概要
「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)において、最も危険とされている感染症の区分。
ここに分類されている感染症の共通点としては、
- 感染力やかかった場合の致死率が非常に高いこと。
- 有効な治療薬やワクチンが無いこと(ただしペストには治療薬が、天然痘にはワクチンがあるので例外)
- 病原体が生物兵器として悪用されることが懸念されていること。
- 1980年以降は日本国内での発生が報告されていないこと。(ただし1987年にナイジェリアを旅行していた日本人男性がラッサ熱にかかったことがある)
などがあげられる。
また、ペストと天然痘以外はウイルス性出血熱に分類されている。
必要な措置
一類感染症が一度発生すると非常にヤバいため、患者は原則入院となる。入院できる病院も国が指定した特別な病院に限られている。
また、症状のない者や疑似症(似たような症状があるが病原体がまだ検出されていない)の患者も強制入院となる。
患者が触れたものや感染源となったものは消毒される。感染源となった動物が駆除されることもある。
感染拡大を防止するために都市封鎖(ロックダウン)が可能になるのも一類感染症の特徴だ。
一類感染症の患者を診察した医師は、直ちに最寄りの保健所に届け出なければならない。そして保健所は都道府県知事に報告しなければならない。
該当する疾患
エボラ出血熱
アフリカで散発的に流行しているウイルス感染症。感染力、致死率ともに非常に高く、この病気を発症すると50%以上の確率で死亡してしまう。
名前からして高熱と全身からの出血で亡くなるイメージが強いが、実際には出血症状を呈する患者はごく一部のみであり(そのため近年は出血熱ではなくエボラウイルス病とも呼ばれることも)、激しい下痢や嘔吐による脱水症状が死因となることが多い。
接触感染によってヒトからヒトにうつるが、猿やコウモリなどの野生動物に触ったり生肉を食べて感染することも多い。
ちなみに致死率があまりにも高すぎるため患者が遠出する前に亡くなってしまうことから、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のようなパンデミックが発生したことは一度も無い。
マールブルグ病(マールブルグ出血熱)
エボラウイルスに近い仲間のマールブルグウイルスによる感染症。感染力、毒性ともに非常に強い。
ラッサ熱
ネズミが媒介するウイルス感染症。エボラやマールブルグよりは致死率は低いが、流行の規模が大きいため西アフリカでは恐れられている。
ナイジェリアのラッサ村で初めてこの病気が報告された。
南米出血熱
ラッサウイルスと同じアレナウイルス科のウイルスが引き起こす病気。
名前の通り、ブラジルやアルゼンチン、ボリビア、ベネズエラなどで流行する。
クリミア・コンゴ出血熱(CCHF)
ブニヤウイルス科に分類されるCCHFウイルスが引き起こす疾患。全身からの出血が激しいのが特徴で、致死率も非常に高い。
マダニや野生動物などが媒介する。また、流行地域が非常に広く、中国西部や南アジア、中東、東欧、アフリカなどで発生がみられる。
日本ではこの病気は発生していないが、CCHFと同じブニヤウイルス科のウイルスが引き起こす重症熱性血小板減少症候群(SFTS)という病気は日本でも流行している(ちなみにSFTSは四類感染症)。
ペスト
一類感染症では唯一の細菌性疾患。感染経路によってリンパ節が激しい炎症を起こしたり、重い肺炎を起こしたりする。
末期になると全身で内出血が起こって黒い痣だらけになって死亡することから黒死病と呼ばれ恐れられていた。
また、肺ペストでは激しい咳と喀血がみられ、治療しなければほぼ100%死亡してしまう。
しかし他の疾患と異なり抗生物質で治療できるため、総合的な危険度ではエボラなどよりは1ランク下がる、とも。
天然痘
高熱と全身の発疹を主症状とするウイルス性疾患。発疹は皮膚だけでなく内臓(肺、胃腸など)にもできる。そのため致死率が非常に高い。
ワクチンの普及により現在では撲滅された(人類に負けた唯一のウイルスとも言われている)が、今でも生物兵器として天然痘ウイルスを保管している国は多いらしい。
殺傷能力だけでなく感染力も非常に強い(空気感染する上にヒトからヒトに伝染する)ため、兵器としては炭疽菌やボツリヌス菌などより危険とされている。
ちなみに似たような病気としてサル痘があるが、こちらは天然痘ほど感染力が強くないため四類感染症となっている。
かつて一類感染症だった疾患
SARS(重症急性呼吸器症候群)
2007年の法改正で二類感染症に変更された。