『キルバーン、エライ! エライ!』
解説
小憎たらしい性格の持ち主で常に相手を小馬鹿にした態度を取っているが、ただの一つ目ピエロとは思えないような高度な呪文が使えたり、時折邪悪な本性を覗かせるなど、ただの使い魔とは思えない行動を垣間見せる。本編でキルバーンと共に初登場した際はキルバーンではなくピロロの方が先に喋っており、これは後の外伝でも同様である。
帽子には大魔王バーン(正確にはその最強形態)の顔を模した模様(バーンの紋章)が刻まれているが、描写されないことが多いためあまり目立たない。
プロフィール
人物
見た目通り戦闘能力には乏しく、主にキルバーンのサポートを担当。不思議な粉を掛けて傷を治したり、自身が見た情景を伝達することができる。
大魔宮では、キルバーンとアバンの戦いを密かに静観。キルバーンが敗れ全身が火だるまになると慌てて助けに入り、どうにもならないと悟るとアバンに「もう悪いことしないように説得するから!」と助けを懇願する。
それを利用してアバンを始末しようとするも失敗に終わってしまい、最愛の友を失い落胆。
「使い魔一人では何もできない」としてアバンに見逃され、これまでの態度を崩して「ちくしょう!」と無念の叫びを虚しく響かせた。
呪文
冷気を発生する攻撃呪文。攻撃だけではなく、火災などの消火も可能。
- 回復呪文
生体組織を活性化させて傷の治療と体力を回復させる魔法。ハドラーの怪我を治す際に使用。
道具
- 杖
回復呪文を使う際に使用。
- 不思議な粉
ピロロが持つ不思議な粉。キルバーンに振りかける事で、彼を蘇らせることができる。
関連タグ
キルバーン:魔界で出会った死神。かけがえのない友達である。
【警告】これより先、この道化師の正体が記載されているため、漫画及びアニメを最終回まで見ていない者は閲覧には注意されたし
「そう…! ………ボクが…本当のキルバーンだ……!!」
「……フフッ、驚いたようだね。キミ達人間の世界にもいる、腹話術師の逆さ」
「ボクが、この死神の人形を操り、自分が声色を使って、使い魔の方を演じていたのさ」
「したがって人形の方を攻撃されても痛くも痒くもない!!」
大団円の中、突如として現れた死神は自らの正体を明かす。
ピロロは周囲からただの弱い使い魔と思われていたが故にダイ達の標的になることはなく、本体だとは誰も気がつかなかったのである。
正体を明かすと同時にバーンの紋章が刻まれた帽子を外している(アニメ版では投げ捨てている)。
2020年のアニメ版では、正体を明かす際に声音が「ピロロ」から「キルバーン」のものに変化するという演出がされた。以降も声音は「キルバーン」のままである。
この際「そう!」と「ボクが」まではピロロだが「ホントの」の部分でエフェクトでも掛かっているかのようにどんどん声が低くなり「キルバーンさ…!」では完全にキルバーンの声色になっており、この一連のセリフがあまりに自然だったため一切エフェクトを使用していないのでは?と驚愕されていたが、実際にはピロロ声とキルバーン声で同じテンポの同じセリフを撮り、合成してエフェクトで合わせたものである(それはそれで凄まじい技量だが)。
また原作では終始子供じみた嘲笑を浮かべているのに対し、アニメ版では無駄に大声は出さず眼を閉じながら話すという落ち着きのある雰囲気を醸し出している。
正体を明かす際のシーンは、一見すると最後の最後で取ってつけたかのように見えるのだが、正体を知った上で読み返してみるとそれらしい伏線がちらほらとあったりする。この伏線の張り方だが、異なる解釈ができる余地を残しているため、伏線と断定できないのが巧妙。
登場人物はもとより、読者にすら正体を悟られないあたりは相当な演技派である。あるいは、人工的な人格によって擬似的に自我をある程度持たせていたのかもしれない。
もちろん魔王軍のメンバー達にも一切正体は気づかれておらず、親友となっていたミストバーンを完全に騙していたことを考えると、死神としての活動などほんの序の口と言えるほどの策略家である。大魔王バーンも「キルは死んだぞ」と冥竜王ヴェルザーに言い放っているので、バーンをも騙していたわけである(もっともこれは又聞きだった事も影響していると思われる)。そして、この時ヴェルザーもキルバーンの死に驚愕し、直後に素直に負けを認める発言をしていたが、実は一芝居打っていたに過ぎず、内心ではまんまとキルバーンの偽装工作に騙されているバーンを嘲笑い、まだ自分の賭けが負けた訳では無い事を喜んでいたと思われる。(原作漫画では勝負あったと宣言するバーンを前に一瞬無言となっており、ラストを知った上で再度読むとこの時の感情を想像しやすい。アニメ版では無言ではなく悔しそうに呻く形で芝居にダメ押しをしており、より本心を隠す姿勢が強い)
おまけに、いくら「キルバーン」の方が多少の攻撃を受けても死なないとはいえ、使い魔のふりをしている自分まで巻き込みかねない一撃を繰り出せる猛者が何名も登場する本作で、ふてぶてしく演技をし続ける精神力まで持ち合わせている。
下記のように、支障が出そうになった際の行動も、あくまで使い魔が咄嗟に行った応急手当に見えてしまう辺り、なかなかの曲者といえる。
当然、死神ボディは人形なので損傷してもまったく平気なのは当たり前で、壊れても換えの四肢で修復すれば何度でも使える上に戦闘力も高く、ザボエラの超魔ゾンビも真っ青の「傷ついても痛くもかゆくもない」兵器である。
アバンが「対等の相手と戦ったときに必殺の気迫が感じられない」と思うのも、もとより生物じゃないし、"人形と戦わせる"という相打ちでも勝ちの戦法をとっている以上、「ピロロではなくキルバーンと」「戦っている」時点で初めから対等ですらないのだから当たり前と言える。
だが、死神ボディもまた、これまで挙げた戦闘・暗殺能力以外に、本当の恐ろしい能力を隠し持っていた。それがハドラーにも埋め込まれ、ピラァ・オブ・バーンにも仕掛けられていた、魔力で作動する悪魔の兵器「黒の核晶」で、いざとなればこれを使いバーンを始末するつもりであり、「キルバーン」という名前はジョークでも脅しでもなかったわけである。
いざとなればすべてをぶち壊しにできるこの奥の手に由来する余裕こそが、あのバーンをして「さしもの余も残酷さだけは、お前には及ばん」と言わしめた本性の正体であった。周到さもバーン以上であり、通常の「核晶」と異なり体内に流れるマグマが冷気を弾くため、凍結させて停止させられない。
余談だが、このマグマが血液というのも生物じゃないのだから真っ赤な嘘なのだが、動力源であることは事実であり、マシンである死神ボディにとっては実質的な血液(オイル)に相当している。
こうした活動をするためにやってきたそもそもの理由は、彼が仕えていた冥竜王ヴェルザーの本心によるもの。バーンが「地上を消滅させて魔界に太陽の光を照らす」のを目的としていたのに対し、ヴェルザーは「魔界も地上も欲していた」。
キルバーン曰く「あの方は欲深いんだよ。ドラゴンらしくないんだ、人間みたいだよね」とのことで、バーンが地上を壊滅させるつもりだったのでそれを阻止して地上をも手に入れようと動き出した。
ヴェルザーは結果的に封印されたが、バーンを監視するために送り込んだ刺客がキルバーンなのである。
「キルバーン」はあくまで暗号名であり、ピロロはそのまま彼の本名である可能性が高い(残酷さと知略からヴェルザーに刺客として見込まれたとはいえ、肉体そのものは脆弱な一つ目ピエロが偽名を必要とする程注目されているとは思えない)。
初めてバーンの前に現れ、キルバーンと名乗り協力者として派遣されてきたと嘯いた際は「この姿は貴方様のために、コーディネイトしたものです」と自己紹介しているが、ある意味で事実であった。キルバーンは特に自身に関して嘘と事実の一部を巧妙に混ぜて話すが、それが最後まで彼の正体を隠していた。
「さあ、お別れだ。ボクは一足早く魔界に帰るよ」
「大魔王は、上手くキミらが片付けてくれたが、逆に彼以上の強さを持つキミ達は、とても危険だ。地上の人間と共に消えてくれたまえ」
「あと10秒…! 打つ手はない!!」
「さよなら、みなさん。そして愛しい地上よ! 無人の荒野になってから…また遊びに来るよ…!!」
勝ち誇った顔で「黒の核晶」の時限装置を作動させ、悠々とその場から逃げ去ろうとするピロロ。
しかし、魔界へ逃げ帰る刹那、アバンが投げたフェザーによって動きを封じられ、マァムの閃華裂光拳一発で死亡するという呆気ない最期を遂げた。
しかもその死に様は、彼が好む「蜘蛛の巣でもがく昆虫のように罠にはまり、止めを刺される」という皮肉なものだった。
「ち…ちくしょう……だが…もう…アウト……だ…」
その捨て台詞も思い通りにはならず、ダイによって阻止されて失敗に終わった。
なお、原作ではザボエラのように身体が融けてそのまま死んだが、2020年版ではその状態になる前に何処かに飛んでいったような描写が追加されており、物議を醸している。
これに関してはその後に開かれたダイ感謝祭にて合流呪文(リリルーラ)で魔界に向かう描写であると明かされ、生存していることも明言された。閃華裂光拳をまともに喰らった以上、普通なら無事では済まないだろうが、魔界において何かをなさんがために向かったと思われる。
自身の計画を命ごと台無しにしただけに見える無意味な行動に見えるこの種明かしだが、その一方でこの暴露がダイ達に大きな絶望感を与え、ダイを行方不明にしたことは事実である。
その気であれば、密かに「黒の核晶」を作動させてダイ達を殺すことは容易だったがあえてそうしなかったのは、勇者達を絶望させることを望んでいたからである。
また、かつて主君が核晶を使ってもバランを殺せなかったように撃ち漏らしの危険もあり得る中で、結果的にだがダイに爆発を至近距離で直撃させることに成功させている(至近距離起爆、爆発の抑え込みを行使させるなどやりようによっては核晶で殺せるのは当のバランの死で実証されている)。
そのためそれを目的として敢えてネタバラシしたという可能性も考察される
とはいえ絶望する顔を見たい余りに無防備を晒すという「相手を罠にはめる死神」としての嗜虐心が、皮肉にも「相手に自分の存在を悟らせず暗殺する死神」としての矜恃を裏切ってしまったわけである(人形だけを前に出して、自身は遠く(それこそ塔の裏や頂上辺りでもいい)からネタバラシをするのでも同じ効果は期待できる。そうしなかった理由はやはり「絶望を間近で見たかったから」に他ならない)。
しかも「(近くの核晶が誘爆しても)二発程度なら地上が平らになるのでちょうどいい」「無人の荒野になったらまた来る」という台詞からして、ピラァの核晶が一つでも爆発すれば残りも誘爆して地上が消し飛ぶのを知らなかった模様。危うく主の望みを絶ってしまうところだったわけである(鬼眼の力を解放したバーンが討たれたことに動揺したヴェルザーが、例え地上が消えようともダイの抹殺を優先しようと「今すぐダイを始末しろ」と命じた可能性はある。この場合、構想されていた魔界編の黒幕も一枚嚙んでいた可能性もある。前述のようにアニメでのピロロは合流呪文で魔界へ向かう形で姿を消した)。
アニメ版ではこの台詞自体が削除されている。
【事後考察】
「キルバーン」がアバンに敗れた時、罠は尽きたがまだ余力は残っていた(少なくとも腕なり足なり使ってバーニングクリメイションは使えた)。それにもかかわらず敗北の演技をしたのは、これ以上追い詰めれば「黒の核晶」が爆発する事態になりかねなかったからだろう(実際にアバンは決闘の際にメガンテを仕掛けている)。それに加えてピロロは、すべての罠を使い果たしても生き延びたアバンに恐怖を抱いていた。また、さすがに怪しまれて正体がバレることを恐れたのかもしれない。
ピロロとしてもここが引き際と悟った可能性は大いにある。だからこそ最後に一泡吹かせたくてこの展開に繋がったとも考えられなくもない。なぜなら「死神キルバーン」とはそういう男だからである。
実際にアバンを殺さなかった結果、ミストバーンは正体を看破されて時間を稼がれ、大魔王バーンに肉体を返却してしまった。その結果、ポップ達は生き延びダイに合流して力となった。それが大魔王の敗北につながったと考えれば、ある意味キルバーンの掌の上だったと言えなくもない。
キルバーンに引火した炎を自身の呪文で消せなかったときにアバンに必死に懇願して助けを求めたが、頭部に「黒の核晶」が仕掛けられていたという事実から考えると「黒の核晶」に引火して爆発するのを恐れたため」とみることもでき、この場面での必死さ具合は演技ではなくガチであった可能性が高い。
なお、バーンがピロロの正体に気づいていたのかは不明だが、ミスト・キルバーンを伴いハドラーに素顔を晒すシーンで「お前達2人にしか見せたことがない~」と言っているので勘づいている可能性はある。あるいは「ピロロを弱者とみていた」ので数に入れていなかった可能性もある。
一方で「黒の核晶」の爆発から大魔宮を守るために結界を展開していた事実からして、『キルバーン』にも「黒の核晶」が仕込まれていることに気づいていたとは考えにくい。
また「もしもアバンがピロロも仕留めていれば、ダイが犠牲にならずに済んだのでは?」という意見も挙がっているが。
そうなった場合、「黒の核晶」入りのキルバーンのボディはその場で放置される事となり、バーンパレスが墜落炎上した衝撃で「黒の核晶」が起動、ダイ一行が誘爆に巻き込まれて全滅という、最悪のバッドエンドを迎えていた可能性がある。
『キルバーン』を殺したと思って素顔を確認せず立ち去った事実から十分あり得る話である。
仮に『キルバーン』の素顔を剥いで黒の核晶を見たとしても、ハドラーでも見たことがなかった物の正体をアバンに見抜けただろうか?(劇中で黒の核晶を一目で見抜いたのは、一度使われたことのあるバラン、長く魔界で過ごしたミストバーンとロン・ベルク、研究者のザボエラくらいである)。
【如何にして正体が伏せられていたのか?】
物語終盤で正体が明かされているが、初登場時からその伏線は原作者三条陸氏の手によって巧妙に組まれ、しかもそれが伏線と悟らせないミスリード解釈も十分に可能なように描かれていたので、なおのこと気付きにくくしていた。
中でもバーンパレスでのアバンとの決闘後に帰還してきた彼を回復させようとするが、それができないことを知った時の『ダメだ……もう【直らない!!】』という台詞が大きな鍵となっている。
ジャンプ連載当時「誤字じゃないんですか?」という質問が多く寄せられたことがあり、その時に三条氏は『いえ、これでいいんですよ。大事な意味があるんです、最後まで楽しみにしていてくださいね!』とコメントしたという……※しかし、文庫版では「直す」が「治す」に変換されてしまっている(なんてこったい)。
また、アニメの英語版字幕でもやはり「Repair(修理)」ではなく「Heal(治療)」になってしまっており、折角の伏線なのに無視され続けている。
こうした主命に忠実で、その為なら自身を危険に晒せる胆力を持つ点は、正反対だから仲良くなったミストバーンと本質的に通じるところがある。
どちらも凛々しい人型の姿で行動していたが、正体は非力な雑魚モンスターの成り上がりという共通点があり、想像以上に打ち解けられたのはその為だったのかもしれない。
2020年版では、バラン暗殺の際にキルバーンが鎌を構えるとピロロがその場から離れたり、キルバーンが喋っている間にピロロの顔がアップになるなど意味深な演出がされている。
スタッフの指摘の通り、原作同様ピロロとキルバーンが同時に喋ったシーンは一つもない。
吉野氏はオーディション向けのデモテープにキルバーンだけでなくピロロ用のテープまで送っていた事が明かされ、ピロロからキルバーンに切り替わるシーンはグラデーションで収録してたことも明かされた。
なお、「登場人物ではどうしようもなくなったところに伏線も何もなく唐突に現れた人物が全部何とかする」という演出技法を「機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)」というが、彼の場合「登場人物が自力で何とかした場面に散々伏線を散りばめた上で登場し、全て台無しにしようとしていた」「機械仕掛けの"死"神」という真逆の性質を見せる凄まじい演出をしており、作者の技量がうかがえる。
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