ドズル・ザビ
どずるざび
「戦いは数だよ、兄貴!」
身長210cmの大柄な体格と顔の傷跡、そしてその容貌に違わない豪胆な性格を有する。
妻のゼナとの間に娘ミネバをもうけており、一年戦争終結により地球連邦政府との間に終戦協定が結ばれた後も、彼の血脈だけは続いた。
「私は軍人だ。ザビ家の伝統を作る軍人だ」と豪語し、現場第一主義を貫いていたため、政治・策略に長けた長兄ギレンや妹キシリアからは軽く扱われていた。また、父であるデギンも一年戦争中期頃には完全な穏健派になっていたため、やはり疎まれていた。
しかしながら、末弟のガルマとの関係は良好であり、ドズル自身も亡き実母ナルスの面影を強く残す眉目秀麗な彼を溺愛して、その才覚を(実力以上に)高く評価し、軍人としての成長を楽しみにしていた程であった(なお、次兄であるサスロともそれなりに良好な関係であったようだが、サスロは物語開始前にテロによって死亡している)。
『一週間戦争』と呼ばれる一年戦争初期には、自身も上級将校としてムサイ級軽巡洋艦・ファルメルに座乗して最前線で指揮を執り、敵対コロニーへの核攻撃、毒ガス攻撃、そして地球へのコロニー落としを敢行。当時の地球圏人口の半分である55億人を殺戮している。
その後は、宇宙要塞ソロモンへと駐留し、宇宙攻撃軍総司令官としての任に専任していたが、連邦の「V作戦」から始まる一連の戦いによりガルマが戦死した後は、ホワイトベースにランバ・ラルやコンスコン部隊をぶつけている。
だが、ジオン軍が徐々に劣勢の色を見せ始めた時期である宇宙世紀0079年12月24日、連邦軍によって行われたソロモン攻略戦(チェンバロ作戦)において地球連邦軍の量産MSジムによる熾烈な攻撃や、新兵器ソーラ・システムにより甚大な被害を受け、ソロモン陥落の窮地に追い込まれる。
戦況は圧倒的に不利かつ、全ての兵力を投入する事態にまで追い込まれていると判断したドズルは、妻子を脱出させた後に自らはMAビグ・ザムに搭乗して残存艦隊・MSと共にソロモンを出撃し、連邦軍中央突破を図るも更にソーラ・システムの照射を受け兵力は壊滅状態となる。
敗北を悟ったドズルはソロモンの放棄を命令し、ビグ・ザム搭乗員も脱出させ、ジオン軍の残存兵力が撤退する時間を稼ぐため、自ら殿として唯1人ビグ・ザムを駆り連邦艦隊の中心部へ特攻を仕掛けた。
ドズルの駆るビグ・ザムは強力なIフィールド・ビームバリアを張り巡らせて艦艇からの主砲を無効化し、自機の大型メガ粒子砲でティアンム提督の旗艦「タイタン」を撃沈。更に機体水平全周囲に備えられたビーム砲の斉射によって、連邦軍のサラミス級巡洋艦やモビルスーツを多数撃破した。
この圧倒的戦果に自信を得たドズルの「ビグ・ザムが量産の暁には連邦などあっという間に叩いてみせるわ!」のセリフは印象的であり、現在でも引用されるシーンが多い。
しかし、この膨大な殺戮撃に焼かれる連邦軍将兵の断末魔の“意識”が、既にニュータイプとして覚醒を始めていたアムロ・レイを呼び寄せる。そして同じくしてIフィールド・バリアの弱点を見抜いたスレッガー・ロウによって、彼の操縦するGファイター(劇場版ではコア・ブースター)をガンダムの水先案内人とした、ビーム攻撃が有効となる超至近距離にまで接近しての特攻を受ける。
この攻防の中、ビグ・ザムの近接防御兵装によってスレッガー機を撃破するものの、その爆発に紛れる形でガンダムの接近を許してしまい、コクピットへのビームサーベルの一閃によってついに乗機のビグ・ザムを撃破されてしまう(TV版ではビームライフルを下部スラスターに押し付けて射撃する攻撃もあった)。
それでもなお、ドズルはコクピットから我が身を踊り出させ、「やらせはせん!貴様ごときモビルスーツに、ジオンの栄光をやらせんはせん!」の執念を叫びながら、単身ノーマルスーツで無反動ライフルをガンダムに向けて発砲し、最期まで抵抗を続ける。その姿にアムロは、ドズルの背後に悪霊のような“何か”を感じとった。(劇場版ではもっと抽象的な紫色の影法師のような存在に描き直されている)。
瞬間、ドズルの身体はビグ・ザムの爆発の中に消えていった。
父である公王デギン・ソド・ザビは、首都ズム・シティにおいてドズル戦死の報告を受け、「ドズルにしてもっともな事であるよ」とただ一言を呟いた。
一般的にはガルマの死に対する態度とは違う、冷たいとも見えるデギンのドズルに対する態度だが、ソロモンがジオン・連邦双方が重要拠点と見なしていた場所であったものの、和平交渉に本格的に彼が動き出した事態は、それだけ愚直なドズルを頼りにしていたとも取れ、そんな彼へのデギンなりの労いの言葉であったのかも知れない。
権謀術数に腐心する人間の多いザビ家において、政治に関与せず、純粋な武人として振舞うだけあり、仁義を通すヒューマニズムの強い人間である。
これにより自派閥からの人望は非常に厚く、シン・マツナガやアナベル・ガトーなどの武人肌のエースパイロットは高い士気と共にドズル旗下に就いている。
戦術指揮官として見た場合においても、一年戦争開戦前は旧来からの艦隊戦を重視していたが、モビルスーツがルウム戦役において大きな戦果を挙げると、すぐにミノフスキー粒子下における戦闘での有効性を認める等、古式戦術にこだわらない柔軟性を有する。これ以後は司令官としてだけに留まらず、自ら専用モビルスーツを操り前線に出向く場面もあった。この際においても、士気高揚の為に前線に出向くポーズに終始していた。
逆に、連邦軍のMS開発計画「V作戦」の情報をキャッチすると、その危険性にいち早く気づき、地球降下作戦従事のためキシリア派閥のマ・クベに引き抜かれるところだったシャア・アズナブル少佐に、充分以上の戦力の独立部隊を与えて、調査に当たらせている。
また連邦軍のソロモン侵攻が迫る中、有力な戦力であるコンスコン少将の部隊をサイド6に派遣してまで、ホワイトベースを沈めガルマの仇討ちをさせようとした決断は批判されるが、後発の『ポケットの中の戦争』の後付けでは、サイド6のラング政権が表向きは親ジオン派でありながら、その裏ではガンダムNT-1の最終調整の場として「リボーコロニー」を連邦軍に使用させ、後にはジオン軍艦艇の締め出しを決めるなど連邦寄りの態度を見せ始めていた実状を察知して、サイド6が最悪連邦側として参戦するのを防ぐ為の示威行動だったとも取れ、ある程度は政治的見識を持ち合わせていたとも取れる(結果的にはサイド6を更に連邦側に靡かせる結果に終わったが)。
但し、良くも悪くも身内への情愛が強過ぎるきらいがあり、上記のガルマ仇討ちで戦力を疲弊させた。なお、ソロモン陥落を察するや否や、自身の妻子を真っ先に脱出させる等、ともすれば職権乱用に見え兼ねない行為をしているが、これに関しては娘がデギン・ソド・ザビの血を継ぐ唯一の孫で、世代的にもザビ家唯一の存在という事情もあり、体裁的にしろ王制国家の姫の身を守るという意味では政治・戦略的には正当な判断であったと言えよう。
尚、シャアへの処罰は最終的にデギンの裁定よって、左遷扱いへと変更されているが、これは即ち、ドズルもまたガルマ同様にシャアの正体(ジオン・ダイクンの忘れ形見)に気付いていなかった事実を示しており、ギレンとキシリアの両者がそろって、彼の正体を知った上で「将来何らかの使い道があろう」とそれとなく重用していた事実(『密会』にて補足)と比較すると、ドズルの政治策略の面においての才覚の乏しさを表している。
加えて、様々な要因が重なった結果ではあるが、ガルマがシャアに謀殺される切っ掛けを作ったのは、皮肉にもドズル自身に他ならない現実になる(ドズルのその性格的に、もしシャアの正体を知っていれば、ガルマに近づけさせなかったであろう事態は想像に難くない)。
勝てる訳がない状況にまで陥りながら、それでもなお手持ちの武器を持って戦うその姿は、最後まで武人であった。後に遺されたその娘がハマーン・カーンによって、戦争の道具として利用される、なんとも悲しい事態になってしまうのだが、それはまた別の話。
ザクⅡF型ドズル・ザビ中将機
彼専用のザクⅡ。コクピットが彼の巨体に合わせて拡大され、両肩に4本・手甲に3本のスパイクが装備されている。カラーリングは、青みがかった濃緑ベースに金縁模様が施されている。
武装は、専用の大型ヒート・ホークと推進バーニアを内蔵したジャイアントウォーハンマーなど、近接戦闘用の装備のみ。
本来は式典用に作られた機体なのだが、武闘派である彼は「前線視察」を口実に本機を駆り実戦に参加していた。本機はチェンバロ作戦時にソーラ・システムによって格納庫で焼失したとされるが、漫画『MSV-R 宇宙世紀英雄伝説~虹霓のシン・マツナガ~』ではプロトタイプGファイターとの交戦の末、大破爆散している。
パラレルである『サンダーボルト』でも、同型機がア・バオア・クー内部防衛用としての運用が確認されており、ジオング開発室へ侵攻する連邦部隊をザクマシンガンとヒートホークで足止めしたものの、物量とビーム兵器によって撃破されている。
リック・ドム(ドズル・ザビ中将専用機)
リック・ドムの初期生産型通算100号機をカスタムしたもの。ザクⅡと同様にコクピットが拡大され、胸部上部と手甲に3本のスパイクが装備されている。カラーリングはドズル専用のザクⅡに近似しているが、肩部・腰部は黒色で緑も青みが薄まっている。武装は通常機のものに加え、ヒート・サーベルがザクⅡから引き継いだ大型ヒート・ホークに換装されている。
こちらは宇宙攻撃軍の観兵式でドズルが搭乗した後、チェンバロ作戦時にドズル以外のパイロットの操縦で出撃し、以後は消息を絶っている。
ドズル専用ザク後期型
ソロモン工廠でドズル専用機として開発された高機動型ザクⅡの派生型。各部はザクⅡ改に近い形に変更され、腰部には2連メガ粒子砲が装備されるなど大々的に改良されている。塗装は黒系統。
チェンバロ作戦直前の時点で未完成であり、実戦ではドズルがビグ・ザムで出撃したため、本来の主に用いられないままソロモンとともに失われた。
ビグ・ザム
該当項目参照。テレビアニメでは当機のみが彼の搭乗機として登場した為か、派生作品においても「ドズル=ビグ・ザム」の認識は強い。
『THE ORIGIN』において
本作では兵の決死の労を称えつつ、これに「ギレン、キシリアが政治の対立で万余の将兵を見殺しにした」と激怒し、更に「あの政治被れ共は、いずれジオンを滅ぼす」と自身の死後を予言したかのような言葉を残している。
MSV-Rでの活躍
『虹霓のシン・マツナガ』では、シンとは幼少時代からの仲であり、ルウム戦役においては2人で連携して戦った描写も残されている。
また、シンがルウムのコロニーから保護したバイオリニストの少女・オーレリアの音楽学校への編入も快諾しており、自ら推薦状を書いている(シンがゼナと出会ったのはこの日が初めてで、第一子を身籠っている事実もドズル自身の口から明かされた)。
また、現場主義ではあるが功労者には寛大な一面もあり、レビルが奪還された際も原因の一端となったシンを「厳罰にせよ」と指示するギレンに対して、オーレリアがこの時人質にされていた事情を鑑みてシンを弁護している(此の一件はデギンの進言で収まり、シンは減刑された)。
RPGマガジン掲載の漫画では、ガルマをいじめるシンと度々喧嘩をして守役のキリング中佐を困らせていた過去が描写されている。他には中佐時代には暴発を起こし、シンの父親を射殺した青年将校を体を張って説得している。同作では彼の戦死にはギレンによる謀殺の側面があった事も描写された。
TV版では郷里大輔が担当し、劇場版Iでも続投していたものの、劇場版IIIでは玄田哲章に交代していたが(玄田はTV版ではドズルとは因縁のスレッガー・ロウを演じていた)、後年の音声付きゲーム作品では郷里の起用が多かった(2000年に劇場版を完全新規アフレコした特別版では、一貫して玄田氏が担当した為、それに準じたゲームも存在する)。
しかし、2010年1月に郷里氏が死去した為、2010年12月に発売された「ガンダム無双3」以降の新規に音声収録されたゲーム作品では玄田氏が起用されている。
また、アニメ版の『THE ORIGIN』に関しては玄田氏に代わり、三宅健太氏が起用されている。
デギン・ソド・ザビ ギレン・ザビ キシリア・ザビ サスロ・ザビ ガルマ・ザビ
ドズル:表記揺れ
漢の中の漢:女子供や部下を脱出させ、単身で特攻を仕掛けた様からしばしば呼ばれる。
よくできた弟、兄より優れた弟…ギレンやサスロが「影で扇動する」政治家タイプなら、ドズルは「体を張る」軍人タイプ。サスロに至ってはテロで即死したのに対し、一緒にいたドズルは重傷を負いながらも(軍人として鍛え上げられた強靭な肉体のおかげだと思われる)無事だった。サスロとは顔も体格も瓜二つだが、サスロはやや小太りに見えるのに対し、ドズルは顔は引き締まっており、なおかつ筋骨隆々である。性格面に関しても、サスロは激情家で妹のキシリアを平手打ちしており、ドズルは冷静でサスロの蛮行を諫めているなど、いろんな意味でサスロとは正反対の人格の持ち主。
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コメント
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