病原性大腸菌(びょうげんせいだいちょうきん)は、食中毒(経口感染症)などの感染症の原因となる細菌の一種である。
概要
大腸菌は通常、ヒトや哺乳動物の腸に生息する無害な細菌である。しかし、なかには食中毒(経口感染症)などの感染症を起こすものもあり、そのような病原性を持つ大腸菌を総称して病原性大腸菌と呼ぶ。
病原性大腸菌による食中毒は、基本的には不衛生な発展途上国に多いが、腸管出血性大腸菌だけは例外であり日本・アメリカ・イギリス・フランス・ドイツ・オーストラリアなどの先進国で多発している。
感染経路、原因食品
病原性大腸菌に汚染された水や食品を食べることで感染する。腸管出血性大腸菌は牛肉が原因となることが多い。
また、排泄物を介して人から人に伝染することもある。
菌種、症状
病原性大腸菌は生物学・生化学的な観点および症状の違いから以下の5種類に分類できる。
腸管病原性大腸菌
主に小腸に感染する。発熱・腹痛・下痢・嘔吐といった典型的な食中毒症状を示す。赤ちゃんは激しい下痢となることが多く、脱水症状に陥りやすい。
腸管侵入性大腸菌
大腸に重い炎症を起こすことで知られる赤痢菌と似たような性質を持ち、赤痢菌と同じように大腸の上皮細胞の中に侵入し、増殖しながら周囲の細胞にも広がり、大腸や直腸に潰瘍をつくる。
高熱・腹痛・血便といった細菌性赤痢に似た症状があらわれるが、赤痢よりは軽症であることが多い。
毒素原性大腸菌
小腸に重い炎症を起こすことで知られるコレラ菌と似たような性質を持ち、コレラ菌と同じように腸内に毒素を出す。
主な症状は水のような下痢と嘔吐。重症の場合はコレラ同様、「米のとぎ汁のような真っ白い便」が出て脱水症状に陥る。
腸管凝集性大腸菌
南米やアフリカなどの途上国の子供の下痢の原因となることが多い菌。症状は下痢(血便になることもある)・嘔吐・発熱など。
腸管出血性大腸菌
病原性大腸菌のなかで特に危険な種類の細菌。O157、O111、O104などの菌種があり、特にO157は漫画『もやしもん』で擬人化されるほど有名。
赤痢菌と同レベルの毒性・感染力を持ち、ベロ毒素という猛毒を産生する(これはフグ毒やサリン、青酸カリよりも毒性が強い)。そのため、他の4種とは公衆衛生上、明確に区別される。この百科事典において独立記事が作られるあたり、別格なのは明らかである。
この菌は牛が保有していることが多く、そのため牛の糞に汚染された水や食品(特に牛肉)を食べることで感染する。また、非常に少ない菌量でも感染できるため、食器や箸を介して人から人へ伝染することもある。そのため、赤痢のように状況に応じて隔離入院の措置がとられることもある。
主な症状は腹痛と下痢で、虫垂炎に匹敵する激しい腹痛や血便を伴う激しい下痢となることがある。ときに溶血性尿毒症症候群(HUS)という重い合併症を起こし、腎臓や血液の深刻な障害から、最悪の場合、死に至ることもある。
致死率が高いため、感染症法で三類感染症になっている。もはや食中毒というより伝染病扱い。
治療法
安静にして水分補給を心がけるのが基本。重症の場合は入院して点滴を受ける必要がある。