大江健三郎
おおえけんざぶろう
1935年1月31日、愛媛県大瀬村(今の内子町で、古くから木蝋で栄えた)に誕生。
東京大学在学中の1957年に東京大学新聞に掲載された処女作『奇妙な仕事』が批評家平野謙に絶賛され、文壇デビューを飾る。同年の商業デビュー作『死者の奢り』が芥川賞候補となり、同じく若手の精鋭だった開高健とのガチンコ勝負は世間の注目を浴び、このときは一票差で開高に軍配が上がった。次回、1958年前期に投稿された『飼育』では既に有名人となっていたので、新人を選出する芥川賞としてはどうかという意見もあったが、まだまだ年齢が若く、また作品の完成度が圧倒的だったこともあり、ほぼ満場一致で芥川賞受賞。これは当時、石原慎太郎に次ぐ2番目に若い同賞受賞作家であった。1959年、東大卒業。
1960年、伊丹十三の妹と結婚、長男と長女が生まれるが、長男の光(後の作曲家、大江光)は知的障害があった上に難手術も経験しており、夫婦で共有したその苦難を通じて世界観や人生観が大きく変わったことを何度も私小説に採り上げており、特に1964年に発表した『個人的な体験』はその代表作である。
1994年、ノーベル文学賞を受賞し、世間から再び大きく注目を浴びる作家となった(それまでは新刊もまるで注目されなかったほど、全盛期を過ぎた作家と見られていた)。その後、作家人生に終止符宣言をするも、数年後に活動を再開している(児童文学などにも挑戦したりしているなど作風が幅広くなり、また難渋な表現も控えめになった)。
2023年3月3日、老衰で死去。88歳没。
日本固有の民俗や風土を豊かな想像力で描いたことが受賞の最たる理由である。川端康成が抒情表現を評価されたのに対し、大江が評価されたのは豊富で緻密な歴史、文化、民俗の知識に裏付けされた叙事表現であり、失われつつあった古き日本を採り上げていたことが大きい。
ただ、大江は「戦後民主主義」の支持者であることを標榜し、原水爆廃絶運動に参加していたことで、日本では良くも悪くも政治的側面が強調されがちである。
大江は『飼育』で芥川賞を当時史上最年少で受賞しているほか、谷崎潤一郎賞を史上最年少で受賞している(受賞作品が代表作『万延元年のフットボール』)など若い頃から文壇の寵児として知られている。また、野間文芸賞、読売文学賞なども受賞しており、川端康成や三島由紀夫などの歴代の文豪も彼の才能を高く評価していた。
ただ、彼の書く文章はめったやたらとセンテンスが長く、句読点の入れ方が独特で、また脈絡もなく難解な比喩表現を使用したり、日本人にあまり馴染みのない英単語を使ったり、没入感のない人物名を多用したりして、とても読みづらく(1970年代の作品に顕著)そこを批判していた作家、批評家も少なからずいた。事実、60〜70年代の大江の代表作と言われる『万延元年のフットボール』や『同時代ゲーム』などの長編作品は、世界的な評価の高さとは裏腹に、その晦渋さから「読者にうまく理解されなかった」と自身も認めている。
なお、大江も自身の悪文に関しては読者を遠ざけ、次第に部数を減らす原因にもなっていたので改めようとはしていたらしく、同一コンセプトのまま内容を簡明にした作品を度々書いている。
ノーベル文学賞を受賞してから改めて読まれ始めた長編が、代表作『万延元年のフットボール』と『M/Tと森のフシギの物語』である。特に後者は、発表当初全く注目されなかったにもかかわらず、数社から文庫版が出版されるほどの代表作となった。
- 大のジャズ愛好家として知られる。若い頃からジャズにはまり、ジャズに関するエッセーも多い。だが、家で聴くと長男の光が嫌がったのでクラシックを聴くようになったという(出張先ではジャズバー巡りを続けていた)。
- 東大の仏文学専攻ではあるものの、20代のときに自分にはフランスが合わないと思いフランス文学にはさほど興味を抱かなくなっている(フランス語が思ったほど身につかなかったのも理由)。一方で、英米文学に多大なる関心を抱くようになり、とりわけイギリスの詩人、ウィリアム・ブレイクに傾倒、それをフィーチャーした作品も著述している。
長編作品が主。近年は講談社文芸文庫が復刊に力を入れている。
- 芽むしり仔撃ち
人気作の一つで、大江自身気に入りの作品でもある。感化院に収容された少年たちの、束の間の自由と自治を描いた作品。大人が純粋な悪として描かれている。
- われらの時代
- セヴンティーン
浅沼稲次郎を刺殺した右翼少年、山口二矢をモデルにした作品。
- 性的人間
- 万延元年のフットボール
史上最年少谷崎潤一郎賞受賞作にして代表作。スーパーマーケット進出を機に起きた谷間の村の社会的軋轢とフットボール部員となった若者たちの抵抗を、幕末の擾乱に起きた自由民権運動になぞらえた作品。ノーベル文学賞受賞の評価基準となった作品でもある。
大江文学の難解さ、晦渋さを示しているともいわれている。大江曰くコンセプトを同じくして、それを簡明にしたのが『M/Tと森のフシギの物語』
- 洪水はわが魂に及び
野間文芸賞受賞。審査員だった大岡昇平が絶賛した。大江自身は息子の光が持つ特殊な能力に影響を受けており、またキリスト教の影響も強い。
- ピンチランナー調書
『洪水はわが魂に及び』と対をなす喜劇調の作品。
- 個人的な体験
大江ファンからの人気が高い一作。自身が体験した障害を持った子を生んだことへの後悔と希望、達観とコンプレックス克服がフィクションとして描かれている。
- みずから我が涙をぬぐいたまう日
- M/Tと森のフシギの物語
ノーベル賞受賞の評価基準となり、受賞を決定づけた作品。生まれ故郷、大瀬村での歴史(口伝)を元にしている。海外での評価が非常に高く世界で大江文学といえば、まずこれが出てくるというほどの作品になったが、発表当時は、日本国内では全く注目もされなかった。
- 雨の木(レイン・ツリー)を聴く女たち
読売文学賞受賞。最終的に死を選択してしまった二人の旧友を記した私小説。
- 新しい人よ眼ざめよ
自分がフランス文学からイギリス文学に乗り換えたきっかけとなった詩人、ウィリアム・ブレイクへの思いを綴った作品。
- 懐かしい年への手紙
- 人生の親戚
- 燃えあがる緑の木
発表中にノーベル賞を受賞したことで、一躍注目を浴びた。また同時期のオウム事件を予言した作品として、再度世間の注目を浴びている。
- 宙返り
『燃えあがる緑の木』の後日談であり、一時小説家引退を表明していた大江の小説復帰作。
- 取り替え子(チェンジリング)
義理の兄である伊丹十三の自死から受けた衝撃を反映した作品。
- 憂い顔の童子
- さようなら、私の本よ!
…以上3作が「おかしな二人組」三部作とされる。
- 二百年の子供
十代の読者を対象に読売新聞に連載された。大江としては珍しいジュブナイル作品。
- 水死
『みずから我が涙をぬぐいたまう日』と同一のテーマを掘り下げた、晩年の代表作。
ほか多数。
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少し大げさに言うと「現代の黙示録」みたいな芝居。21世紀を迎えて、メルトダウンしつつある日本、メルトダウンしつつある世界、メルトダウンしつつある私‥‥。あと、文壇ネタが多くて、ちょっと文壇ドラマ風になってます。42,752文字pixiv小説作品