ゾルフ・J・キンブリー
ぞるふじぇーきんぶりー
人物
「いい音だアアアアアアア」等と叫びながら、爆発音や悲鳴に興奮してぷるぷる震えたりする変態。
基本的には誰に対しても敬語で、一見すると真面目で礼儀正しく紳士然としている。変態という名の紳士。
そして本人も、自分が異常者である実態を肯定しているサイコパスであり、敬語口調や紳士然とした態度も「自身の異常性を包み隠すための処世術」だと公言して憚らない。
実際軍人には到底なり得ないイカれ野郎だが、「自分がイカれてる事を自覚できていればマトモぶるのは簡単」と述べており、それで精神鑑定試験をパスしたらしい。
長い髪をポニーテールにしており、真っ白なスーツ、真っ白なコート、真っ白な帽子の格好を好んでいる。内乱で活躍した時には、上はタンクトップで下は軍服と活動的な服装を、囚人時代には髪は下ろした状態で無精髭を生やした姿をしていた。爆発を起こすための錬成陣の刺青を、両方の掌に彫っている。
自分の思想と同じか異なるかに関わらず、「己の信念を貫く人」が大好き。この点についてのウィンリィ・ロックベルへの発言からロリコン疑惑が浮上したが、本人は即座に否定している。
自身は人を殺す行為に何ら躊躇いもないが、軍の警告を無視して戦場でイシュヴァール人を助け続けたロックベル夫妻に敬意を示しており「一度会ってみたかった」と溢していた。
また「軍人でありながら人を殺す覚悟がないのか?」とエドに問いた時に「殺さねぇ覚悟」と言い切ったエドに対しても、一定の理解を示していた。
仕事に生きがいを覚える「仕事人間」であり、自分に課せられた仕事はいかなる事態に遭遇しようとも全うしようとする。その熱心ぶりは狂気の域であり、味方を巻き込もうが、どでっ腹を貫かれようがお構いなし。仕留め損ねた標的を見つければ、周囲の制止を押しのけると協調性を乱すまでの執着心を見せるシーンもあった。
イシュヴァール殲滅戦に傷の男の家族を殺害した過去があり、彼が錯乱状態になってウィンリィの両親を誤殺する原因を作ってしまう。ただし傷の男のみがウィンリィやエルリック兄弟(彼等はキンブリーも潔く思っていないとはいえ)に恨みを買っている等、保身も巧みで立ち回りも上手い(傷の男自身、ぶっきらぼうで自他に厳しい態度が目立つが、故意的に恩を仇で返すような行為はしないからである)。
また異常者である自分が世間で生きてきた経験から「弱肉強食」にも通じる『純粋な生存競争』に独自に美学を見い出しており、イシュヴァールでホムンクルスの勧誘に応じたのも、人とホムンクルスの生存競争に強い関心を示した為。
同時に明確な敗北を示されても、その現実から逃れようとする人間には嫌悪感を示す。
殺した人物の顔をすべて記憶する特異な習慣があり、それを冒頭のセリフを以て示している。
独自の習慣や、哲学と思想、爆発物に関する深い造詣、処世術を生かした柔軟な立ち振る舞い、腕時計を爆弾に錬成したと見せかけておもちゃに変えて脅かすお茶目な悪戯を仕掛けたり、敵対者の信念や他者の理論を納得する寛容な側面等……。単なる『悪辣な異常者』とするだけではなく自分なりの哲学を持ち、頭脳面や人間性においてもある意味で、非常にバランスのとれた味のある性質を持つ人物であり、悪役・敵役としては魅力的な要素を数多く持つ。
劇中での活躍
初出は単行本4巻。
第五研究所に隣接する刑務所で、とある一件から逮捕され、服役中の姿がぼんやりと紹介された。
この時はまだ顔は描かれておらず、無精ひげを生やし髪もボサボサ。
イシュヴァール殲滅戦では少佐⇒中佐。
上層部から賢者の石を与えられ、その実験として傷の男の暮らしていた地区を殲滅。
またそれ以前に、マスタング大佐(当時少佐)や士官学校から上がりたてだったリザ・ホークアイと談話の席を持った際に、独自の戦争論を展開し、マスタングやホークアイの精神に少なからず影響を及ぼしている。
賢者の石を使った殲滅作戦後、その威力を気に入って石の返却を渋り、おまけにそこに居た将校たちを錬金術で爆殺。しかしその中に紛れていたエンヴィーにその精神性を気に入れられホムンクルス側の協力者となり、中央刑務所で彼らからの仕事の使命を待ち続けていた。
なお、そのときの賢者の石は人間ポンプの要領で服役中も胃に隠しており(賢者の石は「完全なる物質」の為いかなる化学変化も起こさない)、その気になれば脱獄は容易かったと思われる。
「FULLMETAL ALCHEMIST」オープニングではイシュヴァール殲滅戦時のキンブリーの姿が描かれており、自身の能力により焦土と化した街に一人佇みながらも「賢者の石」の力を実感し、充実感に満ちた不敵な笑みを浮かべているシーンが描かれている。
その直後のカットでは、復讐を決意した険しい表情の「傷の男」が1人、荒野を行くシーンが登場している。
それからしばらくして、ラストがマスタングに斃された穴を埋める為に、ホムンクルスの思惑によって出所を果たし、スカーとティム・マルコーを抹殺する仕事人として派遣される。ついでにエンヴィーから、第五研究所の研究員から生成した二個目の賢者の石も得る。
そして、ノースシティから更に北部へと向かう列車でスカーと対峙。イシュヴァールでの因縁を思い返し、逃げられて尚も喜々としてスカーの抹殺を果たさんと誓う。しかしその際に、右脇腹を負傷してノースシティの病院に搬送される。
搬送先でレイヴン中将&金歯の国家錬金術師と面会し、金歯の錬金術師の生態錬金術でスピード復帰を果たすと、キング・ブラッドレイ大総統の命に従ってブリッグズ要塞に向かい、エルリック兄弟の元に「機械鎧技士を呼んだ」と称してウィンリィを連れ出し、彼らの行動を牽制する。
しかし、レイヴン中将がアームストロング少将によって殺害されると、今度はエルリック兄弟組とスカー組の即席共同戦線と炭鉱跡地で対立。部下を巻き込むのも気にせずエドワードと戦い、エドワードが賢者の石の内の1つを取り上げた事態に気を緩めた隙に、2個目の石で術を発動させてエドワードに勝利する。だがその直後にプライドの指示に従い、北方の隣国ドラクマに裏切り者を装って近づき、彼らとブリッグス要塞の面々を戦わせて国土錬成陣の総仕上げに関与した。(彼は当初ブリッグスの兵達の血=ブリッグス兵の惨敗でなければならないと思い込んでいたため「ここの結束は思っている以上に強い」と評価していたが、実際に必要なのは「ブリッグスの地」で「大量の死が起こる」事なので、上述通りドラクマ兵を惨敗させた)
その後は音沙汰がなかったものの、「約束の日」にスカーに協力していたイシュヴァール人数名を殺害後、窮地に陥ったプライドの救助に向かい、そこでアルフォンス達と交戦。ハインケルが隠し持っていた賢者の石を使って接戦に持ち込まれ、最期は合成獣化したハインケルに喉笛を噛み切られて戦闘不能となり、消耗した魂の補給としてプライドに食われた。
「暴風雨? 笑わせないで頂きたい、怨嗟の声など私にとっては子守歌に等しい!!!」
……と思いきや、プライドの核となる賢者の石の中で、その存在を維持していた。
ホーエンハイムが自身の中にある賢者の石の全員と対話をして魂を落ち着かせる事で声を凪がせていたり、逆に全てを受け入れグリードをも抱え込む事で魂の声に耐えているリン等、魂の悲鳴や怨嗟の中で自我を維持している者は他にもいるが、本体へ影響したのは彼とリンだけである。
台詞通り、彼にとって怨嗟や絶望の悲鳴など至福の歌声でしかなく、そんな環境で絶望の慟哭をあげる魂の一つになれる程彼はマトモではなかった。
そしてエドワードとプライドの対決において、エドワードを新しい肉体として取り込もうとしたプライドの精神内に顕現し、逆転の目が存在しない完全な詰みになっても敗北を認めない見苦しさ、散々下等種と見下していた人間を乗っ取ってまで生きながらえようとするプライドの執着心(人間が猿やボノボに脳髄を移植してまで生き延びようとしているといえばその見苦しさが分かるだろうか)を「美しくない」と一蹴。
プライドの本体が「入れ物」から引きずり出されると同時に、賢者の石が解体されゆく中で笑顔を浮かべながら消滅していった。
殺す? 貴方はエドワード・エルリックをわかっていない!!!
小ネタ
ミドルネーム
ゾルフ・J・キンブリーの「J」は「ジャジャジャジャーン」からきているらしい(あくまでオマケ漫画のインタビューでの解答なので、本気かどうかは不明)。
人間ポンプ
呑みこんだ賢者の石を胃から吐き出す「人間ポンプ」芸は、実は読切としての段階(後の『鋼の錬金術師・プロトタイプ』)でエドワードが先にまったく同じ行為をやっている。
恐らくは元ネタはこっち。