概要
太陽光発電設備は、可視光線で発電するソーラーパネルと、パネルで発電される電力を整流するパワーコンディショナー(直流を交流に変換する「インバータ」と、送電される交流を一定の電圧に保つ「コンバータ」の2つの機能を持つ)で構成される。必要に応じて出力変動を平準化するためのバッテリーや、グリッド(送電網)に接続するための送電設備と組み合わせられる。
かつては太陽光発電をするソーラーパネルが非常に高価であったため、離島の灯台や人工衛星、地球の公転軌道の内側へ行く探査機の電源としてのみ用いられていたが、21世紀に入ってから主に先進国の住宅や工場などの発電設備として普及し始めた。
2020年代に入ってから、脱炭素が以前にも増して強く推奨されるようになり、世界中で設置が進んでいる。
なお、個人で買える太陽光発電キットなどもあるが、実用的な電力を起こせるレベルであれば大抵の場合は第二種電気工事士が必要であり、無資格で設置したりすると懲役3ヶ月又は数万円の罰金となる。
特徴
利点
- 太陽の光を当てるだけでいい。太陽が出ている限り発電が続く。
- 動作させるための燃料を採掘したり運んできたりする必要が無い。太陽の寿命が尽きるのは数十億年先なので、実質的には「燃料切れ」を気にしなくていい。
- 屋外に、言うなれば「野ざらし」で設置するので、大型の建屋を必要としないし、パネル自体には駆動部品が無いので、騒音や振動が出ない。
- 燃焼などの化学反応を伴わないので、排気ガスや燃えカスなどの作動によるゴミは出ない。二酸化炭素も出ないので温暖化対策の面で特に注目を浴びている。
- 個々のパネルに発電機能が分散しているので、部分的な故障や劣化で全体を停止させる必要が無い。
- もっとも、太陽が動力源なのは欠点でもある。この辺りは欠点の項目を参照。
欠点
- 太陽しかあてにできない。当たり前だが、太陽が出ている昼間にしか動かないので、夜間はただ場所を取るだけになる。
- 昼間でも天候が曇りや雨や霧ならマトモな発電量は期待できず、砂漠地帯のように、極端に晴れの日が多い地域でないと安定した運用は望めないと言える。雪の降る地域だと、最も電力が欲しい冬場に最も能力が落ちる。
- 個々のパワーは低いので、大規模な電源として使いたい場合は大量のソーラーパネルと、それを設置できる広大な、かつ日当たりの良好な条件の良い土地を必要とする。
- 機械的にはともかく、結局は他の面でのメンテナンスが欠かせない。屋外に置ける利点の裏返しで、野ざらしなのでバネルが汚れ、発電能力の低下に直結するので清掃の手間がかかる。パネルを設置した台座の劣化に関するメンテナンスも必要。主要施設を野ざらしにせざるを得ないので、金属部品の盗難などにも遭いやすい。
- パネル自体も、おおよそ30年ほど稼働できるとはいえ劣化により能力は半分以下に落ちてくので順次交換が必要。10~15年程度で寿命を迎えるパワーコンディショナーも整備維持する必要があり、燃料代がかからないとはいえ維持費は発生し続ける。
- 各パネルに機能が分散しているので、大規模な太陽光発電所、いわゆるメガソーラーともなれば上記の各種メンテナンスを全てのパネル一つ一つに施していかねばならない。
- 送電はカットできるが、発電そのものを停止できない。時間帯による発電量の調整などができず、むしろ電力管理に負担をかけることもある。パネルを覆う機構などを追加するといった手はあるが、そうすると管理維持がさらに面倒になる。台風や地震などで台座が破損しても日が当たっていれば発電が続くので漏電からの火災につながったり、撤去や復旧に危険を伴う。
- 動作中の廃棄物はともかく、製造時に出る化学物質の処理や、パネルそのものを廃棄する際の化学物質対策などが必要になる。破損時の漏洩などにも気を付けねばならず、これをサボったら環境汚染まっしぐら。
電力インフラとしての利用
性質上、都市の主力電源を賄うような巨大な発電所としての運用は難しく、補助電源や分散電源向きと言われている。
小規模電源として使う場合
家庭用の太陽光発電設備は電力網に接続せず、自家発電した電力をバッテリーに貯めて使用するオフグリッドで運用されることもある。
これだと独立した電源を個別に持てるので、停電や災害発生時に電力を使い続けることができる。
アフリカ諸国や北朝鮮などのインフラが不十分な発展途上国、送電設備を設置するのが難しい離島や極地などの遠隔地ではオフグリッドの太陽光発電設備が普及している一方、電力網が安定している国だとメリットが出にくい。また、個人宅での設置なら屋根の上に置くことになるが、けっこう重たいので荷重を計算しないと強度や耐震性を低下させる。
小規模の太陽光発電を各家庭の「電力削減」のみに活用したバッテリーレスのマイクロインバータを活用した、プラグインソーラーシステムも登場している。
大規模な工場やショッピングモールなど屋根や土地の面積を広く取れる施設の場合、稼働時間である昼間の電力を賄うものとして太陽光発電を活用している例も多い。
社会規模で使う場合
大規模な電源として活用したいという将来的な展望はよく取りざたされるものの、欠点の項目にあるように夜間や悪天候だと動かせない以上、安定的な社会インフラとするには他の電源でカバーしなくてはいけない。
この問題があるので、太陽光発電をメインに据えて社会を支えるレベルの大規模インフラを実現できた例は今のところ無い。
先進国では2010年代に急速に普及し、さらに大容量のリチウムイオン電池の価格低下、NAS電池の登場により大規模な蓄電設備を併設する発電所が現れ、時間帯による発電量の変化をある程度は分散化出来るようにはなったが、天候の変化で発電量が下がるという根本的な問題の解決はできていない。
よく「電気は貯めておけない」と言われるように、バッテリーは体積あたりに貯めておけるエネルギーが少なく(エネルギー密度が低い)、充放電に損失を伴う。発電した分を100パーセント貯蔵しておくことはできないので、コストの制約がある以上、太陽光発電と組み合わせて使うにも限度がある。
仮に蓄電池や水素製造などでエネルギーを備蓄しておくとして、太陽光発電が動かない夜間や悪天候時の間も社会を支え続けられるレベルの電池や水素貯蔵施設は凄まじい巨大設備になるので、電力システムをもう一つ以上持つのと変わらないコストがかかることになる。
それなら従来通り水力、石炭火力、原子力等の恒常発電設備と組み合わせて、太陽光発電は補助に徹する方が結局は合理的となる。
普及に伴う問題
2010年代後半ごろから、蓄電設備や電気自動車、スマートグリッド(相互制御型送電網)などのインフラの普及や、発展途上国の急激な人口増加、先進国の脱炭素ブーム、中国メーカー同士の激しい競争によりパネル価格が下がったことにより、世界中で急速に設置が進んでいる。
将来的には水力発電や火力発電と並ぶ主力電源となるという観測もあり、太陽光発電を中心とする再生可能エネルギーを主力電源として位置付けたいという展望は、政府レベルから活動家レベルまであちこちで語られるようになった。
しかし、上記のように原理的・構造的な問題が山積したまま展望だけが先行しているきらいもあり、普及が進むと同時に数々の問題も指摘されるようになってきた。野放図な開発や制度設計、過剰なパネルの設置などを新たな公害と位置付ける向きもある。
電源としての安定性
欠点やインフラ利用の項目にもあるように、大規模な発電所として扱うためには様々な問題が解決していない。
たまに「太陽光発電所は原子力発電所○機分の発電量」などと喧伝されることがあるが、これは太陽光発電所が「まっ昼間の一番活発に発電している時だけ」の一時的な発電量と、原発が「常に発電し続けている」安定的な発電量をごっちゃにしている例も多い。
周辺環境との兼ね合い
日本では太陽光発電電力の固定価格買取制度(FIT)が撤廃され、そのほかの優遇制度も徐々に減らされているが、大きな利益が見込めるということで各地に巨大なメガソーラーが建設されていった。
しかし実態は「太陽光バブル」と揶揄されるほどの過熱状態で、耕作放棄地や開発が頓挫した地域(放棄分譲地や廃墟化したレジャー施設などが解体された跡地など)ならともかく、優良農地や自然豊かな山間部を潰す形で太陽光パネルが敷き詰められるようになり、景観破壊、保水力の低下による水害の誘因、土壌の生態系破壊に伴う栄養素の低下による河川・沿岸部まで含める周辺一帯の生態系の崩壊、獣害の発生、反射光による公害、化学物質の漏洩リスクなどが各地で問題となっている。例として阿蘇山、吾妻山などでは太陽光パネル用地としての大規模伐採が繰り返され、名山や自然遺産としての価値が失われつつあると言われている。
また、海外では反射光によって上昇気流が発生し低気圧化するため、降水帯を形成させやすくしている可能性もあると指摘されている。
その他にも、普段は無人稼働であるため人の目が届きにくく、山間部や田舎に設置されたソーラーパネルの設備から配線等に使われる銅線といった金属が盗まれるといった治安悪化の問題が急増している。また、運用に手間や費用がかからないという長所は、土地を提供した地元に雇用が発生しないという欠点とも言える。
このため現地住人と開発業者との間で激しい諍い(訴訟沙汰や酷い時には暴力事件)に発展することもあるなど、環境保護という名目からはかけ離れた存在として、太陽光発電の設置や誘致自体に否定的な声も少なくない。
また、太陽光発電を推していた政治家について「身内に太陽光事業関連者がいる」「中国のプレゼン資料を使用していた」などの理由から不正や癒着を強く疑われ、政治的問題に発展した。
安全保障面の問題
主なシステムが広大な野外にそのまま置かれている太陽光発電所は警備や防護がしにくく、シンプルに災害や物理的攻撃に弱いのもメイン電源としての信頼性を損なう一因となっている。
また、多くの太陽光発電システムに使われているインバータやコンディショナーが中国製であり、他の中国製ネットワーク機器同様に外部からの侵入を許すバックドアが仕込まれている可能性といった経済安全保障面の懸念を指摘する声も多い。
2024年5月には大阪の電子機器製造会社の発表で自社製の太陽光発電システム監視装置に中国人ハッカー集団による不正アクセスが起こり、バックドアを仕込まれネットバンキングの不正送金に悪用されていた事が判明した。これは発電システム自体を狙った物ではなく不正送金の隠れ蓑に利用された例だが、こうした発電インフラに対する外部からのハッキングは、運用システムへの攻撃による社会混乱や、電力需要の推移で防衛関連施設の稼働状態が漏洩するといった安全保障上の問題につながるのではないかといった意見も見られる。
宇宙太陽光発電
地上での太陽光発電は夜間や荒天時に行うことができず、また広大な土地を必要とするという欠点がある。そこで、いっそのこと発電機能を積んだ人工衛星を打ち上げて日光の当たり続ける軌道に置き、24時間太陽光発電を行ってしまえばいいのではないかという構想。
フィクションにおける類似のアイデアとしては、『未来少年コナン』の太陽エネルギー技術や『機動新世紀ガンダムX』のサテライトシステムなどが知られている。
地上では大気が太陽光をある程度遮ってしまうため、その影響を受けない宇宙空間の方がはるかに太陽光のエネルギーが強く、同じような発電能力のパネルでも地上より効率よく発電が可能だとされる。
一方で宇宙空間ともなるとその過酷な環境から機器の劣化スピードが早い上に、メンテナンスに赴くのも簡単ではない。また電力を宇宙から地上へとケーブルなしに送信する技術については研究途上であり、今のところ実用化の目途は立っていない。レーザーやマイクロ波に変換しての送電が有力な案として挙がっているが、この場合は精密な照射技術の確立や電波障害対策が必須になる。
『機動戦士ガンダム00』等の軌道エレベーターが登場する作品では軌道エレベーター自体やそれに繋がるオービタルリングで発電したり、これも大規模な技術革新を要する。
技術的な課題以外にも、空間送電なら高エネルギーのレーザーやマイクロ波を軍事利用されたりしないか、軌道エレベーターを安全に防衛できるのかなども課題となる。
シムシティシリーズでは、発電施設の一つとしてマイクロ波受信施設を建造できる作品があるのだが、システムの「災害発生」をオンにしていると、受信施設から外れたマイクロ波が地上を焼く事故が発生するという上記の問題を体験させられるイベントが起こることも。
先に挙げたガンダムXでも、送信開始後に狙いを外した事で湖面にマイクロウェーブが当たり水蒸気爆発が起きるエピソードがある。