概要
『賢者イヴ』の血統の直系で、100年の時を生きた吸血鬼。物語が始まる10年前に勃発した吸血鬼と人間との争い『香港聖戦』では人間側についた伝説の英雄。その際にふるった武器から『銀刀』、あるいは『同族殺し』という異名を持つ。
来歴
本名は望月次郎。明治6年(1873年)1月29日に誕生。かつては日本海軍に所属しており、後に日本海軍の名参謀として知られるあの秋山真之とも親交を持っていた。
1895年、士官として赴いた地イギリスで、『賢者イヴ』の吸血鬼にして『始祖』アリス・イヴと運命の邂逅を果たす。二人は瞬く間に恋に落ち、ジローはアリスの牙を受け、以降は『護衛者』として彼女に付き添うようになる。それから約100年の間ジローはアリスと、もう二人の吸血鬼の友と一緒に世界を巡った。それは彼にとっても、他の三人にとっても幸福な時間であった。
―――1997年の『香港聖戦』でアリスを失うまでは。
聖戦では英雄と呼ばれるほどの活躍を見せるも、戦後はアリス・イヴの転生体である赤ん坊と共に北の地へと隠棲する。彼はその赤ん坊をコタロウと名付け、自分の弟として育て上げる。そして香港聖戦から10年後、コタロウの成長を見届けたジローは『護衛者』としての最後の役目を果たすべく、吸血鬼と人間が共存する場所、特区へと向かう。そこにはかつての仲間たちとの再会と、新たな出会いが待ち受けていた。
銀刀
吸血鬼にとって劇薬である銀を表面にコーティングした特殊な刀。対吸血鬼戦で威力を発揮する特殊な武器で、ジローが『同族殺し』と呼ばれる所以の一つである。彼はこの刀を用いて、香港聖戦で多くの伝説を築き上げた。
しかし吸血鬼に効果の高い銀だが、メリットばかりではない。通常、戦闘で吸血鬼が武器を用いる場合、力場思念※と併用するのが主流である。力場思念で武器に運動エネルギーを上乗せすることで、硬度や破壊力が上昇するからだ。だが、銀は吸血鬼の魔力を打ち消す作用を持つため、そうした力場思念との併用が難しくなるというデメリットが存在する。銀は吸血鬼の武器として非常にピーキーな性能を持つため、これを主武装として用いる吸血鬼は少ない。ジローはその数少ない吸血鬼の内の一人である。
※ 力場思念(ハイド・ハンド)=思念によって力場を形成する魔術。汎用性の高い念動力。
戦闘能力
香港聖戦の英雄と呼ばれているが、年齢的にはまだ古血(オールド・ブラッド)の端くれと言った程度で、本来の力はそれほど高くはない。ただ聖戦時にアリスからあるものを託されており、それの力が解放された際は始祖にも匹敵しうる強さとなる。
吸血鬼の基本能力である力場思念や視経侵攻※なども併用するが、メインはあくまで刀。薩摩の維新志士であった祖父の影響で示現流を修めており、吸血鬼となった現在もそれをベースとした戦闘スタイルをとる。ジローは100年以上の研鑽を積んだ剣士であり、剣の理合にも習熟している。だが、その剣技はやはり示現流独特の“意地”を通す剛剣を本質としている。
※ 視経侵攻(アイ・レイド)=自身の目を、対象の目と合わせることで精神干渉を行う魔術。
外見
赤い帽子とスーツが印象的な吸血鬼(ブラック・ブラッド)。やや高めな身長、スマートな体つき、肩にかかるほどに伸びた黒髪、線の細い顔立ちの、不敵な紳士然とした青年。人間であった頃はいかにも純朴そうな好青年であったが、100年以上の年月を経たせいか、現在ではややひねくれた顔つきとなっている。
人格
生真面目で頑固者。基本的には折り目正しい性格だが、ときに慇懃無礼に振る舞うひねくれ者でもある。斜に構えた態度をとることもあるが、それは後天的なもので、根はけっこうなお人好し。不器用で愚直、一度決めたことは中々曲げない面倒な人である。
人間であった頃はしっかり者の軍人であったが、吸血鬼となってからは『闇の母』の影響か遅刻魔だったり所々でKYだったりと、ずぼらでだらしない面も目立つようになった。
血統
様々な吸血鬼の血統の宿命を知り、またそれらの意思を守る賢き者。
『賢者イヴ』の始祖は月下において最古の血のひとつであり、その血を庇護し、そしてその使命に殉ずるものを『護衛者』と呼ぶ。
関連人物
・望月コタロウ。始祖アリス・イヴの転生体で、やんちゃで元気なジローの弟。兄弟仲はいいのだが、その能天気な性格のためジローにはよく拳で教育されている。ちなみに兄の呼称は「兄者」。ジローの守るべき存在その一。
・葛城ミミコ。特区に住むお人好しの調停員(コンプロマイザー)。吸血鬼にも物怖じしない性格の少女で、ある意味ではジロー以上の頑固者。兄弟が初めて関わりを持った特区の人間で、彼女の導きのもとジローとコタロウは特区に住まうようになる。ジローの守るべき存在その二。
・アリス・イヴ。ジローの最愛の君(きみ)にして、彼の『闇の母(ナイト・マム)』。始祖は吸血鬼たちにとって神にも等しき存在なのだが、彼女自身はそうした威厳とはわりと無縁。天然気質のボクっ娘美女。ジローの守るべき存在その一の元祖。
・カサンドラ・ジル・ウォーロック。通称カーサ。『魔女モーガン』の血統に属する混血の吸血鬼。天邪鬼なアリスの親友であり、その縁でジローとも深く関わるようになる。現在の月下で最も複雑な運命を背負った吸血鬼で、そのためジローとの関係も奇妙な因縁に彩られていくことになる。
・ケイン・ウォーロック。『魔女モーガン』の血統に属する吸血鬼。ジローよりずっと年上の吸血鬼だが、男同士ということもあってか、わりと遠慮のない関係。顔を合わせる度に皮肉の応酬をする程度に仲がいい。
・陣内ショウゴ。カンパニーの調停部の部長。悪巧みが大好きな理想主義者で、ジローの悪友とも言うべき人物。ジローの戦友で、また吸血鬼(ブラック・ブラッド)と人間(レッド・ブラッド)の共同戦線をまとめあげた、香港聖戦の影の英雄でもある。
・赤井リンスケ。カンパニーの査察部に所属する職員。陣内と同じくジローとは香港で出会って以来の腐れ縁。女口調のふざけた態度をいつもとっているが、実際は情に厚い性格をしている。10年前の香港ではジローの弟分であったが、年齢を重ねた現在では対等な友人となっている。