『太平洋の翼』とは、1963年1月公開の東宝の戦争映画。松林宗恵監督作品。
概要
第343海軍航空隊を題材にした戦争映画で、昭和30年代に製作された「太平洋三部作」の1作。
原作は源田実の『海軍航空隊始末記』となっているが、同作には第343海軍航空隊の描写が少なくほとんどオリジナルである。
源田を初め登場人物はほぼ全員架空の名前になっており、絶望的な戦況の中で最後まで戦い抜こうとする飛行機乗りたちを描いた。
あらすじ
マリアナ沖海戦に大敗し制空権を失った大日本帝国。軍令部ではもはや特攻作戦のほかないという意見が大勢を占めていた。
それに異を唱えた千田中佐は最新鋭戦闘機・紫電改によって構成された精鋭部隊による局地制空権の確保を突破口とした戦況の打開を提唱する。
千田の命によって硫黄島から安宅信夫、ラバウルから矢野哲平、フィリピンから滝司郎が隊を率いて本土へ向かう。矢野は敵の魚雷艇を奪って全員無事の帰還を果たすが、安宅は道中で哨戒艇とPBY飛行艇に見つかり相棒の稲葉喜平を含めた2人だけの生還となってしまった。
そして滝もゲリラや敵機の襲撃によって玉井をはじめとする多くの部下を失い、本土にたどり着いたのはたった4人だった。
生き残った飛行機乗りたちはそれぞれ3つの飛行隊に再編され、第343海軍航空隊として敵艦載機と戦うことになる。
新たな部下を迎えてこれからの戦いに臨まんとする滝の前に美也子という女性が現れる。彼女はフィリピンからの帰還の途中で敵機に撃たれ戦死し、海中に遺体を投棄した玉井の姉だった。
スタッフ
監督:松林宗恵
特技監督:円谷英二
脚本:須崎勝弥
音楽:團伊玖磨
キャスト
千田中佐:三船敏郎
滝司郎大尉(301飛行隊「新選組」):加山雄三
安宅信夫大尉(701飛行隊「維新隊」):夏木陽介
矢野哲平大尉(407飛行隊「天誅組」):佐藤允
玉井美也子:星由里子
三原少佐(潜水艦艦長):池部良
丹下太郎一飛曹(407飛行隊):渥美清
稲葉喜平上飛曹(701飛行隊):西村晃
中村上飛曹(407飛行隊):中谷一郎
加藤航空隊副長:平田昭彦
中馬大佐(硫黄島):田崎潤
清水中尉(フィリピン):船戸順
特攻隊の士官A:中丸忠雄
軍令部A参謀:清水将夫
落合少佐(駆逐艦艦長):小杉義男
小林一飛曹(407飛行隊):砂塚秀夫
艦隊参謀長:田島義文
特攻隊の士官B:山本廉
主計長(フィリピン):織田政雄
軍令部B参謀:清水元
八木大尉(潜水艦の乗組員):伊藤久哉
輸送機の正操縦員:大村千吉
森上飛曹(フィリピン):岩本弘司
大村上飛曹(硫黄島):中山豊
手塚一飛曹(硫黄島):古田俊彦
寺田中尉(硫黄島):上村辛之
松尾一飛曹(硫黄島):西條康彦
水野二飛曹(フィリピン):新野悟
村上一飛曹(フィリピン):岡豊
石井上飛曹(硫黄島):宇畄木耕嗣
玉井二飛曹(フィリピン):片岡光雄
余談
当初は本多猪四郎が監督を務める予定だった。
撮影に際して新明和工業協力のもと紫電改の実物大模型が制作された。また元操縦士による演技指導も行われた。
佐藤允は本作の撮影にあたって源田実と対談する機会を得たが、「なぜ戦争を生き残ることが出来たんですか?」と質問してしまい松林監督に怒られたという。
海上自衛隊が撮影に協力しており、護衛艦「ゆきかぜ」や潜水艦「くろしお」、魚雷艇10号が登場している。日本海軍がガトー級潜水艦や単装砲を背負い配置した駆逐艦を保有しているという不思議な場面になってしまったのはご愛敬。
脚本段階では安宅たちの乗った潜水艦が機雷に触れて沈没する描写があったほか、美也子が空襲に巻き込まれて死亡したことが示唆される描写もあった。決定稿ではこれらの描写が削除され、出撃を控えた特攻隊員が第343海軍航空隊の隊舎に殴り込む場面が追加されている。
松山基地からの離陸シーンは東宝大プールの水を抜いて撮影した。
終盤に登場する戦艦大和は1/15スケールの巨大な模型が作られ、山中湖に浮かべて撮影した。
当時の宣材には紫電改を名前の由来とするカネボウの養毛剤「薬用紫電改」の広告も掲載されていた。
本作を最後に松林監督は戦争映画から離れ、社長シリーズや『てなもんや三度笠』といった喜劇映画に専念するようになった。
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太平洋三部作