概要
「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)において、「一類感染症や二類感染症ほどでは無いが、一度発生した場合の社会への悪影響が大きい」と考えられている感染症の区分。
ここに分類されている感染症の共通点としては、
- (一類よりはマシだが)感染力やかかった場合の致死率が高いこと。
- 経口感染症(食中毒)を引き起こすこと。
- 食中毒ではあるが、接触感染もあり得ること。ヒトからヒトにうつること。
- 飛沫感染や空気感染はしないので、一類や二類に比べるとまだコントロールしやすいこと。
- 全て細菌性疾患なので抗生物質で治療できること。
などがあげられる。
元々は腸管出血性大腸菌感染症のみが三類とされていたが、後にコレラ、細菌性赤痢(赤痢)、腸チフス、パラチフスも二類から三類に変更された。
理由としてはこれらの病気はたしかに感染力・致死率は高いのだが、「結核などと異なり飛沫感染はしないので厳重な隔離措置までは必要ない」と判断されたためである。
必要な措置
「一類感染症や二類感染症ほど社会への悪影響が大きくない」と考えられているため、無症状や軽症の場合は入院までは必要ない(勿論、症状が重い場合は入院して治療を受けなければならないが)。
しかし「集団発生する可能性がある」「ヒトからヒトにうつる」などの理由から、患者には就業制限がかかる。
治るまでの間は仕事に行くことができなくなる。特に飲食業やサービス業は禁止される。お客様に病気がうつったらマジでヤバいから当然の措置である。
学校も出席停止になる。
患者が触れたものや感染源となったものは消毒される(特に三類感染症は下痢や血便を漏らす患者も多いため下着や衣服などが汚れやすい)。
三類感染症が発生した飲食店は営業停止になる。
三類感染症の患者を診察した医師は、直ちに最寄りの保健所に届け出なければならない。そして保健所は都道府県知事に報告しなければならない。
該当する疾患
腸管出血性大腸菌感染症
ベロ毒素という猛毒を出すO157などの病原性大腸菌によって大腸に激しい炎症や潰瘍ができる病気。(一応念のため書いておくと、殆どの大腸菌は害が無く、有毒なのはO157などごく一部のみである。)
激しい腹痛や酷い下痢などの症状があらわれ、重症の場合は真っ赤な血便が出ることもある。下痢の回数は一日に40回を超えるとも言われ、「大便が出なくて血液だけが肛門から流れ出る」とも言われる。
さらに溶血性尿毒症症候群(HUS)という重篤な合併症にかかってしまう患者もおり(大腸炎の後にHUSにかかる患者は5~10%とされる)、腎不全や播種性血管内凝固症候群(DIC)で亡くなることもある。
HUSを起こした場合の致死率は3~5%とされている。
ちなみにO157が出すベロ毒素は赤痢菌が出す志賀毒素とほぼ同じものらしい。
細菌性赤痢
志賀潔博士が発見した赤痢菌によって大腸炎が起こる病気。赤痢とは赤い下痢という意味で、その名の通り激痛や血便などの症状が出る。
日本でも1960年代前半まではこの病気で亡くなる人が多かったが、高度経済成長期以降はこの病気で亡くなる人はほとんどいなくなった。(しかし発展途上国では未だに多数の死者を出している)
赤痢菌には4つのタイプがあり、最も凶悪な志賀赤痢菌はO157と同じベロ毒素を出すため重篤になりやすい。
日本などの先進国ではソンネ菌による細菌性赤痢が散発的に発生するが、軽症で済むことが多い。しかしソンネ菌も感染力自体は非常に強いので、注意を怠ってはならない。
ちなみに赤痢と呼ばれている病気にはもう一つアメーバ赤痢というのもあるが、こちらは五類感染症になっている。
コレラ
腸炎ビブリオの仲間のコレラ菌による腸炎。コレラ菌は胃酸に弱いため、この病気にかかっても多くの人は無症状か軽い下痢で済む。
しかし胃が弱っている人がこの病気にかかると猛烈な下痢や嘔吐に襲われる。「米のとぎ汁」と形容されるような真っ白い水様便が大量に出ることもある。ちなみに発熱は無いことが多く、腹痛もO157や赤痢ほど強くないことが多い。
この病気では脱水症状が死因となることが多いため、点滴などで水分を十分補給すれば死亡することはほぼ無い。(しかしそれでも発展途上国や失敗国家では未だに多数の死者を出している)
腸チフス、パラチフス
サルモネラ菌の仲間が小腸のリンパ節に感染して起こる病気。他の疾患と異なり下痢は必ずしも主症状では無く(逆に便秘になる人もいる)、長引く高熱(40℃前後)や発疹が主な症状となる。
治療しなければ小腸から大量に出血したり、敗血症を起こして死亡することもある。
パラチフスは腸チフスに比べて軽症であることが多いが、それでも発展途上国では多数の死者を出している。
ちなみに発疹チフス(四類感染症)は全く別の病気である。