アナベル・ガトー
あなべるがとー
人物像
ジオン軍残党勢力「デラーズ・フリート」の一員で、「ソロモンの悪夢」の異名を持つジオン屈指のエースパイロットである(撃墜数200機、正式スコアは100機程度)。
その名は、地球連邦軍士官学校の現代戦史教本に載る程で、戦後の士官学校卒業兵はおろか一年戦争を生き抜いたベテラン兵でさえも恐怖と焦りを感じさせるものであった。
デラーズ紛争の際でも3年間のブランクを思わせないようなパイロット技量を持っている。
漫画作品「機動戦士ガンダム0083 REBELLION」ではUC.0083当時では旧式機である高機動型ザクⅡを駆り、孤立無援の状況でありながら最新鋭機であるジム・カスタム3機を翻弄するという芸当を見せている。しかもジム・カスタムのパイロットは一年戦争時に「不死身の第四小隊」に所属していたモンシア、ベイト、アデルらベテランパイロットが搭乗していたのにも関わらず終始優位に戦闘を進めている。
一年戦争時の階級は大尉。デラーズ・フリート参加時少佐に昇進(この時の戦いぶりは、彼を主人公としたことぶきつかさによる短編漫画『ソロモンの悪夢』に記されている)。
作中での年齢は25歳。身長は195cm。
性格はまさに武人そのもので、自らが信じたジオンの理想を貫き通し、そのためのあらゆる汚名を背負う覚悟を秘めた鋼の意志の持ち主。
一方で愚直なまでにジオンの理想に傾倒する側面があり、シーマ・ガラハウのような自らの信念や美意識に相容れぬ人物に対しては、嫌悪や差別的な態度を見せることがある(ただし、シーマ艦隊は常日頃から民間・連邦はもとより、友軍であるジオン軍すら略奪の対象としていたなど蛮行の限りを尽くしており、シーマ艦隊の悪名高さはジオン軍の共通認識だった。さらに劇中ではガトーの乗艦する船にわざと激突しようとしたり、その行為に対してまったく悪びれずもせず、むしろガトーに当てつけるような嫌味を言うなどシーマ自身にも嫌悪される理由があったのは事実である)。
『機動戦士ガンダム0083』本作の主人公であるコウ・ウラキとの関係は、初めはヒヨっ子扱いするなど未熟なパイロットとして見ていたが、度重なる戦闘を繰り広げるうちに次第にライバルと呼べる間柄になる。
劇中での活躍
一年戦争時代
一年戦争においては、ドズル・ザビが指揮する宇宙攻撃軍第302哨戒中隊隊長として、宇宙要塞ソロモンを中心とした宙域で活動していた。
ソロモン撤退戦ではア・バオア・クーへ撤退する、ドロス級空母二番艦ドロワを中心とした艦隊の殿を務め、ジム部隊を全滅、または壊滅状態に追い込むなど、連邦軍追撃艦隊に多大な損害を与えた(この時、「ソロモンの悪夢」の異名が付き、この戦闘で8隻の戦艦を撃沈したと言われている)。
なお、この時の搭乗機はリック・ドムもしくはゲルググのどちらかと言われているが、一部の映像作品などではビームバズーカ装備のリック・ドムで戦艦を多数撃沈、またアムロ・レイが搭乗するガンダムとも交戦するが決定打を与えられずに撤退となり、ゲルググ配備はソロモン戦の後という解釈になっている。前述したことぶき版ではゲルググということになっている。
彼の専用機はいずれも四肢が青、胴体をライトグリーンで塗り分けたパーソナルカラーとなっている。
リック・ドム、ゲルググのほかに、以前は同じパーソナルカラーで塗られた高機動型ザクⅡ(改良型であるR-1Aとされる)にも搭乗していた。
このほか、リック・ドムはビームバズーカ装備であったとしたり、ゲルググに関しても先行量産型のYMS-14であるとする説と量産型のMS-14Aであるという説に加え、H型であり大型試作ビームライフル装備であったとする説など、搭乗機に関しての意見は様々ある。
ア・バオア・クー防衛戦にはゲルググで参戦していたのが確認されているが、戦闘中に乗機の右腕が流れ弾に被弾。
修理を受ける為、偶然近くに居たエギーユ・デラーズの乗艦、グワジン級戦艦グワデンに着艦するが、デラーズは戦闘宙域からの撤退を決定していたため修理を受けられなかった。
止むを得ず艦のドックに残されていた試作型リック・ドム(デラーズ専用機)に乗り換えて再度出撃しようとするが、デラーズに説き伏せられ、彼と共にア・バオア・クーの戦線より離脱する。
その後暫くは、月で潜伏生活を送る。
当時、月の企業連合体はジオン公国に好意的であり、彼等に匿われた公国軍残党は比較的快適な潜伏生活を送っていたとされる。
このときにニナ・パープルトンと恋仲にあり、同様にフォン・ブラウン市に滞在していた戦友であるケリィ・レズナーとも交流があった模様である。
デラーズ・フリート時代
宇宙世紀0081年9月17日にデラーズ・フリートに復帰。
0083年10月13日、地球連邦軍トリントン基地にバルフィッシュと言うコードネームを使用し、ニック・オービルの乗るジープで潜入。
同基地からMk-82核弾頭搭載のガンダム試作2号機を強奪し追撃の手を振り切りながら、アフリカ方面へ逃亡する。
アフリカ・キンバライド鉱山基地でのアルビオンとの戦闘の際には脱出用のHLVに乗り込んでいたため戦闘には参加せず、ノイエン・ビッターの時間稼ぎもあり宇宙に脱出する(この時、ビッターからブルーダイヤモンドを受け取る)。
その後、自身がガンダム試作2号機を駆りコンペイ島宙域で行われた連邦軍の観艦式を襲撃。集結していた連邦軍艦隊の3分の2(=実質的に連邦軍艦隊の半数以上)を航行不能に陥らせた。核攻撃の直後、追撃してきたコウ・ウラキのガンダム試作1号機フルバーニアンとの一騎打ちに突入する。戦闘では核発射後の機体の不調や、試作1号機との機体の相性差(その時の2号機の兵装は頭部バルカン2門と両腰のビームサーベルのみ)などの不利な状況をものともせずにコウを圧倒するが、最終的に相打ちとなりガンダム試作2号機は大破してしまい、一年戦争時代からの部下であったカリウス・オットーに救助される。
その後、乗機をアクシズ先遣艦隊から提供されたノイエ・ジールに換え、デラーズ・フリートの最終目的である地球へのコロニー落としを成功させるため出撃する。
連邦軍のコロニー追撃艦隊を殲滅する鬼神の如き戦闘力を発揮し、コウのガンダム試作3号機デンドロビウムと死闘を繰り広げた。
なお、ノイエ・ジールを受領した際には、その機体形状がジオンのシンボルマークに似ていることから「ジオンの精神が形になったようだ」と喜んでいた。
地球軌道上での戦闘では、連邦軍が切り札として展開していた、ソーラ・システムIIのコントロール艦を破壊、コロニー破壊を阻止し、コロニー内部のコントロールルームに進入、コロニーの最終軌道調整を自身の手で果たす。
この時ニナと再会するが、コウにその隙を突かれ、拳銃で脇腹を負傷。
ニナに助けられるも、彼女を巻き込まない為に気絶させカリウスに預ける。
その後、連邦軍艦隊の包囲網から逃れるチャンスを無視し、コウとの最後の一騎打ちへと突入する。
戦闘は一進一退の攻防を繰り広げたが、ガトーのノイエ・ジールがコウのデンドロビウムを拘束して止めを刺そうとしたその時、バスク・オムの味方の損害も無視したソーラ・システムIIの第二射を受ける。
この一撃により機体が中破。
デンドロビウムは行動不能になったが、ガトーはあえて止めを刺さずにその宙域を去る。
残存した味方部隊とともにアクシズ先遣艦隊へと到達するため連邦の包囲網を突破しようとするが、圧倒的多数による攻撃に加え、機体・心身ともに消耗が激しく、各所に被弾。
味方機が次々脱落する中、雄叫びを上げながらサラミス級宇宙巡洋艦(0083版、小説版ではマゼラン級宇宙戦艦)に特攻を仕掛け戦死した。
搭乗機体
・MS-06R-1A 高機動型ザクⅡ
・MS-09RS リック・ドム (ビームバズーカ装備タイプだったと言われている)
・MS-14A ゲルググ(先行量産型のYMS-14又はS型又はH型との説もある)
・RX-78GP02A ガンダム試作2号機(サイサリス)
・AMA-X2(AMA-002) ノイエ・ジール
※デラーズ・フリートの項目も参照
名言
「多くの英霊たちの死が……無駄死にでなかったことの証のために!再びジオンの理想を掲げるために!星の屑成就のために!……ソロモンよ、私は帰ってきた!!」
(ノイエ・ジールを前に)「素晴らしい……ジオンの精神が形になったようだ」
(ソーラ・システムIIのコントロール艦を撃破した際)「南無三!!」
評価
OVAシリーズが展開された初期より、デラーズ・フリートはジオンにおける「憂国の士」として視聴者から好評されており、その中でも多くの戦場を駆け抜け、最終的に散っていったガトーは、ジオンの精神を貫いて殉死した「悲劇の英雄」と見なされ、主人公であるコウ達よりも絶賛な人気を誇っていた。
しかし、冷静に考察すると、トリントン基地でMSを強奪した点に関してはまだしも、それから宇宙に上がった後は、非戦闘地帯である観艦式を強襲して行った核弾頭による大虐殺や、最後の戦いでは地球へのコロニー落としまで実行する等、「大義」や「ジオンの精神」といった美辞麗句や「私は義によって立っているからな!」といった自画自賛を幾ら並べたとしても、ガトーやデラーズが劇中でやった事は一方的な虐殺…つまりはテロでしかなく、その動機も結局の所、他のジオン残党軍の軍人達と同様「自分達ジオンが一年戦争で負けた事実を認めたくなかったから」という「私怨」に過ぎない、駄々をこねた子供と変わらないものであった。
また、歴史的な悪行に手を染めたガトーであるが、それ以外における劇中の様子から見ても、大仰な台詞を並べていた割には、ただデラーズに言われるがまま行動していただけではないかという印象も強い。
「『人類全てをニュータイプへと革新させる』と言う独自の理想を語り本気で実現を目指していた理想家」でもあったシャア・アズナブルと比べてみても、ガトーの場合は「戦場に身を置く事を生き甲斐とし、ジオンの精神に殉じる事だけしか考えていない戦争屋」としてのマイナスイメージが拭えない部分もあった。
更に同じジオンの軍人達に対しては労いの言葉や哀悼の意を見せる事もあったのに対し、敵対しているとはいえ、連邦側に対してはひたすら侮蔑の態度を取り続け、自分達の戦いによって死んでいった者達の事も人間扱いさえしようせず軽んじる傲慢さも見せており、自分の美意識にそぐわなければ、汚れ役を散々担わされてきたシーマ・ガラハウ率いる海兵隊の事も仲間として認めない器の小ささも見せている。劇中でも、ガトーは他のジオン軍人達と共に、上から目線で連邦を一方的に非難した発言を繰り返しているのだが、その台詞の中には自分自身に返ってくるブーメラン発言や特大ブーメランも結構多かったりする。
そして根本的な点も突けば、ガトーやデラーズのみならず、デラーズ・フリート全体が、選民思想に基づいた独裁政治を掲げ、コロニー落としやソーラレイといった非道な手段で50億人近くものアースノイドを虐殺し、逆らう意思を見せれば同胞のスペースノイドさえ毒ガスで始末するという「ヒトラーの尻尾」であったギレン・ザビの信奉者であったという負の面を持っていた事にある。
そのギレンと全く変わらない事を実行して多くの犠牲者を出した結果、スペースノイドをより苛烈な方法で弾圧するティターンズが結成される決定的な要因となり、ジオンの本国であるジオン共和国をも危険に晒される事になってしまうのだが、当のガトー本人はその責任について何も負わないまま「殉死」という形で歴史から消えた事も「無責任過ぎる」という批判もある。
これらからも、アナベル・ガトーの所業や人物そのものに批判する者がいたとしても、「それは当然の事でもあった」と言わざるを得ないだろう。
現在も、上記の理由だけでなく、現実社会でも凶悪なテロ事件が何度も起きてテロの恐ろしさが明確になった事もあって、賛否両論の分かれるところはあるが、自らの信念に殉じる無骨で潔い生き様から未だにファンも多く、NHK主催のガンダム40周年記念の全ガンダム大投票では人気ランキングでトップクラスに食い込むなど、非常に人気の高いキャラクターなのは事実である。
余談
「アナベル」という彼のファーストネームは一般的には女性名だが、どこかのニュータイプとは異なりコンプレックスを抱いている描写はない。
が、アンソロジーコミックなどでネタにされることはある。
本来はドズルの部下なのだがデラーズ紛争の影響か「ギレンの野望」等ではデラーズ共々ギレンの部下となっている。
ゲーム『スーパーロボット大戦シリーズ』の旧シリーズでは、その高い人気から本来相容れるはずの無い連邦側であるプレイヤー勢力と共闘する展開もあったのだが、その後は本編の性格・立ち位置を鑑みてか「最後まで敵対する」か「一時は味方になるけど結局は敵になる」かのどちらかとなっており、ライバルであるコウの成長に伴い、逆に彼に論破され自身の非を認めたりする展開もみられる。
なお、IMPACTでは仲間入りしている場合逆シャアルートに進むと自軍からシャアについて離脱。
Lv99でノイエ・ジールに乗ってくると言う最悪のカウンターパンチをブチかましてくる。