概要
歴史の裏で暗躍し続けている邪教結社。
現体制により虐げられている、とされる者たちの救済と、そのための現体制による秩序の崩壊(世界の混沌の招来)を理念として掲げている。
が、その真の目的は、この世界に生きている自分たちを含むこの世界に存在する生けとし生けるものに対する裁きとして「世界の終わり」(世界全生物の滅亡)をもたらす事。
要はタチの悪い世界規模の無理心中強制組織であり、そこに一切の利がない(害しかない)あり方のため正体を知るのが非常に困難になっている(どのような陰謀においても基本的に「1番得をするのは誰か?」と考えられるため、「みんな死ね」しかない者は候補に上がりづらい)
実は最初の時間軸におけるティアムーン帝国で起こった革命の裏で糸を引いており、主人公のミーアがギロチンで処刑されたことの元凶とも言える存在である。本編の時間軸においても、ティアムーン帝国をはじめとする国々を破滅へと導くために様々な陰謀を巡らし、ミーアの前に立ちはだかる。
信者には、サンクランドの風鴉やティアムーン帝国の初代皇帝、レムノ王国の第一皇女と言った各国の王族や重鎮などもいる。
"結社"とは言うものの実態は「同じ経典によって価値観を共有した人々の横の連帯によって成り立つ"個の群体"」である。その連帯は基本的に複数存在する蛇導師によって機能するが、必ずしもそれは必須ではなく信者単体でも既存の組織に寄生して周囲を操りそれなりの策謀を動かせたりする。
大体、無敵の人同士が同志となり相互不干渉を前提に結託して成立した群れと考えれば間違いは無い。
そのため「尻尾を潰しても意味はない」「頭を潰しても尻尾が生き残って頭に変ずる」「バラバラにしてしまえば、バラバラにしたそれぞれが分裂した分体となって活動する」と、まぁそれはそれはタチの悪い集団であったりする。ゆえに結社の構成員は「(人の生死の在る限り)蛇は死なない」と表現する。
その一方でルードヴィッヒとディオンは「蛇といえども実際に動くのは人間」と評しており「人間相手である以上、過剰に怖れず相手を冷静に観れば対策は可能」だとしている。
また、ミーアベル・ルーナ・ティアムーンは朗らかに「死なない相手なら眠らせ続ければいいだけです」と断言している。
経典
『地を這うモノの書』という蛇の描かれた黒い表紙の本を経典としており、その経典には論理的な思考の方法、効果的な論破や洗脳の(悪用)方法、多種多様な「論理のすり替え」の方法、人の信望の集め方、それらを駆使した組織や民族の乗っ取りや国崩しの方法などが網羅されている。
書かれている内容に「論理的な思考の方法」とあるように、いわゆる「効率厨」の人間には非常に琴線に触れる上ココロにブッ刺さる内容になっており、言うなれば「頭が良ければ良い人間ほど、また、本書の内容を論破してやろうと頭を働かせている人間ほど、その分、この経典にハマる可能性が高くなる」というブツ。
ある意味では、この経典そのものが凶悪な洗脳書とも言え、意思の弱っている時(もちろんターゲットの意思の弱らせ方も、この経典に書いてある)に、この経典を読ませただけで、いかなる強固な意志の持ち主でも老齢かつ老獪な賢者でも、コロっと蛇の信望者に早変わりするという、ある意味とんでもねぇ書物である。
構成員の分類
いかな混沌の蛇とはいえ、まったくもって一枚岩の組織というわけではない。むしろ個の連帯による組織ゆえに、その行動には一貫した制御を得ているわけではなく、むしろそれぞれの思惑を持って蛇に関わっている状態の場合が多い。もちろん、その中には蛇の最終目的に関しては懐疑的な人も多かったりする。
協力者
蛇の活動に対して便宜を図る者。
基本的に蛇の理念はどうでもよくて彼らに協力する事が自らの利になると考え(あるいは、親しい者が蛇の一員であったり、または蛇に弱みを握られたり人質を取られていたりするために)とりあえず日常の活動に無理の無い範囲で協力する消極的協力者と、蛇の理念と理想に共感し構成員に積極的に協力する積極的協力者がいる。
信者
経典『地を這う者の書』を持ち、その内容に従って蛇として活動を行う者。
こちらも現状を維持しながら、ゆるやかに蛇の世界へと導いていくスタンスとしては協力者に近い一般信者と、積極的に活動し急激な変革をもたらし世界を動かそうとする狂信者が存在する。
蛇導師
混沌の蛇における司教ポジの人員。世界を流浪して蛇の教えをバラ撒くとともに、協力者および信者間の連絡を担い、策謀の立案や策謀間の相互調整を行っている。
巫女姫
蛇の教えに従い、これを説く巫女。一部の人々の信仰の寄辺となるシンボル。ある意味では蛇導師の一種でもある。
『地を這うモノの書』の導きに従い陰謀を巡らす役割を持つ。実は火族の中に入り込む中で人々の求心力を得るために立てられたもの。代々には火族の女性が役を務めていたが、現在は別の人間に代替わりしている。
第四部終盤において、その正体を顕す。
古き蛇(旧き蛇)
これは上述した各カテゴリとは趣を異にする分類。
混沌の蛇が現在のシステムを確立する以前より「蛇」であった者(一族)たちであり、その子孫。
代々において独自の蛇へのスタンスを持っており、蛇導師であっても(逆に自らが喰われかねず、現在の蛇のシステムを瓦解させられないため)迂闊には接触できない。
構成員
- ジェム
レムノ王国に暮らす男。ジェムという名前はレムノ王国で「名無しのジェム」と言われるほどありふれた名前であり、本名であるかどうかは不明。レムノ王国の民衆の味方「革命軍」を名乗っているが、何故かサンクランド王国やティアムーン帝国にも姿を表すことがある。芝居がかったような熱っぽいセリフを言うことがある。
“蛇”の狂信者で、サンクランド王国に諜報部隊「風鴉」の一員として潜入して様々な策謀を巡らせ、最初の時間軸におけるティアムーン帝国の革命や、本編の時間軸におけるレムノ王国の革命騒動の原因を作り出していた張本人である。
最初の時間軸ではミーアの悪い噂(でっち上げ)を流しシオンとミーアの関係を悪化させ、ベルマン子爵にルドルフォン辺土伯への対抗心を煽るよう働きかけ、静海の森を切り開くように誘導。そのために森の木を原料としたミーア皇女の宝石箱(ミーア姫の呪い箱)を制作しベルマン子爵を通じて献上させ、ミーアからルールー族の鎮圧命令(のち書類を書き換えて殲滅(ジェノサイド)命令に捏造)を引き出しルールー族に対する虐殺および民族破壊と百人隊全滅の悲劇を導く。
さらに飢饉時にルドルフォン辺土伯を拉致・監禁。のちに暗殺した上で「皇帝がルドルフォン伯を処刑した」という「風説の流布」を決行。ティオーナを決起させ、ティアムーン革命を導く。
革命成功後は、用済みとなった、ティオーナ・シオン・ラフィーナの交流に楔を打って疎遠にさせ、また革命政府の瓦解工作に奔走。ルドルフォン伯の死の真相をバラし革命の大義を失墜させてティアムーンを分裂させ各領の独立や周辺各国への統合を推進させ戦国状態に至らしめる。さらにレムノ王国にも革命の因子を蒔き、モニカ・ブエンディアにアベルを始めとする王族たちを暗殺させティアムーン同様に滅亡させた。
この間にも、自らが作り上げた「ミーア皇女の宝石箱」を効果的に使い、自らが貶め暗殺した人々の死を「ミーア姫の呪い」として演出。
単にミーアをギロチンに導いたのみならず、その死すらも利用した上で、彼女の魂の尊厳や誇りすらも踏みにじってとことん利用しつくし、ミーアを殺人鬼の怨霊として仕立て上げ貶め辱しめた邪悪といえる人物。
さらに後にはシオンに対して自らの息のかかった令嬢をあてがい、彼女を通してシオンを動かし(悪辣な事に令嬢には自身がジェムや蛇に荷担している自覚がこれっぽっちも無い状態)彼を断罪王へと導いた。
現在の時間軸では死に戻ったミーアが革命を導く因子を次々に排除。このため焦る事になりレムノ王国で革命を起こすよう予定を早めた。
最終的にミーア達によって彼の計画は全て破綻し捕らえられる。
捕らえられた直後は、「命までは奪わない」というミーアの言葉を嘲笑ったが、続けて「聖ヴェールガ公国のラフィーナに3年間毎日お説教をしてもらう」という罰を提案された時は酷く狼狽した。
そして、ミーアのこの選択が「混沌の蛇」の存在を白日の元へと晒す事となる。
余談だが、舞台版第1弾で彼を演じた春見しんやは、同作で殺陣も担当している。
- バルバラ
ティアムーン帝国の四大公爵家の一つであるイエロームーン公爵家の従者を務める初老の女性。67歳。同家の令嬢であるシュトリナの専属メイドであり、教育係でもある。本性は嗜虐的な性格であり、王侯貴族に対して強い恨みがあるらしく、シュトリナやその父ローレンツ公爵に対しての当たりも強い。
- 火馬駆(カ・マク)
2匹のオオカミを引き連れた狼使いの男。28歳。凄腕の暗殺者であり、剣術ではディオンに若干劣るものの、乗馬術と騎乗戦闘術においては彼を上回る実力を持つ。月兎馬の「影雷(えいらい)」を愛馬としている。
後に火 慧馬(カ・エマ)の兄であり、騎馬王国の失われた部族と言われる火族(慧馬曰く「騎馬王国第一の部族」)の族長火 星馬(カ・セイマ)の末裔であることが判明した。
- ゲルタ
ティアムーン帝国シューベルト公爵家に使えている老メイド。
元はクラウジウス家の者で、パティの教育係。しかしクラウジウス家から送り出したはずの前皇后パトリシア・ルーナ・ティアムーン(パティが成長した存在で、ミーアの祖母)の裏切りと反逆によってクラウジウス家を取り巻いていた蛇の体制は壊滅。自身は辛くも姿を隠しシューベルト家に紛れ込んでいた。
蛇を裏切ったパティ、さらにはその血を受け継ぐ現帝室に骨髄の恨みを抱いている。
- 火燻狼(カ・クンロウ)
蛇の教えを広め、また陰謀を仲介・手助けする蛇導師。常に飄々としている食えない男で、蛇たちの陰謀を手助けするも本人は常に一歩を引いた態度をとっている。
馬駆と同じく騎馬王国・火族の出自だが、馬駆とは違い族長の血族ではない。
- ヴァレンティナ・レムノ
レムノ王国の第一王女で、アベルの一番上の姉。ミーアが14歳になる年の5年前に馬車事故で亡くなっているとされてたが、実は火馬駆と火燻狼に助け出されて生存していた。
そのまま火一族の集落に連れてこられ、当時の蛇導師と姫巫女から蛇の教えを授けられる羽目になった。当初こそ本人はそれを拒んでいたが、蛇たちから自身の価値観を尽く論破された事や、そもそも帰る場所が最早無い事も手伝って、蛇たちの思想を受け入れざるを得ない状況に追い詰められる。そして、ついに心を折られて蛇の慈悲としてそれらを全面的に受け入れ、混沌の蛇における求心力を示すためのシンボルとして君臨する新たなる蛇の巫女姫となっていた。
アベル曰く「優しいけどそれ以上に強くて格好いい人」。レムノ王国の男尊女卑の考え方に疑問を抱いていたらしく、アベルに「女の子に優しくしてほしい」と言い聞かせており、これが彼の人格形成に深い影響を与えている。
なお自身が蛇に身を寄せる羽目になった馬車事故だが、実は事故ではなく実の父である国王と、父の家臣たちによって企てられた暗殺(王国の保守派にとってヴァレンティナの活躍は王の権威を軽んじて王国の伝統を壊す目障りなもの)である。自らに帰る場所が無くなったと嘆いていたのもそのため。
ちなみにアベルの姉なのでミーアベル(ベル)にとっては大伯母にあたる……のだが一度はそのベルを殺している(時間軸の前後を無視して間接的なものを含めれば二度目)。
が、司教帝の時間軸(ミーアベルの最初の時間軸)では、自らが蛇の巫女姫である事を隠し、戦乱に巻き込まれて滅んだ騎馬王国の廃村にて生存していた村人Aとして聖瓶軍に紛れ込みラフィーナに接近。のち自らの出自を「友だからこそ打ち明けられる秘密」としてラフィーナに密かに明かし彼女の信用を得るに至り、のちにその信用を利用してラフィーナを操る(のちにはラフィーナの精神をも華麗にブッ壊した)とともに聖瓶軍を密かにコントロールしてミーアベルの苦境を産み出した(つまりミーアベルの最初の時間軸で、間接的にではあるがミーアベルとその家族……つまりミーアと我が弟の間に生まれた子どもたちを滅ぼした張本人でもある)。そして聖瓶軍はヴァレンティナの誘導によって世界を破壊していき最後には自己矛盾による自壊への道へと至る。
- アレクシス
ティアムーン帝国初代皇帝。ミーアのご先祖様だが彼女からの評価は「アホ先祖」「人類史上最悪の愚帝」「この世で最もハタ迷惑な存在」と当たり前だが超辛辣。
かつて大切な人を理不尽に亡くした過去があり、その辛い体験から心に絶望を沸き起こし「混沌の蛇」の信望者となった。蛇の最終目標である「世界を混沌に至らしめ終わらせる」事を目的としてティアムーン帝国を設えた。すなわちティアムーン帝国そのものが混沌の蛇によって作られた一種の舞台装置なのである。
最終的にティアムーン帝国が滅ぶことで世界を崩壊させる「国潰しドミノ」が成り立つ形になっており、ティアムーン帝国を設立させた者たちは、そのために(自分たちや子孫が滅ぶことを目的として)国を建てている。つまり最初の時間軸におけるミーアの処刑は初代皇帝によって決められた運命だったわけで、つまりはミーアの死の元々の原因を作った人物。
無論、初代皇帝としてなかなかに奮った遺言を秘密裏に遺していたりするがミーアからは「うるっっっせええぇぇぇぇぇぇぇぇ!! ですわ!!!!」の一言で一蹴されていたりする(そりゃそうだ)。
混沌の蛇とミーア一派との戦いは「代々に受け継がれる祖先の怨みを子孫として受け継ぎ晴らさんとする者」と「現在の自身にとって百害こそあれど一利も無い害悪となっている怨念を未来のために破棄する者」による、過去と未来の対立でもある。
- カルテリア
ガヌドス港湾国の海洋民族リヴァイアサンの暗殺剣士。自ら暗殺者を名乗るが自身はそれにらしからぬ荒々しい気風の持ち主。頭にバンダナを巻いており「バンダナの暗殺者」とも呼ばれる。
火燻狼からは気に入られている一方、カルテリアは燻狼には胡散臭さを感じており、その策を弄する様も、まだるっこしくもウザく考えているため、ストレス源にも思っている次第。
港湾国の王族に骨髄の恨みを抱いているという。
敵対者
混沌の蛇にとっての不倶戴天の怨敵。
至るところに現れては根こそぎ計画を台無しにしていくため、蛇達からは忌み嫌われている。
特に、一番腐れ縁の長い火燻狼あたりは極力関わらない方針を取っている……というか第八部あたりになると事実上、地震・雷・火事・ミーアレベルの天災認定をされている。通称ミーア台風。
上述のようにティアムーン帝国そのものが混沌の蛇の舞台装置であった事を鑑みれば、混沌の蛇側にとってみれば「最悪の裏切者」とすら言える存在であり、また蛇のせいで滅ぶことが運命付けられた世界そのものにとっては「悪の坩堝より産まれた一滴の正義かつ最後の希望」とすら言える存在でもあるかもしれない。