迷宮(ダンジョン)が哭いた。
【絶望】が、産声を上げた。
概要
迷宮(ダンジョン)によって生み出されたモンスターの中でも、『ギルド』の記録に載せられていない未知数に満ちた怪物。
迷宮に対し悪意を持って過剰な破壊活動を起こした時、「破壊された組織の修復」よりも「破壊した者達の排除」を優先させた迷宮の意志によって生み出される事になり、生まれた階層にいる者を徹底的に駆逐する迷宮の免疫機能の様な役目を担っている。コンピューターで例えるなら、パソコンに感染してデータを過剰に破壊するウイルス(冒険者)を駆逐するウイルスバスターと言えるだろう。
祈祷によってモンスターの地上進出を防いでいるウラノスでも抑え込む事が出来ない為に「厄災」と称され、迷宮によって生み出されるモンスターの中でも、ある意味で異端児(ゼノス)以上のイレギュラーな存在となっている。
【ロキ・ファミリア】や【フレイヤ・ファミリア】といった最大派閥どころか、伝説の二大派閥である【ゼウス・ファミリア】や【ヘラ・ファミリア】でさえも、その存在を知る事は無く、本編の五年前、下層で発生した【アストレア・ファミリア】と『闇派閥(イヴィルス)』に与する【ルドラ・ファミリア】の抗争によって、初めてその存在が確認される事になっている。
その時に、初めて存在を認知したウラノスが、『破壊者』を意味する「ジャガーノート」と命名した。
本編の第四部における実質的なラスボスで、作者やファンからの愛称は「ジャガ丸」。
解説
外見はスケルトン系のモンスターであるヴォルティメリアやスカル・シープと特徴が似ており、装甲に覆われた紫色の恐竜の化石の様な巨大な外見をしている、体高は3M程で、それに4M程の長さを持った尾を備えており、脚は逆関節状となっている。
その戦闘能力は、上澄みの第二級冒険者でも殆ど歯が立たない程に強大で、両腕に6本ずつ備わった「破壊の爪(破爪)」は加工超硬金属(ディル・アダマンタイト)で構成された鎧や盾も容赦無く切り裂き破壊してしまう。また、『閃光』の称号を持つ下層最速のモンスター・イグアスを凌ぐ速度の機動力や運動性を発揮する上に、20M以上の高さを瞬時に跳躍し、索敵能力に関しても優れており、自分が生み出された階層にて生きている冒険者の居場所を素早く感知し、瞬く間に標的に襲い掛かる。更に、全身の装甲殻は魔法攻撃を容易く跳ね返してしまう『魔力反射(マジック・リフレクション)』の能力も持ち合わせており、それ故に魔術師タイプの冒険者だと全く戦いにすらならない。
なお、出現する階層によって戦闘力が変わるらしく、深層で召喚された場合は第一級冒険者の一党(パーティ)でも蹂躙し得る程の潜在能力を秘めている。事実、【アストレア・ファミリア】を殺害した個体は30階層で出現した事によって、本編の27階層で出現したジャガーノートよりも強化されている。
しかし、迷宮を破壊する者を駆逐すべく、「攻撃力」と「機動力」に特化した戦闘能力に反して、物理的な攻撃の「耐久力」に関しては著しく低い。また、寿命が極端に短いという欠点もあり、出現から短時間で自然に自壊してしまう末路を迎える事になる。その為か、モンスターにあるはずの魔石も体内に存在していないが、たとえ頭部を失おうが胸部を貫かれようが、全身を完全に粉砕されない限り、斃れる事は無い。全身そのものが魔石とも言え、寿命と引き換えに特化された能力から、迷宮にとっても「使い捨ての道具」として生み出された哀しい存在とも言える。
故に、うまく立ち回ってジャガーノートの襲撃から必死に逃げ続ける事が出来れば、何とか生き延びる事も可能となっているが、Lv.3~4の第二級冒険者であっても必殺を凌げる何かしらの防具がなければ殆ど太刀打ち出来ない事実からも、その欠点があまり問題になっていないのも確かである。
有効な戦法は、本編でベルがしたように、ひたすら近接戦闘(ブル・ファイト)に持ち込んで出鱈目じみた跳躍を封じる事である。
出現条件に関しては、「迷宮に対する大規模な破壊行為」という普通に考えれば無意味な行いでしかないのだが、それを下手に規制してしまう様な真似をすれば、「規制するには何かあるはずだ」と判断した冒険者や神達が面白半分に実行してしまう危険性があった為、やむなくウラノスも口外はせず「隠蔽」するという道を選ぶしか無く、それ故に現在もギルド側でウラノスやフェルズ以外に存在を知っている者は皆無である。また、当時唯一存在を知っていたリューにはフェルズが接触し、彼女の犯した襲撃事件に関してギルド側が追求しない条件として「ジャガーノートに関する情報を一切口外しない事」を要求している。
ただし、迷宮に住み、その存在を察知して誰よりも怯えていた異端児達には、あえてジャガーノートの存在を教えており、以降はジャガーノートの出現には至らないよう協力を仰いでいた。
劇中の様相
5年前の出現
30階層『密林の峡谷』にて【アストレア・ファミリア】が【ルドラ・ファミリア】を追い詰めていた際、彼らが【アストレア・ファミリア】を生き埋めにしようと迷宮内に仕掛けた大量の火炎石を爆破した時に突如現れ、リュー・リオンを除く【アストレア・ファミリア】、猫人(キャットピープル)のジュラ・ハルマーを除く【ルドラ・ファミリア】を全滅に追い込んでいる。
両派閥の団員達を次々と惨殺していく中、覚悟を決めたアリーゼ・ローヴェルとゴジョウノ・輝夜とライラの三人は、リューを生かすべくジャガーノートに特攻を決意。
視力を失い、最初に散ったライラは死に際に作動させた爆弾によってジャガーノートの右腕を奪い、片腕を失って小太刀の《双葉》をリューに託した輝夜は長刀で爆発的な脚力を発揮する脚部に斬撃を叩き込んだのと引き換えに解体され、最後にアリーゼは【アガリス・アルヴェシンス】を発動させて、自らの身体を破爪で貫かれるのと引き換えにジャガーノートの『魔力反射』の装甲殻を無力化させる。
その光景を目の当たりにしたリューの渾身の【ルミノス・ウインド】による攻撃を受けた結果、もはや魔法を防ぐ手立てを失ったジャガーノートはその場を撤退する事になり、役目を終えたこの個体はその後、自然に消滅した。
しかし、目の前でファミリアの仲間達を失ったリューにとって、このモンスターは「絶望」その物を象徴する存在となる。一方でジャガーノートの光景に魅入られたジュラは、ジャガーノートを自らの支配下に置くべく、五年を掛けて再度ジャガーノートを生み出す為の暗躍を重ねる事になる。
本編登場
召喚
「あの時、糞も小便も漏らしながら、調教師(おれ)は見惚れちまった!リオン、お前の目には化物に見えたか?俺は違ぇ!あいつが何よりも、それこそ女神よりも美しく見えた!!」
「何もかもブッ殺して、ブッ壊す、あの圧倒的な存在!!俺は欲しい、あれが欲しい、独り占めしたい!!!」
闇派閥が拠点として利用している『人造迷宮クノッソス』に身を寄せつつ、五年を掛けてジャガーノートに関する情報を集めて研究したジュラは、「迷宮に大規模(約2割)な破壊が行われるとジャガーノートが出現する事」を発見(地上に近い上層域は、ウラノスの祈祷が働いているために出現しない)。
ちなみに、ジュラがジャガーノートの出現条件を調べるための実験は以下の通り。
ダンジョンを爆破→何も起こらない
火力を上げて爆破→何も起こらない→モンスターから逃げる
火力を更に上げて爆破→ダンジョンがちょっぴり呻く→モンスターに殺されかける
これの繰り返しで40回ほど死にかけるも、五年前と似た兆候を観測できた。
クノッソスの存在が発覚し、【ロキ・ファミリア】と【ガネーシャ・ファミリア】と【ヘルメス・ファミリア】によって本格的な攻略が行われたのを機に、闇派閥を見限る事を決意したジュラは、狼人(ウェアウルフ)のターク・スレッドやかつて自身の片腕と片耳を奪ったリューを利用する形で、ジャガーノートを出現させる為の本格的な暗躍を開始する。
ジャガーノートを迷宮に出現させる為に最も理想的な場所として、ジュラは25~27階層の『水の迷都』を選び(『巨蒼の滝(グレート・フォール)』によって三つの階層が一つの巨大な階層として繋がっていた事で、損傷を共有する形で迷宮が危機的状況と錯覚すると判断した)、自身が囮になる形で復讐の対象となるリューを誘き寄せ、自らが『大蛇の井戸(ワーム・ウェール)』で彼女やベル・クラネルと交戦する隙を突く形で、タークたちが水の迷都を火炎石で連鎖的に爆破。これによって迷宮が「哭いた」事により、遂にジャガーノートは再び生み出されてしまう。
下層での対決
新たに生み出されたジャガーノートは瞬く間にボールス・エルダーが率いる冒険者の討伐隊を襲撃し、50人以上の冒険者達を抵抗の隙を与える間もなく殲滅。『水の迷都』の水流を血の色に染める程の惨劇をもたらし、駆け付けたベルも装甲殻によって【ファイアボルト】を反射させた挙句、《ヘスティア・ナイフ》を持った右腕を切断し、尾で薙ぎ払い瀕死の重傷に追い込んでいる。
その後も、次々と冒険者達を容赦無く惨殺していき、見かねて仕掛けたリューに対しても、彼女の所有する第二級武装である木刀《アルヴス・ルミナ》を破壊に追い込んだ上で撃退。ボールス達の魔法や魔剣による反撃も魔力反射によって返り討ちにし、身を挺してボールスを逃がしたリューを痛めつけていく。
しかし、マーメイドの異端児であるマリィによる『マーメイドの生き血』を使った治療によって復活したベルと交戦。自身の破爪による攻撃をゴライアス・マフラーで防いだベルの反撃により、右足の逆関節を攻撃された事で高速跳躍を封じられる。更には自らの魔力反射を逆手にとられ、反射した【ファイアボルト】をベルにヘスティア・ナイフで受け止められる。そして、「魔力反射の間に無防備となってしまう」という隙を突かれる形でベルに必殺技の【聖火の英斬(アルゴ・ウェスタ)】の発動を許す。初めて見る技に爪で迎撃もしくは装甲で反射できるのか逡巡した結果、後方への回避を選択するがゴライアス・マフラーに動きを封じられ、逃げる事も叶わないまま、今度は逆に自身が右腕を吹き飛ばされてしまう事態となった。
しかしそこへ、ジャガーノートを使役しようと目論んでいたジュラが、ジャガーノートの首に闇派閥が調教用のアイテムとして開発していた伸縮自在の首輪を付ける事に成功するが…
「はははははははっ!!!!さあ、殺れ、殺っちまえ!!てめえのその『爪』で―――」
操る事などは叶わず、そのままジャガーノートは、尾で薙ぎ払う形でジュラを上下真っ二つにする形で殺害する。
だが、そこへリューが撃退したと思っていた『ワーム・ウェール』がベルとリューの二人を飲み込み、そのまま本来の住処であった深層へ潜航する形で逃げられてしまう事になるが、ジャガーノートは『ワーム・ウェール』の空けた穴に飛び込む形で追跡を行うのだった。
本来、ジャガーノートには、特定の対象を深く追い回す様な習性など無かった。
だが、何の因果なのか、ジュラによって付けられたその首輪によって、本来無かった自我が芽生えてしまったジャガーノートは、自身に深いダメージを負わせたベルを抹殺対象と認識。彼(ベル)を執念深く追い回すキリング・マシーンと化し、自壊する事無く深層まで追い続けるに至ったのである。
深層の37階層にまで辿り着き彷徨う中、ジャガーノートは自らの存在理由について自問自答し続けていた。
『母』である迷宮の為だけに生まれ、魔石もドロップアイテムも残さず誰からも覚えられないまま消えていく自身の運命を達観していたジャガーノート。
殺戮だけが自分の存在意義である事を自覚し、同じモンスターにさえ恐れられ、短い時間の中でしか生きる事を許されない自分の存在について、別に儚いとも哀しいとも想ってはいなかった。
ただ一つ、自身に大きなダメージを与え、初めて「恐怖」という物を教えた白い獲物(ベル)。
あの存在を認めてしまえば、自分が何の為に生まれたのか分からなくなり、それだけは絶対に嫌だと感じたジャガーノートは、『自分自身』の意志で考え行動する事を決意。
もはや『母』の意志さえも全く受け付けなくなったジャガーノートは、たった一人の人間を狂おしい程までに求め殺す為だけの『怪物』として縛るものから解き放たれ、自らの失われた右腕と尾を取り戻すべく、同族であるはずのモンスター達を捕食し、その一部を取り込む形で自らの失われた右腕と尾を再生させる(スカル・シープの頭骨、バーバリアンの繊維、スパルトイの骨、リザードマン・エリートの鱗、オブシディアン・ソルジャーの体石等)。
この迷宮でさえも予期していなかった異常事態(イレギュラー)と共に、モンスターの一部を利用した合成獣(キメラ)となったジャガーノートは、冒険者だけでなく同族のモンスター達をも容赦なく殺す「真の殺戮者」と化したのだった。
深層での対決
モンスター達を喰らって自らの身体を回復させたジャガーノートは、37階層の『獣の間』にて、さながら最後の試練の如くベルとリュー二人の前に立ちはだかる。
ベルに受けたダメージによって以前の様な機動力を失いながらも、新たにスカル・シープの一部を利用した「骨の杭突(パイル)」を飛ばす攻撃能力等を得たジャガーノートは、障害物の無い場所による有利もあって、射出した杭突で腹部を貫く形でベルに致命傷を負わせる。しかし「【ファイアボルト】による火を利用した焼灼止血によって傷を塞ぐ」という強引な応急処置を用いて凌いだベルとリューには、自身の通れない狭い通路へと逃げ込まれてしまい、手が出せなくなる。
それでも、執念深くベルを追い詰めようと36階層へと通じる出入り口で待ち構える。
そして…
ベル「…お前を、倒す。リューさんと…地上に帰るんだ…」
「───勝負だ」
既に満身創痍の身で姿を現しながらも、覚悟を決めて自身に立ちはだかろうとする獲物の姿に、無機的に虐殺をばらまくだけであったジャガーノートは、初めて「歓喜」という感情を覚え、自分を与えてくれたベルに感動を、そして「出会い」に心から感謝するかの様に、天にも届く歓声をもって受け入れ、ベルとの壮絶な一騎打ちを繰り広げる。
熾烈な攻防戦を繰り広げる中、意識を取り戻したリューが現れ、1対1の決闘に水を刺された事に最初は怒りを感じる。しかし、トラウマを乗り越えかつての自分を超克しようとする気迫を見た結果、彼女もまたベルと同様、自らが全力で狩るに値する存在であると認め、1対2の対決へと展開する。
ベルとリューが最大の技で対抗しようとしてくるのに対し、ジャガーノートは全方位に向けての杭突射出を行うが、ベルが発動させた【聖火の英斬】によって杭突の全てだけでなく補強させた右腕が爆砕させられ、残された左腕の破爪も輝夜の形見である《双葉》を用いたリューによって破壊。そしてベルが零距離で叩き込んだ【ファイアボルト】により、『魔力反射』の装甲殻や右半身を補強していた『オブシディアン・ソルジャーの体石』も吹き飛ばされ、最後は【ルミノス・ウインド】の10の光球を散って逝った【アストレア・ファミリア】の仲間達に見立てたリューの戦法によって、止めを刺される。
ベルとリュー、二人の冒険者を狩るべく残りの命の全てを注ぎ込もうとしたジャガーノートは、断末魔の悲鳴も、怒りや怨嗟の声も残さず、ただ静かに、全てを受け入れるかの様に砕け散る形で、その生涯を終える事になった。
全てを出し尽くして、倒れるベルとリューの二人。
二人は深層からの自力での脱出こそ失敗したものの、ジャガーノートを撃破した直後に駆け付けて来た異端児達によって二人は発見され、そこへ【ヘスティア・ファミリア】、そして【豊穣の女主人】の仲間達が駆け付ける形で、無事に生還を果たす事になるのだった。
関連タグ
ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか ダンまちの登場モンスター一覧
アステリオス:ある意味似た者同士。
ジャガーノート、ジャガンナータ、ジャガンナート:名前の元ネタ。いずれもインド神話に関連している。ついでに言うと、ジャガーノート誕生の発端となったルドラもインド神話出身である。
クイーンエイリアン:作者があとがきで参考資料にしたと言及している。
ルーゴサイト:作中にて免疫機構に例えられている宇宙怪獣。こちらも過去にあるヒロインに影を落とす事件を起こし、最終的に主人公たちの活躍で討ち滅ぼされている。なお、ネタバレになるがこちらも第三者の裏工作が施されており、それによって普段からは考えられない暴走を起こしてしまったことが明かされている。
ハーラ・ジガント:主人公とヒロインのコンビに襲いかかった化石の怪物繋がり。こちらは遥か昔に死んで白骨化したところを悪意に満ちた第三者の手で再起動させられた。頭部だけになっても構わず主人公たちを追い詰める執念深さも、ベルたちを追い続けるジャガーノートを彷彿とさせる。
ここから先は、重大なネタバレの為に注意
異端なる存在として
【フレイヤ・ファミリア】との戦争遊戯(ウォーゲーム)終結からしばらくして…。
かつて深層でジャガーノートと死闘を演じたベルとリューの二人は、ヘディン・セルランドやヘグニ・ラグナール、ガリバー兄弟といった第一級冒険者達が護衛するという明らかな反則編成(オーバーパワード)の状態で再度深層の37階へと訪れる。
そこで待っていたフェルズから、ベルとリューの二人は30年前に37階層で出現した『闘技場(コロシアム)』が迷宮(ダンジョン)が意図的に異端児(ゼノス)達を誕生させる為に用意した『装置』で、その下部に隠されていた安全階層(セーフティポイント)と同じ機能を持った『蒼の道』は「闘技場(コロシアム)で誕生した異端児(ゼノス)を避難させる為に用意された保護所(シェルター)」であった仮説を聞かされ、驚愕する。
それを聞いたリューは、あくまでも『推測』の域を出ていないと当然の反論をするのだが、フェルズやリド、ウィーネ達は、その推測を「真実」であると断言出来てしまうだけの『証』を見つけてしまった事を明かす。
そしてベルとリューの二人がフェルズ達に見せられたのは、氷漬けになった魔物。
ベルとリューの二人が深層を彷徨い生還した後、フェルズが異端児達と共に『蒼の道』の調査を行っていた際に『闘技場(コロシアム)』から生まれたその魔物は、フェルズ達が駆け付けた瞬間、レイの片翼を切断し、リドやグロスとも対等以上に切り結んだ末、レイの怪音波で動きを封じた隙を突かれる形でフェルズが使用した魔道具(マジックアイテム)で封印されていた。
凍らせる前に「コロス」と喋った事で異端児(ゼノス)に間違いないとグロス達は断言し、竜種を想起させる全身に獣の骨の様な仮面を頭に被った外観から、リューは「スカル・シープ」、フェルズは「ペルーダの亜種」と推測したが、ベルは脳裏に疼く既視感と共に、氷に閉じ込められた魔物に「ある名前」で呼ぶ。
ベル「………ジャガーノート?」
その瞬間、魔物は骨の仮面の瞼に秘められていたベルと同じ「真紅の眼光」を輝かせ封印を破ろうとするも、フェルズによる再度の凍結によって再び沈黙の眠りにつく…。
そう…。
かつて迷宮(ダンジョン)の下層から深層を舞台にベルを執念深く追い続けた悪夢の存在であったあのジャガーノートは、史上最凶の異端児(ゼノス)として転生を果たしてしまっていたのだった…。
本来なら、ただ魔物が殺し合うだけの場でしかなった闘技場(コロシアム)では、憧憬(ノイズ)の入り込む余地が無い為に、異端児(ゼノス)が生まれる事は有り得なかった。
しかし、闘技場(コロシアム)の存在する37階層でベルと死闘を演じたジャガーノートは、アクシデントによって「自我」を得てしまい、そして彼に対する「狂おしいまでの殺意」と呼べる憧憬とは程遠い「餓え(ノイズ)」が入り混じった結果、「初めて闘技場(コロシアム)で生まれた異端児(ゼノス)」となったのである。
ベルの姿を目の当たりにした時の反応から、間違いなくかつて彼と死闘を演じたジャガーノートの転生した姿である事を確信したフェルズは、ベルにある「重大な決断」を迫る事になる。
異端児(ゼノス)として生まれ変わったジャガーノートを「処分する」か「処分しない」か…あまりにも危険過ぎる上に『人類との融和』を容易に瓦解させかねない彼(彼女)を野放しにしてしまうのは、冒険者どころか異端児(ゼノス)達にも多大な犠牲が出てしまうリスクがあり、流石にそれを看過出来ないフェルズは「処分する」事を考え、レイが重傷を負わされたとはいえ同胞を見捨てたくないリドやレイ、カール達は「処分しない」事を考えていた(この件に関しては、同胞への仲間意識が強いグロスでも、明確に答えを出せずにいた)。
それらに対し、ジャガーノートに大きな遺恨のあるリューからも「『正義』の多くには責任が伴う」と言われた上で判断をゆだねられたベルは、決断を下す。
ベル「僕の意見を聞いてもらえるなら…僕はこの異端児(ゼノス)を、殺したくないです」
「もしこの異端児(ゼノス)をここで殺したら…今までのウィーネとの時間が、全部嘘になるから」
「もしこの異端児(ゼノス)が取り返しのつかない事をしてしまったら、僕が責任を取ります」
もしかしたら大きな悲劇を招いてしまうかもしれない可能性があっても、「魔物であるウィーネ達との共存」を少しでも疑う様な選択を選びたくなかったベルは、一抹の希望に懸けてジャガーノートを殺さない道を選び、何処かでその選択を期待していたフェルズも、それを受け入れる形でジャガーノートの監視を続ける事になった。
果たして、このベルの選択は「希望」となるか?それとも「絶望」となってしまうのか?
その答えはまだ誰にも分からない…。
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アステリオス:共にベルへの執着から異端児(ゼノス)として転生した者同士。おそらく、ベルを巡る最大のライバルとなる可能性も…。