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平成の米騒動

へいせいのこめそうどう

「平成の米騒動」とは、1993年(平成5年)の日本における記録的な冷夏による米不足現象と、その影響による騒動のことを指す。
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概要編集

「平成の米騒動」とは、1993年(平成5年)の日本における記録的な冷夏による米不足現象と、その影響による騒動のことを指す。

当時の世相を手っ取り早く知りたい人は『こちら葛飾区亀有公園前派出所』89巻を読んでみよう。


幸いにして平成5年以降日本で米の凶作は起こらず、そのまま元号が変わり令和時代を迎えた。


しかし米のありがたさを忘れた者によって引き起こされた「令和の米騒動」なるものが起こるのはまた別の話である。


解説編集

1993年の冷夏編集

この年は沖縄県と梅雨がない北海道を除く全域で梅雨明けが特定できなかったほどの長梅雨による極端な冷夏により、九州南部を中心に豪雨災害が多発、また全国的な日照不足を記録するなど、当時でも稀に見る異常気象となった。冷夏の原因として2年前の1991年に発生した、フィリピンのピナツボ山噴火の影響(エアロゾル)が有力視されている。


米不足の発生編集

当然ながら全国的に米を始めとした各種の農作物にも多大な被害を及ぼし、特に東北地方全体で米の収穫量が56%、青森県岩手県では3割以下、さらに収穫ゼロの地域まで続出する程の「大凶作」となり、備蓄米と合わせても当時の国内の需要量1000万トンに対して約8割の780万トンしか確保できない状況となった。ここまで事態が悪化した遠因として、当時のブランド志向により消費者に好まれていたササニシキが冷害に弱かったこと(実際先述の大凶作地帯はササニシキが主力で、コシヒカリが主力の新潟県あきたこまちが主力の秋田県は8割以上と不作ではあるが凶作レベルではない)、これまでの「米余り」による減反政策などの影響で、生産者による生産意欲が低下していたことも一因とされた。


米価の高騰と混乱編集

米の大凶作が表面化すると、必然的に市場で品薄になった米は高騰し、一般の消費者はもちろん、小売業者や卸業者も米の確保に散々振り回される状況に陥ることになる。政府は備蓄米を放出したが、在庫がわずか23万トンと雀の涙でしかなく、到底穴埋めできるものではなかった。当時既に日本の食料自給率は4割を切るなど、米への依存度は年々低下していたとはいえ重要な「主食」であることには間違いなかった。そのためスーパーなどの小売店の広告に「国産米の販売」と載ろうものなら、まるで旧共産圏配給の如く、早朝から家族総出で長蛇の行列に並ぶことも日常茶飯事であった。コンビニエンスストアではこれまで片隅に置いていたコメ袋をレジ前の一等地に移動し、さらに需要に対応するため500mlのペットボトルに入った米を1人1本限定で販売する事態にまでなっている。なお、農林水産省や食糧庁などの職員が「職務上知り得た情報」を利用して、「自分用」の米を確保するなどの忌々しき事態も発生した。


生産農家の苦境と転売の横行編集

減反政策や政府からの買取価格の低下で厳しい状況であった生産農家はこの大凶作のうえわずかに収穫できた米も食糧管理制度を盾に買取価格は5kgあたり1500~2000円程度に抑制され苦境に陥ってしまう。これを知った普段米を取り扱わない業者が政府より高い買取価格で生産農家から米を買い、それをさらに高値で売る転売行為が横行した。この結果生産農家は政府へ米を売らなくなったことからただでさえ少ない正規ルートでの流通がさらに少なくなってしまった。一方転売による闇ルートではコシヒカリやあきたこまちが5kg5000~6000円、ササニシキにいたっては5kg7000~8000円で取引されたことから「生産農家が出荷を渋って不当に値段を吊り上げている」という事情を理解しないバッシングが起きている。


そんな中城南電機の社長だった宮路年雄は秋田県へ出向き、あきたこまちを5kg6000円以上で買い付け、それを自身の電器店にて買取価格の半額以下となる5kg3000円で堂々と販売した(宮路は「宣伝費と思えば安いもの」「米だけなら赤字だが計算してやっている」と述べている)。当時としては破格の買取および販売額に世間からは救世主とされて時の人となったが、当時米の販売は登録制だったため未登録の宮路は違法で、農林水産省や食糧庁は宮路に対して行政指導を出し、生産農家に対しても農協などを通じて「未登録者へ米を売らないように」と説得をした。これに対し宮路は意に介さずに販売を続け、また散々振り回されてきた生産農家も我慢の限界に達し「じゃああんたら(宮路の買い付け額と)同じ値段で米を買ってくれるのか?」と食ってかかり、職員が何も言い返せない様子がテレビで流された。


米の緊急輸入編集

1990年代初頭、日本は主に工業生産品の輸出による莫大な貿易黒字を計上していたが、同時に各輸入国と「貿易摩擦」を起こしており、アメリカなどの農業輸出国から米をはじめとする農産物について関税の撤廃など、貿易の自由化を強く求められていた。

当時既に日本の一次産業は衰退の一途を辿っており、ひとたび無策に自由化してしまえば輸入品に席巻されてしまうのは確実であった。こうした事情から自動車などの工業製品の黒字幅を抑制させること、農業製品も分野を限って関税を下げるなどの対応をとってきた。

しかしながら、米そのものが不足する事態に農水省は「米は一粒たりも輸入しない」方針を転換、不足分を補うためアメリカや中国、タイなど海外から米の緊急輸入を行った。しかしながら米の国際取引量1200万トンのうち260万トンを日本が買い占めたため今度は世界レベルで米を暴騰させるなど市場を混乱させてしまい、後述の米の輸入解禁という「ツケ」を払わされることになる。


輸入米の悪評編集

こうまでして確保した輸入米であったが、当時の日本市場の評価は散々であった。本来加工用に回すはずであったタイ米が、何のフォローもなしに食用として流通させた上、当時の一般家庭ではタイ米の適切な調理法を簡単に調べる手段が存在しなかったため、調理法の相違による風評被害が数多く発生した。当時はインターネットがなく(普及するのは21世紀初頭)、情報を得るのにはテレビや情報誌などのメディア頼りであったが、そのメディアも正しい情報を得られず、タイ米を扱ったことがない料理研究家の指導をもとに「タイ米にを入れて炊くことで粘り気を出す」など頓珍漢な調理方法を教えていた。一方料理漫画では湯取り法など正しいタイ米の調理方法を掲載していたが、これらが大々的に紹介されることはなかった。


販売方法にも問題が多く、タイ米が不人気でまったく売れなかったので国産米と輸入米の「セット販売」に踏み切り、それでも売れなかったため政府の指示で国産米にまるで品種の違う米(主にタイ米)を混ぜた「ブレンド米」の販売を指示し、国産米のみの販売にはペナルティまで設けた。しかし味も食感もまったく違う米同士のブレンドは最悪としか言いようがない代物で、「貴重な国産米をゴミにした」という結果になった。


また、メディアはタイ米に対して「ネズミの死骸が入っていた」「釘が入っていた」ことが報じられたが、これは日本政府が「どんな米でもいいから」と要望をしたことで収穫から2年以上が経ちろくに管理されていなかった米も輸入されたことが要因である。さすがに異物の入っていた米は事故米として流通させなかったが、事あるごとに騒ぎ立ててはさも異物の入っている米も流通させるような報道を行なっていた。


そのため当時を知る者の中には、現在でもタイ米などの「輸入米」に抵抗を感じる者も少なくない。


国際関係への影響編集

結局、家庭でも流通でもかなりの量の輸入米が「ゴミ」や「産廃」として廃棄され、結果としてタイの日本に対する心象が悪くなったとされる。

実のところ、平成の米騒動の時日本が輸入したタイ米は、一般庶民が購入できるコメとしては最上級の、「Bランク」のものであった(「Aランク」はいわゆる各国王侯貴族がほぼ全量買いきっているため)。タイの人々からすれば「上等なコメを輸出したのに調理法もわからない日本人に不味い飯にされた」と、怒って当然の話である。実際タイではすべてのランクの米が高騰し、最下級ランクすら手に入らない貧困層では餓死者を出す事態になったが、このようなタイの惨状を日本のメディアはほとんど報じなかったため、感謝どころか「まずい米を送った」として逆恨みする者が少なからずいる。


またバブル経済期以降、海外から金にものを言わせて高級品や流行りモノなどの物品、果ては不動産まで手当たり次第に買いまくるなど、日本の経済的モラルの欠如も問題視された。

さらに上記のように、後の貿易交渉にも悪影響を及ぼしている。


混乱の原因編集

不作もさることながらここまで混乱の一因になったのは細川護煕政権とされている。というのもこの政権は6月に誕生したばかりの非自民党系の連立政権で、知識もなく足並みもバラバラという烏合の衆であった。そんな中で凶作となり対応を迫られることになったが、当然ノウハウがまったくなく省庁や識者頼みの行き当たりばったりの対応となり、結果騒動が拡大していった。これについて自民党の農林水産系議員は「なにもできない政権ということがはっきりした」「自民党政権だったらブレンド米なんてことはしない」と息巻いていたが、そもそもこうなった遠因とされる減反政策や少ない備蓄、さらに品質を重んじて病気や冷害に弱い品種を奨励したのは自民党政権である。


米不足の終息編集

秋から始まった米不足による混乱も、翌年の初夏に沖縄産の早場米が出回ることで状況は落ち着き、さらに1994年は猛暑による豊作となったため米不足が解消され、一連の混乱はこのシーズンのみで終息した。また暴動も国内では発生しなかったとされるが、国産米を狙った窃盗やヤミ米販売などの刑事事件は発生している。


影響編集

この平成の米騒動によって廃止や縮小、転換したり、逆に旺盛になったものなど環境が変化したものを取り上げる。


米の輸入解禁編集

世界市場を揺るがす米の買い付けを行なったことから世界各国から批判を受け、翌1994年にウルグアイで行なわれた多国間通商交渉(所謂「ウルグアイ・ラウンド」)で槍玉に挙げられてしまった。このことから翌年以降決められた米を輸入するミニマム・アクセスに合意せざるを得なくなり、逆に米余りを起こすことになった。当然ミニマム・アクセスはタイ米も含まれており、相変わらずの不人気であることから扱いに苦慮している。


食糧管理制度の廃止編集

先述の通り太平洋戦争から続いた食糧管理制度は戦後の米不足時までは効果を発揮していたが、高度成長期以降は生産能力の向上やコメ離れにより在庫がだぶつくようになり市場価格が低下。生産農家からの買取価格が市場への売却価格を上回ったため逆ザヤが発生し、1兆円の赤字を被っていた。これを打開するため政府は減反政策や買取価格の引き下げ、備蓄抑制による管理費低下のなどを行ない逆ザヤの解消を実施したが、平成の米騒動によって今度は備蓄不足と流通の崩壊を引き起こしてしまい、無許可販売が横行することになった。そのため政府は1995年にこの制度を廃止し、登録制だった米の販売も基準が緩い届出制に変更された。


品種置き換え編集

この騒動で冷害に弱いササニシキが問題になり、特に作況指数が悪い地域では急激な置き換えが行われていった。宮城県で1991年より稲作が始まったひとめぼれは当初ササニシキより風味が悪いとされてなかなか転換が進まなかったが、コシヒカリに匹敵する耐冷性や栽培が容易さなどから急激に置き換えられ、宮城県をはじめ各地域で奨励品種として栽培が広がっていった。また北海道でも品種改良が行なわれ、ゆめぴりかに置き換わった。一方かつてはコシヒカリとの二強であったササニシキは急速に数を減らし、ササニシキを基にした品種改良も失敗に終わったことで絶滅に近い状態となっている。


飲食関係編集

CoCo壱番屋大戸屋などご飯おかわり自由を謡ったサービスを行なっていたチェーン店は平成の米騒動を契機にサービスを廃止している。また、大戸屋はそれでもご飯が不足したことから当時は刑務所食と揶揄されていた麦飯や雑穀米を苦肉の策として提供したが、製麦技術の向上や健康志向もあってこちらは評判がよく、供給が改善された後も一般メニューとして提供するようになった。



アフリカへの米支援編集

高度成長期以降に特定地域の小中学校では慈善団体の要望で年に1回「飢えているアフリカの人のために米を支援しよう」と称して各家庭から米を持参・提供する風習があった。しかしアフリカで米を食べているのはごく一部であり、さらに食されるのは日本で主力だったジャポニカ種でなくインディカ種、つまりタイ米のほうである(ちなみにアフリカでは米はおかず扱い)。これについて「業者へ米を売ってその資金をアフリカへ送っている」と釈明する者もいたが、各家庭から品種がバラバラで劣化が早い精米済みの米を集めたところで加工用か工業用にしかならず、業者から足元を見られ買い叩かれるのがオチである。つまり米支援より募金したほうが米も無駄にならずアフリカのためになるのであるが、君のような勘のいいガキは嫌いだよとはいわんばかりに教育機関は黙殺した(一説には慈善団体や教育機関が結託してアメリカに米を送らずに闇ルートで売却し、得た金をポッケナイナイしていたとまで言われている。募金だとポッケナイナイが気づかれやすいためこうしたとされているが、真相は明らかにされていない)。しかし平成の米騒動で「日本が米不足なのにアフリカに送っている余裕はない」として一時中止となり、回復後もタイ米騒動で「日本の米を送ってもアフリカの人は食べないのでは」と保護者も察するようになったことから、いつしかこの支援は消滅した。

参照編集

wikipedia:1993年米騒動


関連タグ編集

米騒動 1993年


関連するフィクション作品編集

ドラマ

お金がない!:1994年に放送された織田裕二主演のTVドラマシリーズ。作中にタイ米を炊くシーンが出てくる。

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