概要
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』第21話『今、できることを』内での展開を指すフレーズ。
同話のラストシーン、ラウダ・ニールの発言が元で、それがあたかも天の助パロディのようであったことから生まれたネタなのだが、状況を簡潔に表しているため流行を見せた。
あらすじとネタ成立の経緯
第21話終盤、周囲との連絡を絶ったラウダは、格納庫であるモビルスーツを睨みつけながら怨嗟の声を漏らす。
「あいつのせいだ」
「ペトラも、学園も」
「兄さんが変わったのも」
この時、視聴者はラウダの過去の発言の傾向から、「きっとまた水星女を恨んでいるんだろうなぁ」とか、「話の流れ的に矛先はシャディクかな」と思わされた。
が、次の瞬間彼の口から飛び出た名前は――
「ミオリネ……!」
であった。
...シリアスで不穏な展開をさらに加速させる緊迫感ある締めではあるのだが、「一見無関係な人物に突如怒りの矛先が向く」という流れが『ボボボーボ・ボーボボ』の「殺してやるぞ天の助」を思い起こさせるものだったため、上記のネタを知っている者からすれば不意打ちでシュールギャグを突きつけられたかのような構図になってしまった。
結果、21話の放送直後から元ネタを改変した「殺してやるぞミオリネ」というフレーズがツイッターでトレンド入りする程に広まるなどした上、それに呼応するようにネタイラストが多数作成された。
そして続く第22話。
ミオリネたちがクワイエット・ゼロ及びプロスペラの野望を止めるため、クワイエット・ゼロへの突入作戦を遂行する中、ラウダが件のモビルスーツ...ガンダム・シュバルゼッテに搭乗して一行を強襲。専用ディランザに搭乗していた兄・グエルに阻止されるが、ラウダは彼に向かって「まだあの女に囚われているのか……兄さん……!」と吐き捨てるのだった。
なぜミオリネなのか?
一見逆恨み・八つ当たりのように思える言動だが、ラウダの主観からすれば必ずしもそうとは言えない。
「ペトラも、学園も」について
ペトラが重傷を負ったのはアーシアンのテロが原因だが、その引き金となったのがベネリットグループによるアーシアンの虐殺行為である。
これは表向きにはミオリネが指揮したものであると大々的に報道されているため、ペトラや学園がテロに巻き込まれた原因をミオリネとするのは納得がいく。
メタな視点も交えて深掘りすると、黒幕の存在とその悪行を知る視聴者と、それらを知らないラウダ(含む作品内の大衆)の認識のギャップが最大の原因と言える。
また、この時点で実際にテロに加担した人物を見てみても、
- ヴィムの殺害を企て、学園内のテロを引き起こした原因とされるシャディクはシャディク隊とともに既に拘束されており、罰を受ける流れが決定している。
- テロの実行犯であり、ペトラがいた建物を破壊したノレアは既にこの世を去っている。
と、恨もうにも恨めない状況である。
さらに、これらを遡った大元の原因であるプロスペラの暗躍と、宇宙議会連合による陰謀について、ラウダは知らない。
よりにもよって、『その「クワイエット・ゼロ」なる物体を破壊しに行く一行の中心にミオリネがいて、さらにそれにグエルも帯同している』という有り様である。
ラウダからすれば、やり場のない怒りをぶつける相手は最早ミオリネぐらいしか残っていなかったのだろう。
「兄さんが変わったのも」について
一方で、「グエルが変わった(=父を殺害した)」件については、ミオリネが直接的な原因となった描写は見られない。
グエルが大きく影響を受けたのは主にスレッタからであり、ミオリネがグエルの婚約者に戻ったのも父親を手にかけてしまった後である。
ただ、ペイル社時期トップ候補が影武者を使わなければならなくなった理由の一つである「決闘の勝者で最も優秀な生徒がホルダーとなり、ミオリネを娶ってベネリットグループの総帥となる」というホルダー制度を考えると、初期のグエルも(乗り気だったとはいえ)翻弄され、スレッタ登場以降は迷走し、そして起きた惨劇も考えると、その点で「騒動の元になったのは突き詰めればミオリネである」として彼女を恨む気持ちもわからなくもない。
また父殺しの件でグエルを恨むにも、元より「尊敬する兄」だけではなく、グエルが復帰して責務から解放された反面、何もない自分に引け目を感じていたような描写があった。
ラウダ自身ヴィムに内緒で兄の退学の手続きを阻止していたため、少なからず父に反抗心があったのは確かであり、その最期にはある種「横暴な父の自業自得」として割り切っていたとも思われていた。したがって、父を殺したことそのものを恨んでいるとはとれない、との指摘があった。
残るミオリネに対しては、ラウダの視点から見れば「兄を巻き込んで騒動の引き金を引いた」ようにしか見えなかったため、これにグエルの変化の原因を押し付ける形で恨んでいるのだと思われるが、こちらに関してはやはり理不尽な恨みであると断じざるを得ない。
スレッタについては?
ではスレッタはどうなのか?
以前は「お前が来てからおかしくなったんだ……! 何もかも! ……水星女!!」と深い恨みを抱いていたため、彼女が対象から外されているのは若干不自然にも思える。
しかし、彼女(と地球寮の面々)にはランブルリングにて負傷した際に助けられただけでなく、学園でのテロ時に瓦礫に潰されていたペトラを発見・救助してもらった義理がある。
20話終盤でカミル・ケーシンクからその事実を知らせるかのような通話の際に、ペトラがスレッタたちに救助された経緯がラウダに知らされた可能性がある。ペトラ本人が意識不明の重体の中、恩人であるスレッタをこれ以上恨むのは良くないと考えたのだろう。
また、ラウダから見たスレッタの現状は18話での嫌味からして「ラウダ自身も『グエルの傍を奪われた』との自嘲と皮肉も含め、ミオリネに良いように使い捨てられた存在」とする、ある種の同族嫌悪、もしくは同情の方が大きいと考えられる。
どのみち合理・感情の両面において、スレッタにはこれ以上手出しをする理由も動機もない、というのがこの時点でのラウダの状況である。
結論
以上から導かれる結論としては
「ラウダ視点で見た場合は正当な部分もある反面、やはり逆恨みな部分も多くある」
とするのが妥当であろう。
もっとも、21話~22話現在の、「アーシアンの虐殺に加担してしまった」と思い込み精神的に大分弱っているミオリネでは、「ラウダの逆恨みも自分のせいと認めかねない」と視聴者からは懸念されていた。
その顛末
第23話では、ラウダはミオリネに対する怨嗟と、父殺しのことを黙っていたグエルに怒りをぶつけながら、自分を止めようとするグエルに襲い掛かり、機体の性能差もあってグエルを追い詰めた。
だが、ビームブレイドで斬りかかった時に、グエルがわざと自機の腹部を貫かせて肉薄したことで、シュバルゼッテは頭部のシェルユニットを握り潰されてしまう。
このグエルの捨て身の戦法により、ラウダはやっと理性を取り戻し、「ごめん……兄さん」と謝罪した。
こうして兄弟喧嘩は和解へと至ったものの、今度は腹部を貫かれた影響でグエルのディランザが爆発寸前の状態に陥ってしまう。
このままプラント・クエタでの父の二の舞になるのかと思われたが、ディランザに搭乗して駆けつけたフェルシー・ロロが冷却ジェルを放って爆発を阻止したことで、最悪の結末は免れたのだった。
23話以降の描写を踏まえたさらなる考察
- スレッタについて
23話においてグエルと対峙した際、ミオリネへの恨み節はあっても、スレッタに関しては水星女含めスの字も出なかった。その後最終話ではグエルとの最終出撃時に現れ、「お前たちを許したわけじゃない。でも、兄さんと一緒に帰ってこなければもっと許さない」と発破をかけてスレッタが取り落としたホッツさんのキーホルダーを投げ返している。遠回しにスレッタを信頼している様子がうかがえ、遅くとも最終話までには、スレッタとの関係に関しては何らかの進展、あるいは和解に至ったと思われる。
- グエルについて
23話においてラウダはその胸の内を吐き出すに至り、「何故(父の件を)話してくれなかった、頼りないと思ったからか」「その高潔さが、傲慢さが兄さんの罪だ」と発言しており、兄に対してコンプレックスがあったこと、そしてなによりそんな兄が自分よりミオリネを頼りにしたことで「ミオリネに操られている」と取ってしまったのも一因と思われる。
- ミオリネについて
ラウダから恨みを向けられていたミオリネだが、幸か不幸か彼女自身は作中の描写において、ラウダがそういった感情を自分に向けていた事を認識していなかった。
しかし、プロスペラの暗躍や議会連合の陰謀が大きな原因だったとは言え、クイン・ハーバーでのアーシアンの虐殺とそれが引き金になって起きた学園テロは「自分の責任」であるという認識をしており、最終話では地球に降り立って被害者達と対話を続けている。
また、最終話でペトラが「株式会社ガンダムのGUNDのテスターになる」とグエルに報告した際のラウダの様子からも、スレッタと同様に少なくとも最終話のエピローグ(3年後)時点までには関係はある程度改善されたといえるだろう。
余談
- 原典のセリフを言われたところ天の助は、元ネタを言った人物に機嫌を直してもらおうとするも(仲間たちの悪ノリもあったとはいえ)最終的に細切れにされてしまったため、ミオリネも同じようになるのではという声もある(もっとも、『ボーボボ』は世界観が違いすぎるため比べられるものではないが)。
- Season1では、出番に恵まれないフェルシー・ロロの活躍を捏造するため「あらゆる場面にフェルシーを捻じ込ませた結果、作中のあらゆる因縁をフェルシーが理不尽に背負わされる」という二次創作ネタが定着していたのだが、このネタが出始めてからはミオリネにお株を奪われる形となった(そもそもフェルシーはSeason2以降は出番が増えた上、23話のファインプレーで完全なネタキャラとは言い切れなくなっている)。
- 現在ミオリネの婚約者となっているグエルも、第19話にてシャディクから「グエル……汚したな、ミオリネを」と理不尽な恨みをぶつけられており、その際にも「殺してやるぞ天の助」を連想した視聴者は多かった。この際には残念ながら(?)トレンド入りまではいかなかったものの、視聴者に残したインパクトは大きく、これによってある意味トレンド入りする下地が作られていたとも言える。
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フェルシーちゃんもびっくりなのだ……。
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殺してやるぞ天の助:元ネタ