概要
現実では第二次世界大戦中、旧日本軍により試作され、飛行試験もされたが実戦投入には間に合わなかった幻の局地戦闘機「震電」そのもの。
ゴジラシリーズお馴染みの架空兵器ではなく実在した戦闘機である。
最大速度400ノット(≒時速740km)以上、30ミリ機銃4門という破格の重武装でB-29を一撃離脱で墜とすことに特化して計画されていた。
上記の高速性と重武装を両立するため、機体前方に前翼と呼ばれる水平尾翼のような小翼をつけた先尾翼機と呼ばれる機体で、機体の後ろにプロペラを設けた特殊な形状をしている。
作中日本における第二次世界大戦中、現実と異なり僅かな試作機が本土決戦用に実戦配備されていたとされる。終戦により旧日本軍の戦闘機が全てGHQにより破棄される中、戦後のゴタゴタによりGHQの接収を免れ、国内に唯一残されていたのが本機である。
史実の量産化計画では側翼(垂直尾翼)下の車輪が廃止される構想であり、本機も側翼下の車輪が廃止されている。ただし4翅化するとされていたプロペラは6翅のままである。
劇中での活躍
主人公の敷島浩一が「海神作戦」へ参加するにあたって、ゴジラを誘導する戦闘機のツテはないかと野田健治に聞いた際に紹介された。このときすでに終戦から2年もの間放置され続けていたため、飛行できるか怪しい状態であった。
その後、橘宗作ら元整備兵の手によって飛行可能になるまでの改修が行われたが、4門の30ミリ機銃のうち2門と主燃料タンクが撤去され、ゴジラへの特攻を想定した二十五番(250kg)と五十番(500kg)の爆弾をそれぞれ機首と胴体に内蔵。さらに敷島の意思を察した橘の手により、実機には存在しないドイツで開発された射出式の脱出装置が設置された。
物語終盤の海神作戦では、敷島が乗り込んでゴジラの誘導を実施。2門だけ残された30ミリ機銃でゴジラの気を引き続け、また作戦最終盤で放射熱線を放とうとしたゴジラの口腔内に突入して爆散、ゴジラにトドメを刺した。操縦していた敷島も脱出装置により突入直前でベイルアウトして生還している。
余談
脱出装置
劇中では野田が、日本軍の戦闘機について「最低限の脱出装置も付いていなかった」と発言し、本機にも現実と違って脱出装置が設置されている。
しかし、当時の設計者の名誉のために補足すると、第二次世界大戦中に脱出装置を実用化していたのはドイツ空軍のみである。また、震電も操縦者が脱出時にプロペラに巻き込まれるのを防止する爆砕装置と減速機が設置予定で、“最低限の脱出装置”は搭載予定だった。日本軍が人命軽視のために敢えて脱出装置を搭載しなかったという事実はないのでご注意を。野田のセリフもあくまで、この国は思い返せば命を粗末にしすぎていたというニュアンスであり、戦争そのものへの発言と言ったほうが近いものである。
また、劇中のとある場面にてシート部分にはドイツ語標記の警告文が書かれているのが確認できる。このことからこの射出装置自体が上記のようにドイツ空軍製のもので、戦中にドイツから直接入手されて試験的に組み込まれていたか、若しくは戦後にドイツかGHQなど連合国経由で入手され、橘などが機体を整備する際独自に機体へ組み込んだものであることが暗示されていた。後に発売された小説版では、実際にドイツ製である事が明記されている。
爆弾と機体の重心
劇中では250kg爆弾と500kg爆弾をそれぞれ機首と胴体に内蔵し、機首から撤去された機銃の設置スペースに250kg爆弾1発を搭載している様子が映されているが、この1発を除いて他の爆弾は画面内に映らず、それぞれ何発搭載したのかも語られない(小説版では250kg爆弾は2発と記されている)。
撤去された震電の機関銃は一丁当たり約120kg(機関銃が70kgで銃弾が45~50kg)で、250kg爆弾は1発までなら総重量と位置はそこまで変わらない……はず。胴体内の燃料タンクが約400リットル(ガソリン400リットルにプラスしてタンク自体の重量で400kg前後?)で、500kg爆弾は1発がギリギリといったところか。
ここから推測するに搭載された爆弾は、最低でも250kg×1発+500kg×1発の計750kg、小説版に従えば250kg×2発+500kg×1発の計1トンといったところだろう。
実際は機体の重心や重量バランスが崩れて操縦が難しくなったり、最悪飛行不可能になる事もあり得るが、橘宗作が空いた胴体のスペースに内部パーツをずらしたり、バラストを積み込むなど、各部を調節してバランスを保ってくれたのかもしれない。
実写初登場
震電が実写作品で登場するのは本作が初である。アニメ、漫画、小説など実写以外の作品で登場する頻度は零戦や紫電改の次くらいに多かったが、実写作品での登場は今作が初めてだった(Wikipedia:震電に関連する作品の一覧)。
監督の山崎貴氏も、パンフレットのインタビューで「実戦配備するにはまだ問題が山積みの機体であったが、いまだに一度も実写で映像化されたことがないのでやってみたかった」と語っている。
また、これにあたって震電を設計した方の息子に会いに行き、話を伺ったとの事。設計者である彼の父は震電のテストパイロットも務めて初飛行しており、山崎貴氏はこれを「危なすぎて誰にも乗ってくれなかったんじゃないか」と推測している。
それ程じゃじゃ馬な機体を、初操縦で乗りこなした敷島の腕は相当なものだったのだろう。
レプリカ
本作が公開する前年の2022年7月から、福岡県の大刀洗平和記念館には震電の実物大レプリカが常設展示されていたが、このレプリカは当初「東京の映像制作会社」が作ったものを輸送費などを含め2200万円で購入したものだとしか明かされておらず、何の用途で作られたのか不明なままだった。
しかし、レプリカにドイツ語で書かれた脱出装置付きの座席があったことから、上映後から本作の撮影用に使われたのではないかと囁かれ始め、そして上映後の11月下旬に大刀洗平和記念館の公式SNSが、レプリカは映画で使われたものと同一であることを明かした。
プラモデル
以前から震電のプラモデルを発売していたハセガワから、劇中仕様のキットが1/48スケールで発売された。元が古参キットなのでパネルラインが凸モールドだったりと、若干古さを感じさせるが、評価は概ね高い。
デカールは劇中仕様の物が同梱されており、垂直尾翼の車輪と機銃は説明書通りに削る必要がある。座席は通常機と同じなので、射出座席を再現したい人はプラ板や真鍮棒などで頑張ってディティールアップするか、別キットから流用しよう。
戦後のゴタゴタ
史実では開発者の鶴野正敬氏は終戦まで軍部に対する開発状況の電報や書類の提出を一切しておらず、口頭のみでの報告に終始していた。より大きな報告は『震電ノ飛行準備完了 燃料送ラレタシ』と海軍に打電した時のみであり、このおかげで連合国は終戦まで震電の開発を一切把握しておらず、連合国の接収予定リストにも震電の名前はなかったという。これが劇中における戦後のゴタゴタによりGHQの接収を免れたという設定に繋がっているのかもしれない。
関連イラスト
関連タグ
シリーズ内
ヤシオリ作戦:いずれも口を攻められた。
F-86、F-4EJ、F-1、F-15、F-2:ゴジラシリーズに登場する実在戦闘機。ちなみに初代『ゴジラ』が制作された当時は自衛隊はまだ存在しておらず(公開直前の1954年7月に成立)前身の保安隊であり、昭和期のゴジラシリーズでは自衛隊は防衛隊という架空の組織として登場していた。F-86の配備が始まったのは公開翌年の1955年であり、初代『ゴジラ』に登場したF-86のマーキングは米軍機を参考にしている(F-86の記事も参照)。
F-4EJはF-4EJ改も含め、意外なことに『メカゴジラの逆襲』『ゴジラS.P』の2作しか出演していない。しかも前者はゴジラを攻撃せず(むしろピンチに陥ったゴジラを助けるように敵怪獣を攻撃した)、後者は駐機中の機体が背景に一瞬映るだけであり、両作ともゴジラに攻撃した場面は一度もない。
F-1は『84ゴジラ』と『ゴジラ×モスラ×メカゴジラ東京SOS』に登場しているが、前者はF-1CCVという架空機であり、後者はプラモデルとしての登場のみ。純粋なF-1支援戦闘機がゴジラを攻撃した場面は一度もない。
特殊戦闘機グリフォン:『ゴジラ×メガギラスG消滅作戦』に登場する架空の機体。隊長である辻森桐子3佐が、ディメンション・タイドの照準をゴジラに誘導する際に、直前まで手動操縦で接近し、こちらも機体がゴジラに激突する直前に、脱出装置によりベイルアウトしている。
AC-3しらさぎ:『ゴジラ×メカゴジラ』に登場する架空の機体。パイロットである葉山3尉が、アブソリュート・ゼロの発射準備中だった3式機龍をゴジラの熱線から守るため、こちらもゴジラの口腔内に突入している。ゴジラがコックピット部分を咥えた状態となり、熱線が撃てない今のうちに自分ごと撃つよう、家城茜3尉に伝えるが、機龍によってコックピットごと助け出され、その後脱出装置によって生還している。
零式艦上戦闘機:初代『ゴジラ』のポスターには零戦が描かれており、宣材写真にはゴジラと零戦が交戦しているものもあった。本作でもゴジラと対峙こそしているが交戦には至らなかった。
ちびゴジラ:『ちびゴジラの逆襲』2期で嫌いなことは「口の中で爆弾が爆発すること」と語っており、これ(または「薬は注射より~」)が元ネタではないかと考察するファンもいた。
シリーズ外
ストライカーズ1945:震電が自機として登場するSTG。至近距離で使うことでボスを一撃で倒すことができるボム「サムライソード」(一部作品ではスーパーショットに変更されている)を使うため、こちらを思い浮かべる観客もいた。