AMX
えーえむえくす
イタリアでの公式愛称は『ギブリ(熱風)』なのだが、搭乗員にはトーネードとほぼ同じ武装を使えるので「ポケット・トーネード」、高性能の電子機器を備える攻撃機なので、知性と戦闘力を備えた「チェンタウロ」とも呼ばれる。
ブラジルではAMX A-1と名づけられた。型番が似ているが、AF-1とは無関係。
1970年代半ば、イタリアはMRCA計画に参加して次期主力戦闘機を開発するいっぽう、旧式化した攻撃機の後継も欲していた。
当時のイタリアでは主力戦闘機にF-104、攻撃機にはフィアットG.91を採用していたが、両方とも第2世代ジェット戦闘機に分類されるので旧式化は目に見えていたのだった。
当時、アエルマッキ社はスウェーデンのサーブ社と共同でサーブ38(B3LA)練習機兼攻撃機を開発を行っていたが、図面段階以降の開発が進まなかった。
1977年、トーネードの生産開始を横目で見ながらの開発作業が始まった。
トーネードとAMXはイタリア空軍の次世代を担う戦闘機(攻撃機)としての期待を一身に背負い、形になっていくのだった。
一方、当時イタリア製の攻撃機を採用していたブラジルも後継機開発に燃えていた。
求めるのは軽量で柔軟性があり、扱いやすい攻撃機である。
当初は練習機の改良型(アエルマッキMB-340)を提案されていたのだが、1978年には『両国とも要求仕様が似通っている』との理由で共同開発を打診される。
1979年にはアエルマッキがサーブと共に開発していたB3LAの計画がキャンセルされ、開発計画の思想・設計の多くが攻撃機開発にフィードバックされた。
1980年にはブラジルからエンブラエル社が参加し、こうして2か国3社で開発が進められることになったのである。
その特徴
この機は全長約13m、全幅約10mとかなり小型で、これはF-16よりさらに小さい。
もちろん能力も低めになっているのだが、それを補って扱いやすく、安価なのが特徴。
最初から超音速性能は求められておらず、かわりに低空での扱いやすさや航続距離、優れた搭載能力などが求められた。おかげで航続距離と搭載能力ではJ-22やアルファジェットを大きく上回っている。
AMXは離着陸性能にもよく配慮された。離陸には最大重量でも950mあれば十分とされている。
(これは対空装備のF-104にも相当する離陸滑走距離だとか)
これを8割に抑えれば750mで離陸でき、これはJAS-39にも並ぶSTOL性能である。
操縦にも当時最新鋭の技術が導入され、フライバイワイアが採用されている。
ちなみにエンジンはイギリス、ロールスロイスの「スペイ」を採用する。
これはかつてイギリス海軍仕様のF-4に搭載されたターボファンエンジンであり、やや古いがビジネスジェット機にも多く採用された実績のあるエンジンであった。
武装
AMXはレーダーFCSを装備せず、対地攻撃用の距離測定装置のみとなっている。
これも要求仕様の一つで、整備性や稼働率を重視した結果となった(ブラジル向けは後に近代化改修でレーダーFCSを装備したが)。
ブラジル仕様が主力戦闘機と共通の30㎜機銃(DEFA554)2門を装備する。
機外兵装は5か所のパイロンに3.8tまで装備でき、各種爆弾やロケット弾などを搭載できる。
もちろん流行りのスマート爆弾も使用可能。
加えて翼端には短射程AAM(サイドワインダー等)用のランチャーも備えている。
戦闘機との格闘戦は主眼ではないが、機体が小さいので立ち回り方によっては上手く切り抜けることが出来るだろう。
運用について
小型なわりには優秀とはいえ、さすがに航続距離・搭載量ではトーネード等に及ばない。
かわりに重視されているのが運用しやすさ、つまり離着陸性能や整備性である。
地方空港のような小規模の飛行場や前線の簡易滑走路からでも運用しやすいように設計されているのだ。
という事は前線戦闘機(ソビエト流戦術戦闘機)のように戦場近くの飛行場から発進し、戦場での近接航空支援が目的というわけで、大きな搭載力はそのための能力という事になる。
競合機種
J-22(ユーゴスラビア・ルーマニア)やアルファジェット(ドイツ・フランス)、ホーク100/200のような「おおむね練習機との共通設計をもつ軽攻撃機」が競合する。
AMXはこの中で最も新しい機種で、もちろん最高の性能をもっている。
ただ海外(ブラジル除く)へのセールスは成功例がなく、これはマルチロール化の現代に軽攻撃機の需要は少ない事からして仕方のない事だろう。