概要
腸管出血性大腸菌の一種。正式にはO157:H7という。
食中毒や経口感染症の原因として知られており、感染すると出血を伴う激しい下痢が起こる。また、子供や高齢者など免疫力が低下している人がO157に感染した場合、溶血性尿毒症症候群(HUS)という重い合併症を起こし、死亡することがある。
O157の恐ろしさは、その強い感染力である。他の病原性大腸菌であれば、1グラムあたり100万個の濃度がないと、人には感染しないが、O157では1グラム中100個程度の濃度であっても、食中毒を引き起こす事がある。
本菌が産生する猛毒「ベロ毒素」は、細菌性赤痢の病原体である赤痢菌が産生する志賀毒素に類似している。
一部の動物(牛など)はこの細菌を通常保有しており、糞に菌が含まれている。
食肉を処理するときには、内臓の内容物が肉にわずかに付着することもあるため、市販されている肉もO157に汚染されてる可能性がある。
また、牛を放牧している近くにある農場も、土壌にO157に汚染されていることがあり、農作物も菌が付着していることがある。
初めてO157が観察されたのは、1975年である。ただし、このときは重篤な症状を引き起こすとは考えられていなかった。
1982年にアメリカ合衆国でハンバーガーが原因の集団食中毒事件が発生し、ここで初めてO157が人間に悪さをする病原菌であると判明した。アメリカでは加熱が不十分なハンバーガーによる発生が多いため、O157感染症は別名ハンバーガー病と呼ばれることもある。1994年、アメリカ農務省は、O157に感染したひき肉の販売を禁止している。
日本では1990年にさいたま市の幼稚園で井戸水が原因と思われる集団感染が起こり、2人の園児が死亡した。
1996年には日本全国で爆発的な感染が起こり、約1万人が感染し、13人が死亡した。特に岡山県と大阪府堺市の小学校での事件が悲惨だった。ちなみに、この事件でカイワレ大根が原因ではないかと疑われ、多くのカイワレ農家が倒産した(風評被害)。ここで大量のカイワレを食べるパフォーマンスを行い、事態の収束を図った政治家が菅直人である。
1997年以降、毎年3000~4000人程度の患者が発生している。
2000年代に入り、牛肉の生食が原因でのO157による死亡事故が発生したため、日本の農林水産省は、飲食店において、牛肉の生食を前提とした食事の提供を禁止した。
なお、正確には、新しい規制でも、肉の表面を大幅に削れば、生の牛肉を提供できる。ただし、5割から8割以上を削り取る必要があり、ユッケ一皿が4000円というレベルになってしまうので、実質的には全面禁止の状態に近い。
予防のためには、食事の前には十分に手を洗い、食品(特に牛肉)を十分に加熱調理してから食べることが重要である。