格安航空会社
かくやすこうくうがいしゃ
様々な機内サービスを簡略化し、ローコストでの運営を行う航空会社のこと。「LCC」という名称は「Low-Cost Carrier」の略である。
機内食等の無駄な機内サービスは一切省き(または有料オプションとして扱い)、その分料金も破格のものにしてしまうという、従来の航空会社(現在ではレガシーキャリアやフルサービスキャリア・FSCと呼称される)のあり方を根底から覆すような新種の航空会社である。
航空業界の自由化・規制緩和に伴って欧米で台頭し、21世紀に入ってから各社とも事業を急拡大させた。特にライアンエアー(アイルランド)などが現れたヨーロッパではかなりLCCの破壊力が大きかったようで、2019年にはライアンエアーがルフトハンザグループを抜いて欧州での旅客数トップを記録、この他LCCが大量の拠点を構えた東欧の国々を中心にフラッグ・キャリア級の航空会社(マレーヴ・ハンガリー航空やアドリア航空など)が相次いで倒産するなど、良くも悪くもではあるが航空業界に大きな波を引き起こしたと言える。
日本や東洋の国々でも近年になってPeach Aviation(日本)のようなLCCが台頭しており、ヨーロッパやアメリカほど人気は出なかったがそれなりの人気を博している(ただし韓国ではLCC同士の競争がかなり熾烈)。
- 機材はA320やB737などのナローボディ機で統一
サウスウエスト航空(アメリカ合衆国)や先述したライアンエアーはボーイング737シリーズ、イージージェット(イギリス)やウィズエアー(ハンガリー)はエアバスA320シリーズを統一して導入している。
B787やA350のような他機種の導入は運営コストの増加に繋がってしまうからである(乗務員や整備員の教習などで余計な費用を生むことになるため。FSCは初めから短距離・長距離路線双方を運航することを目的としており、機材にかけるコストも高い)。
これ故に、殆どのLCCは欧州〜日本路線といった本格的な長距離路線には参入していない(そもそもこのようなロングフライトでは機内食や寝やすい環境が必須となるため、短距離LCCのような最低限のサービスでは乗客が耐えられないという問題がある)。
しかしながら、近年ではB787のような機材を導入し、オプション制のサービスを導入することで(短距離LCCよりはやや割高だが)FSCより安い運賃を実現して長距離路線を飛ばす会社も現れており、コロナ禍で規模を縮小する前のノルウェー・エアシャトルがその代表例であった。
2020年代に入ってからはJALグループのZIPAIR Tokyo(B787に機材統一)が日本で初めて長距離系LCCとして事業を開始している。
先述したサウスウエスト航空のような超格安の部類に入るLCCでも、技術の進歩に伴って現れた最新型のB737MAXやA320neoなどでは中距離クラスまでなら航続距離的に耐えられることも多く、近年路線網の範囲はかなり広くなっている。例としてライアンエアーのような欧州のキャリアなら、欧州から中東・アフリカ北部あたりまでのエリアまでカバーしている。
長距離系の場合は上級クラスが存在することもあるが、短・中距離系では基本全席がエコノミー、座席数を多めにしてピッチは狭めでツメツメ、そもそも革張りもなし、リクライニングもなし、座席指定も追加オプションとして扱う、など色んなところで快適性を徹底して犠牲にすることで格安運賃を実現している。
ただし、できるだけ少ない機数で効率よく運航しようとする傾向にあるため、機材にトラブルが起きたときに予備機がなくて詰む状況が起きやすく、欠航率が高めという難点がある。
これらの機体は全てリースで賄っており、整備は法律で定められた必要最低限とすることで整備費用を抑えつつ、メンテナンスフリーな新型に頻繁に置き換えている。そのため経年で壊れやすい機体はあまり使われない。
- 予約は乗客自身にやらせる
FSCは搭乗券を購入する場合、航空会社カウンターや電話での予約、或いは旅行会社に依頼するなどして「○○から××に行きたいんだけど」と申し込むというのが多かった。
しかしLCCの場合、航空券販売コスト低減のため予約は自社サイト・アプリや或いはコンビニのメディアキオスク端末などから「自力で」申し込むことを前提とし、カウンターに配置する人員を省略するということが多い。
つまり、予約は自力でということである。
このため、機体に自社サイトのアドレスを大きく書いて宣伝している会社が多い(極端な例では、英国の「Jet2.com」はサイトアドレスがそのまま社名となっている)。
- 機内サービスは最小限だが、オプション制のサービスで小遣い稼ぎ
LCCの機内サービスは基本的に「毛布貸し出し程度」に簡素化されており、機内エンターテイメント用の設備もスマホで利用するものに代用する、専用の端末を貸し出すなりして省かれる。預かり手荷物も大きさや重量の制限が厳しく、制限を越える手荷物の持ち込みは追加料金を取られる(空港カウンターには荷物サイズをチェックする置物が置かれていることが多い)。
その一方で機内販売(オプションのサービス)を盛り込んで、この売上も「収入源」に加えるというのが基本である。機内食は基本オプションのサービスとして扱われる(多くの利用者は空港で機内持ち込みできる食べ物飲み物を買うことが多く、買ってもらえることは稀であるが)。
機内販売以外では、機体そのものやシートバック、荷物入れの蓋などありとあらゆる場所を広告スペースにして、収入源としているケースもある。
- スタッフの人件費も削減
パイロットなどのスタッフは自社養成しないかしても最小限にとどめ、有資格者・経験者の中途採用が多い。空港での搭乗手続きもほぼ無人化されている。整備についても大規模なものは他社に委託し、整備設備は自社で保有せず整備士も必要最低限しか雇わない。
また一般的にFSCではスタッフが空港間を移動する際には航空機に無料で乗るが、LCCの場合はスタッフの移動すら自腹である。
- 欠航時の保証は存在しないかオプション制
LCCでは遅延・欠航時の返金や他の交通機関への振替は基本的に出来ない。返金対応があるものでも、現金ではなく自社専用のポイントとして返される場合もある(Peach Aviationがこれに該当)。
- 地上施設の使用は最小限
空港のボーディングブリッジの使用料もかなり痛い出費となるため、沖止め(ボーディングブリッジに繋がず、乗客を離れたところまで送迎バスで移動させる。乗降はタラップで行う)にすることが多い。関西国際空港の第2ターミナルのような設備を簡素化したLCC専用のターミナルも存在する。
以上のような工夫がなされたことで、我々庶民にとって空の旅はより気軽なものとなった。
しかし(これはごく一部のLCCに限られるが)バリュージェット航空(アメリカ合衆国)やアダム航空(インドネシア)などのように経費削減を徹底するあまり保安面などの削ってはいけない費用まで削ってしまったケースもあり、そのような会社はどれもこれも重大事故を起こしてあえなく潰れたというオチを辿っている。
某航空事故検証番組で取り上げられた上記2社のインパクトが強かったためか、メーデー民などの間では「LCC=事故フラグ」という認識が広まりがちなのだが、実際には安全なLCCの方が圧倒的に多く、例として上述したライアンエアーは1985年の創業から2024年に至るまで死亡事故ゼロ、サウスウエスト航空も2018年に死亡事故が起こるまでは無傷の記録を持っていた。
そのため、余程事故の記録が多い会社でもなければFSC・LCCを問わず安心して乗ることができると言えるだろう。
格安航空会社ながら2023年時点で欧州エアラインとしての乗客数は2位のルフトハンザグループを上回り1位、名実ともにヨーロッパ域内最強の航空会社である。
機材はボーイング737(2024年現在はMAX、NGシリーズ)で統一されている。
その大正義っぷりもさることながら、"Bye Bye Latehansa"(ルフトハンザ航空の遅延をネタにしたフレーズ)を平然と機体に書き込んで運航するなど、欧州の同業他社を積極的に攻撃する邪悪っぷりや、LCCであるが故に生じる乗客のぶっ飛びようなど、とにかく色んな意味で奇抜であることがよく知られている。
ロゴはアイルランドの国章である竪琴に由来する。
ヨーロッパ域内6位の会社で、鮮やかなオレンジの機体が特徴。
こちらはエアバスA320シリーズで機材統一されている。
ライアンエアーの対抗馬として順調に事業を拡大している。
ヨーロッパ域内7位の会社で、イージージェットと同様機体塗装がかなり派手。
エアバスA320シリーズで機材統一されている。拠点となるハンガリー(ブダペスト)が東欧にある関係上、東欧方面で滅法強い。近年はアラブ首長国連邦のアブダビに支社を開設し中東や中央アジアなどでも攻勢を強めており、ヨーロッパに限らない活動範囲を持つ。
格安航空会社の元祖ともいえる存在。
機材統一のアイデアをいち早く編み出したのはこの会社で、創業からボーイング737に統一した運用を行っている。2023年時点でサウスウエスト航空は800機以上のB737を運用しており、当然ながら単一機種として世界一の機数を運用している会社でもある。
家族的な社風や「愛」を全面に押し出したブランド展開などでも高く評価されている。
カンタス航空の関連企業。オーストラリア国内やニュージーランド方面の短距離路線に加えて、ボーイング787を用いた日本などへの長距離路線も運航している。
チャイナエアライン傘下。元々チャイナエアラインとシンガポール航空傘下のタイガーエアとの合弁で設立された企業なのだが、大元のタイガーエアがスクートと合併したことに伴い唯一タイガーエアブランドとして生き残った企業となる。とにかく日本の地方空港への就航が多く、国際化を目指す各々の地方空港にとっては救世主ともいえる存在となっている。
今でこそかなりまともになり順調に事業を拡大しているLCCと言われているが、創業当初(2012年頃)には客室乗務員にビキニを着せたきわどすぎるサービスを行いベトナム当局から罰金を課せられるなど、ライアンエアーに負けず劣らず頭のネジが外れていた会社として注目されていた。
トニー・フェルナンデスによって2001年に1リンギットで買収されてから大幅に勢力を拡大した、東南アジア最大にして世界屈指の規模のLCC。東南アジア各地にグループ企業を抱える企業グループでもある。しかし、後述の通り日本の国内線には2度にわたって進出を試みるも、いずれも撤退する羽目になっている。
短・中距離LCC
全日本空輸系の格安航空会社。2019年にバニラ・エアを吸収合併し規模を大幅に拡大、現在では日本最大のLCCとして名を馳せる。機材はA320シリーズで統一。拠点空港は大阪・関西国際空港。大阪に拠点を置くためか、機内アナウンスに関西弁を多用することでも知られている。
上述した豪州ジェットスターの日本法人であり、カンタス航空・日本航空・三菱商事の共同出資で設立された。機材はA320シリーズで統一。拠点空港は成田国際空港。
- スプリング・ジャパン(旧春秋航空日本)
春秋航空(中華人民共和国)及び日本航空の出資で設立された。機材はB737シリーズで統一され、上記2社とは異なる。拠点空港は成田国際空港。
- 2代目エアアジア・ジャパン(2020年に消滅)
エアアジア(マレーシア)の子会社。初代のエアアジア・ジャパンは全日本空輸との合弁交渉が決裂してしまい、バニラエアに社名変更する形で名前が消滅。2014年にリベンジすべく名古屋・中部国際空港を拠点に2代目日本法人を設立するも、それも新型コロナウイルス禍のためにあっさり倒産してしまった(しかもこの際には航空券購入者に対する返金すらも出来なかった)。
長距離LCC
日本航空の完全子会社である新しい長距離LCC。2020年に運航開始。機材はB787シリーズで統一、上級クラスが存在する。拠点空港は成田国際空港。なお、国内線の運航は行っていない。
全日本空輸系の長距離LCC。2024年に運航開始。機材はB787シリーズで統一、こちらも上級クラスが存在する。拠点空港は成田国際空港。ZIPAIRと同様、国内線の運航はなし。運航開始時に1機しか機材がなかった関係上、機材のやりくりで詰んでしまい就航地のタイ・バンコクで騒動となった過去を持つ(上述したLCCの難点が噴出したケースと言える)。
MCC(リージョナルキャリア)
格安航空会社に分類されることはないが、ビジネスモデルがLCCにかなり近い日本の国内線のみを運航している会社がいくつかあり、MCC(Middle-Cost Carrier)やリージョナルキャリアと呼ばれることがある。代表的なものとしては規制緩和後一番乗りとなったスカイマークをはじめ、スターフライヤー、ソラシドエア、エア・ドゥなどがこれに該当する。なおスカイマークは公式にLCCであることを否定している。