十津川警部
とつがわけいぶ
フルネームは十津川省三(とつがわしょうぞう)。十津川警部シリーズの主人公で、西村京太郎作品の代表的キャラクターとして多くの作品に登場している。著作には読み仮名を「とつかわ」とするものもある。名前の元ネタは奈良県の最南端に位置する「十津川村」から。
プロフィール
一人称は「私」、たまに「僕」。独白などでは「おれ」。
7月27日生まれの年齢40歳。当初は34歳だったり登場するたびに年齢が上がっていったが、連載の長期化に伴い現在の年齢で固定された。『超特急「つばめ号」殺人事件』では誕生年が昭和17年(1942年)とされていたので、この設定が健在であれば既に70歳を優に超えていることになる。血液型に関しては曖昧で、ある作品ではB型と言っていたり、別の作品では「O型だと思う」と発言していたりする。
身長は当初は163センチ(あだ名が「狸」の中年体型)だったが、西村は十津川警部シリーズの渡瀬恒彦のイメージから身長を10センチほど伸ばしたという。第三者視点で描かれるときは「平凡な中年」とされる。
東京都の新興住宅地出身。現在はマンション暮らし。そのため故郷という言葉のイメージをつかみにくく、青森県出身で故郷に思い入れのある亀井刑事とは対照的である。
大学時代はヨット部に所属し、ダイビングの経験を持つ。また太宰治を真似て小説を書き、『錨(アンカー)』という同人誌を発行していたこともある。大学卒業後、警視庁に地方公務員として採用されたノンキャリア。25歳の時に捜査一課の刑事となった。
警察官として
警視庁刑事部捜査一課に所属する警察官で、階級は警部(初期は警部補)。部下の亀井刑事をパートナーとして多くの事件解決に当たっている。
捜査一課内での立場は作品によってブレがあるものの、概ね7人から10人程度で構成される「十津川班」のリーダーとして描写されている。
都内を中心に全国、時には海外も飛び回り、殺人などの事件を捜査、被疑者を逮捕、発見している。捜査の大半は警察官として関わっているが、一部では一般人として調査することもある。県警との合同捜査ではリーダーシップを取ることが多いものの、管轄を意識しているため県警の方針には口を出さない。
性格
厳しさと優しさを兼ね備えた頼れる上司。妻や部下のことは大切に思っており、冤罪を証明するべく奔走する。
犯人に対しては亀井と共に飛び掛かって捕まえる描写が多く、殴り付けられた際も反撃して取り押さえるなど勇猛果敢。催涙ガスを使われて目が見えない中、銃撃戦となった時は犯人を射殺している。これ以外にもやむを得ず撃ち殺したことがある。ただし十津川が銃を使うのはまれであり、基本は威嚇射撃にしか使わない。目の前で逃走した凶悪犯に対しても追い掛けて殴り倒している。
また罪を認めようとしない人間に対しては罠を仕掛けたり、復讐者に襲われていても動機(なぜ襲われているのか)を隠しているようなら「動機が不明では殺人とは言えない。警察は民事不介入だから」と見殺しにする振りをしたこともある。特に妻を冤罪から救うために犯人を罠に掛けた時は、刑事らしくないことをしたと述べつつも「妻の無実を証明するためならどんなことでもする」と独白している。
犯人に命を狙われている人間に対し、説得が不可となれば「万引きの容疑」として無理やり逮捕して保護するという措置を取ったり、わざと軽く車を当てて病院に連れて行くといった荒業を行ったこともある。
友人知人に殺人の容疑が掛かった時は、心苦しそうにしながらも刑事としての使命と責任感に従って行動する。また自首や出頭を促すことも。
これらのことから課長や部長らからは危険人物として見られているところもあり、「君はやると言ったら本当にやる」と蒼い顔されたことがある。
自分のことはまだまだ若いと思っているが、同窓会で高校時代の友人と会った時は「おじさんになった」と指摘されてショックを受けている。
家族構成
妻・直子(35歳)と二人暮らしで子供は居ない。若い頃は片思いの相手や恋人などがいたが、何かしらの理由で破局している。サラリーマンの兄がいてそちらには7歳の娘がいる。厳しい父親がいたが既に死去している。
ペットは雑種のオス犬「のりスケ」とメスのシャム猫「ミーコ」。また、ある事件の関係者から預かったオスのシャム猫「居候」も飼っている。この猫好きの設定は北条早苗に引き継がれ、ほとんど描写されなくなった。
妻以外の関西人が苦手なので、仕事を理由になるべく妻側の親族とは会わないようにしている。
十津川警部シリーズは推理小説原作のドラマとして何度も映像化が図られているが、十津川省三をつとめた最も著名な人物と言えば三橋達也だろう。
テレビ朝日系土曜ワイド劇場向け作品として朝日放送・大映が始めて映像化した1979年版『寝台特急殺人事件』で初登場。朝日放送製作分の3作は綿引勝彦(綿引浩)が亀井刑事役となった。
続いてテレビ朝日・東映で制作された1981年版『終着駅殺人事件』で定番の三橋警部・愛川亀さんの配役が決定、これに1984年から『東北新幹線殺人事件』から西本レオが加わる定番メンバーが固定化された。
しかし、三橋と愛川のイメージは原作の十津川と亀井と全く逆で、さらに1981年の時点で三橋はすでに58歳と、原作の十津川のように飛び回るには高齢になっていた。一方、愛川は当時47歳でバラエティ番組にも数多く出演する躍動感のある俳優だった。
この為原作とは逆に、物語の前半部では愛川演じる亀井刑事が積極的に飛び回り、三橋演じる十津川警部は警視庁内でどっしりと構え亀井達をフォローし、安心感を与える存在、という設定がなされ、丁度十津川と亀井の立場が(ストーリー開始時点では)逆転している形になった。
今で言えば原作レイプと批判されてもおかしくない改編だったが、いぶし銀の三橋演じる安定感のある十津川警部と、コミカルな中年の愛川演じる熱血漢な亀井刑事は一気に人気を博し、1986年の『特急北アルプス殺人事件』では26.7%という高視聴率を叩き出した。
事件が行き詰まったときに十津川が「カメさん、我々も乗ってみようじゃないか(行ってみようじゃないか)」と腰を上げ、解決のヒントを得る。トリックは三橋警部が、犯人の心理は愛川亀さんが、それぞれ解き明かしていくことが多かった。最後に事件解決後、十津川と亀井が2人で事件を総括するようなやり取りをする、といったフォーマットで、特に人気があった。
改変要素が大きいものもあり『特急おおぞら殺人事件』は、原作だと濡れ衣を着せられたのは亀井だがトラベルミステリーでは西本になっている。これは当時の主人公の亀井を拘置所に入れてしまうのを避けるための処置と思われる。
他にも三橋の体型でヨットマンというのは無理があると判断されたのか、大学ではラグビー部所属だったことに変更されている。また、禁煙を宣言してはそれを破っており、その事を亀さん(愛川)に何度もたしなめられたりしている。
亀井刑事など近しい人間の前で、時折一人称が「俺」になる(原作では「私」が多いが、ごくまれに「ぼく」「おれ」になる)。
この他、部下思いで温情派と、映像作品だからこそ必要な面を備えた三橋の十津川には人間的魅力があった。
しかし、1984年頃から度々三橋の健康問題が浮上するようになり、『東北新幹線殺人事件』『特急ゆふいんの森殺人事件』といった代役で乗り切る事態もあった。それが深刻になったことで1999年の『秋田新幹線「こまち」殺人事件』を最後に十津川警部役を降板し、高橋英樹に交代。この頃、愛川欽也は逆に大御所俳優となっていたため、この交代によってむしろ本来なら原作に近づいた。
しかし、一応として視聴率は取れているものの、映像化されていないトリックのある原作の不足、題材となった列車の廃止、後述のTBS版とイメージが被るようになったことなどから三橋時代ほどの高評価は得られなくなり、苦戦が続いた。そして2012年に体調の問題もあり今度は愛川が亀井刑事役を降板(後任は高田純次)と、土曜ワイド版は苦戦を強いられている。
他局でも別の俳優の組み合わせで十津川・亀井の作品が制作されたが、原作とあまりにかけ離れたスタイルでありながら非情に高い評価を得た三橋・愛川コンビのイメージに勝てず、1990年頃からは作品自体は原作にしつつも全く違う配役(落ちこぼれ刑事、私立探偵、女性刑事コンビなど)として、土曜ワイド版、というよりも三橋・愛川コンビのイメージと競り合うのを避ける作品が多くなった。
一方、三橋降板前の1992年からはTBSにて『西村京太郎サスペンス 十津川警部シリーズ』として月曜ドラマスペシャルの枠でドラマ化がスタート。こちらは十津川警部が渡瀬恒彦、亀井刑事が伊東四朗と、放送開始時は原作の両者の年齢に比較的近いイメージでスタートした。基本的には落ち着いたベテラン刑事の伊東亀さんと、冷静ながら時に熱くなる渡瀬警部のコンビは原作のイメージを崩さず映像化したと評判となり、1996年の『南伊豆高原殺人事件』で視聴率は25.2%と土曜ワイド版の全盛期に迫るそれを叩き出した。その後も放送は続き、渡瀬恒彦は2005年の35作目『金沢加賀殺意の旅』にて最も多くの十津川警部を演じた俳優となり、2015年の『サンライズ出雲の女』の54作に至るまでその記録を更新し続けた。また渡瀬・伊東コンビは同一俳優コンビによる最多出演回数も記録した(次点は三橋・愛川コンビの31作)。
なお、渡瀬主演のテレ朝系のドラマ『警視庁捜査一課9係』に伊東が不定期に出演するようになり、伊東出演回のエンディングでは渡瀬・伊東コンビの十津川警部シリーズのエンディングを思わせるようなシーンが描かれていた。
テレ東系でも萩原健一・神田正輝出演版でも亀井刑事の方が主役になっている。
TBS版の特徴は敢えてトリックを解き明かす『ミステリー』の比重を軽くし、犯人は分かっているが証拠がない、犯人に狙われ続ける人物の護衛といった『サスペンス』の部分に重点が置かれている点である。この結果として全体的な雰囲気は暗く硬質なものとなり、どちらかと言えば陽性な雰囲気の土曜ワイド版と対照的なものとなった。撮影時期の関係から鉄道のトリックがさほど使えないためにこのような形態になったと思われるが、これによりトリックのない中編や長編を映像化することもできた。
十津川警部を演じた俳優
多数の漫画家によって描かれているが、いずれも容姿は異なる。漫画では、細身で精悍な顔立ちの人物として描かれることが多い。体格も細身だったりガッシリだったり、原作通り中年丸出しだったりする。
またコミカライズ版では十津川を別のキャラクター(亀井、西本、清水、日下、北条)に置き換えて描く場合もある。そのため必ずしも十津川が主人公として出てくるわけではない。以下は連載していたものを中心に紹介する。
宋美智子版では一貫して十津川が主人公として描かれている。原作では第三者視点だったストーリーでも十津川中心のものにリメイクされている。原作よりも感情を押し出したキャラクターとなっており、登場人物(ゲスト)に対する思い入れが深く描写される。特に犯人の自殺を止められなかったストーリーでは大いに嘆いている(原作では独白のみだった)。また物語の随所で冷笑や嘲笑といった表情をたびたび見せる。外見はメイン画像の人物。
樹生ナト版でも主人公として登場。原作通り中年として描写されている。顔はおじさんだが細身で長身。
大舞キリコ版では当初は主人公として描かれていたが、読み切りから亀井と日下のバディものに変更されたため十津川は捜査本部から動かなくなった(この辺りは三橋達也版に近い)。それに伴い容姿が変更され、冴えない中年からかなりのイケメンになった。漫画の十津川では一番格好いいかもしれない。
鳥羽笙子版では主人公が西本・日下に変更され、上司として登場するのも亀井になっているのでほとんど登場しない。が、一度だけ登場したことがある。
瀬畑純版では主人公を北条早苗に変えているため出番は少ない。当初は顔が描かれなかったが、後に中年のおじさんという容姿で登場した。原作初期の通り狸のような中年体型だが、時にはキレ者としての表情を見せる。
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