敷島浩一
しきしまこういち
概要
『ゴジラ-1.0』の主人公。
模擬戦ではトップクラスの成績を残したというエース候補だったが、すでに戦況は逼迫しており、実戦も行わないまま特攻隊に入れられての特攻を命じられていた。
大石典子からの呼び名は「浩さん(こう-)」、野田健治からの呼び名は「敷さん(しき-)」、秋津淸治と水島四郎からの呼び名はそのまんま「敷島」。
以下、本作品のネタバレ。未見の方は注意!
1945年の戦争末期、特攻のため零戦に乗って出撃したものの、母親の手紙に記された「生きて帰ってきて下さい」という願いを優先し(※小説版より)、機体が故障したと嘘をついて大戸島守備隊の不時着場へ緊急着陸。そのまま終戦までやり過ごそうとしていた。
その夜、島民から呉爾羅と呼ばれる怪物が大戸島に上陸して飛行場を破壊し始める。飛行場整備班長の橘宗作が特攻機の20ミリ機銃による攻撃を立案し、唯一のパイロットである敷島に攻撃を依頼したことで、駐機されていた零戦に乗って攻撃役を担う。だが、呉爾羅の威圧感に怯えて最後まで攻撃出来ず、直後に守備隊からの銃撃を受けて怒った呉爾羅が守備隊を悉く蹂躙、壊滅に追い込むのを目の当たりにしてしまう。自身は辛くも生還したが、同じく生存した橘に「お前のせいで皆死んだ」と激高され、死亡した守備隊の人々の家族写真を押し付けられた。
復員後は東京に帰るも、自宅は戦中に空襲で焼かれており、母親も含めて家族全員が死んでしまったことを知る。さらに子供を喪った隣人の太田澄子から「お前たち軍人がしっかりしていればうちの子供は死ななかった」と責められた事で、自分が生き残る意味はあったのかと葛藤し、自宅の焼け跡の中で「生きて帰ってこいって……そう言いましたよね」と亡き母親の手紙を手に呆然と呟いた。
その後、闇市で典子と彼女が連れていた孤児・明子と出会い、自宅跡に建てた自身のバラックに住み着いた2人を不本意ながらも養うこととなる。当初は食べ物にも事欠く生活だったため、秋津淸治船長率いる「新生丸」に乗り込み東京湾の機雷除去の仕事を始める。危険な仕事ではあったが実入りはよかったため、貯めたお金で新たに家を建て3人でそれなりに豊かな暮らしを送れるようになるも、戦争のトラウマと仲間を見殺しにして生き残った罪悪感から自分が幸せになる事に抵抗を感じ、典子への結婚を言い出せずにいた。
そして「新生丸」に「巨大生物の足止め」が依頼され、核実験によって巨大化したゴジラと再び対峙。現地で回収した機雷を使って応戦するも一時的に怯ませる程度で、応援に駆けつけた重巡洋艦「高雄」すらも眼前でゴジラの放射熱線によって海の藻屑と化した。その光景をただ見ていることしかできなかった浩一は自身が大戸島でゴジラを撃てなかったこと、死にきれずに自分が生き残ってしまったことへの後悔に苛まれ精神を蝕まれたが、典子の励ましにより何とか正気を取り戻した。
しかしそれも束の間、消息不明となっていたゴジラが東京に襲来。
典子を助けるために銀座に向かい一緒に避難し、何とか合流。しかしゴジラの放射熱線による爆風に襲われたが、典子が自身を守るため建物の隙間に押し込んだことで間一髪生存することとなる。それと引き換えに典子は爆風によって吹き飛ばされ、生死不明に。熱線の影響で降る黒い雨に打たれながら、再び自分だけ生き残ってしまったこと、典子を守れなかった後悔、ゴジラへの怒り、何よりゴジラを殺せなかったことで大勢の人々を死なせてしまった自分自身への無力感、それら全てをぶつけるかのようにゴジラに対して激しく慟哭した。
その後、典子の敵討ちと自身の死に場所を探すかのように野田健治発案の民間によるゴジラ駆除作戦「海神作戦」への参加を表明。ゴジラを海上に誘導するため戦闘機を飛ばして囮になろうと考える。
秋津からは「ヤケになってんじゃねぇか」と図星を突かれ、続けて「なんで早く典子ちゃんお嫁さんにしてやらなかったんだ!」と迫られる。しかし浩一は「俺の!…戦争がまだ終わってないんです…!」と今までそうしてこなかった理由を吐露した。
旧日本軍の戦闘機は全てGHQによって破棄されていたが、局地戦闘機「震電」の試作機が残存していたためそのパイロットに就任、ゴジラの誘導を買って出ることになった。しかし「震電」は完成から数年間放置されていたため不良箇所が多く、そのままでは飛行不可能だった。そのため、彼は嘗て自身のせいで仲間を死なせてしまい恨まれていた橘に一縷の望みを賭け(後述の作戦も同時に思い付いたため、橘に頼む他はないという考えにもなった)、彼を『整備班玉砕の責任は橘にある』という嘘の手紙を彼の戦友たちに送付し挑発する形で自宅に押しかけるように仕向け、手痛い暴力を受けながらも「あなたの戦争も終わってませんよね?」と何とか説き伏せて「震電」の整備を依頼することに成功。
海神作戦が失敗した時の最後の手段として口内に突っ込む事による体内からの自爆攻撃を提案し、機体内部に爆弾を搭載させて決死の覚悟で出撃した。
作戦準備が整う前にゴジラが再上陸し海神作戦遂行に暗雲が生じるものの、「震電」による相模湾への誘導に成功。予定通り海神作戦が決行された。しかし、結果的に本作戦・予備作戦を以てしてもゴジラを仕留める決定打には至らず、深手を負いながらも怒り狂ったゴジラから放射熱線が放たれようとしていた。
だがその時、浩一はゴジラに向かって特攻。機体は放射熱線を放つ直前のゴジラの口腔内に直撃し爆散。その影響で熱線のエネルギーも暴走を起こし、ゴジラは肉体が形を保てず崩壊していく。それに一同が喜ぶ一方で、野田、秋津はともに浩一の生存を絶望視していた……
が、その上空にパラシュートでゆっくりと降下する浩一の姿があった。
作戦決行の数時間前、特攻機仕様に整備された震電の各装備の説明を橘から受けていた際、浩一は死への恐怖に震えながらも「明子の未来を守りたい、ゴジラは刺し違えてでも必ず仕留める」と決意を固めていた。
それを受け止めた橘は操縦席に組み込まれた脱出装置の存在を知らせる。困惑する浩一に橘はただ一言「生きろ」と告げた。
これにより浩一は間一髪脱出装置を発動させていたことで見事生還を果たし、作戦を生きて完遂させた。
帰還後港にて仲間達と生きる為の戦いに打ち勝った喜び分かち合うが、慌てた様子で明子を抱えた澄子が駆けつけ彼女から一枚の電報を渡される。電報の内容を読み大慌てで明子を抱えて病院に向かう浩一。病院の病室に飛び込むように入ると、そこには負傷しながらも生還した典子の姿があった。
「浩さんの戦争…終わりましたか…?」
「うん……うん!」
浩一と典子は互いに涙を流し、生還を喜んだ。
余談
所属部隊と出身
序盤で大戸島へ着陸した際に着ていた軍服の「六〇一空」という刺繍より、浩一の原隊は第六〇一海軍航空隊(601空)。また、同シーンにて大戸島守備隊の黒板に「二月二十一日」と書かれているが、601空では同日に硫黄島へ特攻隊が出撃しており、敷島も硫黄島に向かっていたのではないか、ともネット上で推測されている。
同場面での会話と軍服の刺繍より、当時の階級は少尉。このため出身は海軍飛行科予備学生の予備士官ではないかという推測がある(参照)。
操縦の腕前
操縦の腕はかなり優れていた模様で、特攻用の爆弾を抱えたままの零戦を穴だらけの大戸島の滑走路に着陸させたり、その後の会話で模擬空戦での成績が良いことが語られたり、機関銃での機雷除去も初見で成功している(揺れ動く船の上から、同じく揺れ動く機雷に命中させるのは至難の業である。自衛隊の掃海艇にも機雷除去用の機銃が備えられていたが、実際に使われることは少なかったらしい)。
物語終盤では終戦から2年も経っているのに震電を問題なく飛ばし、それどころか乗りこなしていたり(史実では震電の開発者がテストパイロットを兼ねていたが、山崎監督は「危なすぎて誰にも乗ってくれなかったんじゃないか」と推測している)、そもそも終戦まで戦い抜いた歴戦の601空の所属だったり等々、中々の腕前である模様。それでも上記の通り、戦時中は特攻隊員にされたことも含めてまともに戦う機会はなかったようである。
序盤のif
山崎貴監督はパンフレットにて、敷島のキャラクターに関して2パターンを考案していた事を明かしており、それによれば冒頭の大戸島での呉爾羅襲撃の際に、橘から「撃つな」と止められたにも拘わらず狙撃し、整備兵が死亡するパターンと、現在での形で撃てなかったパターンがあったとの事。そのため敷島が呉爾羅を撃ったとしても整備兵全滅の運命は避けられなかった事になり、呉爾羅の縄張り意識から来る攻撃性と再生能力も考慮すれば、仮に敷島が呉爾羅を狙撃しても単なる無駄死にに終わるばかりか、その後の展開を考えれば、劇中トップクラスの射撃スキルの持ち主が居なくなる事で、野田を含めた新生丸の面々の生存率は絶望的になり、海神作戦も立案されず日本が一方的にゴジラに蹂躙されるという劇中以上の絶望的展開になっていた可能性が高い。
なお、敷島役が神木に決まったため、「彼はこういう演技が上手いから」という理由で撃てなかったパターンが採用されたと語られている。
予告のセリフ
ちなみに予告で使われた「その怪物は、許しちゃくれない」のセリフだが、これは別の場面の二つのセリフを切り取って合成したものであり、劇中には存在しない。またそのセリフに合わせられた場面は橘に震電の整備を頼むシーンであり、本編視聴後だとまた違った感想が出る、という意見も。
「敷島」の由来
名字の「敷島」は、日本の古い呼び名の1つ、または和歌において「大和」の枕詞である。
トークショーによれば意識している面もあるとのこと。
また、神風特別攻撃隊の最初の隊の一つでもある「敷島隊」からも取られていると思われる。かの有名な最初の特攻隊長、関行男大尉(死後、中佐)が指揮した隊として有名である。
オートバイ
作中で愛用しているオートバイは陸王。戦前にハーレー・ダビッドソンのバイクをライセンス生産したものが源流で、1950年代まで生産を続けていたブランドである。演じる神木はそれまで大型自動二輪の運転経験がなく、撮影に使われた陸王も実物(つまり当然ながらマニュアル)だったため「ドヤ顔で乗るのに苦労した」というコメントを残している。
関連タグ
山根新吉:初代ゴジラに登場する大戸島の少年。ゴジラに家族を殺されて孤児となり、東京を蹂躙するゴジラを見ながら深い憎しみを抱いた。
新堂靖明:ゴジラVSキングギドラに登場する帝洋グループ会長(戦時中は陸軍少佐)。彼も太平洋戦争中(1944年2月)にゴジラの前身と出会い、玉砕から生還する。なおこちらの場合、他の島は玉砕により全滅したにもかかわらず、ラゴス島守備隊が生き残った事を疎ましく思った軍or政府は、彼らの記録を抹消している。戦後の日本を経済大国として復興させたが、敷島と違ってゴジラを自身の恩人である「救世主」と半ば神聖視し、終盤でゴジラとの見つめ合いのうなずきをしながらゴジラに殺された。
立花泰三:GMKに登場する防衛軍准将。彼は幼少期にゴジラの襲来を経験しており、それによって家族を失っている。終盤、特殊潜航艇さつまでゴジラの体内に突入し、掘削弾頭(ドリル)型魚雷を発射してゴジラの体に穴を開け、結果ゴジラは放射熱線が暴発して爆散している。彼もまた助かったのだが、一方のゴジラは肉体こそ滅んでも心臓はまだ生きており、いずれ復活する可能性を仄めかしていた。そして本作でも……
ハルオ・サカキ:アニゴジ3部作の主人公。彼もまたゴジラにより大切な人を失ったことで深い憎しみを抱いた末、人類の未来の為にゴジラへと特攻した。こちらは敷島と違い大切な人を本当に亡く、さらに特攻によって死亡しており、ゴジラも生存しているなど敷島とは真逆の結末を辿っている。
古代進:宇宙戦艦ヤマトの主人公。本作と同じく山崎貴が監督を務めた実写映画版では、本編開始前に島大介の妊娠中の妻を巻き込んだ経験があり、敷島のように自身の行動を後悔して自責の念に苛まれていた。但し、クライマックスでの彼の行動は敷島とは対照的となっている。
宮部久蔵:本作と同じ山崎貴監督作品『永遠の0』の登場人物。彼も敷島と同じ大日本帝国海軍のパイロットであり、「生命」に執着している点も共通。宮部は筑波海軍航空隊で教官を務めていたが、敷島も同航空隊にいたことが橘宗作との会話で示唆されている(橘の方は同航空隊に居たと本人が明言している)。
ジョン・ランボー:戦地で深い心の傷を負ってPTSDに苛まれる帰還兵であり、帰還後にできた大切な人まで失うという共通点がある。
アスラン・ザラ:続編では両親を失われた上で何もできないほどの迷いに囚われ続ける孤児として描かれるものの最終的に生きるべき未来を守るべく迷いから立ち直って悪の主役との決戦に挑むという共通点がある。因みに終盤にて同行しているサブヒロインは典子のように戦いに巻き込まれて生死不明になる体験をしてしまうが……?
水木(鬼太郎誕生ゲゲゲの謎):同時期に公開された映画の登場人物。敷島が海軍少尉でありながら実戦経験を持たなかったのに対し、徴兵により使い捨ての二等兵として陸軍に配属され、さらに生き地獄と言われた南方での実戦を経験したため、立場や経験、思想的背景は敷島と全く異なる。しかし、映画の公開時期と劇中の年代(1956年)が近かったこと、玉砕特攻から生き残った戦争帰りの元日本兵であること、養父であること、そして何よりも劇中でのバーサーカー帰還兵っぷりなどから、PixivやSNS上で敷島とのコラボイラストがやたら大量に投稿されている。公式コラボもしてないものの、現状Pixivに投稿されている「敷島浩一」タグ付きのイラストも大半が水木とのクロスオーバー作品である。
敷島博士(鉄人28号):ゴジラ-1.0と同じく、戦後間も無くの昭和日本を舞台とした元祖ロボット漫画「鉄人28号」のキャラクター。此方も媒体によって多少の差はあれど、原作・2004年アニメ版において本作の敷島と同じく太平洋戦争を生き延びた科学者。また、苗字が同じ(ひょっとすると、敷島という苗字の由来には此方からも引用している可能性もあるのではと思われるが果たして…?)、秘密を抱え込みやすく真相をあまり話したがらない、しかしいざという時は武器を手にして戦ったり、2004年版では幾つか狂的な言動・行動が見られるなど、こちらも上記の水木らとともにいくつかの共通点がある。