月島軍曹
つきしまぐんそう
「面倒くさい」
「自分を制御できなければ いつか取り返しのつかないことになる」
目頭から降りる真っ直ぐなしわと、異様に低い鼻という変わった風貌の持ち主。ファンブックによると鼻は母親譲り(ただ、実写版では「あの鼻を忠実に再現すると大掛かりな特殊メイクの域になってしまうので、あえて自然に見えるようにした」とのことである)。
なお、15巻表紙では目の色が深緑色となっている(ただし、他のカラーでは普通の黒目であることがほとんど。この漫画の作風を考えると、単に演出の一種であった可能性が高い)。
また、軍服の上から更に外套をしっかりと着込んでいる事が非常に多い。地味ながらも彼の特徴の一つである。
真面目な性格で、命令に忠実に従う典型的な軍人でありながら、冷静な判断力と大胆な行動力を併せ持つ。小柄ながらも肉体は鍛え抜かれており戦闘力は高く、取っ組み合いや殴り合いで頭一つほど身長差のある谷垣源次郎やロシア人を圧倒するほど。尾形百之助からも「屈強な兵士」と評されている。また、杉元佐一レベルではないが、体の腹面には無数の傷痕がある。
鶴見中尉の任務を命をかけて順守する一方で、彼の蛮行に動揺したり、中尉の最終目標が「戦争中毒」に他ならないと考えているなど、盲目的に中尉を崇拝している訳ではなく、真っ当な常識を持ち合わせている。また、江渡貝の護衛をしていた際、同じく護衛であった前山が尾形に射殺された時は激昂しており、戦友に対する仲間意識も強いようだ。
江渡貝弥作の監視、モルヒネ中毒の二階堂浩平の世話、鯉登少尉の補佐など狂人奇人の相手ばかりをさせられており、気が休まらない苦労人と化している。
特に、鯉登少尉は鶴見中尉の前では緊張から早口の薩摩弁になってしまうため、彼の通訳にもなっている(通訳とはいっても薩摩弁を訳すわけではなく、鯉登少尉が標準語で耳打ちしてきたのを伝えるだけである)。
尾形(第78話)と谷垣(第229話)曰く、長風呂らしい。
鶴見中尉の片腕として働く中で、刺青人皮の偽物を作ることになった剥製職人・江渡貝弥作のお目付け役として監視の任に就く。
鶴見中尉の企みに気づいた尾形や杉元らから江渡貝と刺青人皮(及びその偽物)を守る為に交戦。大規模な炭鉱事故に巻き込まれ江渡貝は守りきれなかったが、命からがら帰還を果たし、刺青人皮の偽物5枚を鶴見の元に持ち帰ることに成功した。
その後は旭川での任を解かれ囚人狩りに加わる鯉登少尉の補佐役も務めることになる。内心彼の奇行を「面倒くさい」と思いながら真顔(無表情)でフォローしている。
網走監獄襲撃にも出撃し、武装した看守、囚人たちと激戦を繰り広げるも生還する。
襲撃後は鶴見中尉の命にて杉元・鯉登・谷垣らと共に先遣隊として樺太へ渡りアシリパやキロランケらを追うこととなったのだが、ただでさえ鯉登という問題児に手を焼いている中で、お守りの対象が更に二人増えてしまい、その苦労は倍増している。また、樺太の灯台守夫婦の娘であるスヴェトラーナが両親に何も告げず家を出たことには思うところがあったのか、「生きてることくらい伝えたらどうだ」と、普段の冷静さからは想像できないほどに声を荒げていた。
色々あって先遣隊メンバーの共通の目的である「アシリパの連れ戻し」は達成できたものの、鶴見中尉に関する「とある疑念」を鯉登に投げかけられ口論しているところを白石にこっそり聞かれてしまう。この言い合いの際、月島が自身の本音を鯉登に吐き出す場面があるのだが、その時見せた表情は多くの読者に恐怖を覚えさせた)。
これがきっかけの一つとなり、アイヌのために使われるべき金塊が鶴見中尉の手に渡ることに危機感を覚えた杉元・アシリパ・白石は逃亡。数日前まで協力関係にあった彼らとは再び敵対する関係となる。
「第七師団の良心」とも言える男だが、かつては尊属殺人で死刑を求刑されていた(※明治時代の法律では、自分の親を殺す「尊属殺人」は無期懲役あるいは死刑のみが規定されていた。日本では1973年に事実上、撤廃された。現代も、フランスや中国などでは、尊属殺の規定を残す国もある)。
父親が黒い噂の絶えない人物だったことで、月島も「人殺しの息子」「悪童」などと呼ばれる荒くれ者だった。
唯一彼を「基ちゃん」と名前で呼んでいたのは、いご草(エゴノリ)に似た癖毛の少女、春見ちよ(通称:いご草ちゃん)だけで、彼女とは日清戦争帰還後の駆け落ちを約束していた。
だが「息子の戦死」という虚言を月島の父が広め、いご草ちゃんは海岸に履き物を残して行方不明に。これまでの怒りもあって月島は父親を撲殺し死刑が確定。しかし鶴見中尉の策略により「来るロシアとの戦争に必要な人材」としてロシア語を猛勉強させられ、最終的に釈放される。
鶴見中尉はいご草ちゃんの行方と真実について
「いご草ちゃんの両親が、彼女を気に入った財閥幹部の息子へ嫁がせるために、月島の父親に金を渡してデマを広めさせ、いご草ちゃんに月島を諦めさせた。いご草ちゃんの死は偽装で、本人と両親は嫁ぎ先の東京にいる」
と語っている。そして、「基ちゃんの骨があったら一緒に埋めてほしい」といご草ちゃんに託された一房の髪を月島に手渡している(その後、月島はその髪を何年も持ち続けることになる)。
だが、月島と同郷だと語る兵士から
「月島の父の自宅床下から、いご草ちゃんの遺体が見つかった」
と鶴見中尉の言を覆す事実が語られる。
鶴見中尉は更なる事実として
「月島の死刑を回避するため、素行の悪い父親に婚約者を殺されたという虚偽を造り、軍部と島民に信じこませ父親殺しを正当化した」
と、同じ新潟県出身で信頼できる優秀な戦友の死刑を惜しんでの工作であったことを告げる。
度重なる事実に翻弄されもはや真実を追求する気力を失っていた月島は、救われた命を鶴見中尉と死んでいった者たちのために使うことを決意。鶴見中尉に加担し金塊争奪戦に身を置くことになった。
一方で、同郷だと語った兵士の不自然な言動や、月島の忠誠の意思に鶴見中尉がほくそ笑む姿もあり、全て月島を引き込むための策略だったのか、いご草ちゃんは本当に生きているのか、真実は……?
上述の過去からもわかるように、基本的に鶴見中尉に対しては強い忠誠心を持つが、それは彼の心理操作によるものであり、カリスマ性への心服ではない。
それは月島軍曹自身が強く実感しており、鶴見中尉への忠誠は「自分の人生などどうでもいい」という、半ば捨て鉢な感情によるものである。
その一方で「鶴見中尉の信じる正義について行けば、自分の人生が戦友の為に使われた意義のあるものだったという『救い』を与えられる」とも考えており、それ故に、鶴見中尉への忠誠心は、鯉登少尉の熱狂的な忠義とは違い、半ば執着・狂気じみたものとなっている。
その為仕事への忠実さは人一倍強く頑固で、金塊探しに無関係となった谷垣源次郎とインカラマッの二人と、その子供すらも殺そうとしたこともあるが、鯉登の「上官命令」と称した機転により最悪の事態には至らなかった。
そして、精神的に成長を遂げ「自身の信じる正義のために鶴見中尉について行く」と誓い、それ故に鶴見中尉にも疑いの眼差しを持つようになった鯉登と共に、徐々に鶴見中尉との関係に対しても変化を見せていくようになる。
名前が判明し本格的に活動するのは8巻からだが(なお、8巻で名字が判明し、フルネームが明かされたのは15巻後半である)、登場は2巻からと早期から活動している。鶴見中尉の傍らに度々登場する人物は月島であり、和田大尉を殺害したのも彼である。
本編開始の10年前に開戦した日清戦争にも出征している。日清戦争時は仙台第二師団(東北地方と新潟県、北海道の一部が対象)に所属していたが、鶴見中尉と共に第七師団へと移動している。
そのストイックさから人気があり、人気投票では1位の杉元、2位の尾形から離されてしまうものの堂々の3位にランクインした。
作者によると「こういう男が、かっこいい」と思いながら描いている男とのこと。
前述したように鶴見中尉の部隊では常識人なのだが、周りが色物すぎて読者や視聴者からは「月島の方がおかしいのでは?」だの「あの状況で正気なのは逆におかしいのでは?」と散々に言われている。
……まあ、この評価は色物の中にいる常識人にはよく言われることではあるが。
和田大尉を上官の命令とはいえ、真顔で射殺してたりもするし……。
なお、実写版キャストの工藤阿須加(実際に原作ファンで「実写化されるなら月島を演じたい」と語っている)も、雑誌アンケートの「月島基の好きなところと、その理由は?」という質問に「冷静で冷徹なシーンが多いですが、過去を知ることで垣間見える優しさや葛藤、そして何より周りの個性が強くて、逆におかしいと疑われるくらい真面目なところが好きになりました」と回答している。
アニメ四期記念の原作者ロングインタビューでは、彼が刺青囚人含めたキャラクター中11位の巨根であることが明かされた(大きさだけではなく紳士かどうかも判定基準だが、次の鶴見中尉以降は似たり寄ったりの平均とされていることから、サイズも勿論中々のものと見受けられる)。
中の人は2022年にわな猟師の免許を取得し猟師デビューしており、その際にゴールデンカムイのキャラを意識したコメントを残している。また、ロシア語を学んだ結果「電車内で聞こえてきた会話に、所々耳覚えのある単語があった」ともなっていた(※「ロシア語」の項目にも記されているが、ロシア語は習得難易度としては鬼レベルとのことである)。
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