『前提』の話をしよう。
全知全能の神々といえど、過去、未来に渡ることはできない。
ただし、神の御業(みわざ)とは何ら関係ない『強運』の人物がいたとしたら。
億が一、兆が一、極(ごく)が一……カオスのくしゃみに巻き込まれ、未来、あるいは過去の世界に辿り着けるかもしれない。
「私こそ清く、正しく、美しいLv.3、アリーゼ・ローヴェル! 【アストレア・ファミリア】の団長よ!」
「え……ええええええええ!?」
前置きが長くなったね。
これから語るのは、そんな時を越えてしまった、男の子の話ってことさ。
概要
小説『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』19巻の特装版として付属していたドラマCDである。
ベル・クラネルが本編開始の7年前の『暗黒期』のオラリオにタイムスリップし、リュー・リオンが所属していた【アストレア・ファミリア】の面々とリューの親友のアーディ・ヴァルマと決してあり得なかった出会いを果たし、リューから聞かされた彼女達の悲劇的な運命を変えるために、ベルが一人で運命に抗う異色の英雄譚。
『アストレア・レコード』で描かれた『大抗争』の前日が舞台となっており、所謂「アストレア・レコード」のIFルートとなっている(厳密にいえば、ある人物の生存IFルートとなっている)。なお、ベル自身は【フレイヤ・ファミリア】との『派閥大戦』後の世界からやって来ている。
登場人物
主要人物
【ヘスティア・ファミリア】団長の少年。Lv.5。
突如7年前の『暗黒期』にタイムスリップし、『闇派閥(イヴィルス)』と交戦する当時のリューとアリーゼ達と出会うことになる。
その後、アリーゼ達に指示された避難所に向かう最中、現状が理解できず夢か現実かも分からず混乱している時にアストレアと邂逅。彼女に未来から来たことを信じてもらうと、『大抗争』について知りたいと懇願して【アストレア・ファミリア】の本拠に居候させてもらう。なお、本名だと色々と都合が悪いとアストレアから言われたことで、「アル」(由来は英雄譚『アルゴノゥト』から)と偽名を使う(すぐに彼女達から偽名とバレるが)。また、ベルは眠った場合『夢が覚める(現実に戻る)』のではないかと直感的に確信して眠らないようにしている。
しかし、想像を超える『闇派閥』との抗争を目の当たりして自身の認識の甘さを悔いる一方、過去を変えてしまうことで自分がいた未来が変わってしまうのではという危機感を抱き、過去を変えるのは正しいのか思い悩むが、輝夜の一喝で彼女達を救うことを決意したベルは本拠を飛び出し、誰も頼れない現状もあり、単独で行動を起こす。
未来のリューから断片的に聞かされた情報をもとに、アストレアに未来の情報を送りつつ、顔を隠して狩人の如く『闇派閥』の襲撃を悉く潰し、存在自体知られていなかった『人造迷宮クノッソス』への単独襲撃など、神出鬼没で暗躍。
『闇派閥』を倒し、人々を救う謎の狩人の活躍は、民衆からは『正義の味方』と称えられる一方、【ロキ・ファミリア】と連動しているかのような動きから、彼らの協力者ではと推測されて『道化師(ジェスター)』とも呼ばれている(しかも、敵を一切殺さないという不殺を貫き、『クノッソスの鍵』である『ダイダロス・オーブ』を一つ奪取することにも成功している)。
しかし、二週間以上も不眠不休で行動し続けたことで限界を迎えそうになる中、ヘルメスと遭遇。実は、アーディを救うためにヘルメスの協力が必要と考えて、彼が来るのを待っていた。
アストレア以上に深く疑って警戒するヘルメスを信用させるべく、自身のステイタスを見せて彼の信用を勝ち取ると、ヘルメスに『ダイダロス・オーブ』を渡し、さらにある女神が所有している魔道具(マジックアイテム)の首飾りの入手を依頼し、無事に手に入れる。
ついに限界を迎えて自分の身体が消えかかっている時に、ヘルメスによって導かれたアーディが駆け付けると、彼女に首飾りを渡して、それをずっと身に付ける様にとお願いし、約束させる。その後、すぐにリュー達も駆け付けると、アリーゼ達に「あなた達に出会えて良かった」と感謝を述べ、リューには「正義は巡ります」「いつか必ず正義に辿り着けます」と述べ、消滅。
目覚めるといつもの部屋の景色が広がり、現実に戻って来たと確信すると同時に、未来が変わったのかを確認しに行くが……。
タイムスリップした理由は最後まで不明だったが、彼の『幸運』のアビリティが関係していることが示唆されている。
【アストレア・ファミリア】所属のエルフの少女。後に【ヘスティア・ファミリア】に所属する。
当時は14歳(今のベルと同い年)で、『闇派閥』の襲撃で現場に向かった先にベルと遭遇。見ず知らずのベルが仲間以外知らないはずの自分の真名を呼んだことで強く警戒し、『闇派閥』と疑って連行しようとしたが、ライラに一蹴されて止む無く避難を指示する。
アル(ベル)が居候することになった時も反対の姿勢を見せて強い不信感と警戒心を露わにしていたが、現在の雰囲気とは異なって周りからイジられて怒ったり慌てたりする姿を目の当たりにしたベルから「親戚の妹」を見るような微笑ましい目を向けられて、納得いかない様子を見せる。また、料理の腕が自分より明らかに上であると知った時はかなり悔しそうな様子で認めた。
アルが本拠からいなくなった後に現れた『道化師』について、『道化師』はヒューマンの男性であることと、アルが消えたタイミングで現れたため、正体はアルでないかと確信的に疑っており、最後にアルと言葉を交わした輝夜に詰め寄って一触即発となる。
アリーゼ達とともにアルを探しに向かうと、アーディと一緒にいる消えかかっているアルを発見。アルの姿に戸惑っていたが、アルから「正義は巡ります」「いつか必ず正義に辿り着けます」と伝えられて目の前で消滅した。アルが消えた後、混沌の理で、不自然に彼の名前と容姿が思い出せなくなっていた(存在していたことは覚えている)。
【アストレア・ファミリア】主神の女神。
ベルと邂逅した際、明らかに様子がおかしい彼を気遣い、相談に乗る。ベルが未来から来たという主張は信じがたかったが、ベルの口からまだ下界に降りてきていないはずのヘスティアの名前を出したことで、彼を未来から来た人と信じて彼を保護して自身のファミリアに居候させる。
ベルが抗争を目の当たりにした後、ベルに自分が過去を変えたら自分がいた未来はどうなるのかと問われるが、間違いなくベルが知る過去から逸脱し、ベルがいた未来は大きく変貌すると告げる。だが、それでも未来のことは神でも分からないため、ベルに正義を問わず、何か行動を起こしても責めることはしないと諭す。ベルが本拠を飛び出した後、ベルが消えた後に起こる出来事に対処できるように彼から未来の情報を伝えられる。
ベルが消滅した後、神ゆえにリュー達とは違いベルのことは忘れていなかったが、リュー達には自分も覚えていないと嘘を吐いた。そして、過去を大きく変えてしまったことでベルがいた元の世界とは大きく逸脱した別の世界へと変わってしまったと確信し、もう二度と未来のベルとは会えないと悟る。
【アストレア・ファミリア】団長。
居候することになったアルに対し、アストレアが信頼しているという理由であっさりと彼を受け入れる。だが、その日の夜にアルの部屋に訪れると、彼に真剣な様子で『正義ってなんだと思う?』と問い掛けた。すると、アルは「『ありがとう』って誰かに伝えること」と答えた。その理由を詳しく尋ねると、「『ありがとう』と言うことで、助けた方も助けられた方も笑顔になれる魔法の言葉だから」と答えたことで、彼の正義に感激して大いに気に入り、ついでにファミリアへの勧誘もしていた。
アルが本拠からいなくなった後に現れた『道化師』について何も知らないが、彼の正体がアルであると確信している。自分達を頼ってくれないことに悲しさを覚えるが、最初に部屋に訪れた時にアルが「寝たら『夢が覚める』」と言っていたことを思い出し、彼にはもう時間がないのではと推測する。
【アストレア・ファミリア】副団長。
居候の身となったアルをリュー以上に青臭い奴と見て毛嫌いしていた。だが一方で、アルの目の前で平然とパンツ一枚の下着姿で現れた上に自分の下着ごと服を洗わせようとするなど羞恥心の欠片もなく、アルを慌てふためかせる(しかも、アルはパニックになって下着を持ったまま外に飛び出たことで、アーディに下着泥棒と勘違いされる)。
過去を変えることに対し苦悩するアルから「もし、過去に戻っていたらどうしますか?」とたとえ話を問われるが、輝夜は「過去に戻った時点でそれはすでに今(現在)だ!」と断じ、悪い未来に変わるかもしれない危機に対し、「今を全力で生きぬ者により良き未来など訪れるものか!」等と罵倒するように答えた。だが、彼女の言葉によってベルは過去を変えることを決意する。制止を無視して本拠を飛び出して行ったアルに呆れつつも、青臭さが無くなったと見直す。
アルが本拠からいなくなった後に現れた『道化師』について、薄々彼ではないかと勘付いており、騒ぎ立てるリューに苛ついて諫めるが、アルと最後に言葉を交わしたとして何か知っているはずだろと言い掛かりのように詰め寄るリューにキレて一触即発となる。
【アストレア・ファミリア】所属の小人族(パルゥム)。居候することになったアルに対し、彼が作った料理を毒見したり痺れ薬入りの飴をあげるなど強く警戒していたが、純粋で素直過ぎる性格と分かると馬鹿らしくなって警戒を和らげる。ちなみに、飴は下級冒険者が食べると動けないほど強力(Lv.2なら指先が痺れる程度、Lv.3以上は何ともない)な痺れ薬が仕込まれていたため、それを食べて平気だったアルがLv.3以上の実力者と見抜いた。
その後にパトロール中に魔石製品工場を襲撃しに来た『闇派閥』を撃退するが民衆を庇って重傷を負い、それを見たアルが抗争の凄惨な現実を実感することとなる。
【ガネーシャ・ファミリア】所属の団員。団長シャクティ・ヴァルマの妹で、リューの親友。
正史では『大抗争』勃発時に『闇派閥』に唆された子供の自爆に巻き込まれて死亡している。
男子禁制のはずの【アストレア・ファミリア】の本拠から出て来たアルを怪しんで話し掛け、アルが輝夜の下着を持ったままだったことで下着泥棒と思って逮捕するが、アストレアが釈明したことで解放。
『アルゴノゥト』の話題を出したことで『アルゴノゥト』を始めとした英雄譚に詳しい上に新たな解釈を考えているアルに感激し、英雄譚のオタク談義で盛り上がって意気投合する。
行方が分からなくなったアルを探してたが、ヘルメスにアルの居場所を教えてもらって向かうと、身体が消えかかっているアルを発見。何が起きているのか分からず取り乱すが、アルから首飾りをプレゼントされ、それを肌身離さず持っていてほしいとお願いされると、照れや戸惑い、悲しみなど様々な感情が混ざったように涙を流しながら嬉しそうにそれを受け取って約束する。
アルが消えた後、勃発した『大抗争』で正史と同じく、子供の自爆に巻き込まれてしまうが……。
【ヘルメス・ファミリア】主神の男神。『闇派閥』を悉く潰し民衆を助ける謎の狩人『道化師』に興味を抱き、彼の痕跡を追い、彼からもヘルメスが自分の方から現れるのを待っていたと言われ、二週間以上も眠らずに行動し続ける彼の異常さと得体の知れなさに、「君は一体何者だ?」と真剣な様子で問い掛けた(その時、「ベル・クラネル」と明かした際、わずかに驚いた様子を見せる)。
交渉を持ち掛けるベルに対し、彼が未来から来たという主張をまったく信用出来ず、嘘じゃないと分かっていてもそう思い込んでいる等わずかでも否定できる可能性がある以上は一切信用しないほどの強い警戒心を持って臨んだが、彼が自分のステイタスを見せるという確実な証拠を見せられたことで、彼が未来から来たことを信じる。
信用を勝ち取ったベルから未来の情報と『ダイダロス・オーブ』を渡され、さらにある女神から魔道具の首飾りを手に入れて欲しいと頼まれ、かなり無茶なお願いだったが了承する。また、ベルから首飾りをアーディに渡して欲しいと頼まれるが、ヘルメスはそれを拒否し自分で渡さなければ意味が無いと諭し、ベルが消える前に入手に向かい、何とか手に入れてそれを渡すと、アーディと会ってベルの居場所を教えた。
ベルが消滅した後、『クノッソス』や『異端児(ゼノス)』等、ベルから教えられたとても手に余る情報に対して「とんでもない置き土産」だと苦笑いしていたが、七年後にオラリオに現れるだろう、この世界のベル・クラネルと会うのを楽しみにしている。
名前のみの登場
【ヘスティア・ファミリア】主神の女神。7年前はまだ下界に降臨しておらず、下界の人間が彼女を知っているはずがないため、ベルがヘスティアの名前を口にしたことでアストレアとヘルメスは彼が未来から来たと信用するに至った。
【ロキ・ファミリア】団長の小人族。
『闇派閥』の襲撃をたった一人で悉く潰して民衆を救う狩人(ベル)が、【ロキ・ファミリア】と連動しているかのように動いていたため関係者ではと推測されていたが、実際はフィンが狩人を利用して作戦を展開していただけにすぎず、ベルの方も「フィンさんなら僕を利用するはず」と確信して委ねていた。
『闇派閥』で当時最強とされた【アレクト・ファミリア】の団長・副団長のエルフの姉妹。魔石製品工場への襲撃を企てていたが、狩人に阻止された上に自派閥の幹部が捕らえられるという大きな損失を被ったことで怒り狂っていた模様。
『闇派閥』の【ルドラ・ファミリア】の調教師(テイマー)の猫人(キャットピープル)。
正史で彼等が引き起こした大規模爆発で『ジャガーノート』を誕生させてしまい、リューを除く【アストレア・ファミリア】を全滅させた元凶。
ベルは最優先で捕まえなければならない人物として必死に探していたが、結局捕まえることは出来なかった。しかし、ベルがアストレア達に2年後の悲劇を教えたことで【ルドラ・ファミリア】の動きを特に警戒されることとなる。
余談
原作者である大森藤ノ先生によると、狩人(ベル)に助けられたモルドが物資や情報を舎弟よろしく渡してた、ディース姉妹とバチバチに戦っていたところをヘディン師匠から援護を貰っていたり(自分のことを知ってるような動きをする狩人に師匠はマジ不快だった)、アーディは道化師の戦闘を一度目撃したことで正体に気付いて必死に探してた…など書け切れずに没になった描写がいくつかあったと言及している。
関連動画
ドラマCD試聴〈1〉
ドラマCD試聴〈2〉
関連タグ
アストレア・レコード アストレア・ファミリア アーディ・ヴァルマ
それは遥か彼方の静穏の夢(もう一つのIFルート。奇しくも時系列的に同じ時期)