パンターの最期
E-50(Entwicklungsfahrzeug 50)は、第二次世界大戦後期のドイツで開発されていた中戦車。
ドイツ戦車の規格共通化計画・通称E計画(E-Serie)に基づき、既存のパンター中戦車を置き換える車重50トン級の標準戦車(Standardpanzer)とされていた。
終戦時点では試作段階にすら至らず、完成していたのはE-75重戦車との共通化が計画されていたサスペンションのみ。
なお、現存する資料から分かることは
- E-75と共通の電動モーターで旋回する新型砲塔
- 900馬力のHL234エンジンやトランスミッション等が一体化されたE-75と共通のパワーパック
- E-75と共通のサスペンションユニットが片側3組取り付けられる
- 推定最高速度60km/h
といった程度で、武装や装甲に関しては不明。
このため、戦後の架空戦記やゲーム等で登場するE-50の完成版、およびその性能は推測の域を出ない。
余談:史実ifを掘り下げる
「もし1945年5月以降も戦争が続いていれば...」といった仮想戦記でよく登場するE-50だが、掘り下げてみるとどうも微妙な実態が浮かび上がる。
まず浮かび上がるのが、そもそもE-50(およびE-75)が量産化される可能性自体が低いという事実。
1944年以降、ソ連赤軍の攻勢が勢いを増す中のドイツは総力戦体制を維持するだけでも精一杯。
新型戦車の生産ラインを構築するような余力は無く、実際、1945年のドイツ戦車計画は既存のティーガーIIとパンターG型(F型へ移行予定)を生産継続、というのが中心だった。
つまり、ほぼ新規設計のE-50は戦争が長引いても注力して開発されず、仮に実用化に至ったところで量産されなかった、と考えるのが妥当らしい。
次に深刻な問題が、E-50がソ連の次世代中戦車T-54と対等に戦うことは困難という点。
一方、米英の次世代戦車が相手ならまだなんとかなる、と見ることも可能ではある。
T-54(ソ連) | T26E4(アメリカ) | センチュリオンMk.1(イギリス) |
---|---|---|
長砲身8.8cm砲をほぼ完封可能という驚異的な正面防御を有する。 | 射距離914mで200mm厚程度の装甲射貫が可能な長砲身90mm砲を搭載。 | 火力・防御力・機動力ともにE-50と同等か、あるいは劣る。 |
ただ、もし戦争の長期化によって戦時体制が続くなら、米ソ両国ではさらに強力な本格的主力戦車が早期に実現、イギリスでもセンチュリオンの搭載砲が史実のMk.3相当・20ポンド砲と同クラスのものにまで改良されたと考えられ、E-50の登場時期はその最中となってしまう。
...総じて、E-50は量産されるかがまず怪しく、実用化したところで連合軍の新型戦車に対して大きく優勢でもない、といったところ。
もちろん、ドイツが大戦全期にかけて優勢を維持したというようなif展開なら話は別だが、史実に基づいて考えるとこうなる。こうなってしまう...。
参考
・戦車小話~E-50/E-75の実態と妄想 - Togetter [トゥギャッター]
・История неудавшейся унификации | Warspot.ru(訳:失敗した共通化の歴史)
登場作品
ゲーム
ドイツ重戦車「E 50」として登場。現在、最も一般的なE-50の姿はこのゲームに登場するものが元となっている。