概要
原作は庄司卓、イラストは赤石沢貴士によるSF小説(ライトノベル)。同時期に漫画化・アニメ化されている。
1990年代における富士見ファンタジア文庫(以下富士見)の看板作品のひとつ。一時は打ち切り作品に名を連ねていたが、現在は無事に完結を果たした。
相対未来の30世紀で繰り広げられる「人の死なない(スポーツ化した)宇宙戦争」に、現代世界の女子高生・山本洋子(主人公)とその仲間達が参戦するというストーリー。
作品の中にはアニメやテレビゲームに関連するネタが各所に盛り込まれており、この作品の特徴の1つでもある。
完結までの経緯
作者は2000年代に入ってから執筆の停滞が続いていた。同時にライトノベルというジャンルそのものが新たなる過渡期に入り、それに対応する形で富士見も方針転換を余儀なくされ、結果として完結を待たずして打ち切りとなる。
2010年代初頭より90年代ライトノベルのリバイバルブームが起こり、その一環として、アサヒノベルズ(単行本サイズ)より富士見版を再編集した「完全版」が刊行された。このバージョンによって完結編『ハートウェアガール』が上梓され、20年の長きにわたるシリーズに終止符を打った。
メディアミックス
前述の通り本作は1990年代にメディアミックス化されているのだが、その際「先行メディアのキャラクターデザインを踏襲せず(むしろ積極的に忌避するように)各メディア独自のキャラデザを打ち出した」事で知られている。そのため同じ登場人物でも公式デザインが最低5種類もある。
富士見書房のメディアミックス戦略としては原作のキャラデザを破棄して成功をおさめた『無責任艦長タイラー』の例があるため、これを踏襲・拡大解釈した上での手法と考えられる。
キャラデザの類型については以下の通り。漫画版はいずれも作者がキャラデザを兼ねている。
- 原作版:富士見と朝日で両社共通。CDドラマのジャケットは原作挿絵の流用であるため、ここに分類される。
- コミックドラゴン版:最初にメディア化された漫画版。作者は角井陽一。月刊コミックドラゴン連載。
- OVA版:キャラクターデザインは中沢一登。OVAの1期と2期でわずかにデザインが異なるため、さらにこれを「OVA1期版」と「OVA2期版」に分ける場合もある。
- テレビアニメ版:キャラクターデザインは渡辺明夫。
- ドラゴンJr.版:テレビアニメ版を経由しており、漫画版としては2作目。テレビアニメと原作の影響がありつつも、どちらにも似ていない別物のキャラデザ。作者は「みよね椎」。月刊ドラゴンJr.連載。
なお、OVAおよびテレビアニメの双方をひっくるめて新房昭之(新房)版と呼ぶこともあるがOVAとテレビで作風は違うので厳密には間違っている。雰囲気はシャフト時代とはかなり異なる感じ(タイラーの影響かは不明だが真下監督風)。
原作ファンからの評価は…絶望的な状況。1999年なのでまだありえないことではあるが、原作の内容的にもゲームマニアの大沼心監督・新房総監督方式だったらうまくいったかもしれない。
ストーリー
20世紀の日本に住むゲーム好きの女子高生・山本洋子は、自分の世界とは異なる並行世界の30世紀の未来の地球人に「宇宙戦艦のパイロット」としてスカウトされ、敵勢力との「人が死なない戦争」に巻き込まれる。
洋子と同じ世界・時代に生きる女子高生たちもまた、洋子同様にスカウトされ、「エスタナトレーヒ・チーム」として戦うのだった。
登場人物
エスタナトレーヒ・チーム
主人公陣。地球を拠点とする勢力「TERRA」に属し、艦隊旗艦「エスタナトレーヒ」を拠点とする。このチームで戦うのは、エスタナトレーヒのマッド・エンジニアであるカーティス・ローソンの開発した装置によってスカウトされた20世紀の女子高生たち。
- 山本洋子(CV:高山みなみ)主人公。地元では名の通ったシューティングゲーム系のゲーマーであった。
- 御堂まどか(CV:林原めぐみ)洋子に対するライバル意識が強い。元・器械体操オリンピック候補だった、現・アニメオタク。広いおでこが特徴。
- 白鳳院綾乃エリザベス(CV:宮村優子)洋子の幼馴染で古流武術の達人。冷静沈着を信条としている。洋子曰く「着せ替え娘」。
- 松明屋紅葉(CV:新山志保(OVA)→雪乃五月(TV))大衆劇団の娘。映画に関しては知識が豊富。関西弁でしゃべる。
- カーティス・ローソン(CV:松本保典)エンジニアであり、洋子達を宇宙戦艦に乗せた張本人。天才的な技術者。
- ゼナ・リオン(CV:勝生真沙子) 洋子達の艦隊を預かる指揮官。通称「リオン提督」。
NESS
宇宙における権益においてTERRAと争っている、恒星間移民船団。
氏族単位での封建的な政治制度が色濃く息づいている。
レッドスナッパーズ(メオ・ニスの四姉妹)
メオ氏族ニス家の四姉妹。初期における洋子たちのライバルチームであり、本作における憎めない悪役かつ愛すべきバカポジションの姉妹。なお、正式な呼称ではメンバー全員に「メオ・ニスの(個人名)」とつくが、ここでは割愛する。
- ルージュ(CV:玉川紗己子)長姉。姉としての責任感が強く姉妹にありったけの愛を注いでいるが、上司の司令官であるフーリガーに首ったけの色ボケ。フーリガーが洋子を評価している事から一方的な恨みを洋子に抱くが、幾度も戦場で洋子と対するうちに、なんか洋子に対してツンデレるユカイなねーちゃんになっていく。
- ロート(CV:かないみか)次女。バカを装いながら酷薄な知略を立てる戦略家……であるのだが、やっぱりドコか憎めないバカ娘。そのバカっぷりときたら妹たちから「20世紀の人間にロートねーちゃんを『コレがあなたたちの子孫です』なんて紹介したら、20世紀の全人類が絶望して未来を待たずに滅んでしまうんじゃないだろうか! 」と危惧されるレベル。
- ルブルム(CV:野上ゆかな)色ボケと策略バカと臆病者に挟まれて常識人になるほかは無く、結果ささいな抵抗なのかパンクロック娘になってる三女。まどかとはフーリガーの副官であるバーニナーを巡って火花を散らす間柄になる。
- エリュトロン(CV:鈴木真仁)臆病で哲学的で流されやすくドコか電波な末妹。パニック癖があり登場当初はロートに策謀の駒にされることが多かった。しかし紅葉と出会って打ち解ける事でパニック癖と電波から脱却して「紅葉さんに恥ずかしくないように堂々とした自分でいたい!」と思うようになる。基本的には素直で優しい子。ちなみに洋子たちの世界に迷い込んだ時には大自然のおしおきをする少女のコスプレをさせられていた。
その他のNESS勢力
- メオ・トロルのフーリガー(CV:江原正士)NESSのエースパイロット。没落したトロル家の再興を目指す。四姉妹にとっては憧れの存在だが、フーリガー自身は洋子に惹かれている部分がある。
Noyss
原作後半において事実上のNESS瓦解分裂によって発生した第三勢力。
フェイズ2チーム(フィッシュチーム)
Noyssに所属するチーム。ローソンをライバル視(もうこの時点で十分にマッドだが)するエンジニア、メオ・ママンのオットーによって開発された「クロノス・プレインズ割り込みシステム」によって集められた20世紀の少女たち。メンバーそれぞれにエスタナトレーヒチームの面々と個人的な因縁を持つ。
アニメや角井版には登場しないが、みよね版コミックには、ばっちりと貴重な登場を果たしている。
- 高取集:ゲーマーの兄を持つブラコン娘。白い鍔広帽子とワンピースがトレードマークのお嬢様然とした少女。家伝である弓道の心得を持つ。かつて洋子が兄をゲームでコテンパンに叩きのめし(なおかつ、その兄が「打倒洋子」を掲げて集を構わなくなっ)た事から「お兄さまが山本洋子に敗れてから、おやすみのキスも添い寝もしてくれなくなった! おのれ山本洋子許すまじ! お兄さまに、またアレコレしてもらってあわよくば一線を越えるために、山本洋子を誅殺してくれる! 」と洋子を逆恨んで骨髄の恨みを抱く、若い身空であっぱれなる、まごうことなき大変態。ただし、兄と洋子が絡まなければ、どこまでも常識人であり、若き弓道家として「武士の情け」的なものも心得ている。一応、フィッシュチームのリーダー。
- 雉波田光:まどかの器械体操選手時代の後輩。体操選手であるためか艦の操作時は緑のレオタードを着ている。体操選手としてはまどかをトコトン崇拝しているまどか信者だが、同時に自分の理想を他者に押し付け、しかも人の話をカケラも聞かない、というとんでもない悪癖を持っている。それは自らが尊敬するまどかに対しても同様で、事ある毎に「まどか先輩! 体操に戻ってきてください! 」と迫りまくって彼女を閉口させている。のちにオットーから「まどかは宇宙戦争にかまけているから体操に戻らないのだ」と吹き込まれ「まどか先輩は宇宙戦争なんかしている場合じゃない! 自分がまどか先輩を戦争で倒して体操に戻ってきてもらうんだ! 」とまぁ「なんでそうなる!?」とツッコみたくなるレベルの手前勝手なステキ思考を繰り広げてまどかに挑むようになる。もっとも、彼女もまどかが絡みさえしなければ常識人であり、またアツくなりやすいメンツが揃うフィッシュチームでは唯一の良心として機能している部分もあり、さらには洋子たちからは(思考に問題はあれども)まどか思いの側面も評価されているので、実はフィッシュチームでは一番エスタナトレーヒチームと仲が良いポジションにいる。
- 紅鵬院翼:白鳳院家と流派の本流を争っている紅鵬院家の娘。紅の道着に片目隠れがトレードマーク。流派の本流争いの事情から、綾乃を目の敵にしている。綾乃が宇宙戦争を舞台で戦っているのを知り「鳳家の娘(綾乃の事)がやっている事が自分にできないはずはない」「鳳家の娘と常に同じ舞台で戦い勝つことが鵬家の娘(翼の事)の務め」と自ら任じてフィッシュチームに参加する。ちなみに何気に最初のフィッシュチームメンバーだったりする。
- 鷲尾木葉:紅葉の従妹の小学生。忍者好きで自らも忍術(と称する、それらしきもの)を使う。自家の大衆劇団の行く末を憂う母(紅葉の叔母)の意向を受け、紅葉を連れ戻すために宇宙戦争に参加する。紅葉の義兄に劇団に戻ってきてほしいとも考えており、紅葉を連れ戻せば彼女の義兄も戻ってくると考えている。(が、実は紅葉の義兄が劇団を離れたのは、ぶっちゃけ紅葉と同じ理由……つまり「エンタメにおける家と自身の夢との乖離であり、夢を叶えるための家出&留学」であるため、紅葉が劇団に戻っても義兄は戻ることはない)家に逆らう紅葉に対しては反発もあってぞんざいな口調を使うが、母親に対してはお仕置きの恐怖から丁寧語を用いる。
世界設定・用語
- 相対未来 / 相対過去
洋子たちから見た、ローソンたちのいる未来の呼び方。および、ローソンたちから見た洋子たちのいる過去。タイムパラドックスの話によくある「過去・未来のように見える並行世界」ということ。
相対未来の言語は英語に統一されており、洋子など相対過去の人間であっても、英語を話せるものなら翻訳機なしでも意思疎通可能。
- クロノス・プレインズ・システム
ローソンが開発した事象転換装置。ありていに言えばタイムマシン。
ただし、自身が属する世界の過去・未来を行き来するのではなく、相対過去や相対未来を行き来することでタイムパラドックスを回避している。
- 宇宙戦艦
30世紀の相対未来では技術革新によって戦争で人が死ぬことがなくなり、戦争自体が一種のスポーツとなっている。
そして宇宙戦艦も、パイロット一人で操作できる、一種のF1カーのような存在になっており、カラーリングや武装などもパイロットの好みを反映できる。
また、TERRA所属の宇宙戦艦はパイロットの個人名をそのまま船の名前にするのが慣例になっている(例:洋子の戦艦は「TA-29 ヤマモト・ヨーコ」)。
なお、30世紀の相対未来では宇宙を移動することが現代で言う電車や客船程度のレベルで普通になっており、「船」と言えば水上を行くものではなく宇宙船を指す言葉になっている。すなわち「宇宙船」「宇宙戦艦」は重言にあたり、そんな呼称を使っているのは洋子たち20世紀の相対過去の人間だけである。
そのために、とある事情で旧来の水上艦隊(先史文明の遺産で再現されたもの)とバトる羽目になった時には(旧態依然とした水上艦のレトロな姿に侮った事と宇宙技術の発展の末に水上戦の技術やノウハウが廃れていたダブルパンチで)TERRA・NESS両陣営ともに苦戦を強いられて洋子たちの出番となった(この時に洋子たちの「宇宙船」が相対未来では重言である事が露呈している)。
- オールドタイマー
相対未来の世界における先史文明および、それを築いた人々。宇宙中にあらゆる痕跡を遺しているが、その生き残りや記録が残されていない謎の文明。仮説上は「進化の行き止まりの果てに、更なる可能性を求めて別次元(異世界ないしは相対世界あるいは高次元世界)に渡ったのでなはいか」と言われている。
余談
- 作者は初期のあとがきで「番外編『エリュトロンの冒険』を出したい」と打ち明けている。本気か冗談かは図りかねるが、この野望は叶わずに終わっている。
- 『名探偵コナン から紅の恋歌』には主要人物四人の担当声優が再集結し、ちょっとした同窓会だったという。
- さらに、ゆきの氏は奇しくもどちらも同じ「紅葉」という名の役であった。
関連イラスト
赤石沢ヨーコ(原典) | 渡辺ヨーコ(TVアニメ) |
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みよねヨーコ(ドラゴンJr.版) | |
関連動画
関連タグ
ヤマモトヨーコ(表記ゆれ)