概要
一之瀬みのりは中学1年生の頃に文芸部に所属していたのだが、その時に部誌に掲載するために自身が執筆した小説が『マーメイド物語』である。第4話に登場。
中学2年生になった現在のみのりは、この作品を「つまらないただのおとぎ話」と一蹴しており、過去の汚点のように扱っている。
この第4話では、この作品が部の先輩から酷評されたことと、みのりがその後に文芸部を退部したことが示唆されている。
同話はみのりがキュアパパイアへと覚醒するエピソードでもあるのだが、そのプリキュアとしての姿は『マーメイド物語』の世界観を投影したものとなっており、心中ではこの作品に強い思い入れがあることも示唆された。
第28話では、先輩から受けた酷評の内容がみのりによって明らかにされている。
「描写もありがち
キャラも物語そのものも
みんなどこかで読んだことのある借り物で
わたし自身が経験したことが何一つ入ってない
頭でっかちのお話だ」
同話では、みのりがこの作品を執筆している間は「これはプロ顔負けの傑作だ」と相当に自信を持っていたことも語られている。その反動で先輩からの酷評が強いトラウマとなり、それ以降は小説が一行も書けなくなって文芸部を退部したということ。
そして、小説が書けない状況は今でも続いている。
ただみのりは「今の自分なら先輩の批評は正しいとわかる」としており、当時の自分は執筆の糧となる刺激的な体験が乏しかったため、他の作品からの借り物の表現しか出来ていなかったとしている。
そしてトロピカる部に入って新しい体験をいくつもしたことで、過去の自分が何も知らなかったことを今更ながらに気付かされたともしていた。
みのり本人は、今はトロピカる部でみんなといるのが楽しいとして文芸部に復帰するつもりはないとしているが、いつの日かみのりがまた小説を書ける日がくるのかもしれない。
内容
第4話でこの小説を読んだまなつが、みのりに語った以下のセリフによって、小説の内容の一部が語られている。
「みのりん先輩の小説『マーメイド物語』、すっごくトロピカってる!
人魚と人間の女の子が世界を旅する大冒険!
こんなすごい物語がかけるなんて本当にすごいです!
海で溺れたドジな人魚と、それを助けた人間の女の子…
仲良くなった二人は凶悪なドラゴンから世界を救うため、
7つの海を巡る冒険の旅に出る!
ドラゴンの目的は世界中のフルーツを食べ尽くすこと!
フルーツが大好きな女の子は勇敢に立ち向かう!
この伝説のパパイアは絶対あなたには渡さない!」
と、ここまで熱く語った時点で、黒歴史を掘り返されたくないみのり本人から「やめて!」と制止されたため、物語の結末は視聴者には明かされなかった。
そして、それから後の第40話で、再びまなつのセリフによってこの後の展開が語られている。
<< 食べればすごい力を与えられるという伝説のパパイアは世界中にちらばっている >>
<< もしドラゴンに食べられたら大変だ >>
<< 新たな伝説のパパイアをさがしにこ少女と人魚は旅立った >>
<< つづく >>
「ああ〜 もう! つづき読みたいな〜」
そう、なんとこの物語は未完だったのである。
みのりとしては大長編の構想で、すぐにでも続きを書いてくれというオファーが先輩から来るという前提だったようだ。
勿体ぶって色々と明かされてない設定が山ほどあり、特に物語の中核である「伝説のパパイアを食べるとどんな力が与えられるか」が謎のまま。
もちろんこれはあえて書いてないだけであって、みのり自身は伝説のパパイアに関する設定はきちんと考えていたつもりであった。
だが、実際は設定の詰めがかなり甘かったことが第40話で明らかになっている(詳細は下記参照)
第40話「紡げ! みのりの新たな物語(ストーリー)!」
終盤にあたる第40話は、この『マーメイド物語』を主体に描かれた、みのりの成長譚となっている。
トロピカ卒業フェスティバルでトロピカる部は演劇をすることに決まる。演目を何にするかを皆で相談するのだが、ローラが主役をやりたいと譲らないので、人魚が主役の話を演ずることに。
ただ、ローラはアンデルセン童話の『人魚姫』が好きじゃない(人間のために人魚に自己犠牲が強いられてるのが納得いかないとのこと)ので、定番のネタが使えない。
そこでまなつは
「人魚が主役の物語というと、うーん… じゃあ、みのりん先輩が書いた『マーメイド物語』にしよう! 演劇にしたら絶対面白くなるよ! みのりん先輩、あれを台本に…」
と、あえてみのりの黒歴史を掘り起こしてくる。
もちろんまなつに悪意があるわけでなく、純粋に一読者として『マーメイド物語』を面白いと思っているだけなのだが、みのりは当然ながら「あれは面白くないよ…」と暗い顔で否定。
だがローラは、みのりが創作活動そのものにはまだ強い未練があることを見抜いており、
「なら、面白くなるように書き直せばいいじゃない。みのりがダメだと思うところを直せばいい。そうでしょ?」
と提案。それは、みのりにまた筆をとらせてあげるためのローラなりの気遣いでもあった。
帰宅したみのりは、部屋の机の引き出しから箱を取り出す。
その中には、『マーメイド物語』の当時の自筆原稿が収められていた。
それはみのりの消せない心の傷の象徴。だから箱に収めてそれを封じた。
「いつまでも引きずってちゃダメ」
みのりは心中でつぶやき、そして鉛筆を削り出す。
だが、それでも1文字も書くことができなかった。
空想ファンタジーであるこの物語に、先輩の言うような「自分の経験」をどう入れればわからなかったのだ。
行き詰まっていたみのりを気分転換させることも兼ねて、仲間達は伝説のパパイアを探しに行こうという名目で、みのりを外に連れ出して街中でパパイアについての取材を行うことになった。
青果店やパパイア農園を見学に回る一行であったが、そのたびにみのりはパパイアに関する細かい蘊蓄を披露し、大人達も感心させた。『マーメイド物語』で伝説パパイアの設定を考えるときに、本でパパイアのことを相当調べたというのだ。
そこでまなつは、伝説のパパイアと普通のパパイアの違いを聞いてみる。
まなつ「ねえ、みのりん先輩。伝説のパパイアってどんなパパイア?」
みのり「見た目は普通のパパイアを同じかな」
まなつ「じゃあ味がちがうの? 普通のパパイアとどっちが甘い?」
みのり「どっちと言われても、わたしパパイア食べたことないから」
まなつ「パパイア… 食べたことないの?」
みのり「うん」
まなつ「パパイアのお話書いたのに?」
さんご「パパイアのことすごく詳しいからいっぱい食べたのかと…」
ローラ「ていうか、まず食べない?」
仲間達の猛烈なツッコミにみのりは居た堪れなくなりその場から逃げ出そうとするも、無様に転けて泥だらけに。自分の惨めな姿に、かつて先輩がダメ出ししたことの意味をようやく理解する。
本の知識だけで何もかも分かった気になって、自分から興味を持とうとしなかった。
その受け身の姿勢こそがみのりに足りていなかったものなのだ。
仲間達はそんなみのりを下手に慰めることもなく、いつも通りのペースで食べたことがないなら今から食べればいいとして、パパイア農園で取り立ての新鮮なパパイア料理を皆でいただくことに。
そして生まれて初めてパパイアを口にしたみのりは、自分の中でなんとなく想像していたよりも美味しかったことにびっくりする。それはみのりの中にある知識だけのイメージがいかに未熟で貧困なものであったかを改めて浮き彫りにしたことでもあった。
だが、現実をただ感じるだけでは物語は書けない。それを自分のイメージに落とし込まなくてはならない。
だからみのり考える。自分の中にあったイメージと今の現実との決定的な違いは何だったのかを。
<< おいしい…どうしてこんなにおいしいんだろう >>
<< 太陽の光をいっぱい浴びたから? >>
<< 栄養満点だから? >>
<< 農園の人が愛情を込めて育てたから? >>
<< それもあると思うけど、それだけじゃない気がする >>
<< みんなが私のために色々考えてくれて、そんなみんなと一緒に食べたから >>
<< 伝説のパパイアがあるとしたら、こんな味なのかも… >>
パパイアの花言葉は『同胞』。
それは一つの木に鈴なりになって、一緒に太陽の光を浴びて育つからだ。
みのりはそのことを知識としては知っていた。そしてそのパパイアが持つイメージを今、自分の経験として理解したのである。
その後、みのりは自分から「演劇の台本をわたしに書かせてほしい」と仲間達に頼む。
ただ、それはまなつが望んだ『マーメイド物語』の翻案ではない。
「パパイアは太陽を受けて育つ。わたしはみんなと出会ってプリキュアになって、太陽みたいにキラキラした冒険をしてきた」
「みんなと一緒に感じた、トロピかってる気持ち。それが私にとっての伝説のパパイア」
「『マーメイド物語』じゃなくて、わたしたちの物語。それを書くことが、わたしにとって今、一番大事なことだから」
こうして、みのりは『マーメイド物語』の呪いを乗り越えた。
過去の物語は思い出に昇華され、みのりは「今」を新たなる物語として綴っていくのである。
余談
- 『マーメイド物語』の二人の主人公がまなつとローラのメタファーのようになっていることから、本作の真の敵はあとまわしの魔女ではなく執事のバトラーになるのではないかというメタ的な推測が一部の視聴者からなされていた。(バトラーはタツノオトシゴの姿をしているので、それが小説に出てくるドラゴンのメタファーとなっているという見方)
関連タグ
トロピカる物語:新たな物語。
プリキュアシリーズ関係
花のプリンセス:『Go!プリンセスプリキュア』の劇中作。本編の50年前に出版された、望月ゆめ作の絵本。春野はるかの「プリンセスになりたい」という夢の原点ともいえる作品。
ニチアサ関係
仮面ライダーセイバー:こちらも本に関わる作品で、ドラゴンが登場したり新たな物語を紡ぐなど共通点が多い。
全知全能の書:みのりと同じ経験のある、とある詩人が今まで信じ続けて創造してきたのはすべてこの書に書かれていたという屈辱を味わった本。