イナバ・コジロー
いなばこじろー
概要
対怪獣ロボット部隊ストレイジ整備班のリーダーを務める老年男性。黒縁眼鏡がチャームポイントのロマンスグレー。
漢字表記は稲葉 虎二郎。
セブンガーを初めとした、特空機の整備を担当。昭和気質の寡黙な人物だが、ストレイジメンバーや整備班からの信頼は厚く「バコさん」の愛称で親しまれている。
ストレイジの仲間や特空機は彼にとって家族のようなものらしく、ウインダムのことは次男坊と呼んでいる。また、メンバーのことは基本下の名前で呼んでいるが、隊長のヘビクラ・ショウタは「ヘビちゃん」と呼んでいる。
筋金入りの枯れ専(=年上好き)であるナカシマ・ヨウコにとってかなりタイプらしく、彼にはデレデレであることも多い。
整備業務以外にも、空手の腕前が相当なものだったり、巨大なマグロを調達して解体したり、手品を披露したりするなど、かなり器用な人物であるのが窺える。これらの描写から、それなりに波乱に満ちた半生を送ってきたものと思われる。ただし、イナバ本人はいずれの件も「昔ちょっとな」と何処か意味深な表情ではぐらかしており、その多くは語っていない。
活躍
- 第2話
第2話にて初登場。
直接の描写はないが、整備班を主導しゲネガーグとの戦いで、機能停止状態となっていたセブンガーを修理したものと思われる。
ナツカワ・ハルキやヨウコが居たメンテナンスルームに姿を現し、ヨウコに「(戦いの影響で)セブンガーのスタビライザー(=揺れを軽減して姿勢を安定させる装置)に0.25%の誤差があった」事実を報告。その最中にネロンガ出現のアナウンスが発令、整備班に出撃準備の発破を掛けると共に、セブンガーに搭乗するハルキに檄を入れ、今日お前の番云々の台詞を発した。
- 第3話
2号ロボの開発が一旦ストップになってしまったことを受け、クリヤマ長官に予算を出してもらうよう頼んでいたらしい。また、ハルキが事前にリクエストしていた新兵器・硬芯鉄拳弾をセブンガーに搭載したことを報告するとともに、「すごい威力だから気をつけろ」と忠告している(だが、直後の戦闘でハルキは早速観測所破壊と言う大失態を犯しており、危うく予算が出なくなるところだった)。
- 第4話
追加予算により2号ロボ・ウインダムは完成したものの、当初の設計構想から外れ各部のパーツを別々の企業に発注した事で、接続不良による電力ロスが発生し、起動の充電には4日を要するという有様だった。そのこともあり、残業しながら電力問題の解決を図っていた。
休憩中にウインダムの電力問題で悩みを抱えていたオオタ・ユカと会い、焼き芋をご馳走する。彼女とのやり取りの中で、「ウインダムのダイエット=機能削減」による消費電力の節約を提案されるも、「自分の理想を簡単に捨ててはダメだ」と諭した上で「物には意外な使い道がある。それを利用して理想を叶えるのが自分たちの仕事だ」と忠告し、彼女を勇気付けた。二度目のテレスドン出現の際には、ネロンガの細胞による充電を思い付いたユカの作戦に整備班一丸となって協力し、ウインダムの充電および出撃に成功する。その後は、ユカや整備班メンバーと一緒にゼットの戦いを見守った。
- 第8話
冒頭で行われた武道錬成大会に登場。
ヨウコとの組み手を終えたハルキに声をかけ、「今の技を自分にかけろ」と促す。
ハルキが力を入れても「痛くない」「肩コリが治りそうだ」と平然としているばかりか、逆に右腕一本でハルキを床に倒れ込ませてしまう。
ハルキからどこでその技を習得したのか、と問われるも「昔ちょっとな」とはぐらかすだけだった。
- 第10話
統合先進装備研究所(統先研)およびストレイジに回収された、キングジョーの復元作業で指揮に当たっている。
その未知のテクノロジーに胸を躍らせる整備班メンバーに対し、「人間は欲が深い。この技術はまだ我々人類には早すぎるのかもしれない」と憂慮していたが、産業革命や蒸気機関を例に挙げ「この技術もきっと人類の未来に役立ちます!」と力説するユカの話を聞き、「そう願いたいね」とややシニカルに応えている。
その後、キングジョー奪還を目論むバロッサ星人襲来の警告を聞き、整備班の面々に退避するよう促すが、その直後に星人の攻撃を受け負傷させられる。しかし、土壇場で星人にハッタリ(※)をかけて水(あるいはお茶)を浴びせ、そこをハルキに電極で電流を流すよう促し、感電を誘発して星人を怯ませることに成功した。
※昼食の自分の弁当箱を『キングジョーの最終起動装置』だと言って投げ捨てている。盗品なので内部構造を理解していなかった、バロッサ星人だったからこそひっかかった嘘であり、これがペダン星人だったらハッタリだと気付かれていたことだろう。そう考えると、イナバのこの行動はまさに一か八かの賭けだったと言える。
その後はまだ傷が完治していないながらも現場に復帰。「防衛ロボットを生かすも殺すもパイロットの腕次第」だとした上で、「整備は俺たち整備班に任せとけ」とハルキとヨウコを激励した。
- 第11話
工事現場にレッドキングが出現したため、キングジョーの出動可能時間をヘビクラに問われ「最終チェック中だ! 10分で終わらせる!」と返答し、整備班に発破をかける。その後、キングジョー発進成功に整備班の面々が歓声を上げる中、唯一人感慨深そうにその初陣を見守っていた。
- 第14話
本来は有給休暇の予定だったらしいが、ストレイジ基地での祝賀パーティー開催を聞きつけたのか、どこからか調達したマグロを片手に「マグロ、ご賞味ください」と、どっかで聞いたことのあるフレーズを発し、堂々とメンバーのもとに駆けつけた。その後、調達したマグロを解体してメンバーに振る舞ったり、手品を披露したりするなど、持ち前の器用さを発揮した。また、基地内がブルトンの能力の影響で四次元空間に閉じ込められて、体が浮き上がる事態に遭っても平然としており、ベテランゆえの肝の座った様子も見せている。ゼットによるブルトン撃破後は、普段通り整備班の指揮に当たった。
- 第20話
娘であるイナバ・ルリが登場(妻の存在もルリとの会話の中で言及されている)。彼女が育てていたM1号が巨大化して暴走した際にはヘビクラが提案した「一定地点を越えたら即刻駆除」という条件付きでM1号を元に戻す作戦が失敗に終わりかけたまさにそのとき、「すべての責任は俺が取る」と豪語し、ヨウコに頼み込みキングジョーSCに乗せてもらって巨大化したM1号の口めがけて「俺の娘を…これ以上悲しませるんじゃねぇぇぇえ!!」と娘を想う父の本音か、はたまたハルキたちに説得されて考えを改めたのか、あるいはその両方を込めて叫びながら、細胞分裂促進剤をM1号の口に目掛けて発射、見事M1号を元の大きさに戻したのだった。
- 第21話
「異次元壊滅兵器D4をキングジョーSCのペダニウム粒子砲に搭載する」という地球防衛軍日本支部作戦部長ユウキ・マイの指示に対し「例えペダニウムでできた砲身でもなぁ、D4レイを撃ったら、そんなもん保たねえんだよ!!」と激しく反発したが、ケルビムの出現により出撃の決まったヨウコに説得され、指示通りD4を搭載させ出撃準備を行った。
- 第22話
ストレイジ解散に伴い広報部に異動。ピエロのお面を被って博物館来場者に風船を渡していた。
その傍ら展示が決定したセブンガーを動態保存しており、バロッサ星人の巨大化に対して打てる手のないヨウコにセブンガーに乗ることを提案した。
また、襲撃された際にはキレのあるキックをバロッサ星人にお見舞いし「ハルキ、ヨウコ! 考えるな、感じるんだ!」と某映画スターの言葉を引用しつつカンフーの構えを見せた。
そして、新設された第一特殊空挺機甲群へと転属するかしないかについて部下同士の諍いが起きると、それを宥め、転属組に特空機のことを任せて基地から去っていった。
- 第24話
冒頭のファイブキングとの戦いで病院に運ばれたハルキのお見舞いに来たが、ハルキが突然ヨウコの心配をし始め取り乱したのに対し、落ち着いて事情を聴くためにドライブを申し出る。
そのドライブ中にヨウコが搭乗したウルトロイドゼロが暴走したことを聞き……
「……俺、行きます」
「行くってお前……」
「…………そうか。フッ……行ってこい!」
「……押忍」
ハルキの「行きます」という言葉とそのときの目や態度から、彼がウルトラマンZの変身者であることを確信し、最低限の言葉だけを交わすとハルキを送り出した。
ゼットが敗れた後、ヘビクラやユカなど旧ストレイジメンバーと合流し反攻作戦のメンバーに加わる。
- 第25話
基地を奪還し、キングジョーとウインダムの整備を仕上げた。ヘビクラの演説の「全員生きて帰って、バコさんのマグロで打ち上げするぞ!」という言葉には思わず苦笑していた。
そして……
なんとセブンガーに搭乗して自ら現場に急行。分離エラーが起きたハルキのキングジョー、バッテリーが切れたヘビクラのウインダムに対してデストルドD4レイを撃とうとするデストルドスに硬芯鉄拳弾を発射してピンチを切り抜けると「骨董品だってなぁ、まだまだ役に立つんだよ!」ということを証明してみせた。
ウインダムに追加バッテリーを渡し、自機に新装備の超硬芯回転鉄拳を装着させると、ハルキやヘビクラとともにデストルドスに立ち向かった。
ハルキの変身時には機体を降りてご唱和に加わり、ゼットとデストルドスの戦いを見守った。決着が付いた後はヘビクラとがっちり握手を交わした。
そしてハルキが宇宙へ旅立つ日、ヨウコとユカに宇宙用ロボットの開発の話を振られると「簡単に言うな」と返しつつも開発への決意を固め、ハルキを見送った。
前日談
「TSUBURAYA IMAGINATION」にて公開された、『Z』本編の前日談にあたる小説『擲命のデシジョン・ハイト -ストレイジ創設物語-』にも登場。本編ではほとんど見られなかったクリヤマ長官との絡みが描かれている。
- 前編
「任期制隊員として20代後半で地球防衛軍に入隊し、その後叩き上げで特曹長まで登り詰め、幹部候補生課程を経て、士官に任官。入隊前に何をしていたかは一切不明」
という異色の経歴が明かされた。統先研にて兵器開発を担当しつつ、飛行資格持ちだったため航空機のテストパイロットも兼任していたようだ。当時の防衛軍日本支部長官キミサキとも顔馴染みだった模様(正規の候補を差し置いてテストパイロットをやれていたのもキミサキの取り計らいらしい)。
本編から遡ること11年(2009年)、二足歩行ロボットの開発に黙々と取り組んでいたところ、キミサキの紹介を受け統先研を訪れたクリヤマ(当時は副長官)と出会う。かねてよりロボットを怪獣への対処の現場に導入する構想を抱えていたクリヤマに声をかけられ、ロボット開発部の新設に携わることとなる。自分より遥かに上の階級である相手にもまったく畏まらず黙々と整備を続ける職人っぷりは、却ってクリヤマに好感を持たれたらしく、イナバもクリヤマを初対面で気に入ったようである。
その後しばらくは予算不足に喘ぎ目立った成果を出せずにいたが、2010年1月に事態は急変する。
富士山麓にサイボーグ怪獣、コードネーム「グルジオライデン」が墜落してきたのである。
統先研の人間として調査に当たったイナバは、グルジオライデンに用いられていた未知のエネルギーと技術を目の当たりにする。ロボット開発に取り入れようと息巻くクリヤマに対し、あまり気の進まないイナバ。しかし、クリヤマから
「…仮に、この技術を見なかったことにしたとする。けどお前、これの真似をせずにいられるか? 試してみたくなるんじゃないか? 応用できるかをさ!」
と痛いところを突かれ、さらに「すべての責任は俺が取る」とクリヤマに背中を押されたことで、技術応用を決意する。
その後、クリヤマがキミサキ長官に極秘裏に提出した『対怪獣特殊空挺機甲構想』の計画書に基づき「特殊空挺機甲開発実験団」が創設され、イナバは開発実験班班長に就任。開発担当の隊員の人選に携わった。
そしてテストパイロットの募集を防衛軍各基地にかけ、数名が立候補。
その中には、彼の姿もあった…。
考察
イナバの芸達者ぶりや妙に謎の多い経歴から、彼に関する考察がされ、演者の件(後述の余談を参照)も相まって「昔は彼自身もロボット(あるいは戦闘機)のパイロットだったのではないか?」とする説が有力視されている。
第25話でセブンガーに乗って出撃したこと、ハルキやヨウコといった現役パイロットにも劣らぬ技量を見せたこと、被っていたヘルメットに「TEST7」と書かれていたことなどから、セブンガーのテストパイロット説まで浮上している。
そして、前述の小説により「兵器開発担当とテストパイロットの兼業」というとんでもない立場であったことが明かされ、説は概ね立証された。
また、特空機が地球とは本来縁のない、M78星雲のメカニックなどに酷似していることから、「特空機のオリジナルと関係が深いある人物が地球人に擬態した姿である」と言った説や、「何らかの事情で地球に友好的になり、自分の星の技術をストレイジに提供してくれた異星人なのでは?」との説を考察するファンもいた(従来では侵略者側だった星人が、悪意無しに防衛組織の一員になっている例は数作前にもあった)。
ただし、第12話にて特空機の誕生にある存在が関わっていた事実が判明した他、第20話にて妻と娘の存在も明らかになったため、宇宙人説は否定されている。
主人公の正体バレはウルトラシリーズにおける一大イベントとも言えるが、作中にて自身の経歴の多くを語らなかったイナバが、ハルキの正体に気づいてもなお一切の詮索をせず彼を送り出したという意味では非常に印象的な場面であると言える。
余談
ウルトラシリーズにおいても定着しつつある、特撮作品ではお馴染みの所謂おやっさんポジションの人物。一応、クリヤマ長官も同ポジションではあったが、物語後半でポジションが変化した彼と違い、主人公たちと接する機会はイナバのほうが圧倒的に多い。
直近のシリーズでは、『オーブ』の渋川一徹や、『R/B』の湊ウシオなどに近い立ち位置だろうか。
劇中ではヨウコがメロメロになっていたが、作中の整備班としてのプロフェッショナルな姿勢に加え、ハルキたちに対する父親に似た温もり、演者である橋爪淳氏の渋みにやられた視聴者も多く、イケオジ枠として隠れた人気があるらしい。
演じる橋爪氏は過去に『ゴジラVSスペースゴジラ』で主人公・新城功二役を務めており、ゴジラファンにとっては嬉しいキャスティングとなった。これは『Z』の田口監督が『スペゴジ』のファンであったことから実現したキャスティングであり、田口氏によると、台詞などにちょくちょく新城へのオマージュを入れたのことである。
なお、橋爪氏演じる新城は対ゴジラ兵器「MOGERA」に搭乗してスペースゴジラと戦っており、ストレイジとは不思議と共通点がある。こうした演者ネタも、上記の元パイロット説を補強する一因となっているようだ。
そして、最終回ではなんと自ら特空機に搭乗して怪獣と闘う(しかも腕にドリルまでつけるというおまけつき)という『スペゴジ』へのオマージュに溢れた展開が用意され、ファンを熱狂させた。
ちなみに、ヘビクラとハルキを助けた後の「間に合ったんだからいいだろう」という台詞も、『スペゴジ』で新城の上官である結城晃が発した「間に合ったからいいじゃないですか」という台詞へのオマージュとなっている。ただし、橋爪氏は田口監督に教えられるまでこの台詞の意図がわからなかったとのことで、後にこのときのことを振り返って「非常に恥ずかしかった」と述べている。
また、田口監督のインタビューによると、脚本関係なくバコさんは何がなんでも乗せるつもりだったと語っている。
そうしたことを反映したのか、ビックカメラ京王調布店ではさらっとムービーモンスターシリーズのMOGERAもウルトラマンZのコーナーに置かれている。
橋爪氏は他にも『ゴジラ FINAL WARS』、『ウルトラQ_darkfantasy』にも出演しており、特撮ファンにとっては何気に馴染み深い人物と言える。
氏は演技プランを練るにあたって、「かつて自分が作ったロボットで若者を死なせてしまった過去がある」という裏設定を作った。ペダン星人のテクノロジーを人類が使うことへの憂慮や、D4レイ搭載の突貫工事に対する強い忌避感も、「いつも死と隣り合わせなストレイジの若者たちの命を守りたい」という信念に裏打ちされたものだと推測できる。
口癖である「昔ちょっとな」と言う台詞についても、実際にイナバに何があったのかを想像し、毎回ニュアンスを変えて演じている。おかげでマグロのときは困ったらしい。
キャラクターのイメージは『プライベート・ライアン』のトム・ハンクス。トランプマジックのシーンは橋爪本人が演じている。
また、橋爪氏の身長は178cmであり、偶然にも語呂合わせで「イナバ」となる数字である。
第14話(2020年9月26日放送)のマグロネタについて、元ネタである渡哲也氏の訃報(2020年8月10日死去)が記憶に新しかったことから、一部視聴者の間では「渡氏への追悼の意味を込めてマグロネタを採用したのでは?」という推測も立っていた。しかし、特撮ドラマの撮影は少なくとも本放送の2、3ヶ月以上前に行われることが多いため、第14話撮影の時点で渡氏はまだ存命であり、訃報と第14話放送の時期が被ったのは単なる偶然だろう。また、撮影に使用されたマグロは本物だが、新型コロナウイルス感染症対策で実際にはキャスト陣は食べることができなかったらしく、直接食べているシーンが本編にないのはこれが原因の模様。これについてはキャスト陣も「食べている演技をしていた」「生殺しとはこのことか」と残念に思っていたとのこと。
なお、「マグロ、ご賞味ください」のセリフの直後にOPに入ったため、ニコニコ動画の第14話配信時には、歌いだしの「ご唱和ください我の名を!」の部分で「ご賞味ください我の身を」というコメントが大量発生した。
ウルトラシリーズへの参加は今作が初ではなく、ウルトラQ dark Fantasiyの23話にて、狂気に囚われたディレクターを演じている。