概要
藤子・F・不二雄原作の漫画・アニメ作品『ドラえもん』のエピソードの一つ。TC5巻収録。
戦時猛獣処分を題材にした絵本『かわいそうなぞう』をモチーフにしたエピソードであり、過去に遡ったドラえもんとのび太が、象のハナ夫を救う為に奮闘する。
ストーリー
ドラえもんとのび太が帰宅すると、のび太の叔父・のび郎が遊びにやって来ていた。のび郎はパパに対して不思議な話をしようとしていた為、ドラえもんとのび太もその話を聞かせてもらうことにする。
のび郎が子供の頃、動物園にハナ夫という一匹の象がいた。ハナ夫が大好きだったのび郎は、毎日足しげく動物園へと通っていた。
しかし戦争が激化したことで、のび郎は東京を離れ、親戚の家に疎開することになった。そんな時も、のび郎はハナ夫のことをいつも考えていた。
やがて戦争が終わり、東京に戻ったのび郎は真っ先に動物園へと駆け付けた。しかしハナ夫が見当たらず、ヤギや豚しかいない。飼育員に聞いてみると「ハナ夫は殺されてしまった」と告げられた。ショックのあまりのび郎は泣いて家に帰り、その晩も泣きはらしていたという。
ドラえもんとのび太は「どうしてそんな酷いことを!」と憤慨するが、パパとのび郎は「仕方なかったんだよ」と言う。
「仕方ないとは何ですか!」
「あんなおとなしい動物を!」
パパとのび郎の話に納得がいかないと思ったドラえもんとのび太は「タイムマシン」に乗り込み、ハナ夫を救う為に戦時中の日本へ向かう。一方「それのどこが不思議な話なんだ?」というパパにのび郎は「不思議になるのはこれからだよ」と続きを話し出す。
戦時中の動物園に到着したドラえもん達は辺りを見回すも、やはり動物園の中には動物が一匹もいない。ようやく見つけたハナ夫は、餌を与えられていない為にやせ細っていた。すると一人の飼育員がやって来て、バケツの中に入ったジャガイモをハナ夫に差し出そうとする。
しかし飼育員は「だめだ、わしにはやれん!」と言いながら、ハナ夫に餌を与えることを止めてしまう。その様子を見ていたドラえもんとのび太は、怒りのあまりバケツを奪い取り「さあ、たっぷり食べろ!」と檻の中へジャガイモを流し込む。だが、それは毒入りのジャガイモだったのだ。
大慌てするドラえもん達だったが、ハナ夫はそれを理解していたのか、ジャガイモに一切口をつけず、鼻で外に放り出した。
ドラえもんとのび太は「どうして毒入りの餌を食べさせようとしたの?」と抗議するが、飼育員曰く「空襲で檻が壊れて動物が外へ出たら大変だから、軍部から象を殺せと命令が出た」とのこと。だが、子供のように可愛がって来たハナ夫を、飼育員はどうしても殺すことが出来なかったのだ。
一方、園長室では軍の将校が園長に対し未だに象を生かしていることに激怒していた。将校は「今や日本は大変な時なのだ。動物の命など問題ではない」「例え動物でも、お国の為ならば喜んで死んでくれるはずだ」と主張する。
園長は「ハナ夫には注射器の針が通らず、今日毒入りのエサで毒殺する」と説明したが、そこに戻って来た飼育員が「ハナ夫が餌を食べなかった」と説明する。将校はその話を聞いて激怒し、自らハナ夫を始末しようとする。
飼育員が泣きながら将校に縋り付くも、将校は話を聞こうとしない。見かねたドラえもんは「そうかっかしないで、相談しましょうよ」と語り掛ける。すると将校が「園長、気を付けなさい。タヌキが檻を出ている」と言い、案の定ドラえもんは怒り出してしまう。
そこでのび太はハナ夫を故郷のインドへ送り返すことを提案する。しかし将校が「今はそれどころではない」と言うと、ドラえもんとのび太はとんでもない爆弾発言をしてしまう。
「戦争なら大丈夫。もうすぐ終わります」
「日本が負けるの」
これを聞いた将校は激怒し、ドラえもん達を敵国のスパイだと勘違いして攻撃しようとする。その直後、サイレンが鳴り響くと園長や飼育員、将校はどこかへ走り去って行く。何が起こっているか分からないドラえもん達だったが、2人のすぐ近くで爆発が起こった。そう、空襲が始まったのである。
ドラえもん達が慌てていると、逃げ出したはずの飼育員が戻って来た。ハナ夫がいる檻に爆弾が落ちたらしく、ドラえもん達は急いでハナ夫の元へ向かう。
幸いにもハナ夫は無事であり、破壊された檻から姿を現した。ドラえもん達はハナ夫を安全な所へ誘導しようとするが、一方でハナ夫を見失った将校は「さっさと殺せばよかったのだ!」と激怒しており、部下と共にハナ夫を始末しようと探し始める。
「どうすれば良いんだ…」と言いながら絶望する飼育員を見たドラえもんは「インドに送り返してやれば良い」と言いながら「スモールライト」を取り出し、ハナ夫を小さくする。次に「ゆうびんロケット」を取り出し、小さくなったハナ夫をロケットの中に入れ、移動先をインドに指定して打ち上げた。
ドラえもんは飼育員に「インドに着いたらハナ夫は元の大きさに戻るから安心して」と告げる。飼育員は涙を流しながらドラえもん達に感謝し、役目を終えた2人は現在へ戻ることにした。
ドラえもん達が現在に戻ると、のび郎の話はまだ続いていた。「いつまで経っても不思議な話にならない」というパパに、のび郎は「いよいよこれからだよ」と言う。
インドのジャングルで仲間とはぐれ、遭難してしまったのび郎はついに動けなくなってしまう。もうダメだと諦めたのび郎はかつての思い出を走馬灯のように思いだす。両親の顔、疎開先の田舎の家、登って遊んだ柿の木。そしてハナ夫の顔…。
すると、どこからか一頭の象が静かに歩み寄って来た。のび郎がおもむろに「ハナ夫」と呼んでみると、その象は見覚えのある優しい目でのび郎を見つめていた。
やがてのび郎はそのまま意識を失ったが、その間もハナ夫の背中に揺られているような気がしたと言う。意識を取り戻した時、のび郎はふもとの村近くで倒れていた。
話を聞いたパパは「死んだはずのハナ夫がインドにいるはずがない」と言うが、のび郎は「夢でも嬉しかった」と目を細める。
その話を聞いたドラえもんとのび太は「ハナ夫は無事にインドへ着いたんだ!今でも元気でいるんだ!」と言い、涙を流しながら喜ぶのだった。
アニメ版
上記のエピソードは大山のぶ代版及び水田わさび版アニメで映像化されている。前者は1980年、後者は2007年及び2017年に放送された。
「戦争経験者であり、小学生の甥か姪がいるおじさん」がまだ多く見られた頃の放送であった大山版はともかく、水田版では原作版連載当時の時代設定(言い換えればのび郎の年齢設定)と、放送当時における時代設定が合わない為のび郎は登場せず、別の人物に差し替えられている。
- 1980年版
終戦から35年。
原作版では未登場のジャイアンとスネ夫が登場している。ドラえもん達がのび郎と顔を合わせる時期も放送時期と同じ正月に変更されており、エピローグではのび太がハナ夫を模した凧(裏に「タケコプター」を取り付けている)を揚げている。
また、のび郎の疎開先での話も描かれ、ジャイアンとスネ夫に似たいじめっ子達も登場した。
- 2007年版
終戦から62年。
のび郎の代わりに動物園で出会ったお爺さんがハナ夫との思い出を話す展開に変更されている。
こちらでもジャイアンとスネ夫が登場し、原作版・1980年版では未登場だったしずかも登場している。
- 2017年版
終戦から72年。
アニメオリジナルキャラクター・のび四郎(パパは彼のことを「おじさん」と呼んでいるため、のび太の大叔父にあたる)の体験談に変更されている。こちらでは1980年版で描かれた疎開先の出来事が描かれた。
それだけでなく、原作版では悪役として描かれていた将校がハナ夫に助けてもらうアレンジが挿まれており、それがきっかけで「猛獣に恨みはないが、戦争の前には個人の感情は通用しない…」と嘆く姿を見せるというフォローがなされている。
余談
先代ドラえもんを演じた大山のぶ代氏は、その縁か、後に本項と同じく動物園の象と戦争を扱った、武田鉄矢主演の映画「子象物語 地上に降りた天使」にも主人公の妻の母親役としても出演していた。
関連項目
白ゆりのような女の子:ドラえもんの同じく戦争絡みのエピソード
こちら葛飾区亀有公園前派出所:両さんの日本史大達人3にて、本作同様に戦時中の象とタイムスリップの話が描かれた。もっともこちらは精神のみのタイムスリップゆえに救済はなかったのだが…
鉄人28号(2004):第13話にて戦時猛獣処分を経験した飼育員と宇宙生物の交流の話が描かれる。