「ぼくにはベルトーチカとお腹の赤ちゃんがいる。これは絶対的な力だ」
概要
正式タイトルは「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア ベルトーチカ・チルドレン」。著者は同作の総監督を務めた富野由悠季。
『逆襲のシャア』のシナリオ初期稿をベースに執筆された小説作品。
1988年に角川書店(現KADOKAWA)より全1巻で発行された。
後に漫画化され、2014年6月より月刊ガンダムエース誌上にてコミカライズされた。
漫画版の作画はさびしうろあき、柳瀬敬之が担当。単行本は全7巻。
ストーリーの大筋は劇場版とほぼ同じ(この段階でストーリーが完成していると言っても過言ではない)であるが、一部の登場するモビルスーツやキャラクター、物語の細部の展開などは劇場版と大きく異なり、初期のシナリオに沿った物が採用されている。劇場版のパラレルワールド作品となっている。
特にタイトルにもあるベルトーチカ・イルマが登場する事と、ナイチンゲールやサイコ・ギラ・ドーガ(サイコ・ドーガ)等のMS、ハサウェイ・ノアがアムロ・レイを助けようとしてクェス・パラヤを誤って殺害してしまう事が劇場版との大きな違いとして挙げられ、本作が「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」の前作であることがより明確に伝わる内容となっている。
本作に登場するモビルスーツの一部は、小説の口絵で出渕裕によって大幅にアレンジがされている。
・νガンダムは、劇場版と異なり、独自にデザインアレンジされた小説版νガンダムとして登場する。サイコフレームをサイコドーガのコックピットから直接切断してνガンダムに移植する描写や、ラー・カイラムからエネルギーの供給を受けたハイパー・メガ・バズーカ・ランチャーを使ってアクシズを狙撃するシーンなど、原作にない要素がある。
・サザビーが登場しない代わりに、それとは大きく離れたシルエットのナイチンゲールが登場し、こちらも人気を博している。(但し、小説口絵のカラーイラストではサザビーと同じデザインも掲載されている)
・劇場版のヤクト・ドーガの代わりに、小説版オリジナルMSであるサイコ・ドーガ(形式番号:MSN-03-2)も登場する。(CCA-MSVにも同名のサイコ・ドーガ(形式番号:NZ-222)が存在する為、それと混同を避けるためか、一部書籍ではサイコ・ギラ・ドーガと記されることもある。)
続編
ブライト・ノアの息子ハサウェイ・ノアが主人公として描かれた小説、「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」は本作の続編と位置づけられている。
著者は同じく富野由悠季。1989年から1990年にかけて発行された。
2020年にガンダムエースで漫画版「閃光のハサウェイ」が連載開始された。作者は漫画版ベルトーチカ・チルドレン同様、さびしうろあきであり、漫画版ベルトーチカ・チルドレンの続編としてコミカライズされている。
劇場版との差異
登場人物
→本作は映画用初期プロットをベースにしているため、ほぼ劇場版と一致するものの、
一部のキャラは名前や容姿が異なる。
(人物そのものは同一であり、ただ名前が違うだけ)。
- ベルトーチカチルドレンのみ登場
・ベルトーチカ・イルマ (映画未登場)
・メスタ・メスア (映画のナナイ・ミゲルに相当)
・グラーブ・ガス (映画のギュネイ・ガスに相当)
- アムロとベルトーチカが順調に交際を進めており、同棲中。懐妊までしている(副題である「ベルトーチカチルドレン」はベルトーチカのお腹の子とラストシーンで出てくる地球にいる子供たちを指している事から複数形であるらしい)。
- チェーン・アギが登場しない(元々ベルトーチカの役割だったものを、劇場版にするにあたってチェーンが引き継いだ為)。
- ブライト・ノアは劇場版と異なり髭を生やしている。
モビルスーツ
- 登場するMSが一部別の機体に置き換わっている。
・サザビー(劇場版)→ナイチンゲール (詳細はナイチンゲール(MS)を参照)
・ヤクト・ドーガ(ギュネイ機)(劇場版)→サイコ・ドーガ(サイコ・ギラ・ドーガ)
・νガンダム→デザインのみHi-νガンダムのリファイン版デザインだが、機体の立ち位置は映画のνガンダムと同じ機体。
(小説版νガンダムの項も参照)
・ヤクト・ドーガ(クェス機) (劇場版)→本作未登場
- シャアがアムロにサイコフレームを渡す方法が違う。小説では5thルナ戦でシャアが意図的にサイコ・ギラ・ドーガをグラーブに放棄させ、それをロンド・ベルに鹵獲させてサイコフレームを渡す。
- 小説ではνガンダムに積んであるのはサイコミュのみで、もともとサイコフレーム自体装備してない。ロンド・ベルは鹵獲したサイコ・ドーガのサイコフレームを切り離し、νガンダムのコックピットフレームに貼り付けて「物理的に」移植する。
(一方映画版では、シャアはAEにサイコフレームの情報のみリークし、AE材料開発部を経由し、νガンダムを建造しているAEのフォンブラウン工場にそれが伝わる。AE社の現場の判断で建造中にνガンダムに組み込まれ、ロールアウト時からサイコフレームを実装している)
- ラー・カイラムにケーブルを接続して使用するハイパー・メガ・バズーカ・ランチャーなる武器が登場する
ストーリー
ネタバレ注意
- アムロがフォン・ブラウン工場にνガンダムを取りに行かず、CG補正が付いたままのジェガンに搭乗してレズン部隊を迎え撃つ。代わりにベルトーチカがνガンダムをラー・カイラムに持ってくる。
- α・アジールの巨躯でνガンダムごとアムロを押し潰そうとしたクェスが、ハサウェイが発射したビーム・ライフルがたまたまコクピットに直撃した事により戦死。
- クライマックスシーンでアクシズが逸れた理由がシャアとアムロの近くにあったサイコ・フレームの共振+ベルトーチカのお腹の中の子供の力のおかげ。
- チェーンと違い、ベルトーチカはグラーブ(ギュネイ)撃破後生還している。
などが挙げられる。
執筆の経緯
劇場用シナリオが第一稿として提出され『ガンダム映画化委員会』とも言うべきインベスターの審査にかけられた時に「映画で、アムロの結婚した姿は見たくないなー」 「このシナリオのテーマはモビルスーツ否定であり玩具が売れる事で厚い市場を形成している基盤を作品その物が否定するのはどうなのか?」という各種の意見と批判を受けて改訂が行われ、現在知られる「逆襲のシャア」のシナリオに改められている。
シナリオ改定の課題となった「ロボを活躍させつつも人々を変革させ、人々の力を合わせ地球を救う」という点は、冨野監督から監督をバトンタッチした「G」など様々なスタッフの手によりアンサーが出されることになる。
余談
・逆襲のシャアのノベライズは本作の他、同じく富野氏による「徳間版/逆襲のシャア」(ハイ・ストリーマー)
があるが、こちらの作中描写は劇場公開された映画のそれにだいたい準じており、また作品の前日談も描かれている。同作の中巻ではベルトーチカとアムロはグリプス戦役後に、アムロのマザー・コンプレックスが原因で別れている事が語られている。
・もしもベルトーチカが無事出産していたとしたら。お腹の子供は「閃光のハサウェイ」の時点で約11歳前後になっているはずだが、本作のラストシーンで力を使い果たしたような記述と閃光のハサウェイに登場していないのでベルトーチカ母子の行方は未だ不明である。
・またアムロと別れた後の歴史のベルトーチカは、劇場版「逆襲のシャア」の物語から続く「機動戦士ガンダムUC」には再登場を果たしている(詳細はベルトーチカ・イルマの項にて)。
・口絵のアレンジ版νガンダムは、後にホビー・ジャパンのスクラッチ企画などで独立した別機体として存在を確立していくことになりHi-νガンダムと呼ばれ、プラモデルや各種ゲームに登場するほどの人気を誇っている。
関連イラスト
関連項目
アムロ・レイ ベルトーチカ・イルマ シャア・アズナブル ハサウェイ・ノア 富野由悠季 Hi-νガンダム 小説版νガンダム ナイチンゲール(MS) サイコ・ギラ・ドーガ