天然痘
てんねんとう
天然痘患者と接触することで感染する。感染力は非常に強い。
高熱・頭痛・筋肉痛・嘔吐・下痢などの初期症状の後、全身に特徴的な発疹ができる。ひどい場合は全身の臓器が侵され、呼吸不全により死亡する。致死率は30%と非常に高い。
この病の恐ろしさは高い死亡率もそうだが、何より体中に大きな発疹が大量にできることだろう。大量のボツボツに埋め尽くされた身体の見た目は鳥肌が立つ程非常におぞましく、例え病が治っても発疹痕は残りあばた顔になってしまう。女性にとってこれほど恐ろしい事は無いだろう。集合体恐怖症(トライポフォビア)の原因の一つが、天然痘に対する本能的な嫌悪感という説もあるくらいである。
ワクチン(種痘)で予防できるが、現在は根絶状態のため、一般の人に接種されることはない(軍人など一部の人のみが接種できる)。
その感染力と致死力から、兵器利用されてきたとも言われる恐ろしい感染症である。
昔は天然痘にかかった名残の「あばた顔」の人がしばしば見受けられ、吉田松陰や夏目漱石も幼少時に天然痘に感染したとされている(しかし、昔は肖像写真が修正されることがよく行われていたため、現在残っている写真には漱石が気にしていたという「あばた」の跡が見受けられない。また、吉田松陰の肖像画もあばたは描かれていないが、漫画『風雲児たち』ではしっかりあばたが描かれている)。
また戦国武将の伊達政宗も幼少期に天然痘に感染し、右目を失明している。
1796年、イギリスの医学者エドワード・ジェンナーの手で、種痘による予防が確立された。
古くから「牛痘に感染したことがあれば天然痘にはかからない」ということが経験則から広く知られており、これに目を付けたジェンナーは、自分の召使いの息子を実験台にして、牛痘の膿を皮膚下に注射することで人為的に牛痘に感染させ、もって天然痘への免疫をつけさせることに成功。これが世界初のワクチンであった(なお、中国や西アジアではさらに昔から天然痘患者の膿を用いた方法が行われていたが、ジェンナーのそれは安全性を飛躍的に高めたという点で画期的であった)。
ワクチンという名称も、雌牛のラテン語Vaccaから取られたものである。
余談だが、日本においては導入当初牛から作ったものだから、接種すると牛になるという噂により当初は打つ人が少なかった
そしてワクチンの理解者が少ない、教育の行き届いていないアジア・アフリカ地域においては、天然痘患者を指名手配して一般人に捕まえさせるというなんとも強引な方法でワクチン接種が進んだという事例もある。
医学の発展でワクチンはさらに安全になり、その特徴的すぎる症状もあって、予防はさらに容易になり、1976年に根絶宣言が出された。現時点において、天然痘は人類が根絶に成功した唯一の感染症である(ただし、アメリカとロシアの一部の研究所にはウイルスが厳重に保管されている。また北朝鮮が天然痘ウィルスを保有していると一部で囁かれている。)
もし、これらの国からウイルスが流出したら大変なことになる。先述の通り、天然痘ワクチンは接種されることがない。つまり抗体を持つ人がほぼいないのである。
そして感染力はかなり高いので、COVID-19よりも世界中はパニックになるのである。
天然痘は感染力・致死率ともに高い、非常に危険な感染症であるため、感染症法では1類感染症に指定されている。1類感染症では患者は疑いのある者を含め強制的に入院・検疫・交通規制・病原体の所持の禁止といった措置をとることができる。
1類感染症には天然痘のほか、エボラ出血熱、マールブルグ病、クリミア・コンゴ出血熱、ラッサ熱、南米出血熱、ペストがある。なお、ペスト以外はすべてウイルス感染症である(ペストは細菌感染症)。
感染力の強さ、致死率の高さ、感染した後も痘痕が残る事等から古代から恐れられ様々な題材に取り上げられてきた。
黒死病と並び死のメタファーに使われ、医学の発展後もワクチン接種のポスターに何度となく取り上げられており、日本では牛痘によるワクチン接種が伝わるも、接種すると牛になるという迷信が信じられ、神獣の牛が天然痘の妖怪を討伐するチラシが作られ配布されていた。
また疱瘡神という疫病神も存在し、特に日本を含む東アジアでは単なる疫病ではなく天災や祟りの一種とまで捉えられ、疱瘡神を鎮める御霊信仰や疱瘡除けのお呪いが全国に浸透している。
アイヌ伝承の「パコロカムイ」も疱瘡神の一柱である。岐阜県飛騨地方のさるぼぼ等の全国でみられる赤色のお守りも、「疱瘡神は赤いものを苦手とする」という俗信が一枚噛んでいる。
神社の鳥居が赤いのも、これが理由である。