、不慣れな場所に迷い出た可能性もあるのではないか」という見解が出された。
NHK特番は全体的に「OSO18も人間の被害者なのではないか」という野生動物番組にありがちな「哀れな動物と身勝手な人間文明」という雰囲気で締めくくられており、「クマは獲物に執着する傾向があるため、狩りによって死んだエゾシカの死骸を食べ、その味を覚えてしまったOSO18は牛しか狙わなくなってしまった。そして肉しか食べなくなったOSO18の身体に異変が生じ、本来のクマの狩りの仕方を忘れてしまった非常に不幸なクマかもしれない」と言う意見を紹介している。
OSO18が縄張りとしていた拠点は「デントコーン」の畑がある地域だった。デントコーンとは、家畜のえさとなる飼料用トウモロコシで、近年はそれらを狙ってエゾシカやヒグマが出没することもあり、特にエゾシカは大繁殖の原因になってしまい、ハンターが増えたエゾシカの駆除に当たるが、ハンターは金になる肉や角だけを回収し、その他の部位はその場に放置してしまっていた。OSO18も本来はデントコーン目当てでその地域に訪れたが、その近くでエゾシカの死骸を食べたことで、味を覚えてしまったとする説である。
ただし現地で解体した獲物の一部を、クマ含む野生動物が食べる前提で山に置いていくという行為は、狩猟の儀式や内臓などの処理方法としてかなり昔から行われていた面もあるため「猟師のせいで肉の味を覚えた」とすると、これまでの他の熊はどうなんだという事になるし、そもそも「反撃してくる上にうまく狩れない牛にばかり執着し、ほぼノーリスクで手に入る植物を胃が空になっても食わなくなる」という不自然な行動の一番重要な原因を結論ありきにしている説であるため、「人間のせいで生涯を狂わされた可哀そうなクマ」という情緒的な物語性にばかり着目することは、OSO18を猟奇的なバケモノ熊のように誇張したのと似たりよったりなのには注意が必要。
被害
上述したようにOSO18は少々性格が変わっており、そして通常と比べやや弱いヒグマだったわけだが、もたらした被害は被害額ベースで考えると非常に大きい。
被害総額は直接被害だけで8000万円を超え、間接的なものも含めると一億円をゆうに超えている。
直接的な人身事故を伴わないヒグマによる獣害事例としては、過去最大の被害総額であるとも言われる。
被害頭数は66頭、そのうちの32頭が命を落とし、助かったウシも怪我やPTSDにより乳の出が悪くなるなど、乳牛として使い物にならなくなる例が多い。
被害者の中には牧場の経営が立ち行かなくなった人もいる。また、放牧場を持たない所有者から乳牛を預かって放牧する町営牧場にも被害が及んでおり、死亡した牛に対する所有者への弁済金の支払いに市民の税金が使われることから、町営牧場は一時的に新規の乳牛受け入れを拒絶している。すでに預かっている乳牛も所有者の元への返還を余儀なくされている。
放牧ができないため、標茶町・厚岸町内での乳牛の飼育頭数が平時より大きく制限されることとなり、必然的に発生する飼いきれなくなった乳牛は、肉牛として殺処分せざるを得ない。このような実情は、最悪の場合非正規雇用で働く牧場職員の雇い止めにさえ至らしめるものであり、たとえ直接的な人身事故に至らなくとも失業や廃業による間接的な死者を出しかねない、極めて憂慮すべきものである。
駆除へ
ほうぼうを騒がせたOSO18は、2023年7月30日釧路で熊狩の経験が全くない地元の自治体の職員によって、そうとは知らぬままにアッサリと駆除されてしまった。
職員は眼の前の痩せ細ったクマが、人知を超えた未知の怪物であるかのように喧伝されたOSO18の正体だとは知る由もなかった。
記念に剥製にしようにも、2発もぶち込まれた頭蓋骨が粉々になってしまっていたため難しく、結局クマは業者に引き渡されてジビエとして供されることになる。
対策班がこの事実に気づいたのは駆除から半月が経過した後のことである。当然その頃にはOSO18は隅々まで食肉に加工された挙げ句、残った骨は牙を除いて廃棄されてしまっていた。おかげで対策班は廃棄場を掘り起こす羽目になったという。
注意
9月になって、とんでもない事実がニュース報道された(ソース)。
名称は明かされていないが、動物愛護団体を自称する本州の政治団体が、OSO18の駆除をかわいそうだからとの理由で猛批判しており、役場の通常の業務に支障をきたすほどの抗議電話などによって、駆除にまで手が回らなくなっているのだという。
被害者や地元民の感情を逆撫でするとんでもない行為であるが、当人達は「プーさん」や「くまモン」などのキャラクターから来る熊をイメージしてしまっているのであろう。だが上述などの通り熊は全身筋肉の体重数百キロの肉弾戦車であるため、創作と現実を混同してはいけない。
OSO18のせいでまさに一家の大黒柱である乳牛を殺されて事業継続さえままならない牧場関係者は完全なる被害者であり、やがて消費者にこの被害が巡ってくることを忘れないようにしよう。
要するに的外れなクレームはお互い無視するに限る。
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