「貴様にとっては数千年に及ぶ大事業…!!
それが見事成就したのだから……
いまいましいが、たいしたものよっ!!!」
概要
竜族の中でも最強の力を持つ最後の知恵ある竜。大魔王バーンとは魔界を二分する勢力を誇った長年の好敵手。一人称は「オレ」。
作中の時代においては稀少な(ほぼ唯一の)言葉を喋ることができるドラゴンである。太古の時代では人、魔族と並び立つほどに高い知性をもつ個体が多かった竜族だが、作中の時代では、もはやほとんどの個体が知性を失いつつある。
劇中でヴェルザー同様に言葉を喋る聖母竜マザードラゴンは竜の姿こそしているが、神々の眷属であり、厳密には竜族ではない。
ヴェルザー一族とされる一派を率い冥竜ヴェルザーと呼ばれていたが、劇中の数百年前にほぼ互角の実力を持った雷竜ボリクスとの雌雄を決した決闘に勝利し冥竜王の名を手にし、その壮絶な闘いは以後『真竜の闘い』と呼ばれ『史上最も激しく過酷な決闘』として魔界で讃えられ続けている。
肉体は滅びても時が経てば復活する不死身の魂を有していたが、竜の騎士バランに敗れたところを天界の精霊達にすかさず魂を封じられ、魔界の辺境で動きを制限されてしまう。劇中では岩となった姿で小堂の中に鎮座させられた形で封印されていた。
岩と化しても意思疎通や最低限の力の行使は可能で、バーンとダイ達の最終決戦にも顔を出した(本体は魔界にいるのでハドラーがやったように魔力による映像を送ったものと思われる)。その際はバーンを睨んだにもかかわらず、側にいたポップを恐怖させている。直接戦ったバランも「恐ろしい奴だった」と息子に述べている。
物語上では直接関わってこない存在だが、話が続いていれば魔界編できちんとした出番が用意されていた模様である。
1991年のアニメ版ではバランの回想で一瞬だけ登場。ちなみにその登場回はテレビ局側の番組改編のために中途半端な形で終わってしまった最終回であった。
2020年のアニメ版では本格的に登場。原作通りの展開であるため、最終盤で姿を見せる前から度々、その存在を触れられており、シーンによっては唸り声を発していたこともあったが、中尾隆聖氏がその声を演じていることは最終盤の本格的な登場まで伏せられていた。
大魔王バーンがその姿に違わず、新旧アニメ版共通でいかにも歳を経てきた者らしい低い重厚な声の持ち主であったのに対し、ヴェルザーの声は比較的甲高くて年齢が掴みにくい。これは彼の不死身=通常の生物のように歳をとって老いることがない、という特性を反映しているためと思われる(演じる中尾氏は老人の役も多くやっているように、低い声も使える役者であるため、敢えて甲高い声で演じているのがわかる)。
星のドラゴンクエスト
『星のドラゴンクエスト』ではネーム周回イベントで岩から完全復活した姿で会敵。かがやくいき、火炎系ブレスや爪の斬撃だけでなく、尻尾の全体攻撃や羽ばたきを駆使する。魔王級初回特典の「冥竜王の盾」は守りに徹する装備の持ち主から「つうこんのいちげき」を浴びせても半減にする。
これっきりと思われがちだが、「魔王級の鍵」はモガ屋で500モガポイントで売り切れ無しで売買されており、たとえ全滅されても、何度もトライが可能である。
また、彼の姿を模した防具「冥竜王の装備」も登場した。
魔界の三大勢力
バーンと同様、自分達を冷遇して魔界に追いやり、人間たちに太陽の恵みを与えた神々を憎む。
バーンとは魔界に於いて勢力争いを繰り広げる仇敵同士だったが、数百年前にバーンから提案された「各々の戦略を進め、成功した方に従う」という賭けに乗り、停戦協定を結ぶ。
だが、隙あらばバーンを暗殺できるよう配下のキルバーンを表向きの協力者兼監視役として送り込む。石化した後もバーンに対する監視を辞めさせることは無かった。
これは互いの思惑の違いが原因である。バーンは地上のことを魔界の大地を包み込む天蓋としか認識しておらず、その天蓋を消し飛ばして太陽の光を降り注がせることで初めて魔界に本当の明日が訪れると考えていたが、ヴェルザーは自身が地上を征服し支配することを欲していた。この相違から功を焦り地上侵攻を企てるも、それを察知したバランに討たれる。
魔界には他にもう一つ巨大な勢力があり、その首魁が幻の魔界編のラスボスを張るという構想もあった。竜の騎士の母親たる聖母竜マザードラゴンが語ったマザードラゴンの命を蝕む「邪悪なる存在」がこの伏線であった。
バランとの因縁
バーンによる『地上破滅計画』を察していたヴェルザーは、先手を打とうと準備も整わぬまま地上侵攻に着手するもバランに察知され、ヴェルザー一族を率いて5年にも及ぶ死闘を繰り広げる。
その結果は散々なものであり、勝負を焦った末、魔界の悪名高き超破壊爆弾『黒の核晶』に手を出してバラン抹殺を図るも撃ち漏らし、それどころか超爆発で支配領域の大半が消滅。続く最終決戦でヴェルザー一族は滅ぼされ、ヴェルザー自身もバランに討ち取られた。
2020年版ではわずかだがバランとヴェルザーの戦いが描かれており、竜魔人になっていないバランの連続攻撃で倒された。
本来ならば時を経て復活する手筈であったが、上述の通り複数の精霊達によって魂を岩に封じられた。今尚、バランや精霊達を怨んでおり、『いずれも神々の遺産』ということで恨み骨髄だった。
後年、この戦いは『ダイ好きTV』で言及があり、バランとヴェルザーが戦った場所は魔界そのものではなく、ヴェルザーが地上の寸前くらいにひそかに作り上げた前哨基地的な地底の空間というのが三条先生のイメージだという事が明らかになった。
ただしバランによれば、ヴェルザーが黒の核晶を使ったのは「魔界のある大陸」とのこと。バランとヴェルザーの戦いはバランの一方的な勝利に終わったわけではなく、黒の核晶とヴェルザーとの直接対決でバランも少なくとも二度は死にかけている。「(ヴェルザー支配領域だった)魔界のある大陸」を舞台に戦いを繰り広げていたが、竜の騎士の抹殺を優先したヴェルザーはその代償として大陸ごと手放すことを選び、バランも重傷を負ったことで地上寸前に侵攻へ向けた「前哨基地」を作る隙を与えてしまったと見るのが妥当だろう。
瀕死のバランが奇跡の泉まで行くことが出来たのも、決戦の舞台が地上に近い場所だったからである。
ちなみに、この戦いで黒の核晶により領土が消し飛んだのはかなりの痛手であり、支配する場所がなくなっては元も子もないのでヴェルザーも黒の核晶を二度と使わないようにしたと語られている。
人物
キルバーン曰く「欲深いんだよあの方は。竜らしくないんだ。人間みたいだよね…」ということから、人間臭い性格が感じ取れる。ただ、一族を率いる身分であったため、地上を欲することと一族の存在に何らかの関連があった可能性もあり、強欲だからこそ人間臭いのか、それとも人間みたいの一言には何か裏があったのかは不明。
外伝『獄炎の魔王』ではその人間の欲深さについてバーンは「弱い生き物ほど欲深い」と評した。ヴェルザーは個体としてみれば弱いとは対極的な存在ではあるが、種族としてみれば智慧ある竜はもはや(不死とはいえ)彼1体だけという「弱い」どころですらない状態であり、ある意味で的を得た発言である。
バーンが核晶による地上破壊を成し掛けた時にはライバルを認めるなど中々の度量の持ち主。直後に「天界に攻め入って封印を解いてやろうか?」と言われた際は無言で立ち去るなどプライドも高い。
去り際に戦意喪失したダイを一瞥して「まるで屍だ」と言い残す。バーンはその言葉を負け惜しみと受け取ったが、ヴェルザーとしては純粋に自分を倒したバランの息子への失望だったのかもしれない。
実力としてはバランを大きく超えていたダイをこのように酷評するあたり、戦士としての姿勢に対して単なる実力以上の価値を置いていることが読み取れる。
それでも、その後バーンが鬼眼を解放したのを感知し、考えを改めてはいる。
キルバーンに関しては、ダイ達の前で本性を現した彼から終始「ヴェルザー様」と呼ばれたりするなど忠誠心は持たれていたようで(ヴェルザーが封印されて率いる勢力が既に壊滅していても尚、彼のために働き続けている)、バーンに関しては本性を現してからは呼び捨てか大魔王と呼んでおり、魔王暗殺の大役を任せている事から、彼には一定の期待・信用を持っていたのが窺える。
バーンから「キルは死んだぞ」と聞かされて「何っ!!!」と大層驚いた様子を見せたが、後の事を考えると、これはアシストの為の芝居だった模様。このやり取りの直後に賭けに勝ったと得意気なバーンを前にヴェルザーは一瞬、無言となっている(アニメではいかにも悔し気に呻いている)が、完結後に見直すと、この時、まんまと騙され続けているバーンを内心嘲笑い、自分の賭けがまだ負けていないことにほくそ笑んでいた事が察せられる。
大魔王とのパワーバランス
バランを上回るとバーンと、バランに倒されたヴェルザー。両者の均衡を疑問視する声は存在する。
それに附いては一概にバーンがバランを上回っていると言いきれないのが原因だろう。実際に老バーンでは光魔の杖が無ければダイの一撃で黒焦げにされており、ドルオーラについても光魔の杖を使用してガードする必要がある(光魔の杖をバーンが手に入れたのは劇中の約90年前。悠久の時を生きるバーンやヴェルザーの感覚からすれば、比較的最近の事である)。さらに竜の騎士が持つ『戦いの遺伝子』によるカラミティウォールの対処法などはバーンも経験上、一度も完全に無効化されておらず、ヴェルザー自身もこうした戦いの遺伝子の前に敗北した可能性が高い。いかに強力な魔王でも攻略本持ちのプレイヤーを負かすことは難しい。「バランを上回る」というのもあくまでも大魔王の主観であり、実際に戦ったわけではない。黒の核晶の爆破を一度はバランに阻止された際のバーンが劇中では初めて愕然とした表情を浮かべているように、バーンがバランの実力の程を甘く見ていたことが窺える。
ヴェルザーは何度敗れても時を経て蘇る不死身の竜だが、バーンは凍れる時間の秘法を使うことができ、これによってアバンがハドラーを封印しようとしたように、『皆既日食のある数百年に一度の制約』の下、敵対者を封印する手段としても使用できる(とはいえ、バーンにとっては皆既日食の際は自身の肉体の凍結の方が恐らくは優先順位が高い)。
また皆既日食を待たずとも、(真・大魔王状態の場合は)弱らせることができれば鬼眼による力で瞳にしての無力化もできるなど、どうにもバーンはヴェルザーにとって面倒な能力を持っている。
大魔王が不利な点は、秘法を掛け続け肉体の若さを保つが、術を解くと次の皆既日食まで肉体の封印を待たねばならず大きく寿命を削ることにある(この世界の皆既日食は数百年に一度しか起きない非常に稀な現象のようである。本作品の魔族は老化が遅く長寿といえど、数百年は人間での数十年に相当するため、決して短い時間ではない)。
肉体の若さを保ち永遠に近い時間を生きたい点では、既に不死身の魂を持つ冥竜王は大魔王にとって最も相性が悪い宿敵である。
物語の終盤、数千年来の地上界消滅計画を頓挫させられたバーンは、自分が人間より遥かに長命であること自体が優位になると豪語し「今ここで邪魔者の勇者一行を皆殺しにし、その後、また同じことをすればよいまで」と開き直っていたが、不死身であるヴェルザーは、これが通用しない相手である。
また冥竜王も配下として強力な一族を従えているとは言え、バーンの部下にもミストバーンという数千年間仕え続けている謎多き脅威がおり(多くの魔族はバーンほど長生きできないはずがバーンと同じだけの時間を生き、どんな攻撃にも傷一つ負わず、常にその命令に忠実)、すでに知性を失ったヴェルザーの一族とでは単独でも充分に比肩しうる存在となっただろう。そうでなくとも大魔王と同じく、やがて神々との戦いを見据えた強欲な竜王が無益に手勢を失うのを面白がるわけもなく、停戦協定に応じたことは納得と言える。そもそもバーンにしてもヴェルザーにしても最終目標として真に欲していたのは魔界の覇権などではなく、神々への復讐とそれにとって代わる事であったため、相性が悪い者同士で延々と魔界で争うより、ひとまずは並立で良しとした、ということだろう。
また魔界の大勢力として、どちらがより古くから君臨していたのかなど両者の関係には不明な点も多く、不死身の魂を持つ冥竜王から見れば、大魔王でさえ魔界の長い歴史の一つに誕生した新進気鋭のルーキー程度の感覚であった可能性もある。
その場合、天界へ侵攻して封印を解くという大魔王の言葉は、より面子を潰す一言と言える。
余波
魔王ハドラーが地上に侵攻出来たのは、ヴェルザーとバランとの戦いのどさくさに紛れて地上侵攻をしようとした事が大きい。当時のハドラーは魔族としても若造といえる年齢。魔界において怒りを買うような真似は絶対に避けねばならない三大勢力は、ここ数百年は表立って活動をしてなかったらしく名前も知らない。そして三界のバランスを乱せば動き出す竜の騎士の存在も知らないという、世間知らずも良いとこの状態であった。
本来ならハドラーの対処は竜の騎士の役割であるが、ラーハルト曰く「ヴェルザーに比べればハドラーなど黙殺しても仕方ない小物にすぎなかった」として結果的に放置する形になった。正確には前日譚にあたる『勇者アバンと獄炎の魔王』にて、ヴェルザー一族との戦いの片手間に、ハドラー討伐に地上に来ていたことが明らかになったが、丁度ハドラーがアバンの凍れる時間の秘法で封印されたタイミングと重なってしまったので、バランはヴェルザー一族への対処を優先した為、魔界へ戻っていった。
ヴェルザーが行動を起こさなければハドラーはバランに完敗だったのは間違いない。
もっともヴェルザーがバランに勝っていても、(例えハドラーがアバンに勝ったところで)ハドラーを粛清して地上を獲るだけであろうから、どの道ハドラーは最初から詰んでいた。
唯一、ハドラーが最終的な勝ちを拾う(棚ぼた的な)可能性が僅かにあったとすれば、ヴェルザーがバランに倒され、大ダメージを受けたバランも奇跡の泉での回復前に死亡する、という両者相討ちの場合だけである(その上でハドラーもアバンに勝利しなければならない)。そして例え、そこまでの幸運や好条件等が重なったところで、大魔王バーンがヴェルザーの封印とバランの死を受けて、劇中同様に地上消滅に動くであろうことから、ハドラーが「地上を征服した魔王」として君臨出来るのはほんの僅かな期間に留まるしかなかっただろう。