熱気バサラ
ねっきばさら
本作品の主人公。
ロックバンド「FIRE BOMBER」のメインボーカルとリードギターを担当する21歳の青年。
逆立った茶髪と丸縁の青いサングラスを付けている。
出生等に謎が多く、一時期は「リン・ミンメイの子供では?」との推測もされた。
そもそも過去描写自体がほとんど無く、現在判明しているのは少年期のごく一部とバンドメンバーのレイとビヒーダとの出会い程度。
高度なドライビングテクニックや格闘能力を始め、相当数のスキルを身に着けているが、どのようにして習得したのかは一切分からない。
少年期に「歌で山を動かしたい」との思いを抱いてから歌うことにこだわり続け、
今では頭の中がそれで埋め尽くされている熱血歌オタク。
争いごとが嫌いであり、口癖は「戦争なんかくだらねぇ、俺の歌を聴けぇ!」
『歌』があれば他種族とも理解しあえると『超本気』で思っている。
そしてその信念を証明するために改造バルキリーで戦場に乱入しては歌い続けていた。
この行動に最初はガムリン木崎を初めとした正規軍人からは頭がおかしいと思われていたが、その熱意に次第に周囲からも認められるようになる。
更に敵であるプロトデビルンたちも魅了していき、最後にはその歌の力によって戦う意味すら消し去ってしまった。
音楽には一切の妥協をしないため、「FIRE BOMBER」のメンバーはミレーヌが加わるまで頻繁に入れ替わっていた。
女性にはモテる(ミレーヌ・シビル・花束の少女etc)が恋愛感情よりも先に歌を相手に届けることを優先しているためにそういったシーンはほぼない。(『突撃ラブハート』等、熱い恋愛ソングを数多く作っているため、恋愛を理解していないわけではないのだろうが、本人にとっては歌の題材の一つに過ぎないのだろう)
上記のみを見るとうるさいだけの男に思われるが、普段は意外と大人しく物静か。
一見粗暴だが実際は上記の通り暴力行為を特別嫌っており、作中、ミレーヌを守るためとは言え数人の不良を殴り飛ばしてしまった時には「歌で感動させなきゃならねぇのに……」と激しく自省している。
心根は優しい男であり、動物や子供に対してかなり柔らかな応対をしており、敵対種族であるプロトデビルンであろうとも手を差し伸べる度量の深さを持っている。
仕事の選り好みこそするものの、老人ホームでのライブでは演歌調の前口上を行い、幼稚園でのライブでは歌のお兄さんをきっちり演じる等、一度引き受けた仕事はなんだかんだきちんとやり通すプロ精神を持ち合わせている。
ライブでは予定していた曲を突然変更する事も多いが、ちゃんと場の空気や客の反応を見てからのサプライズとして行っており、言動に反して思慮深い面もある。
ミュージシャンでありながらバルキリーにも搭乗し、その操作テクニックはガムリン木崎をして『天才的』と言わしめた。具体的には、ギター型の特殊な操縦桿をかき鳴らし、歌を熱唱しつつ超高等技術「QM69」を余裕で行う程。被弾率も低く、最終話で愛機を破壊された以外には、大きな損傷を受けた事はほとんどない。
『ダイナマイト7』においてはバルキリーをアコースティックギターをかき鳴らして歌いながら操縦するという荒業を披露する。ギターのネックと尻で操縦桿を叩き操縦する様はもはや異次元の領域である。しかもその時の乗機であるVF-19Pは 「じゃじゃ馬」と評されたYF-19とほぼ同じ性能であり、乗り手を選ぶ超ピーキーな代物である。
戦闘技能はともかく、単純な操縦技術だけなら歴代最高クラスのパイロットである事は間違いない(彼を上回るパイロットはマックスやメルトランディのクロレ等、ごく少数だが存在する)。
観察力や判断力にも優れており、先に到着していた船団が全滅しているのを見た際に「死体が一つもないのはおかしい」と状況の異常さをいち早く察知する等、高い知性が窺える。
ガウォークでの初飛行時も数瞬のレクチャーで理解し、ミリアを唸らせる準応力も持ち合わせている。
愛機VF-19改(通称「ファイアーバルキリー」)はその名のごとく、燃え上がる炎のような真紅のカラーリングが施されている。武装はそれなりにあるが殆ど使われることはなく、メイン武装となるのは彼の最大の武器である『歌』を響かせるための巨大スピーカーとアンカーである。(劇中では3回ファイアーバルキリーに搭載されたマイクロミサイルを撃つことがあったが、1度目はバロータ兵の襲撃を受けた民間人、2度目はガムリン木崎の窮地を救うためやむを得ずの使用で、撃ってしまったあとはかなり気分が沈んでいた。明確に自分の意志でミサイルを使ったのは3回目のガビルに対してで、この時はシビルに対して歌が届かず、ガビルも歌を聞くことを拒否していた事にとうとうブチ切れた事による。なお、ミサイルは着弾前にガムリンの乗るVF-17が身を挺して阻止。直後、ガムリンに「お前は歌うんじゃないのか!?」と説得され、再び歌い始めた。)
他のマクロスシリーズでもテーマとなっている歌を武器とするシーンはあるが、その為のスピーカーを搭載したり、空気が無くともアンカーを打ち込んで強引に歌を響かせるのは彼だけである。(余談だが、スピーカーポッドの命中率は百発百中レベルを誇る)
バサラは作中、他者の歌に対し上手い下手を言う事はない。ミレーヌに対し何度か厳しい事を言った事はあるが、それは彼女の歌に対する姿勢の低さに関しての事であり、彼女の歌そのものにダメ出しをした事は実は一回もない。
実際、プロトデビルンのギギルや銀河クジラが歌った時はただそれだけで大喜びし、共にセッションしているが、逆にジャミングバード達の強制された歌に関しては、前者より歌自体は上手くとも、軽い嫌悪感を示している。
『スーパーロボット大戦Z』シリーズではより分かりやすい場面があり、ランカがバジュラをおびき寄せるために歌っている時には激しく怒り、強引にランカの歌を断ち切ると周囲に対して「お前らがこいつに無理やり歌わせてるのか!」と強く叱責した事もある。
つまりバサラにとっての歌とは、「自身の魂を表現する物」であり、たとえ歌が下手であったとしても、そこに魂さえ籠っていれば、必ず相手に伝わると本気で思っているのだ。だからこそ、強制されたりいい加減な姿勢で歌う「魂なき歌」には激昂し、熱い怒りを燃やすのである。
この信念を持つ故に、彼は戦場に飛び、歌を聞かせる。何故なら魂のない撃ち合いをするよりも、魂のある歌を聞いた方が、互いをより強く理解できるからと、本気で信じているからだ。
バサラの歌には、人のスピリチア(生気のような物)を回復させる力が秘められている。
その力は非常に強く、プロトデビルンによって廃人となった人々を復活させ、更にはプロトカルチャーであるプロトデビルンの活動にすら影響を与え、彼らを無害な存在へ進化させる程である。
この力があるせいか、彼の発する歌エネルギーは個人で10万チバソングを軽々と超え、他の追従を許さぬ膨大なエネルギー量を秘めている。
プロトデビルンはこのスピリチアを吸収して生きているため、プロトデビルンの総帥ゲペルニッチは自分たちがスピリチアを吸収してもバサラにより回復させればまた吸収が可能になるという「スピリチアファーム」という構想を抱いていた。
ところがシビル・ギギルなどのプロトデビルンたちがバサラの影響で歌の力に目覚め、さらに最終話においてはゲペルニッチ自身も歌の力に目覚めて、自らの歌によって魂を喚起させることでスピリチアを生成することに成功。これによってプロトデビルンたちには人類と戦う意味がなくなり、戦いも終結した。
本作が放送開始時には視聴者から「なぜ戦わせない!」等の抗議があったが、物語が進むにつれ、彼がミサイルを発射してしまった時には「なぜミサイルを撃たせた!」と逆に抗議があったとされている。
これとは別にピンポイントバリアパンチも緊急時に使用しているが、これは壁を破壊したり暴れる相手を無力化するため。シティ7の住民とミレーヌがバロータ軍の輸送機で連れ去られるのを阻止する際にも使っている。
ミンメイが「歌で戦いを終わらせた」と言われていても、実際は歌を聞いたゼントラーディ軍が混乱している隙に司令長官・ボドルザーを殺害したのが事実である。と言うか、そもそも「歌自体が武器扱い」(『マクロスΔ』では「プロトカルチャーが創造した生命体は歌でマインドコントロール出来るように設計されている」説が登場している)だった事に対するアンチテーゼとしての役割もあった。
最終的に彼の歌は他のロボットアニメは当然として、他のマクロスシリーズでも実現していない、さらには音楽系アニメでもラスボスを倒して(歌の力である種、無理矢理に改心させられて)終わりの作品も多い中で、『本当の意味で歌で戦いを終わらせる』と言う偉業を達成した。
その偉業の為、この後は設定が盛りに盛られ「歌うと問答無用で分かり合えてしまう」という域にまで到達してしまい、実は『マクロスF』でも出演する予定だったが「彼が登場すると数話で問題が解決して話が終わってしまう」から出演は無かった事になった、という都市伝説まである。
男性主人公がグッズやアイテム等の商品化になりにくいロボットアニメにおいて(メインはロボットであり、商品化もヒロインがなりやすいので、主人公でも男性ではほとんど商品化されない)、マクロスシリーズでは歴代の歌姫達のアイテムが定期的に商品化され、その中に歌い手の一人としてラインナップされる事が多いので、彼の商品化は男性主人公としては群を抜いている。
『歌マクロス スマホ Deカルチャー』など他のマクロスシリーズの歌姫達が勢揃いする中にも居る、普通なら歌姫だけの中に男が居るだけでも騒動になりそうだが、メーカーも当然のようにラインナップし、ユーザーも当たり前のように受け入れられている、という他では見られない特殊な立ち位置のキャラクターとなっている。
2019年3月1日~4月21日に開催されて、5月4日に結果が放送された『全マクロス大投票』(総投票数は25万4131票、男女比は男性68.9%・女性31.1%)作品別キャラクター人気投票2位(TV版)35位(ダイナマイト7)50位以下(銀河がオレを呼んでいる!/マクロスFB7)総合ランキング2位と人気が高く男性キャラで1番人気がある。
古今東西のロボットアニメが参戦するゲームシリーズ『スーパーロボット大戦』にも『マクロス7』は参戦しており、加入直後は「敵味方関係なく、かつ所かまわず歌を聞かせる」という奇行をうざがられるものの、作品の枠を越えて徐々にファンを増やしていく。
また、同じく「歌」や「音楽」関係に深いキャラクターとのクロスオーバーイベントもあり、特に『第3次スーパーロボット大戦α』では、リン・ミンメイや渚カヲルらの協力によりゲーム主題歌でもある『GONG』を完成させ、αナンバーズと共に歌って勝利に導いた。
バサラも含めFIRE BOMBERは、なんと武装が無く敵に対して一切の攻撃ができない(代わりにレイ機に修理・補給機能がついている)。しかし代わりに歌の効果により、味方に使えば気力やステータス上昇、HP回復などであり、一部の敵に対してはダメージ(『D』のプロトデビルン、『Z』シリーズのケルビム兵など)もしくは気力低下(『第3次α』のプロトデビルン、バジュラ、一部のボス敵など)の効果あり、一定以下まで気力を低下させれば撃墜扱いで撤退する通称「歌撃墜」というシステムが存在する。
これを利用して1ターンでバジュラを殲滅させる事も可能。
ちなみに初登場の『D』では歌うのに必要な歌ENが一切回復できず(回復できるパーツもない)、後の作品で気力の上昇と共に歌ENが上昇するようになった。
またFIRE BOMBERの熱烈なファンであるオズマ・リーのエースボーナスがバサラの歌絡みになっていることもある。特に本人と共演した時のボーナスは強力。
なお、歌の効果がない敵に対しても歌うことは可能で、中には特殊セリフを喋る一般兵もいる。
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