ヒロシ(芸人)
ひろし
本名:齊藤健一(さいとう けんいち)。旧芸名は「斉」の字を使った「斉藤健一」で、俳優業ではこちらを名乗っている。
芸名の由来は生島ヒロシ。たまたま雑誌の表紙に生島の名前があり、「親しみやすい名前だな」と思ったことから。
2000年代後半ごろ、哀愁が漂うBGMを背景に、熊本弁まじりで自虐ネタを言う「ヒロシです…。」ネタで大ブレイクした。
ホスト風の外見は、上京後しばらくホストとして働いていたことの名残り。
現在は個人事務所「ヒロシ・コーポレーション」を立ち上げ、社長を務めている。以前は吉本興業福岡支社(福岡吉本)、サンミュージックに所属していた。
※「モテないキャラなのにバレンタインデー生まれ」という設定で、2月14日生まれとしていた時期がある。
彼が芸人としてブレイクするまでの十数年間はまさに生と死の境目とも言える地獄かつ壮絶な人生だった
幼い頃からヒロシは人見知りで暗く友達もあまり出来なかった。
父親は炭鉱マンであった。父は読書家で教養のある人物でもあり、勉強に関しては厳しく、ヒロシが宿題で分からないところがあると叱られたり、家の外に締め出されることもあった。その為、父親に自分の悩みも相談できず、子供の頃は孤独な人生を歩んでいたという。
そんな矢先、小学生の頃にツービートやダウンタウンの漫才を見た事から芸人はモテて誰からも注目されると考え、次第にお笑いに興味を持つ。その為、高校時代に将来はお笑い芸人になると両親や担任教師に打ち明けるが、共に猛反対を受け軽くあしらわれてしまい結局、大学へ進学。
九州産業大学卒業後、就職活動に失敗し、已む無く両親の知人のツテで保険会社の営業となるが、人見知りの性格でなかなか仕事内容が合わず半年で退職。
その後、吉本興業が主催するオーディション番組に応募するも落選。このとき、福岡吉本のスタッフから「この中(落選した中)でどうしてもお笑い芸人になりたい人はいるか?」と声をかけられ、スタッフに連絡して福岡吉本所属となる。
(なお、実際には大学在学中にも友人とトリオを組んで同番組に応募しており、不合格となっている)
その後はナインティナインが出演するイベントの観客チケットのもぎりスタッフや先輩芸人の付き人など、ヒロシは雑用係として活動する不遇な日々が続いた。その上、事務所のネタ見せの際も福岡吉本の所長の前で、ヒロシ自身もネタの詳細は覚えていないが、下品な下ネタを含むネタを披露したところ、所長に激怒されスリッパを投げつけらる始末でなかなか芽が出なかった。因みに当時の同期にはその中には、パンクブーブーの佐藤哲夫、スパローズなどがいた。
福岡時代は元々漫才師を目指していたこともあり、コンビを組みたいという気持ちが強くなっていった。早速、同期に声をかけコンビを組むが、あまりの勢いからかその相方に拒絶され、舞台に1度も上がることなく僅か1か月で解散。その後は3人組でトリオを組み、そこそこ評判が良かったものの、やはり上手くいかず短期間で解散となった。この行く度の結成と解散の末、友納一彦と「ベイビーズ」というコンビを結成。当時ヒロシはキレ芸を披露してライブにおいてもそこそこウケていた。しかし、一向に売れる気配がなく、事務所からの評価も最悪だった。
福岡での仕事がうまくいかなかったため、「東京は芸能プロダクションが多く、新人発掘オーディションも頻繁に行われているだろう」と考え、福岡吉本を辞めてコンビで上京し、中野区の6畳一間のアパートで共同生活を送っていた。その後、フリーとしてアルバイトをしながら地道に芸能活動を続ける。
だが、それでも一向に売れず当時のヒロシは日常生活がままならないほど方言訛りがひどく、標準語が話せなかったため熊本弁でキレ芸を展開していた為、ライブ後のアンケートではいつも「何を言っているのかさっぱり分からない」と不評だった。最初は「観客が理解するようになればいい」と強気だったが、人気投票でいつも最下位だった。
そんなある日、相方と一緒に受けたテレビ番組のオーディションにヒロシだけが合格した。念願のテレビ出演が決まり大いに喜んでいたヒロシだったが、その内容は建設現場のとび職の体験で足場の下に土佐犬が待っているというもので出演時間はたったの数分足らずで終わった。その上、出番までの2か月間、その土佐犬の世話までさせられ、出演料も2万5千円という破格だった。そして仕事を終えて帰ると既に相方と温度差が出来ており、そのままコンビは解散。
ベイビーズ解散後、ピン芸人として活動するも相変わらず売れず、家賃や光熱費も滞りになる程、生活も追い込まれていく。そんな時、先輩芸人から「ホストはモテるし稼げるぞ」と吹き込まれ、歌舞伎町の小さなクラブで「冴神 剣(さえがみ けん)」の名前でホストとなる。
しかし、酒が飲めないと面接で話したにもかかわらず毎晩大量の酒を飲まされ、休もうとすると罰金を取られ、辞めようとすると自分の代わりを持ってくるようまでに要求され、ついにはブラック労働に耐えられず脱走。更に追い討ちを掛けるかのように当時交際していた女性が二股をしており、ヤクザ風の男たちがヒロシが芸人仲間と共同生活をしていたアパートに毎晩押しかけるようになる。こうしてホストやゴロツキから追われる羽目になったヒロシはアパートを抜け出し、ホームレス状態になるまで追い込まれる。新しいアパートを借りる余裕もなく、以降は見知らぬ通行人に泊めてくれるように頼み、時々泊めてくれる人もいたが、何日もお金を払わずに居座ると追い出され、また新しい宿を探すというルンペン生活を続けていた。また、宿がなく栄養失調状態で意識が朦朧とし、路上で倒れているときに仲の良かったお笑いコンビのサンドウィッチマンに偶然発見され、介抱してもらったこともあった。
このあまりにも過酷な生活で心身に不調を抱えるようになり、芸人に戻っても、ライブやテレビ番組に出れば居場所を特定され連れ戻されるかも知れないという恐怖心を感じていた。
本人はこの頃を「生き地獄」と総括している。
そして、心身ともに限界に達し、2003年の初日の出とともに誰にも告げずに逃げるかのように荒尾市の実家に帰った。その変わり果てたヒロシを見た両親は「いろいろ辛く悲惨な目にあったんだな…もうお前は何もしなくていい。ただ無事に居られればいい。それだけで十分だ」と慰められた事で本心はそれだけ自分を心配していた両親に感謝の念を抱いた。それ以降は何もせず、アルバイトをしながら地道に生活をしていたが、元相方や上京時代の芸人仲間から励ましの手紙が届いたことから再度奮起しもう一度芸人になる夢を志す。
それから2か月間、実家に引きこもり、生まれてからこれまでの半生をひたすら大学ノートにネタを書き溜めた。幼い頃いじめられた経験、女性にモテなかった青春時代、ホストとしてお笑いが出来なかった悔しさなど様々な思いをネタにぶつけた。このころから「ヒロシです…。」ネタの元になるネタを書き始め、先輩でバンド仲間でもあったいつもここからの山田一成に見せたところ「いいじゃない!」と背中を押され、さまざまなライブやオーディションでこのネタを披露するようになる。
その後もオーディションを多数受け月20本のライブ出演をこなし、深夜アルバイトをこなすという生活を送る。そんなある日、サンミュージックから声をかけられ、正式所属となる。まもなく「エンタの神様」出演を果たし、以降も三宅裕司とくりぃむしちゅーが司会を務める「笑いの金メダル」に出演。当初は1回出演するだけの予定だったが、三宅とくりぃむしちゅーが気に入ってくれたため、その後何度か出演し、ブレイクのきっかけとなった全国区のテレビに多数出演するようになった。
そして、給料が30万円振り込まれ、初めて売れた実感を得ると同時にお金が貯まると今まで住んでいた中野の家賃2万円の4畳半から渋谷にある家賃13万円の2LDKのアパートに引っ越した。さらにかつてのホスト仲間や彼女達やそのゴロツキからも自身がブレイクしたのを機に態度が豹変し、この瞬間にヒロシは初めて世間から芸人として認められたと実感した。
ブレイク後は収入も増えたが、今度は週刊誌の報道やバッシングにあい苦悩を抱えた。
ヒロシ本人は幼少期から親族の顔合わせを嫌がる程の極度の人見知りであがり症でもあった。そのため、収録で「ひな壇」に座ることや他の芸人と同じ楽屋に入ることを嫌った。これがテレビ局に「天狗になっている」と誤解を招くことになる。
また、製作側から「名古屋城をテーマにして自虐ネタやって」等の自虐にならない無茶振りをうけたり、本人は下積み時代にやっていた熊本弁でのキレ芸がしたかったこともあり、表向きは順調でもヒロシ本人はだんだんと精神的に追い詰められ、ついに「テレビに出ません」と事務所に宣言し、世間からは「一発屋」として切り捨てられるようになってしまった。(「しくじり先生」より)
一時期は仕事が激減し、精神の均衡が崩れ自殺も考えたほどであった。のちにパニック障害だと診断され、治療を受けている。
最近は東京よりも地元熊本での仕事が増えており、ヒロシ本人も積極的に出演している。
ネガティブネタやホスト風の格好からインドア派な印象があるが、本人は大のアウトドア派で、月に数回はキャンプ(主にソロキャンプ)に出かけ、釣りや家庭菜園等も好んでおり、幼少期には有明海で潮干狩りもしていたことがある。(NHKラジオ「旅ラジ!」より)。
更にキャンプ趣味が高じてか、『ゆるキャン△』実写ドラマ版に3度ゲスト出演を果たしている。
そのキャンプ趣味を生かして、2015年にはYouTuberデビュー。登録者数は100万人を突破する人気チャンネルになり、関連して著書も出版している。
2022年現在は、芸人としてよりはキャンプYouTuberとして、一時期ほど爆発的でないとはいえ再びメディア露出も増えている。
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