スマウグに因んで名付けられた生物⇒スマウグ属
概要
小説『ホビットの冒険』に登場する邪竜。
中つ国に住む、蛇のような胴体に金色を帯びた赤色の鱗と巨大な翼を持つ西洋龍。
火竜族「ウルローキ」の最後の世代の一体で、第三紀における最大の竜である。火竜の名の通りに口からは強力な火炎を吐き、大きな翼によって自在に空を飛ぶ事ができる。他にも言葉巧みに相手を翻弄し、疑念を植え付ける事で呪いにかける力を持つ。
モチーフは、グラウルングと同じく『ベオウルフ』の竜である。
発音
「Smaug」はその綴りから「スモーグ」という異訳もあり、他にも「トラウグ」などと呼ばれる事もある。一応原語の発音では「スモーグ」も「スマウグ」もどっちもアリらしい。
筆者のトールキンによる発音は「スマウグ」である。
ストーリー
ドワーフ達の繁栄の噂を聞きつけて、第三紀2770年に「灰色山脈」から「エレボール(はなれ山)」に飛来して、ドワーフ達の「山の下の王国」と人間達の「谷間の国デイル」を滅ぼす。
そして両国の莫大な財宝の全てを略奪し、廃墟となった山の宮殿内の最も奥まった大広間に財宝を積み上げてそこを寝床とした。その後は、2941年にトーリン・オーケンシールドらが訪れる60年程以前までは周囲を時々襲撃し、この為に山の周辺は「竜の荒らし場」と呼ばれる荒廃地と化した。
そして2941年、トーリンとその仲間達は財宝と王国を奪回する為に、ガンダルフの助力を得てビルボ・バギンズを仲間に加えて、エレボールへの遠征を決行した。
これが『ホビットの冒険』の物語の始まりである。
本編ではビルボは指輪の力で姿を隠し、財宝の中から金のカップを一つ盗み出す事に成功したが、一行の気配と嗅ぎ慣れない匂いによって目覚めたスマウグは、即座にカップが無くなっている事に気付いて激怒する。山の周囲を旋回して荒れ狂うが、やがて夜が明けると静かに大広間に戻り、半ば眠ったふりをして「どろぼう」が再びやってくるのを待ち受けた。
そして再びビルボが広間に降りてくると、ビルボに話しかけて、姿を現すよう誘いかけると同時にドワーフへの不信を植えつけて彼を呪いにかけようとするが、竜の手管を聞き知っていたビルボは謎めいた言い回しをする事で上手くスマウグの追及を躱して、逃げおおせる事に成功した。この時にビルボはスマウグの腹部の鎧にほころびがある事を発見したが、スマウグの方もビルボとの問答から、彼らが湖の町「エスガロス」から来たに違いないという確信を抱いた。
やがて音もなく外に出たスマウグは、はなれ山の隠し戸の入口付近を強襲して破壊し、さらに報復を加えるべくエスガロスを襲撃する。
その硬い鱗と財宝の鎧の為に、エスガロスの人々が放つ矢はスマウグに全く傷を与える事ができず、スマウグは思うがままに上空を飛び回っては人々を嬲り者にし、火炎を浴びせかけて町を蹂躙した。しかし、ビルボが鎧の左胸に弱点がある事を話しているのを傍で聞いていたツグミが、それを弓の名手であり、かつてのデイルの領主ギリオンの子孫であるバルドに伝える。そして最期は、バルドが水松樹の大弓で放った黒い矢によって、弱点を射抜かれて仕留められた。
そしてスマウグの落下と、断末魔のあがきによってエスガロスは完全に破壊された。
出自
出自は、灰色山脈から飛来した事以外は不明であるが、第三紀の竜族の主たる住処である「ヒースのかれ野」出身だと思われる。トーリンの言葉を借りると、幼馴染の龍は他にもそれなりの数がいたらしく、スマウグが「第三紀最大の個体」というのは、あくまで記録されている個体の話である。また、例えばスカサはスマウグよりも約940年前に倒されているが、成長し続ければスマウグ以上の存在になったかもしれない。
しかしながら中つ国では、神々の影響が後年になるにしたがって減退し、その影響で全ての生き物や魔法種族が軒並み弱体・小型化するという特徴がある。にもかかわらず、第三紀の時点で中つ国史上でも優勢だった王国の一つを滅ぼせる程の力を、本人が弱かったと明言している若い頃にすら持っている辺り、スマウグがいかに強大な力を持っているかがお分かりいただけるだろう。
第一紀末の超大戦「怒りの戦い」を生き抜いた個体かどうかは不明だが、下記の理由から、第二紀以降の、おそらくは第三紀の生まれだと考えられる。
- 「怒りの戦い」は、スパンは42年で、マイアールも参戦しているので大陸サイズの土地(旧中つ国北西部)がまるごと破壊された。生き延びた竜の数は不明だが、2体のみとする公式の書籍もある、『ホビットの冒険』や『指輪物語』の時代に、怪物や悪霊の類が数も種類も少ないのは、この戦争の影響が大きい。
- スマウグ本人は、エレボールに来た時点では若く弱かったと話している。
- グラウルングが未成熟の折に初出撃してから成熟するまで約200年経過しており、そこから計算しても第三紀以前の生まれとは考えにくい。
- 第三紀の始まりからスマウグのエレボール襲撃まで2770年あった。加えてスマウグは171年ほどエレボールに巣食って成長し続けた。つまり、仮に第一紀の最終年に生まれたとしても第二紀が3441年あったので、エレボールに襲来した際には最低でも6212歳程度でなければおかしい事になる。それ程の年月を生き延びてきたのに「若く弱かった」という事にはならないのである。
特徴
大きさ
大きさは、とある書籍では「18.3m」 とされているが、この書籍は非公式である。
束教授はデータを定めていないのと、束教授もアラン・リーもイラストによって変動があるので実際は不明。
束教授もスマウグの大きさについては殆ど言及しておらず、数少ない描写の一つとして
- 「ドアの高さが1.5m以上、通路の広さは3人が並んで歩けるほど」とされる秘密の入口は、エレボールを襲撃する以前の若いスマウグにとっても小さすぎ、成長したスマウグはその戸口に鼻先を突っ込む事しかできなかった
- エスガロスが墜落したスマウグの影響で崩壊した
- バルドの放った「黒い矢」が完全に体内に入り込んで見えなくなった
というものがあり、下手をすれば実写版よりも大きい可能性がある。トールキン自身のイラストと秘密の抜け道の大きさや湖の町の被害などを考慮して計算すれば、全長240m弱の可能性もあるという指摘が海外でされたこともある。
実写映像作品では、公式の言及では全長130~152m、片翼の開長が60-70m以上とされているが、こちらも映像内で場面によって明らかに大きさが変わっているので、正確な大きさは不明である。
危険性
ガンダルフは、この竜とサウロンが手を組む事を恐れて積極的に排除しようとしていた(原作では、トーリンが討伐に積極的でガンダルフはそれを後押しした)。
厳密に言うと、ドワーフ達は討伐よりも故郷と宝の奪還に興味があり、それをガンダルフが利用したのだが、実際にはドワーフとビルボの旅がなくても、サウロンが竜を懐柔する前に討伐するプランをいくつか考えていた可能性が指摘されている。ビルボの起用についても、元々は別の人材を探していたが諸事情によってダメだったというのが理由である(参照)。
ドワーフ達には「強くて悪い長虫」や「第三紀最大の脅威」などと呼ばれて、恐れ忌み嫌われている。トーリンには「スラグ」(なめくじ)や「ウィットレス・ワーム」(キ〇〇イミミズ)などと呼ばれていた。
- 欧州では、「Warm」である竜を「Worm」と呼ぶのは最大限の侮辱になるとされている。
なお、欲求が満たされている限りは自由の民や動物を攻撃しない部分もある。
能力
別名を「黄金竜」とも呼ばれるが、これは元来赤い身体に、長年溜め込んだ黄金がこびりついた結果であり、正真正銘の「黄金竜」である祖龍グラウルングとは別のベクトルの異名である。
こびりついた黄金は鎧の役割も果たしており、特に鱗が無く柔らかい腹部を守っている。
体内では常に火が燃えているらしく、いつも鼻の穴や口から白煙を漏らしており、怒らせるとこの炎や高熱の水蒸気を口や鼻から相手に吹き付けて焼き殺す。また、「火柱」になって空を飛び、全身が発光し、高温によって体やよだれに触れている物体が溶けるという描写もある。
ファンによる考察や(あまり宛にできない)資料を含めると、硫黄や毒ガスなどをブレスとして使えた、もしくは垂れ流す事ができた可能性もある。実際に、例えばグラウルングの場合同様に、襲われた地域は長い間荒れ果て草木が生えなかった。
この特徴故か大量の水が苦手という弱点がある。体内で燃やした炎が消されてしまい、最悪の場合は力を失って「消えて」しまう為とされる。ただし、水そのものが苦手なのではない。
竜族自体が「水自体」に弱いという訳でもなく、エルフに確認されていたであろう水龍(シーサーペント)なんかもいたらしい。
- ナズグルが水を苦手とする理由の考察に「ウルモの力がありとあらゆる水に込められていた/残っていた」為、というものもある。だが、もしそうならば水中や海原に悪しき存在が発生しえなかった筈である。ただし、中つ国を見捨てないとはいえ積極的な関与はおそらく止めたウルモの力をはね除けるレベルの存在がいたのかもしれない。
「最後の竜?」
これまで、スマウグは長らく「中つ国最後の龍」として紹介されてきたが、実際は「最後の大龍」であり、中つ国最後の火竜でもドラゴンでもない。
竜族自体は、第四紀以降も生存し続け、絶滅しなかったと原作者の手記の一つによって明かされており、正確には「力の指輪を溶かす程の古い火を体内に持つ、所謂大龍の中の最後の生き残り」なのである。
ただし、スマウグの討伐以降はナズグルの乗っていた「フェルビースト」が、あの時代の空飛ぶ生き物の中では最大とされていたので、弱体化が激しいのは間違いないようである。
- 二次創作だが、テレビゲーム『War in the North』に見られたウルゴストは自由の民との共存を選んでおり、『シャドウオブモルドール』の続編『シャドウオブウォー』では、ウルローキ(火竜)とフェルビーストの無生殖性のハイブリッドの「ドレイク」が登場しており、場合によっては暗黒軍とも敵対する。
性格
性格は老獪で残虐非道、人間の街を意味も無く破壊したり、逃げ惑う人間や家畜を弄んで貪り喰う事を何よりの楽しみにしている(原作では竜族の例に洩れずひょうきんな部分もあるのだが、映画では残虐性がかなり強調されていた)。
また、極めて強欲でもあり、財宝や金貨の存在を嗅ぎつけると持ち主を甘言で騙したり、或いは力にものを言わせて強引に宝を奪ってしまう。
一方でおしゃべり好きでもあり、なぞなぞも好む。これらは中つ国の竜族に共通してみられる特徴でもある。ビルボのちょっとした発言からトーリン・オーケンシールドの一行の人数や、湖の町エスガロスがバックにいる事を察知するなど頭も非常に良い。
ドワーフの奪われた財宝は彼の住処に山積みにされ、スマウグはこれら大量の財宝の全ての存在を恐ろしい程の記憶力で把握しており、原作ではビルボの手で黄金のカップを盗まれただけで逆上して大暴れし、手がつけられなくなった。泥棒に凄惨な報復があるのは言うまでも無く、とばっちりを受けて無関係の人々が犠牲になる事もある(ただし、エスガロスの襲撃は、トーリン一行にエスガロスが力を貸したと見抜いての事である)。
- スマウグの体の宝石の鎧は、死後に白骨化しても、その骨を恐れる人間達が近づけなかった為に誰も取りに行かなかったので、ある意味では死後も宝石に固執していたと言えるのかもしれない。
眠っていても侵入者の接近に気付き、一度嗅いだ事のある種族の匂いは決して忘れない。ガンダルフがビルボを忍びの者に選定した理由は、スマウグは人間・エルフ・ドワーフの匂いを完璧に覚えているが、ホビットの存在は知らないであろうという事から、スマウグを惑わす事ができるであろうと踏んだからである。
実写映画版
ピーター・ジャクソン監督による『The HOBBIT』シリーズの第二部と第三部に登場。
四本足で前足に翼が付いた巨大な竜となり、腹に黄金を付けなくても良い程に頑丈な鱗を持っている。しかし、谷間の国デイルを襲撃した際に領主のギリオンが放った黒い矢によって腹部の鱗が一枚だけ剥がれており、信じている者は少なかったが、そこが唯一の弱点として伝承されていた。
第二部『竜に奪われた王国』では、トーリン達はエレボール内の溶鉱炉などを使ってスマウグと戦うが倒す事はできず、スマウグはエスガロスの人々を巻き込んで殺す為に飛び立っていった。
第三部『決戦のゆくえ』では、はがれていた鱗をバルドに発見されて(ビルボが見つけた弱点をツグミによって知らされるという描写はなく、前述の通りギリオンの矢が鱗をはぎ取った事が、元々人々の間で伝承されていた)、息子のバインの体を使った即席のバリスタで放たれた黒い矢によって仕留められる。だが、その後のトーリンの財宝に対する執着・言動に、スマウグの呪いのような影響が現れている事が強く示されており、トーリンの声の一部が、スマウグの声と合成されている場面もある。
ちなみに映画では、原作とは違ってデイルとエレボールを襲撃する直前に近くの山に一端着陸して焔を燻らせる事はなく、いきなりそのままデイルに襲来している。
デザイン
第一部の映画公開の時点では六肢(両肩の二肢が翼)であったが、その後に発売されたDVDではワイバーン型の四肢龍となっていた。地下を移動する際の描写が困難であることと、「長虫(ワーム)」である点を強調してキャラクター性を深める為に、ワイバーン型に変更されて胴体は細長さが強調されたらしい。
- ワイバーン型については賛否両論だが、ワイバーン型の方が力強さと蛇的なアクションを演出しやすいらしく、中つ国の龍の歴史を振り返っても自然な進化とも言え、地這い龍が単純な下位互換となるのを防ぐ事にも役立っているのかもしれない。
世界中の様々な竜伝説から発想を得ており、頭部などは特に東南アジアや中国の東洋龍の意匠が強く取り入れられている。「目が大きすぎる」や「顔がのっぺりしている」と嫌う声もあるが、東洋龍などをモデルにしている事を考慮すると、実に考えられた造形をしている事が分かるだろう。
- 声とモーションキャプチャを務めたベネディクト・カンバーバッチは、ビルボ・バギンズを演じたマーティン・フリーマンと、人気ドラマ『SHERLOCK』でホームズ役とワトソン役で共演した事もあり、コンビ対決として注目を集めた。
二次創作ではカンバーバッチに似せた擬人化や、シャーロック・ホームズとのクロスオーバーの人気が高い。
制作段階では、完成作品よりも遥かに巨大(ジャンボジェット二台分)になる予定だったが、ゴラム同様にキャラクター性を強調する為に、若干ファンシーな見た目になり小型化された。
なお、デザインの段階では非常に奇抜なデザインが多数存在しており、ギレルモ・デル・トロがクビになっていなかった頃に発表されたものはまったく姿が異なり、その後にもバルログよろしくジャック・オ・ランタンの様に目や口が発光するデザインも存在した。
他にもアナコンダのような見た目、老いたイグアナやトカゲの様な姿、後ろ脚に翼を持つ、二つの口を持つなど、特徴的な姿が多かった。
また、「ドワーフや他の種族や他の竜との戦いで得た沢山の傷跡」や老いた痕跡も考えられていたが、原作の世界で竜同士の争いがあったという表記は一切ない上に、スマウグが襲来した際はまだ「若くて柔」だった為に、竜同士のいざこざがあっても喧嘩程度だったかもしれない。
能力
本作のスマウグはブレスのタイプを用途によって使い分ける事が可能であるらしく、通常の火炎放射(自身の身体を包み込む程に火力が強い)、石造りの建物を破壊する程の体積と威力を持ち、爆風が地面で広がる溶岩かナパーム(第一作)、前者の中間的な、火炎放射器のような状態(第三作)の3段階の炎を操る事が確認されている。
また、ブレスを吐く際には目と腹鱗が炎熱で赤く輝くのも特徴である。
また、映画の日本語字幕や一部の雑誌やオンライン上のコラムなどの作品の紹介では「最強の竜」や「竜の王様」としていたが、これらは原作を知る人からしたら違和感を覚える表現であり誤解を招きやすい。
- そうでなくても、日本語では字幕吹き替え両方で、「第〇紀」など原作の既読者以外には馴染みが薄い表現や、実際の経過年数などは少なく思えるような表現にされていた。
ただし、第三紀に限ってならば「(知られている限り)最強の竜」という表現も間違いではない。
余談
- ピーター・ジャクソンが映画監督への道を志すきっかけとなった1977年のアニメ版『ホビットの冒険』では、サーチライトのような目を持ち、毛をもち猫に似た顔を持つなどの特徴が出ていた。宝石のチョッキをしていないのは実写版と共通しているが、バルドがツグミの助けを得て倒すのは原作通りである。
- それ以前の紙芝居型アニメ作品では、地球の古代の怪物「スラグ」と称され、尻尾の先端が物を掴めるようになっているウナギのお化けのような見た目であった(火を吐く描写はされていない)。
- スラグというのは、原作でもソーリンがスマウグを罵る際に使った「slug(なめくじ)」と発音が似ている。
- 初期稿では、ビルボが短剣でスマウグを倒す予定であったが、グラウルングとトゥーリンの話にダブるので変更されたらしい。
- ベネディクト・カンバーバッチは「飛び回り、火を吐く、強力で、破壊的で、全てを破壊し、サイコで、止めようもないナパーム爆弾のような、ナパーム爆弾・ナパームマシーン」と形容している。
- 『Iron Crown Enterprise』では、史上最大最強の竜とされる黒龍アンカラゴンの子供の1人で、『怒りの戦い』を生き延びた個体であるとされ、姉妹のウトゥムコドゥールが存在し、東方にて敬われたという。だが、上記の通り、あきらかに原作と異なっている出自である。
関連イラスト
外部リンク
関連タグ
ホビットの冒険 / 指輪物語 / ビルボ・バギンズ / トーリン・オーケンシールド
タロ(ドラゴン):ピーター・ジャクソンに多大な影響を与えた人々による作品に登場するドラゴン。
トトガメラ:スマウグよりも先に火炎を吐く際にお腹が発光するアイディアを取り入れた例。
タマトア:スマウグがモデルと思われるキャラクターの例。
KINGGHIDORAH(モンスターバース):頭部の造形や姿勢、引力光線を吐く際の喉元の発光などは間違いなくスマウグから影響を受けている。