ふたりは、殺し合う運命…
概要
2012年より小学館の「ビッグコミックスペリオール」で連載を開始。2016年と2017年には二度に渡るアニメ化が行われ、「MOBILESUIT GUNDAM THUNDERBOLT」のタイトルで1シーズン全四話の短編としてインターネット配信されているほか、2023年2月12日から26日にかけて、毎日放送をはじめとするTBS系列局の、いわゆる、ひとつの日5枠にて、「機動戦士ガンダム水星の魔女」の休養期間中のピンチヒッタープログラムのひとつとして、最初のアニメ版を劇場公開用に仕立て直した「MOBILESUIT GUNDAM THUNDERBOLT DECEMBER SKY」を3話分に編集した上でテレビ放送された(ほかに「機動戦士ガンダム閃光のハサウェイ」と「機動戦士ガンダムNT」も放送)。
本作は宇宙世紀を舞台とした作品として一年戦争末期の宇宙での戦いを描いた第一部、一年戦争後の地球情勢を描いた第二部の二部構成を成している。
また、ジオン・連邦両陣営にそれぞれ主人公が設定されており、同じ戦場をそれぞれの視点から読み解く事によって物語が進展していく形式を採る。
本作の世界観には太田垣の作風が強く反映されており、特にシールド保持やマガジン交換の簡便化の為のサブアームや燃料タンクを増設した大型バックパックを始め、関節に施されたシーリング、視覚的に見える形で増設されたスラスター群などそれまでのガンダム作品とは一線を画するアレンジが施されたモビルスーツが登場する事で知られる。
前述の様に題材こそ一年戦争となっているが、劇中に起きてる事象や技術発展度合いからは機動戦士ガンダムTHEORIGINのように既存の宇宙世紀作品とはパラレルワールドの様な位置づけとなっている。(映像化された作品はガンダムシリーズで公式として扱われるが、本作は宇宙世紀における正史に当たらない)
アニメ版は4k対応、視聴無制限のEST配信などがガンダムシリーズ初の試みとして取り入れられている。
また、作品を盛り上げるBGMは主人公達が持つラジオから流れる音楽として設定されており、原則として「劇伴」と呼ばれる物は存在しないが、設定を活かした演出が随所に盛り込まれている。
また、Webコミックサイト「eBigComic4」で外伝が展開されており、こちらはメカ作画をガンプラの画像をデジタル加工する事で再現するという独自の手法が採られている。
本作で登場するMSのデザインテーマ
第一部で両陣営の主人公が搭乗したモビルスーツがどちらも重武装だった為、「サンダーボルトといえば重装備・重装甲」という認識が広がっているのに対し、太田垣氏は「元のモビルスーツのシルエットを残しつつ如何に壊すか」と改めて明言しており、一年戦争とMSVの機体は全てアレンジして出すとの事。(設定集Vol2より)
あらすじ
第一部
宇宙世紀0079、地球連邦とジオン公国が戦った一年戦争の末期、サイド4(サイド1と共にL5宙域に構築)のスペースコロニー群、ムーアはジオン軍の攻撃により破壊され、多くの住人が命を落とした。
破壊されたコロニーや、撃沈された戦艦の残骸が無数に漂う暗礁宙域では、ぶつかり合い帯電したデブリによって絶えず稲妻が閃くようになり、いつしかそこは、『サンダーボルト宙域』と呼ばれるようになった。
ムーア市民の生き残りで構成された地球連邦軍所属部隊、ムーア同胞団は、故郷であったサンダーボルト宙域の奪還を悲願とし、宙域のジオン軍を殲滅せんとしていた。
連邦の進軍を足止めせんとするジオン軍も、義肢兵の戦闘データ採取を目的に設立されたリビング・デッド師団を展開。
ムーア同胞団に所属しながら、故郷や自身の出自に束縛される事を疎ましく思うイオ・フレミングと、過去の戦闘により両足を失い、今はリビング・デッド師団でエーススナイパーとして活躍するダリル・ローレンツは、戦場で対峙した時、互いに悟るのだった。ふたりは、殺し合う宿命なのだと……。
第二部
一年戦争が終結して七ヶ月後の地球。
ジオン公国軍の残党組織は、共和国とされた本国を公国として復権するための戦いを続けていた。
戦争末期にサンダーボルト宙域でムーア同胞団の艦隊を全滅させた驚異のモビルスーツ、サイコ・ザクのパイロットだったダリルは、サイコ・ザクを失ったあと地球に降り、連邦内部の軍閥である『南洋同盟』を探る諜報任務に就いていた。
一方、ダリルと死闘を繰り広げたイオは、試作モビルスーツ、アトラスガンダムのパイロットに抜擢され地球に向かう。その新たな戦場は、コロニー落としの爪痕が残るオーストラリア大陸を抱く南洋だった……。
(アニメ公式サイトより)
登場人物
地球連邦軍
イオ・フレミング
CV:中村悠一
地球連邦軍側の主人公。
ムーア同胞団の空母「ビーハイヴ」のエースパイロット。階級は少尉。
一年戦争初期に壊滅したサイド4「ムーア」コロニーの首長の息子であり、同郷のクローディア、コーネリアスとは幼馴染み。しかし、イオ本人は「首長の息子」という立場を疎んじており、また大きな意味で自分自身の立場に縛られることを嫌い、自由に宇宙を飛ぶモビルスーツという存在に惹かれている。
サンダーボルト宙域での過酷な任務の最中で次々と指揮官を失い、上官パイロットが居なくなった事でフルアーマーガンダムのパイロットに任命される。
パイロットとしての腕前は確かであり、ジオン系モビルスーツの操縦訓練も受けているが、規律違反の常習犯で視聴が厳しく検閲されているゲリラ放送「サンダーボルト放送局(ステーション)」を任務中ですら聴いている。好きな音楽のジャンルはジャズ(彼曰く、ダリルのフェイバリットであるラブソングは、音楽の趣味としては”平凡”とのこと)。
ドラム演奏の心得もあるらしく、出撃前にはコックピット内でドラムを叩く真似をしたり、またいくつかの作戦では、任務中でもドラムスティックをコックピットに持ち込んでいることが確認できる。
鼻炎持ちであり、そんなイオに、コーネリアスがポケットティッシュを渡すのは殆ど習慣となっているようである(通信中でもティッシュを要求する辺り、そこらへんの関係が窺い知れる)。
クローディア・ペール
CV:行成とあ
空母ビーハイヴ艦長代理。女性。階級は中佐。
前任者の戦死によってビーハイヴの艦長代理に就任、サンダーボルト宙域奪還作戦の指揮を執る事になるが、一方で部下達からは「リーゼントのお飾り艦長」と揶揄されている。
「ムーア」上流階級の出身で、イオやコーネリアスと幼なじみ。コーネリアスからは「クロちゃん」と呼ばれている。イオとはお互いに恋仲であったが、激戦が続く中で疎遠になっていった。
サンダーボルト宙域奪還作戦が続く中、部下達が次々と命を落とし、更に増援として配属された少年兵達が自分の命令で死地へ向かう事に重責を感じ、次第に精神的に追いつめられていく。
その後は艦隊がサイコ・ザクの襲撃によって壊滅したうえ、損傷した空母ビーハイヴからの退艦指示を出した際、重傷を負ったグラハム副長を抱えて脱出しようとしたところで彼に腹部を銃撃され、そのまま宇宙空間へ流されて行方不明となるが…?
コーネリアス・カカ
CV:平川大輔
ビーハイヴのメカニック。男性。イオやグローディアの幼馴染。
物事を見極める事に長け、イオ達から相談を受ける事も多く、彼らから篤い信頼を寄せられている。
鼻炎持ちのイオに渡す為のポケットティッシュを常備しており、これを出撃前に渡す事が習慣となっている。
グラハム
CV:咲野俊介
ビーハイヴ副長。男性。妻と娘を「ムーア」とともに失った過去を持つ。
「ムーア」前政権首長であったイオの父とその家族を国を滅ぼした無能と憎悪しており、イオをフルアーマーガンダムに乗せ、少年兵達の先頭に立たせ名誉の戦死を遂げさせる事で民衆の同情を引く為の人柱にしようと画策するが……。
ジオン公国軍
ダリル・ローレンツ
CV:木村良平
ジオン側の主人公。
部隊員のほとんどが義肢持ちと言う特殊な境遇の人員を集めた「リビング・デッド師団」のパイロット。階級は曹長(後に少尉)。
リビング・デッド師団でテストされている「リユース・P・デバイス」と、驚異的な狙撃センスでサンダーボルト宙域の防衛を担う。
サイド3の出身だが、父の仕事の関係から幼少時には地球で生活を送り、世論が反ジオンへ傾いた事からサイド3へ疎開。しかし難民として受け入れられず、また病気を患った父の療養や家族の生活苦を解消するべく、家族が市民権を得られるよう軍に入隊。開戦初期に生身の足を失った。
本人は仲間思いな性格を持つ好青年であり、師団のエースとして仲間から慕われている。
イオ同様ゲリラ放送のファンで、ダリルも任務中にもかかわらず視聴している。好きなジャンルはポップス。中でもラブソングを気に入っている。
上官であるフーバーをイオに殺され、それ以降彼とは数奇な運命で結ばれる仲となる。そして、熾烈を極めるムーア同胞団との戦闘で左腕を失い、更にリユース・P・デバイスの同調率を上げる目的で右腕も切断され、同師団における高性能機であるサイコ・ザクに搭乗する事になる。
フィッシャー・ネス
CV:森田了介
リビング・デッド師団のモビルスーツパイロット。階級は曹長。ダリルと同じく両足を失っている。
主な搭乗機はリック・ドム。
サンダーボルト宙域での彼の行動が、同宙域での戦闘の行く末を左右する事になる。
カーラ・ミッチャム
CV:大原さやか
リビング・デッド師団に従軍する女性技官。
大学教授であった父親が反戦運動家として投獄され、父の死刑回避と恩赦を条件に軍で義肢の研究を行っている。
義肢の研究を推し進めモビルスーツの操縦に応用した「リユース・P・デバイス」を開発し、ジオン上層部から勲章を授与されるほどの優秀な技術者であるが、戦争に対するささやかな抵抗として勲章を付けていない。
リビング・デッド師団のモビルスーツ小隊のリーダー、フーバーとは恋仲だったが、彼がイオに殺害された為その復讐をダリルに懇願するが、次第にダリルに惹かれていき……。
J・J・セクストン
CV:土田大
カーラの助手として彼女とともにリビング・デッド師団に従軍する。
理知的な風貌を持つが自身の出世や保身を優先する自己中心的な人物であり、師団の生存とリユース・P・デバイスの研究データを持ち帰る事を目的にダリルの右腕を切断する事を進言した張本人。
戦闘が激化する中でトライド・フィッシュから単身脱出。その後の彼の行方が、戦後の情勢を左右することになる。
専門用語
- ムーア同胞団
一年戦争初期にジオン軍の攻撃で壊滅したサイド4「ムーア」の出身者を中心とした一団。及びムーア難民からの志願兵によって構成される部隊。
ムーアの再建を悲願としており、悲願達成の為に連邦への貢献をアピールするべく、過酷な環境下に置かれるサンダーボルト宙域奪還作戦を立案、空母「ビーハイヴ」を中心とした艦隊を派遣する。
作戦立案や物資・人員の補充は同胞団上層部によって行われており、その資金力は一年戦争時に於ける最新鋭機フルアーマーガンダムを調達出来る程である。
- リビング・デッド師団
過去の戦闘で負傷し、手足を失った傷痍軍人を中心に構成されたジオンのモビルスーツ部隊。
リユース・P・デバイスを実戦で用いる為の実験部隊としての側面も持つ。
ア・バオア・クーへの補給路であるサンダーボルト宙域を守るスナイパー部隊であり、保有戦力こそ少ないが、デブリを用いた待ち伏せによって多大な戦果を上げる。
- サンダーボルト宙域
かつてサイド4「ムーア」が存在していた宙域。
コロニーの残骸が密集する危険地帯として知られ、帯電したデブリからの放電現象が確認される事から何時しか「サンダーボルト宙域」と呼ばれるようになった。
ジオンにとってはア・バオア・クーへの補給路として、ムーア同胞団からはかつての故郷としてそれぞれ重要な意味合いを持つ。
特殊な環境に置かれている本宙域でのモビルスーツ運用は困難を極めており、放電現象やデブリへの対策として関節部や動力パイプへのシーリング、暗礁宙域探査の為のセンサーの増設といった改修が必須となる。
脳の思考を義手や義足などを介してモビルスーツへ反映する技術。
手足を動かそうとする脳からの電気信号をそのままモビルスーツの動作に変換する事ができ、戦闘が不慣れな新兵であっても高い戦闘能力を発揮出来る反面、これを使用できるのは手足を喪った者に限られ、有効性が立証された暁には多数の兵士の健全な手足が切断される事を危惧されている。
公的には自治権を持った連邦の一員であるが、一年戦争終結後、疲弊した連邦からの分離独立を掲げて仏教を国教とした宗教国家の建設を掲げる。中央アジアを中心に極東から中東およびインド洋に至る広範な地域を傘下に収め、MSの独自開発を行えたり、連邦の最新型量産MSを配備できるほどの豊富な資金力を有する。
一年戦争中は連邦の一員としてジオン公国軍と戦闘していたが、一年戦争終結でジオン公国が降伏してジオン共和国に移行すると、今度は連邦からの独立を阻む地球連邦軍と戦うことになる。また、一年戦争中は南洋宗としてア・バオア・クー周辺宙域で連邦軍から命じられた戦死者の遺体回収と火葬追悼を行う一方、連邦・ジオン双方の廃棄MSの回収や生存者からの技術供与によって戦力を拡充していた。
広範な国土・制海域に加えて豊富な資金を有するうえ、国民の9割が信者、死を恐れない僧兵という強固な体制を誇る。また、一年戦争によって生じた難民を多数受け入れており、その中には疾病軍人も含まれている。
アニメ版スタッフ
原作 | 矢立肇・富野由悠季 |
---|---|
漫画原作・デザイン | 太田垣康男 |
監督・脚本 | 松尾衡 |
アニメーションキャラクターデザイン | 高谷浩利 |
モビルスーツ原案 | 大河原邦男 |
アニメーションメカニカルデザイン | 仲盛文・中谷誠一・カトキハジメ |
美術監督 | 中村豪希 |
色彩設計 | すずきたかこ |
CGディレクター | 藤江智洋 |
モニターデザイン | 青木隆 |
撮影監督 | 脇顯太朗 |
編集 | 今井大介 |
音楽 | 菊地成孔 |
音響監督 | 木村絵理子 |
音響効果 | 西村睦弘 |
制作 | サンライズ |
外部リンク
関連項目
機動戦士クロスボーン・ガンダムゴースト/DUST:本作と同時期に連載されていた別の宇宙世紀ガンダム漫画。本作との類似・共通点が多い。
マニピュレイションシステム装着型ザク:正史の宇宙世紀上に存在するサブアームを装備するMS。但しこちらは作業用MS。
007:似たような名称があちこちで見られる。(以下に例を示す)