「明日にするわ…」
CV:五十嵐麗
概要
暗い海の底に佇む洋館に棲まう、謎の魔女。部下からは「魔女さま」と略称で呼ばれてもある。
人魚の国・グランオーシャンを襲い、人魚たちからやる気パワーを奪って無気力にしてしまった。現在は人間の世界(地上世界)を侵略の標的に定めている。
バトラーの数倍はある大柄な体格をしている。下半身は魚になっているので一応は人魚と言えるかもしれないが、ウナギのような感じなのでグランオーシャンの人魚達の仲間ではない様子。
顔の上半分が4つの覗き穴が開いた仮面のようなものに覆われているが、シリーズディレクターである土田豊監督によればこれはカブトガニの殻のような身体の一部であるらしい(参考)
魔女は「愚者の棺」なるアイテムの力を解放することで、自分の「一番大事なこと」を実現しようとしている。
この愚者の棺を解放するにはやる気パワーを大量に集める必要があり、そのためにグランオーシャンや地上へと侵攻している。
彼女の部下は、「執事」・「シェフ」・「ドクター」・「メイド」等の肩書になっており、さながら悪の組織と称するよりは、お屋敷の女主人とその使用人達の様相。公式サイトでも組織名は表示されず、「あとまわしの魔女たち」と表記されている。
年齢は不詳だが何百年も昔から健在であった。だが現在ではその命は尽きようとしており、延々と集まらない「やる気パワー」を早く集める頭にバトラーに指示を出している。
尚、数百年前は「破壊の魔女」と呼ばれていた。
人物
常日頃から気怠そうにしており、第1話でバトラーからプリキュアの出現を告げられ、どのように対処すべきかを尋ねられても、「明日にするわ……」との台詞を告げて再び無気力に寝そべる等、名前通りの人物像をしている。
食事すらも後回しにしてばかりらしく、専属シェフは時間を置いても不味くならないよう、創意工夫した料理を提供している(が、結局後回しにされている)。
ただ、この魔女は『やる気パワーの収集』の目的には強く執着しており、これについては「後回しにはしたくない」と焦っている様子もまた描かれている。
「やる気パワーの収集を邪魔する者達(=プリキュア達)が居る」との報告を執事のバトラーから受ける度、語気を荒げて問い詰めようともするのだが、怒りの感情が爆発する寸前に、怒る行為自体が面倒になり、まるでスイッチが切れたかのように突然無気力になると描写が作中では頻出している。
この事実から、単に『怠惰』よりかは『躁鬱の激しいキャラ』の印象がある。
また、チョンギーレが拉致して来たローラが人間に加担している事態について、「人間になりたがっている」と見抜いた上で『人魚姫』の魔女宜しく人間になる契約を持ち掛ける等、組織の長らしく洞察力や駆け引きにも長じている。
ただし、ローラが自らの要求に屈さず、自分の思惑通りにいかなかった事態については、普段の態度からは想像できない程に激昂し、イライラが収まらない状況になっているのが18話のバトラーの口から語られている。
「あの人魚……わたしの許に来ぬとは!」
第29話では、常日頃から悪夢にうなされており、夢に出てくる謎の少女が誰であるのか、なぜ明るく微笑んでいるのか、心当たりはあるようなのに思い出せず、苦しんでいる事が明かされた。
また同話で登場した伝説のプリキュアは「あとまわしの魔女になってしまった魔女」と口にしており、あとまわしの魔女は元から現在のような悪人ではなかったらしき過去(ただ、彼女の言葉通りであるなら、元々魔女ではあったらしい事実)、彼女は魔女と何らかの関係がある等が示唆されている。
更に、三幹部はバトラーから「魔女様の前でプリキュアの名前を出してはならない」と口止めされており、魔女は「我々がやる気パワーを集めるのを邪魔してくる人間たちがいる。そいつらは人魚のローラと結託している」と聞かされてはいるが、それが「伝説の戦士プリキュア」だとは知らない。
魔女は自分の計画がそいつらに邪魔されているのを相当恨んでおり、「誰がやる気パワーを集めるのを邪魔しているのか」と皆に問い詰めている事も明らかになった。三幹部たちは問い詰められる度に誤魔化している様子。
中盤に至るまで(記憶を失っていたとしても)敵首領がプリキュアの存在を知らないのはシリーズ初のケース。
バトラーは伝説のプリキュアの正体を知っているらしく、その上で魔女の耳に「プリキュア」の名前が伝わらないよう配慮しているようだが、果たして……。
能力
ヤラネーダの核である「ヤラネーダのもと」を生み出す能力を持つ。
部下たちがなかなかやる気パワーを集められないのを見かねて、第9話では強化版のゼンゼンヤラネーダのもとを生み出し、第22話では更なる強化版であるゼッタイヤラネーダのもとを生み出している。
ただ、これら強化版の「ヤラネーダのもと」は生み出すには魔女の心身に結構な負担がかかるようで、ゼッタイヤラネーダのもとを初めて生成した時は、疲労困憊で肩で息を切っていた。
直接的な戦闘能力については絶大で、44話では巨大な尻尾を使った打撃や触覚から放つ光線、両腕から発生させる強力な竜巻状の水流で全てを破壊する能力を見せていた。
また、18話では人魚のローラに「(私に従えば)人間にしてやろう」と誘いをかけたことがあり、これがハッタリでなければそのようなことが可能な力があるようだ。
魔女の目的とその真意が明かされるまでの経緯
〜序盤〜 謎に包まれたその目的
物語が始まった頃は何を思って『やる気パワー』の収集に固着しているかについては一切判明していなかったが、第6話で魔女の手下が強奪してきたやる気パワーが、緑色の球体状の器のようなものに溜め込まれていることが判明し、「この器がやる気パワーで満たされれば、世界を(自身の)思い通りにできる」と誰にともなくつぶやいていた。
〜中盤〜 少しずつ明かされていく謎
第2クールに入ってからは魔女の目的の一端が明かされるようになる。
第17話では捕虜になったローラがあとまわしの魔女と面会するシーンがあり、そこで魔女は自身の目的を明かしている。
本人曰く「すべての人間がやる気を失った「あとまわしの世界」を作り出すことが願いなのだ」とする。それを聞かされたローラは、それが魔女にとってどうして得になるのかが理解できず「なにそれ……」と呆気に取られていた。
また同話ではバトラーの口から「器にやる気パワーが満たされれば、愚者の棺の力が解放され、魔女様の望む世界が現れる」と解説された。
しかし、この時点では「愚者の棺」が何なのかは一切不明であるが、第22話のバトラーの発言によると、過去に魔女以外にも解放しようとした者が居たらしい。だが、その時は過去の人魚の活躍によって棺が開かれるのは阻止されたのだとされる。
そして、第20〜22話で魔女たちが探していた「やる気パワーが大量に満たされた杯」は、過去に愚者の棺を解放しようとした誰かが、その目的の度にやる気パワーを溜め込んでいたものでもあった。
この事実はプリキュア達は知り得なかったが、杯が隠されていた場所がたまたまトロピカる部の夏合宿と同じ場所だったので、魔女たちが杯を回収しようと現地に向かうと、プリキュア達とバッタリ遭遇し戦闘不可避になる展開が続くのだが、最終的にはどうにかこうにか杯の回収に成功。
杯に満ちていたやる気パワーはあとまわしの魔女のものとなり、これで今までの分とあわせて「愚者の棺」を解放するのに必要なやる気パワーの半分が準備できた。
魔女が語る「あとまわしの世界」が具体的にどんな世界なのかは、ここまででははっきりとはわからない。そして魔女はなぜそんなことをしたいのかの動機面については、ローラが困惑していたように(この時点では)全くの不明である……よりも、如何やら本人も何故そんな願いを実現したいのか、何も覚えていない事実が43話で判明している。
アニメージュ誌2021年9月号での村瀬亜季プロデューサーへのインタビューでは「本作は『楽しい日常を描いていく』という方針があるのだが、まなつ達が敵の目的を知ってしまうと、今を笑顔で生きられなくなってしまうかも知れないので、明かすにはまだ早い」と返答。
そのうえで、敵の目的については視聴者も気になるだろうから、17〜22話で敵側の目的の一端を「愚者の棺」という謎めいたキーワードによって演出したということ。
また、同時期のFebriのインタビューでも、「相手の本当の狙いがわかったら、まなつたちも学校で部活をやってる場合じゃなくなる」と発言している。そして、あとまわしの魔女が何を「あとまわし」にしているかが鍵になるようなことも述べている。
もちろん、まなつ達はグランオーシャンで起こったことをローラから聞かされてるし、やる気パワーを奪われた人間が無気力になるのを毎週目撃しているので、魔女たちを「自分たちの身近な日常を壊そうとする連中」という危機感は持っている。だが上述のインタビューからすると、魔女の本当の目的はその程度の認識では受け止め切れないことを示していると言える。
〜終盤〜 愚者の棺と『永遠のあとまわし』
第29話で伝説のプリキュアが幻影の形でまなつの夢の中に現れる。そして彼女の導きでまなつ達はエクセレン・トロピカルスタイルの力を手に入れることになるのだが、この際に伝説のプリキュアは「この世界を…救って…そして、あとまわしの魔女になってしまった魔女も…」とまなつ達に言い残している。
そして同話では、あとまわしの魔女は眠るたびに悪夢に苦しんでおり、その夢の中では謎の少女との別離が描かれていることが判明した。この時点で魔女と伝説のプリキュアとの間に何かの因縁があることがほぼ確定的になったが、詳細はまだ謎に包まれていた。
第37話では、人魚の女王の口から「愚者の棺」についての情報が明かされる。人魚に伝わる伝説によると、愚者の棺は開いたものに不老不死の力を与えるのだと言う。そして同話では、あとまわしの魔女の台詞により、自分が不老不死になることによって『永遠のあとまわし』を実現させることが魔女の大願だと判明した。
第42話から始まる最終決戦編では、バトラーが最強のヤラネーダを作り出し、大量のやる気パワーを強奪。プリキュア達はそれを奪還することに失敗したため、ついに魔女のアジトに潜入することにな続く第43話で魔女と対峙したプリキュア達。魔女はプリキュア達を「プリキュア」とは認識できなかったが、しかし「何者だ、お前達・・・どこかで見たような・・」と悩み、頭痛に苛まれる。
だがバトラーが「魔女様はそのようなことを考える必要はありません」として、強奪した大量のやる気パワーを愚者の棺へと注入する行程を開始した。それ以前に集めていたやる気パワーも含めれば、これで愚者の棺は開かれるのだ。
そしてバトラーの口から愚者の棺の秘密が明かされる。愚者の棺とは全ての生物の生命エネルギーを吸い取り、その力で棺の解放者を不老不死にするという恐るべき呪具だったのだ。
魔女はすでに寿命が終わりを迎えようとしているが、この力で不老不死になって『永遠のあとまわし』を実現させるとプリキュア達に宣言する。
キュアサマーはそこまでして何をあとまわしにしたいのかと問いかけると、魔女はそれに答えようとするがなぜかうまく口にできない。
「・・・私は・・・ 私は、何をあとまわしにしようとしていたのだ?」
すでに事情を知っていたキュアラメールは魔女に「思い出しなさい!」と発破をかけるが、バトラーは魔女が何かを思い出すのを必死に止めるべくプリキュア達を攻撃してくる。
だが、プリキュア達は愚者の棺にやる気パワーを注ぎ込んでいた器を壊すことで、棺が完全に開かれる直前にそれを止めることができた。
そしてプリキュア達は一時撤退。そして魔女の屋敷の倉庫の奥に避難し、キュアラメールから話を聞かされる。
この第43話でマーメイドアクアポッドの修理のために一旦グランオーシャンに戻ったラメールは、人魚の女王から大切な話を聞かされたのだと仲間達に語る。
プリキュアたちがかつて人魚の女王と面会した第37話で、プリキュア達が地上に帰還した直後に伝説のプリキュアの幻影が女王の前に現れ、あとまわしの魔女の秘密について語ってくれたのだと言う。それはその当時のプリキュア達に教えてしまうと、彼女達を深く悩ませてしまう重い秘密。だが女王は、心身ともに成長した今のプリキュア達ならばその重さにも耐えられるだろうとして、ラメールに真実を伝えたのである。
そして、その内容がラメールの口から明かされる…
魔女の真実
今から何百年も昔。あとまわしの魔女は「破壊の魔女」と呼ばれていた。彼女はこの世を滅ぼすために生まれた存在であった。
魔女が世界を滅ぼそうとするのは悪意や憎悪からではない。生まれた時から世界を破壊することが本能としてプログラムされていたのでそれをやらない理由がなかったのだ。
人魚の女王は破壊の魔女という存在を「私たちには理解できなくても、ただそのように生まれただけ」と評した。
破壊の魔女は前作のビョーゲンズ(病気の化身)と同様、人間や人魚たちとは相容れず理解もできない「災害の化身」であり、産まれながらの絶対悪……であるはずだった。
人間や人魚達は自分たちが生きるために彼女を倒すしかない……はずだった。
魔女は手始めに欧州のある海洋国で竜巻を起こして暴れ回っていたが、人間達の必死の抵抗にあい大砲の集中砲火を受けて一時撤退を余儀なくされた。
ある洞窟で傷を癒すために隠れていると、それを近隣の町の住人であるアウネーテという少女に発見される。アウネーテは相手が破壊の魔女とは知らなかったものの、明らかに人間ではないその姿に他人に見られたくはないのだろうと察する。そして優しいアウネーテは魔女の傷を治療し、食糧なども町から持ってきてくれた。
魔女は人間に見られたことを苦々しくは思っていたが、アウネーテに全く警戒心も恐怖心もないことに拍子抜けし、傷で動けないこともあってしばらくは彼女の好きなようにさせていた。
魔女は自分のことを何も話さなかったが、アウネーテは一方的に自分のことを話し、あげくに友情の証としてアネモネの花の指輪を贈ってきた。そして「また明日会いましょう」と別れた。
その日の夜。アウネーテのおかげで傷も癒えていた。アウネーテの再会の約束の言葉が脳裏に残る中、「私は破壊の魔女だ」と言い残し、アネモネの花の指輪を残して洞窟から去っていった。
その後、魔女は同じ目に遭わないように、自分の代わりに怪物達を地上に派遣することで地上の侵攻を再開した。怪物達の指揮官は若き日のバトラーであった。
だが、地上への侵攻は思うように行かなかった。過去のグランオーシャンから人魚が派遣され、「プリキュア」なる少女戦士が怪物達を蹴散らしていたのである。業を煮やした魔女はプリキュア討伐に自ら地上へと赴く。
魔女軍の襲撃で街が炎に包まれる中、ついにプリキュアが現れ魔女と対峙した。だが魔女は我が目を疑う。そのプリキュア・キュアオアシスは、あのアウネーテであったのだ。
あの洞窟での出来事の後、グランオーシャンは破壊の魔女を倒すためにプリキュアを探し出そうと人魚を派遣し、アウネーテがそのプリキュアに選ばれていたのだ。
キュアオアシスも破壊の魔女があの時に助けた相手と知って、もうこんなことはやめてくれと頼むが、魔女は破壊は自分の存在理由だと聞き入れない。
魔女とプリキュアは激しく戦うが、互いに心の中にわだかまりがあるからか決着はつかない。
魔女は「明日決着をつけよう」と挑戦状を叩きつけてその場を去る。オアシスは悲しみに沈みながらも、それならばあなたを倒すしかないと戦いの決意を新たにした。
そして次の日。バトラーが魔女に出撃の準備を促すと「いや、明日にしよう」としてその日の出撃を中止した。単なる気まぐれかと思いきや、次の日も、また次の日も、何かと理由をつけてキュアオアシスとの決着を後回しにし続けた。
これが延々と続いたため、アウネーテは魔女と再開することなく寿命が尽きた。
だが魔女はその事実を知ってか知らずか、100年以上たってもキュアオアシスが生きていることを前提として「決着は明日にする」と言い続けた。
魔女が何もしない日が続いたので、結果的にこの世界の破壊自体が「あとまわし」になった。こうして世界は救われた。
自分の運命から目を逸らし続ける心の壊れた魔女と、そんな「あとまわしの魔女になってしまった魔女」を憂いこの世に留まり続けるキュアオアシスの魂と引き換えに…。
それからさらに何百年も経過した。魔女の寿命は尽きようとしており、もはや自分が何を「あとまわし」にしているのかを忘れてしまうほどに衰えていた。
だが、それでも「何かをあとまわしにしないといけない」という執念は残り続けており、だけど何をあとまわしにするのか忘れていたので、ありあとあらゆるものを「あとまわし」にするようになったのである。
こうして、破壊の魔女は「あとまわしの魔女」に成り果てたのだ。
魔女の最期
「私は全てを思い出した。あいつはもうこの世にいない…… ならば、私がやることは一つ、破壊だ!」
現代のプリキュア達と接触した影響で、魔女はついに自分が何をあとまわしにしていたかを思い出した。
そして、あとまわしにしすぎたせいでもう約束を果たせなくなったことも理解してしまった。
後悔が魔女を覆い尽くす中、もはや自分に残されたのは「破壊の魔女」としての本能のみだとして、圧倒的な力でプリキュアを攻撃してくる。
それは、自分を破壊からとどめていたアウネーテがいなくなった以上もはや自分には破壊しか無いと思っているかのようだった。
その猛攻の中、キュアサマーはオアシスの遺志を継ぐべく、魔女に向かって言う。
「あなたと戦うことなんて望んでない。ずっとあとまわしにしてきた大事なことをやろう」
それに魔女は答える。
「プリキュアを倒して世界を破壊すること、それが私の一番大事なことだ!」
だが、サマーはそれは嘘だと一喝する。
「あなたが本当にやりたかったことは、破壊ではなく、人間の女の子と仲良しになること。
それが、あなたがずっとあとまわしにしてきた、勇気がなくて出来なかったこと!」
その言葉に魔女は何も言い返せずに固まってしまう。
それは自分が認めたくない図星だったからだ。
その本音を認めたくがなかったがゆえに再会をあとまわしにし続けた挙句、その人間の女の子はいなくなった。
取り返しがつかなくなったことを認めたくなくて、目を背け続けた。
そんな自分に嫌気がさして、ついには何もかもあとまわしにするようになった。
無意味で無為な日々を重ねていくうち、自分が何者であったか、何を大事にしてたかも忘れてしまうほど衰えた。
それがあとまわしの魔女。畏怖すべきほど恐ろしく、滑稽なほど愚かな魔女。
呆然とする魔女は、キュアサマーをじっと見つめる。
すると、サマーの姿がキュアオアシスの姿に変わっていく。
それはオアシスの魂がサマーをよりしろに降臨したのか、それとも混乱する魔女が見た幻覚なのか…
オアシスは言う。やっと会えた、と。魔女は涙を流しつつ嗚咽する。
オアシスは問うた。「あなたが今、一番大事なことを」
魔女は答える。「私は、お前と… 友達に…」
オアシスは魔女の手をとり、頷く。
そして魔女は穏やかな笑顔を見せ、心の重荷が全て解放された。
この世での未練を無くした魔女は、これと同時に寿命を終える。
プリキュア達や召使い達に見守られながら、魔女の体は人魚姫のように泡となり、その魂はキュアオアシスに導かれて共に空へと登っていくのであった。
しかし、たった1名だけはそれを受け入れられずにいた……。
「ウゥ……魔女様……。どうして私を置いて行ってしまわれたのです……? 人間の少女などに惑わされて……こうなったら、魔女様の意思はこのバトラーが! この世界は私が破壊しましょう!!」
「ヤラネ~ダ~!!!」
この様子に納得がいかないと言わんばかりに、魔女に先立たれ絶望したバトラーが暴走。超ゼッタイヤラネーダの元を自らに使い、異形の怪物へと変貌する。
世界の滅亡の危機は、まだ終わっていなかったのである……。
余談
歴代プリキュア悪役の首領格としては珍しく、最初からはっきりと姿を見せているキャラクターである。
役者について
演じる五十嵐女史は今作がプリキュアシリーズ初出演となり、夫の速水奨氏と共に夫婦揃ってシリーズ出演を果たした。因みに速水氏は、劇場用作品『ふたりはプリキュアSplash☆Star チクタク危機一髪』にてサーロイン、『魔法つかいプリキュア!』にてシャーキンス、昨年の『仮面ライダーゼロワン』にて通信衛星アーク/仮面ライダーアークゼロを演じている為、短いスパンでのニチアサ出演及び、敵の首領役を夫婦で演じた繋がりでもある。
また夏海碧を演じる魏涼子女史と故・檀臣幸氏と共に、善悪揃ってのシリーズ出演経験者からの夫婦揃いの共演でもあった。
尚、3作前のプレジデント・クライから前作のキングビョーゲンまで、プリキュアの敵組織の首魁は、物語序盤はクレジットが伏せられていたが、初登場時からクレジットが判明している敵組織の首魁は4作前のノワール以来となる。
キャラクターデザイン
キャラクターデザインの中谷友紀子氏のインタビューによると、当初はあとまわしの魔女を若い女性としてデザインしたが、シリーズディレクターである土田豊監督の「もっと歳のいった、何百歳とかのキャラクターなので」という要望に合わせて描きなおした。海の生き物はサメやクジラのような長生きする生き物ほど体が大きくなるので、あとまわしの魔女や人魚の女王様はそれにならって体を大きくしていると答えている。
モチーフ
44話で描かれた全身像での下半身の魚部分の尾鰭の形や、頭には目のように見える穴が複数開いていることから、ヤツメウナギがモチーフに含まれているのではと思われる。
また、上述のように頭はカブトガニがモチーフ。また、頭から肩・胸の部分にかけて鎧のような固い骨板に覆われているのが特徴で、体も大きく、デボン紀の海では頂点に君臨していた絶滅種の古代魚の一種、ダンクルオステウスの要素も含まれる。
他にも、或いは口許から覗く牙からシャーカン、圧倒的な巨体からホエリアンなどもイメージソースになっているのではと考えられている。
ストーリー上での立ち位置については言うまでもなく、アンデルセン童話の『人魚姫』に出てくる魔女をモデルにしている。
だが、終盤で明かされた魔女の過去からわかるように、この魔女自体が人魚姫の立ち位置を演じてもいる。魔女の最期が水の泡になって昇天していくのはその典型と言えよう。
なお、キュアオアシスの本名のアウネーテもまた人魚伝説が元ネタである。詳細は当該項目参照。
『破壊』の示すもの
第44話にて魔女は『産まれながらの破壊を司る存在』と明かされたが、この異称の指す概念は以下の通りと思われる。
実際、同じスーパーヒーロータイムでは、物語を守る為に物語を破壊する『世界の破壊者』が存在する。
魔女の目的の矛盾
上述したように、魔女は第17話で自分の目的を「すべての人間がやる気をなくした、あとまわしの世界を作る」とローラに語っていた。
ところが第37話で明かされた魔女の真意は「不老不死になって、永遠のあとまわしを実現する」であった。
この二つの目的が同じものを指すというのは正直ピンとこない。
愚者の棺が開かれると、すべての人間がやる気をなくすとかではなく全人類が死滅してしまう。それを「すべての人間がやる気をなくした」と解釈するというのは、暗喩としても通じにくいだろう。
このあたりについては魔女がローラにウソをついたという可能性も考えられるが、魔女の真意を知ったローラが「前に聞いた話はウソだったのね」みたいに指摘するシーンなどはなかった。
この矛盾についてなのだが、ぶっちゃけてしまうと、第17話作成時点で魔女の目的が固まってなかったというのが一番可能性が高そうである。
アニメージュ誌2021年9月号での村瀬亜季プロデューサーへのインタビューでは、「魔女の真意をまなつたちが知ってしまうと部活を呑気にやってられなくなるので、明確な目的は後半まで語らず、代わりに17〜22話で敵側の目的の一端を愚者の棺という謎めいたキーワードによって演出した」ということが語られているのだが、この「愚者の棺」が初めて作中に出たタイミングではとりあえずそれっぽい名前を出しただけでそれが何なのかはまだ決まってなかったということも語られている。
なので、魔女の目的が「不老不死による永遠のあとまわし」というのは当初から決まっていたとしても、その代償が全生命の死滅という恐ろしいものにする予定ではなかった可能性がある。当初のイメージでは、全人類のやる気を吸い取って魔女が不老不死になる、という感じだったのかもしれない(それでも人類滅亡とほぼ変わらないが)。
なお、放映終了後に刊行されたオフィシャルコンプリートブックでのシリーズ構成の横谷昌宏へのインタビューでは、「あとまわしの魔女が何かの決着を後回しにしているということは結構初期から決まっていたが、それが『伝説のプリキュアと友達になる』ことだというのは、物語が進んでまなつがグランオーシャンに行ったり伝説のプリキュアが登場したりしてから固まった」「伝説のプリキュアは、この世界のプリキュアとは何なのかを説明するくらいの役割のつもりだったが、いつの間にか存在が大きくなった」と語られている。
関連タグ
プリキュアシリーズ歴代首領
ネオキングビョーゲン←あとまわしの魔女/バトラーヤラネーダ→ゴーダッツ/(???(ネタバレ注意!))