概要
マツカサトカゲ(Tiliqua rugosa)は、爬虫類 爬虫綱 有鱗目 トカゲ科マツカサトカゲ属マツカサトカゲ種に分類されるトカゲ。
現在、ニシマツカサトカゲ・ヒガシマツカサトカゲ・シャークベイマツカサトカゲ・ロットネスマツカサトカゲの4亜種から構成される。各亜種についての詳細はリンク各項目を参照。
学名
Trachydosaurus rugosus
英名
- Sleepy Lizard(ねぼすけトカゲ)
- Pinecone Lizard(マツボックリトカゲ)
- Shingleback skink(小石だらけの背中のトカゲ)
- Stump-tailed skink(切り株しっぽとかげ)
分布
オーストラリア連邦 オーストラリア西部から南部・南部から東部の主に海岸沿いの内陸部に分布
オーストラリアの南側の海岸沿い内陸部に生息する理由として北部には捕食者のイリエワニ・オーストラリアワニ(ジョンストンワニ)が、さらに中部から西部にかけてオーストラリア最大のオオトカゲであるペレンティモニター(オーストラリアオオトカゲ)が生息していることが考えられる。フトアゴヒゲトカゲ・レースモニターとの生息競合もあり自然と今の分布になったと考えられる。
形態
成体で45~50センチメートルに成長する。(ロットネス亜種のみ30センチ前後)
舌は濃い青紫色。口腔内は明るいピンク色。
(アオジタトカゲのような鮮やかなブルーの舌でない。ほぼ黒に近い。舌の色をもってしてアオジタトカゲと同属とするのは誤りと思われる。DNA解析で同属かどうか判断すべきである。)
普段はひどく臆病でおとなしいが危険を感じると口を大きく開け舌を出して威嚇する。
動きが緩慢なトカゲだが太陽の紫外線下では俊敏に行動する。
短い尻尾に栄養をため大きく肥大するためどちらが尾か頭部かわかりにくくこれによって外敵を混乱させて身を守っていると推測される。
脱皮を繰り返し成長する。
個体差が激しく外見上から雌雄判別することは困難である。
顱頂眼【ろちょうがん】がレンズ状に発達している。
顱頂眼(もしくは頭頂眼)は光の感受性を持った「第三の目」で体温の維持に役立っていると言われている。
松かさのような強靭なうろこに覆われる。幼体の体は柔らかいが成体の体はワニ革のハンドバッグような硬さがあり外敵を寄せ付けない。
雌雄の判別
個体差が激しく外見上から雌雄判別することは困難である。
誤 | 正 |
---|---|
オスは鼻筋が太い・メスは鼻筋が細い | 鼻筋の細いオスが存在する。雌雄は関係ない。 |
オスは頭が大型化する。エラがはっているのがオスである | 頭部の小さいオスが存在する。頭の大きさや形は雌雄は関係ない。 |
色がはっきりしているのがオスである | 色の違いは生息地の違いと個体差であり雌雄は関係ない。 |
尻尾が太く長いのがオスである | 栄養状態で尻尾の形状が変化する。亜種によって尻尾の形状が異なり個体差もあるのでこれをもってして雌雄判別はできない。 |
ポッピングは強い力で絞り出すためしっぽや背骨を損傷する可能性があるので避けるべきである。
分類
日本での呼称 | 別名 | 亜種分類 | 英名Tiliqua rugosa | 年号 |
---|---|---|---|---|
ニシマツカサトカゲ | ルゴッサ | 基亜種 | Tiliqua rugosa rugosa | 1825年 |
ヒガシマツカサトカゲ | アスパー | 最大亜種 | Tiliqua rugosa asper | 1845年 |
ロットネスマツカサトカゲ | オノイー | 最小亜種 | Tiliqua rugosa konowi | 1958年 |
シャークベイマツカサトカゲ | パラーラ | 希少亜種 | Tiliqua rugosa palarra | 2000年 |
生態
雑食性で何でもよく食べ昆虫、カタツムリ、ミミズ、甲虫の幼虫・動物の死骸、花、果実などを食べる。
昼行性だが昼間から眠って過ごすことも多い。(出典:英名のSleepy Lizard(ねぼすけトカゲ)の由来となっている。)
自然下では春に植物質のえさを食べて栄養をたくわえ、食料の乏しくなる夏から秋にかけては食事量が少なくなり冬眠する。
冬眠明けの早春に出産ピークを迎える。
親の半分ほどのベビーは、春の間にたくさん食べ、厳しい夏の天候に耐えられるように大きく成長する。
飼育下での寿命は10年~30年(ただし自然下での寿命は不明)
天敵
ディンゴ・飼い犬・野良猫などの哺乳類
ペレンティモニター(オーストラリアオオトカゲ)・レースモニターなどの大型爬虫類
オナガイヌワシなどの猛禽類
その他 自動車にひかれて死亡する個体も多い。
繁殖について
繁殖様式は卵胎生。1回に1頭・まれに2頭の幼体を産む。
現地の立て看板やドキュメンタリー番組によると一度カップルが成立すると生涯相手を変えないとされている。(←飼育下で要検証)
人為繁殖について
不明な点が多く確立されていない。他のトカゲ同様少しクーリングさせることで繁殖活動が活発化することは知られている。性成熟に何年かかるかなど不明な点が多い。
人間との関係
動物園や水族館で飼育されたりペットとして飼育される。人為的な繁殖は非常に難しい。現地の立て看板やドキュメンタリー番組によると動きが緩慢なので現地では自動車にひかれて死亡することが多い動物の一つとなっている。オーストラリアでは動物の輸出入を厳しく禁止しているため高額で入手しづらい爬虫類の一つとなっている。性格はおとなしく人にもよく慣れ丈夫で飼いやすい個体が多い。
アオジタトカゲとのハイブリッド種
アオジタトカゲとマツカサトカゲのハイブリッド種というものが存在しペットとして流通したことがあるがどのような経緯で作出されたものか不明である。
マツカサトカゲの飼育方法
水槽
ベビー単体なら45センチ~60センチ水槽。
成体なら60~90センチ水槽で単独飼育が可能である。大型種であるが尻尾と手足が短いため比較的コンパクトに飼える。
比較的おとなしいトカゲであるがはげしくかむ個体、気性のあらい個体などもいるため個体同士の相性もあり単体での飼育が望ましい。オスメスペアであっても繁殖期以外は別で飼う。
同じ水槽で複数頭 飼育すると仲良く、くっついて寝ているように見えることもある。しかし一番心地よいところ・暖かいところを奪い合いお互いに譲らない結果同じ場所で寝ているだけであり飼い主の理解していないストレスが多々ある。(広いお庭で放し飼いができるなら問題はない)
仲良くしているように見えても立場の強弱が自然にできて弱い方は虐げられストレスを抱えるようになる。
大きなシェルターは必要ないが隠れる場所を用意する。もぐりこめるように布状のヤシガラシート・古タオル・新聞紙などでもよい。 慣れればつま先を切った靴下の中で寝る個体もいる。もぐる・かくれる・掘るができない水槽は落ち着くことのできない空間であり大きなストレスとなる。
床材
ヤシガラマットを使用する。もぐる・ほるが好きなトカゲなのでペットシーツはよくない。目に刺さる牧草や、においのある猫砂なども避ける。
ライト ・日光浴
スキンクなので紫外線要求量は高くないがクル病予防のため80~100WのUVライトをつけてやる。 食後のバスキングは行わない個体も多いが用意して温度勾配をつける。
晴れている日は5~10分の日光浴をさせてあげられればなおよい。(日光浴中は熱射病にならないよう、猫やカラスに襲われないように決して目を離さない、離席しないこと)
餌
小松菜・サラダ菜・サニーレタス・チンゲン菜などの野菜・ピンクマウス・生餌(イエコオロギ・フタホシコオロギ・ミルワーム・デュビア・ハニーワーム・ミミズ・コガネムシなど甲虫の幼虫)肉類、ゆで卵、爬虫類用の人工飼料、ドッグフード・キャットフードなど何でもよく食べる。カタツムリは寄生虫の心配があるため、代わりにホタテ貝やアサリの水煮を与える。 バナナ・パイナップル・ミカン・リンゴなどの果物もよく食べる。
乾燥系のえさ(乾燥コオロギ・乾燥ミルワーム・煮干し・干しエビなど)もそのままバリバリ食べるので常温で保存がきき便利である。
水入れを用意する。水入れから飲まない個体もいるのでスポイトで飲ませる、水でふやかしたフードを与える、野菜や果物を与えるなど、脱水予防に常に留意する。
ミネラル・塩分など気になる場合は小鳥用の塩土を置いておくと自分でかじって調節する。
温度管理
飼育温度は23~28度が適温。バスキングスポットは32~35度程度。
16~18度以下になると活動・食欲がおちるので冬は注意する。(保温のし過ぎに注意)
日本の夏はマツカサトカゲには酷なのでエアコンで対応する。
春と秋の夜間および冬は終日、保温球(40~60W)か暖突で水槽内を保温する。
温浴
温浴はほとんどの個体が嫌がりストレスになるので頻繁に行わない。
マツカサトカゲの病気と治療方法
ほとんどの病気が人間用の薬で対応できる。常に観察し異常を感じたらすぐに対応できるようにしておきたい。頑強な種であるためほぼ自己治療で対応できるが緊急の場合や難しい病気の場合に備えて近くに爬虫類を見てくれるかかりつけのクリニックを探しておこう。
結膜炎
ライトが近すぎたり強すぎると目を傷める。砂の床材やバスキングストーンなどで目を傷つけると結膜炎になる。(瞼が腫れピンク色になるので判断できる)人間用の抗菌目薬をさす事で治療できる。
目ヤニがひどかったり、まぶたが腫れて開かなくなっていたら獣医さんに相談すること。
鼻水
人間と同じで寒いとくしゃみをし鼻水を垂らす。通常より暖かくしてやる。
暖かくしても鼻水を垂らす場合は漢方薬をひとつまみごく少量えさに混ぜる。
改善しないときは獣医さんの処方薬(バイトリルなど)を飲ませる。
こじらせると肺炎になり死に至るので早めの対応が望ましい。
寒くない季節に床材のヤシガラの粉などで常にするくしゃみは風邪ではないので問題ない。
肥満
エサのやりすぎでおこる。エサの回数・量を減らす。ベビーなら毎日か隔日・ヤングなら隔日か二日おき・アダルトなら3~5日に一回というように調節する。
特に高たんぱくのえさが短命の危険因子と言われているため肉類や合成フードをひかえめにするとよい。おやつ程度の少量の野菜・果物を毎日 水分補給として与えても問題はない。
爪飛び・指とび
老化によって代謝が悪くなると爪飛び・指とびする。
老個体は爪が巻いたように長く伸びている。(その場合は爪切りしてやる)
若い個体は 栄養失調で脱皮不全が起きると指とびする場合がある。脱皮がうまくいかないと「くりんくりんに巻いた靴下」のようになり血行が阻害され壊死をおこし指が落ちる。(そのため脱皮の前後は温浴させる。脱皮の時 必要以上に皮をむかないで出来るだけ自力でぬがせる。手先指先などに皮が残っている場合は温浴させ取り除いてやる。)
クル病
紫外線不足でカルシウムが吸収できないと起こる。5分から10分程度の日光浴を週3日以上、それが無理であれば紫外線ライトを常設する。エサは同じものばかりでなくできるだけいろいろなものを与える。クル病は骨の代謝異常の病気であり紫外線要求量の少ないマツカサトカゲのようなスキンク類で起こることはまれである。
背骨が曲がったり腰やしっぽの骨がまがっていても大概はクル病ではない。
- 生まれつきの背骨の曲がり(アオジタトカゲやマツカサトカゲにはよくある)
- 成長途中に暴れていてぶつけて骨が曲がってしまった(腰折れ・尾まがり)
- レバーの与えすぎによるビタミンA中毒による背骨の奇形(レバーを与えないようにする)
などが考えられる。
食欲があり元気な場合は心配する必要はない。エサに煮干しや干しエビを与えていればカルシウム剤は必要ない。(カルシウムも過ぎれば尿酸結石の原因となる。)
うろこの剥離
けがなどで細菌がはいると化膿し治癒した後に、うろこがごっそりはがれ落ちて下の筋肉が露出することがある。
怪我して化膿した時はヨウ素で消毒し人間用の化膿止めの軟膏を塗る。
治癒した後、うろこがはがれおちたときはヘパリン配合の軟膏を塗り再生を促す。通常は剥がれ落ちた部分の肉が盛り上がりうろこは再生する。
下痢
便秘
原因として考えられるのは
対処方法としては 水を与え、日光浴させ散歩させると大概 排便する。
頑固な便秘には整腸剤のレプラーゼ(ビオフェルミン)を与える。
拒食
原因として
- 温度が低すぎる(室温の見直し・底面ヒーターがきちんと機能しているか確かめる)
- 精神的なストレス(床材がほるもぐることができないものであったりかくれるところがないとストレスを抱える。飼い主が触りすぎるのも良くない。)
- クル病や虫歯 あごの異常などの病気による疼痛
拒食の時はエサの種類をペースト状のささみや離乳食のバナナプリンなどなめて摂取できる柔らかいものに変えてみる。
温度や床材・餌の種類を改善しても食べない場合は獣医さんに相談する。
偏食
「生肉や卵なら食べるが他の物を食べてくれない」というのは偏食であり、拒食ではない。
食べ物の好き嫌いがあることは病気ではない。
ひどく痩せていなければ食べてくれるものを与えればよい。
置き餌しておくと知らない間に食べることもあるので乾燥コオロギなどを置いておくとよい。
脱水
夏バテ・下痢・冬季の保温のしすぎなどで脱水を起こす。
脱水をおこすと目の周りがおちくぼみ、おなかが凹み、体に張りがなくなる。
(健康な正常個体は体に張りがある。)
「温浴させると飲む」とよく言われるが実際は怖がって暴れるだけで飲んでくれない個体が多い。
水入れから自分で飲まない個体にはスポイトで鼻先にたらすと舐める。
脱水がひどいときにはポカリスエットや薄めたリンゴジュースを与える。
腫物・腫瘍
明らかに異常なはれものができた場合は獣医さんに相談する。
膿瘍と腫瘍に別れ
膿瘍は膿がたまったはれもので膿を排出し抗菌薬を塗布すれば治る。
腫瘍は悪性のものはいわゆる癌であり獣医さんに相談する。
顔や目の周りは危険なので自己判断せず獣医さんにお願いしよう。
ダニ
トカゲに寄生するダニがおり、駆除するのは難しいので獣医さんに相談して駆虫薬を処方してもらう。そのうえで水槽内をこまめに掃除する。
さらにオリーブオイルなどの油でマッサージして窒息させ洗い流す。
有機リン系の殺虫剤は強いので獣医さんの指示なしに安易にマツカサトカゲに使用しないこと。
出典
学習研究社刊行 学研の図鑑 「爬虫・両生類」1973年版 カラー38ページ
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