以下、本作品のネタバレ。未見の方は注意!
「島の奴がそう言ってたんだ。今日みたいに深海魚が浮いた日は、"呉爾羅"が出るって…」
概要
大戸島付近に棲息し、島の人々からは「呉爾羅」と呼ばれ語り継がれてきた伝説の怪物。
普段は海底で暮らしているが時折縄張り内の陸地に上陸しており、その前兆として呉爾羅の活動によって逃げ出し、減圧で死亡した深海魚の死骸が海面に多く浮上する現象が起こる (小説版では、この深海魚を具材にした鍋が大戸島の名物となっている) 。
「恐竜の生き残り」にも例えられる見た目や、背中に並ぶ背鰭など既にゴジラらしい形態をしつつも、やや前傾気味な姿勢に加え、表皮の鱗や貝殻のような背鰭の質感もまだ生物的であり、頭部は大きく首は短めで細長い足や胴体など、より現実の恐竜 (獣脚類) らしい生物感の強い姿となっている。
一方で、この時点で全高15mもの巨体を誇り、陸上と深海どちらでも活動できる適応力や、三八式歩兵銃 (6.5㎜弾) や九九式短小銃 (7.7㎜弾) の銃撃を受けても全くダメージにならない程の非常に高いタフネスや再生能力を持っているなど、怪獣と化す前から既に生物として常軌を逸した生態をしていた。また、体中には多くの傷跡やそれが治った跡も存在している。
性格は攻撃的で非常に縄張り意識が強く、第二次世界大戦末期 (1945年) の大戸島の守備隊基地に突如として上陸し、自身を刺激したり攻撃を加えてきた整備兵たちに怒り狂い、一夜にして敷島浩一と橘宗作を遺して皆殺しにした(守備隊全滅は表向きには米軍との玉砕として処理された)。
とはいえ、上述の事態はあくまで探照灯照射や銃撃を受けたことが直接的な原因であり、自身が脅かされなければ人を襲おうとはしない、つまりはある程度の理性は持ち合わせている性格ともいえる (明らかに視界に入っているはずの敷島や橘ら整備兵を銃撃されるまで無視するかのような描写がある) 。
現に大戸島には民間人が昔から住んでおり、前述の通り呉爾羅出現の前兆で浮いてくる深海魚が島民の食料になっているため、少なくとも積極的に人間の生存圏を侵す気はなかった模様。
普段通りビキニ環礁近海を回遊していたが、そこで米軍により行われた核実験・「クロスロード作戦」に直面し被曝。
原子爆弾の高熱と放射線にさらされたことで身体を焼き尽くされる程の大ダメージと苦痛を負い、持ち前の再生能力を以て生き延び必死に再生を試みたものの体表の奥深くまで紛れ込んだ放射性物質の影響により、表皮細胞にエラーに次ぐエラーを起こしたことで元の姿を取り戻せず、外皮は岩のような様相に様変わりし、背鰭は四方八方に枝を伸ばし層を成し急激に成長したばかりか、そのサイズも以前の姿を遥かにしのぐ巨体へと変貌し、性質も更に凶暴化……
恐るべき大怪獣・「ゴジラ」へと変貌を遂げたのであった。
そして、自身をここまでの姿形に変える程の深手を負わせた人類に対して激しい怒りを抱いたゴジラは、周辺の米軍の駆逐艦や潜水艦を手当たり次第に襲撃しながら縄張りを拡大するかのように日本へと進行し、遂には復興へと歩み始めていたあの街へと上陸する…。
余談
実は、意外にも"大戸島の伝承の存在としての呉爾羅そのもの"が映像作品に登場したのは今作が初めてであった。
この生物の正体が何なのかといった情報は一切不明。
恐竜を思わせる姿をしていることから、ファンの間では『ゴジラ-1.0』の世界線におけるゴジラザウルスなのではないかとする説が出されている。
山崎監督によると「再生能力が強いだけの一般的な生物、いわばモンスター」であり、この驚異的な再生能力のおかげで昭和の時代まで生き残ってこれた (生き残ってしまった) という。
また、ゴジラになってから録音された自分の鳴き声を聞いて縄張りを荒らされたと勘違いした事や、呉爾羅時代から身体のあちこちに傷痕が付いていたことから、呉爾羅は劇中の1個体だけではない可能性が高い。
もし今後も人類が核実験を繰り返せば、その最中に呉爾羅の同族を巻き込み、新たなゴジラを誕生させることもあり得るだろう。
監督のインタビューによると、呉爾羅の初期デザインは実際にいそうな恐竜そのものな外見だったが、話し合いする中で後のゴジラとの繋がりを持たせるため、背鰭や体型などゴジラ要素を持たせつつ恐竜っぽく逆進化 (逆算) させたデザインとなった。
また、"ゴジラの基になる恐竜"のお手本であるゴジラザウルスを意識しつつもそれに似すぎてしまわないように、頭部をティラノサウルスのように大きくしたり、ゴジラらしく色を黒っぽくしたデザインもしているとのこと。表皮に多くの傷跡がついているのは呉爾羅の再生能力を感じてもらうための工夫だが、登場シーンが夜なため少し分かりづらいことも語っている。
第1作『ゴジラ』の大戸島の呉爾羅伝説では、「呉爾羅は島の近海の魚を喰い尽くすと島に上陸して人を襲う」というものがあり、出現の前兆として大量の深海魚の死骸が現れる描写はそれへのオマージュと思われる。
呉爾羅が整備兵に食らいつくシーンがあるが、その兵士を食べずに放り投げて殺害しており、「ゴジラは人間を食べない」という伝統は本作でも守られている。
では何を食べているのかという件について、山崎監督は「少なくともマグロではない」とコメントしている。
敷島の悪夢にも登場するが、よく見ると顔つきが異なっており、おそらくはトラウマとして凶悪さが誇張されていると思われる。
立体物に関してはムービーモンスターシリーズのソフビ人形が2023年12月16日発売。
傷跡も再現されており、このソフビで呉爾羅に傷があったことに気づいた人も多いと思われる。
関連タグ
ゴジラザウルス:後にゴジラに変異する恐竜の先駆け。
ゴジラ(ゴジラ・ザ・シリーズ):同じく序盤で10メートル級で出現し、のちに50メートル級 (こちらは55メートル) へと成長したゴジラ。山崎貴は上記の「マグロ」発言こそ行っているものの、エメゴジを比較的好意的に捉えていることを海外でのインタビューにて明かしており、呉爾羅のデザインやシーンにはエメゴジからの影響が見られると国内外で多数から指摘されている。また、本作のゴジラはデザイン段階ではさらにエメリッヒ版に近い前傾姿勢も考案されていた。