概要
常陸国水戸藩2代目藩主・徳川(水戸)光圀の事。及び同人物を主役に据えたテレビ時代劇シリーズのタイトルでもある。
一般に、助さん・格さんのお供を連れて諸国を漫遊し、悪を懲らしめ庶民を助ける好々爺としてのイメージが強い。
しかし、これは江戸時代後期に成立した歌舞伎や講談、及びそれを元に構築された時代劇の影響であり、史実の光圀の足跡は江戸と水戸藩領、および関東周辺の行楽地にほぼ限られている。
ただし史書『大日本史』の編纂に必要な資料収集のため家臣を諸国に派遣したり、大船を建造して北海道の調査を行わせたり、自身も隠居後に水戸藩領内を巡視して歩いたのは事実である。
史実の光圀は新しい物や珍しい物が好きで、反骨精神旺盛な人物であった。徳川綱吉が制定した生類憐れみの令を無視して牛肉、豚肉、羊肉などを食べていた。ワインやチーズなど西洋の食物を嗜み、日本で初めてラーメンを賞味した人物としても知られている。
TV時代劇
1969年(昭和44年)8月4日放送開始。2011年12月19日に最終回を迎え、放送終了。
42年に渡る長寿番組となった。
黄門一行のほか、川合伸旺、菅貫太郎、亀石征一郎などのベテラン俳優が欠かすことのできない悪役として存在感を放つ事で、シリーズの「変わらない安心感」「良い意味でのマンネリ」の代名詞的な存在であり、「変わらない事のよさ」を喩える際にしばしば引き合いに出される。
なお1981年秋から1年間は、テレビ東京系列で『まんが水戸黄門』が放送された関係で放送休止となっていた。
視聴率低迷が続くTBSの中では貴重な二桁台をキープできる人気番組だったのだが、主な視聴者が高齢者であり、スポンサーであるパナソニックの商品(特に主力商品のテレビ)をあまり買わない年齢層である事から、「費用対効果が見込めない」としてスポンサーが引き揚げを決断した事により終了となった(一社提供番組の負の側面といえる)。
なお、地上波時代の放送末期は最終作を除き1クール放送にまで短縮されていた。
また、同時代の赤穂藩に水戸光圀に負けないほどの有名人である大石内蔵助が実在していたため、長い間、光圀一行が赤穂藩に立ち寄る事はなかったが、第28部第24話(2000年8月28日放送)では水戸黄門放送通算900回記念として、初代格之進役の横内正が演じる大石内蔵助が登場し、光圀との共演が実現する運びとなった。第42部15話(2015年1月31日放送)では市川右近演じる内蔵助が登場し、終盤の大殺陣では光圀一行との共闘が実現している。
6年ぶりの復活
2017年10月4日より、武田鉄矢主演でBS-TBS水曜午後7時枠で放映が開始された。
今回は青森・八戸を目指す物語となり、東日本大震災の被災地となった地域の伝統芸能や工芸品、郷土料理などを積極的に取り上げていくとしている。
その後、2019年5月19日には第2シーズンがスタート。今度は熊本地震被災地を取り上げるため、熊本を目指し、九州を一周する物語となっている。
歴代光圀役
第1部 - 第13部:東野英治郎
第14部 - 第21部:西村晃
第22部 - 第28部:佐野浅夫
第29部 - 第30部:石坂浩二
第31部 - 第43部:里見浩太朗
第44部(BS) - :武田鉄矢
初代の東野英治郎は第1部時点では62歳だったが、元々老け顔なので老人役がよく似合っており、時として怖そうに見える風貌が印象的。各話の締めの呵々大笑は光圀の決めポーズとなり、長く愛される一因となった。通称ジャガイモ黄門。
2代目の西村晃は初代よりも若々しく、穏やかでどこか上品な振る舞いが特徴的。そのため「シティボーイ黄門」と呼ばれた。また茶目っ気もあり、悪党と相対した時には歴代光圀の中でも特に飄々とした演技であしらう。なお後のレギュラー陣の多くが彼の時に集まっており、「水戸黄門の代名詞」と親しまれた。
3代目の佐野浅夫は、歴代光圀の中で最も「好々爺」の雰囲気が出ている。またやや高圧的な初代、高貴な感じのする2代目に対して庶民的で慈悲深い。よく感激して涙する事が多く、「泣き虫黄門様(当然悪い意味ではない)」と呼ばれ親しまれた(下記も参照)。
4代目の石坂浩二は当初、史実に沿った(水戸黄門の生きた5代将軍綱吉の時代は、武士は髭を生やす事を禁じられていた)「髭なしの黄門様」を試みたが、視聴者には不評だった。また、これまでの庶民的な面を持つ親しみやすい光圀像とは一線を画した、インテリっぽく普段から浮世離れした(というか、庶民に見えない)風格を持つ光圀像を打ち出している。第29部の最後に、ある事件を機に髭を伸ばすようになる。
5代目の里見浩太朗は2代目助三郎役でもある。歴代光圀の中で最も男前で体格がよく、時代劇のベテランである上に、過去の助三郎役で培った経験から各話のクライマックスの殺陣でも助&格に引けを取らないほど見せ場が多く、歴代光圀の中でも群を抜く武闘派。あと元が助三郎役なせいか、遊郭や京遊びに行きたがるなど何かと羽目を外す事も多い。
6代目の武田鉄矢はやはり『金八先生』の熱血漢のイメージが見え隠れする他、主張や決意には一本筋が通ってはいるが完璧ではなく、ずるさや甘えといった「老いの欠点」を持つ泥臭い・人間臭い一面も見られる。
大まかなストーリー
- 光圀様、お供である助三郎・格之進らが諸国漫遊の旅の途中で、庶民の問題に出くわす
- 「旅の町人」と偽称したまま、お供たちが諸々の問題解決の糸口を探る
- かげろうお銀が入浴したり、悪党の宴席に潜入して悪事の証拠をつかむ
- 光圀一行と悪党の対決 (助三郎・格之進は武道の達人、光圀自身も武道の心得あり)
- 徳川家の家紋・三つ葉葵の印籠を見せて正体を明かす → 悪人が降参
- 正体を知った庶民がお礼を述べる
- 次の地へ旅立つ
基本的には1話完結式であるが、ごく初期には前後編で放送されていた事もある。
しかし、視聴者から「2週続きのストーリーでは前編の内容を覚えられない」「自分はもう高齢だから、後編が放送されるまで生きていられるかわからない」などの要望があり、それに応える形で1話で話をまとめるようになったという。
名台詞
光圀「助さん、格さん、 懲らしめてやりなさい」
光圀「助さん、格さん、もういいでしょう(もうよかろう)」
助三郎or格之進「静まれ、静まれぃ この紋所が目に入らぬか!」
助三郎or格之進「このお方をどなたと心得る、恐れ多くも前の副将軍・水戸光圀公にあらせられるぞ」「ご老公の御前である」「頭が高い」「控えおろう!」
悪人「ははぁ(頭を下げる)」
備考
東野英治郎は元々は狡猾な悪役を得意した役者だった事で有名。本来は森繁久彌の予定であったが、映画会社と俳優との専属契約絡みなどの諸事情で没になり、代わりに東野が選ばれたという。2代目の西村晃も悪役を得意としていた。
2代目黄門の西村晃、3代目黄門の佐野浅夫は共に水戸黄門の一種の名物である『偽黄門』を演じた事がある。特にこの2人の場合は将来の光圀役に据える前のテスト出演的な意味で登場しており、佐野の演じた偽黄門は「かつて悪政を行った家老を斬って逃亡した元宇和島藩士で、世直しの目的のために『光圀が四国に入った』という噂を利用して光圀になりすます」という設定であり、立ち居振る舞いもこれまでの偽黄門の芝居染みた振る舞いとは違った、いかにも本物らしく振る舞う事を重視した演出となっている。ただし、佐野はシリーズではレギュラーではないが、かげろうお銀の祖父・藤林無門役で2代目黄門時代の第16部に登場していた。3代目を演じるにあたり「今までの黄門様は涙を流した事がない(注)ので涙を流せる黄門様をやりたい」と抱負を語った。実際に悲願を見事叶えた・離れ離れだった末にようやく会えたなどの人物を目の当たりにした時やあまりにも悲しい結末となった時に涙を流す黄門様として人情溢れるタイプの光圀を演じた。
佐野浅夫と里見浩太朗は実は親戚関係にあたり、親戚同士で光圀を演じた事となる。なお、5代目に就任する前にも里見には光圀役の依頼があったそうだが、その時はまだ老人の役を演じる事に抵抗があったらしくそれを断っている。しかし、かつて2代目助三郎を演じ(ナショナル劇場)シリーズ最後の光圀役となった彼は、43部で終了が決まった際は「後ろからバッサリ斬られたように感じた」と長寿シリーズの終焉を残念がったという。
注:実は初代には直接ではないものの、光圀の落涙描写自体はあった。
メインキャラクターの主な呼称表
が\に | 光圀 | 助三郎 | 格之進 | 八兵衛 | お銀 | 飛猿 | 弥七 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
光圀 | 私 | 助さん | 格さん | 八兵衛 | お銀 | 飛猿 | 弥七 |
助三郎 | ご隠居 | 俺 | 格さん | 八 | お銀 | 飛猿 | 弥七 |
格之進 | ご隠居 | 助さん | 俺 | 八 | お銀 | 飛猿 | 弥七 |
八兵衛 | ご隠居 | 助さん | 格さん | おいら | お銀 | 飛猿 | 親分 |
お銀 | ご隠居様 | 助さん | 格さん | 八っつぁん | 私 | 飛猿 | 弥七さん |
飛猿 | ご隠居 | 助さん | 格さん | 八っつぁん | お銀 | 俺 | 弥七さん |
弥七 | ご隠居 | 助さん | 格さん | 八 | お銀 | 飛猿 | 俺 |
※「主な」と出ているが、基本的には呼称表通りである。ただし、相手や状況によっては変わる事もある。
光圀は町人に対しては一人称が「わたくし」に変わり、同年代でやんごとなき身分の御家人の場合はそれが「わし」に変わる。また城に登城し、御家人姿に正装する際は助三郎を「助三郎」または「佐々木」と呼び、格之進を「格之進」または「渥美」と呼ぶ。
助三郎と格之進は八兵衛・お銀・飛猿・弥七に対しては一人称は「俺」だが、光圀・やんごとなき身分の御家人の場合はそれが「私」に変わる。また三つ葉葵の印籠を出す時は、両者とも光圀を「水戸光圀公」や「水戸の御老公」と呼ぶ。
八兵衛は光圀一行以外に対しては一人称が「あっし」に変わる。
お銀は芸者などに化け、悪党と対峙する時は一人称が「あたし」や「あたい」に変わり、田舎娘や百姓娘に化ける時はそれが「おら」に変わる。また城の重役(大名・家老)に光圀の訴状を手渡す際は、光圀の事を「水戸の御老公様」と呼ぶ。
飛猿は光圀・助三郎・格之進・御家人に対しては一人称が「手前」に変わる。お銀同様、城の重役に訴状を手渡す際は、光圀の事を「水戸の御老公(様)」と呼ぶ。
弥七は光圀・助三郎・格之進・御家人に対しては一人称が「あっし」に変わる。お銀同様、城の重役に訴状を手渡す際は、光圀の事を「水戸の御老公(様)」と呼ぶ。
5代将軍・徳川綱吉は光圀を「(水戸の)御老体(ごろうたい)」(シリーズによっては二人きりの時などに「爺」)と呼び、光圀の宿敵である老中・柳沢吉保や堀田備前は光圀と対面する時は「御老公(様)」と呼び、陰では「水戸のジジイ」と呼ぶ。
シリーズ最強の敵
長いシリーズでたびたび強敵が光圀一行を狙う事が多いが、その中でも第5部の怪法師・鉄羅漢幻竜(演:天津敏)は「シリーズ最強の敵」として水戸黄門ファンの間で語り草となっている。
五島藩筆頭家老・宍戸源左衛門(演:安部徹)の命によって光圀と五島藩の安里姫(演:小林由枝)の命を狙う刺客として登場。行く先々の悪党を手下にして使役しては用済みと見るなり皆殺しにするなど狡猾かつ残忍な性格だけではなく、幻竜自身が鎖分銅を仕込んだ錫杖と刀、そしてそれに留まらない怪力と拳法を駆使し、光圀一行でさえ道中つけ狙う幻竜一味を退かせるのがやっとだったほどで光圀からは「化け物」と呼ばれ、第5部最終回前では光圀一行を小屋に閉じ込めて爆殺寸前の危機にまで追い込んだり、最終回においても一行が全力を尽くしても全くもって太刀打ちできなかったラスボスである。
これほどまでに化け物じみた幻竜を討ち果たしたのは、清に渡り少林寺拳法の修行を積んだ五島藩家臣・玉ノ浦朝勇(演:夏八木勲)で、彼が一行の助太刀に入り、幻竜との1体1の死闘の末に形勢不利と見た幻竜が逃げようとした所を腹を殴りつけ、怯んだ隙にさんざん一行を苦しめてきた錫杖を奪い取り、渾身の一撃で胸を突き刺した事でようやく化け物・幻竜は倒れた。この最強の助っ人の朝勇は、第5部第1話で幻竜に殺された安里姫の護衛・玉ノ浦朝英(演:横内正)の弟だった。
ちなみに、「光圀一行を行程の間にたびたび襲撃」「光圀一行が総力でかかっても追い返すのがやっとなほどの手練」「奥の手として光圀一行を爆殺寸前に追い込む」というパターンはその後の水戸黄門における強敵の典型的パターンであり、いわば幻竜はその王道パターンの礎を築き上げた開拓者といえるが、その後に登場した刺客たちは基本的に最後は光圀一行に倒されるか、後ろ盾である黒幕が倒れた事で自ら命を絶つパターンがほとんどであり(お銀のように、寝返るなどして味方になった者もまれにいる)、光圀一行ではなくゲストが討ち果たす形で勝利できたパターンは幻竜をおいて他になく、それが幻竜が「シリーズ最強の敵」と称される理由である。
ちなみに幻竜はBS-TBS版(第44部)においても小沢仁志が演じてリブート登場しているが、そちらは放送回数が圧倒的に少なかった(第5部の全26回に対し全10回)ためか登場回数は第4~5話のわずか2回で、第5部のような最強刺客としては描かれなかった。
かげろう忍法帖
3代目黄門期の第23部の後番組として、1995年にかげろうお銀を主役に据えたシリーズ唯一のスピンオフ作品『水戸黄門外伝 かげろう忍法帖』が制作された。
かげろうお銀が光圀の名代となり、配下の忍軍「かげろう組」を率いて世直しの旅を行う(ただし一つの旅程を連続して追う形式ではなく、各エピソードは独立している)ストーリーとなっており、お銀と配下のくノ一たちが変身の術・身替わりの術・催眠術などの多彩なお色気忍法で悪党を陥れるシーンが見所の作品となっている。
本作で『水戸黄門』の印籠に相当するのは光圀の直筆書状で、事件のクライマックスにお銀が大名や城代家老・奉行らの寝所に参じて書状を見せ、悪事の証拠を提示して悪党への裁きを求めるのに用いられる。また忍法を使うシーンでは、CGやモーフィングを駆使した派手な演出が多用されている。
アニメ
1981年から約1年弱にわたって、ナック(現・ICHI)製作のアニメ『まんが水戸黄門』がテレビ東京で放送されていた。
基本のストーリーの流れは時代劇とほぼ同じで、アニメらしい派手な演出やアニメならではの変なアイテムや変身技も登場。製作スタッフによると、主人公の黄門様があまり動かないので演出に苦労したらしい。
漫画
小学館の雑誌『小学五年生』2006年9月号から2007年3月号まで(2007年2月号は休載)、漫画版『水戸黄門外伝 DokiDokiアキの忍法帳』が連載された。主人公は第31~37部に登場するくノ一の少女・アキで、テレビドラマ版では成人男性である風の鬼若と鳴神の夜叉王丸がアキと同年代(やや年上くらい)の少年という設定になっており、またテレビドラマ版と共通する登場人物はこの3人のみ。ストーリーは、アキが母の命により、願いを叶える力を秘めた柘植の里の秘宝の宝珠を遥か東にある清龍の滝へ沈めて封印するために、宝珠の力を狙う甲賀の忍者と戦いながら清龍の滝を目指すというもの。執筆を担当したすぎ恵美子は最終話掲載号発売直後に胃ガンにより死去、これが遺作となった。単行本は2007年5月に発売。他に公認漫画作品としては、リイド社『コミック乱TWINS』で2008年1月号より連載された倉田よしみの『水戸黄門 食いしん坊漫遊記』がある。
ゲーム
さらに1987年にはサン電子(現・サンソフト)からファミコン専用のアクションアドベンチャーゲーム『天下のご意見番 水戸黄門』が発売された。テレビドラマ同様、光圀一行が日本諸国(全7ステージ)を旅し、プレイヤーは助三郎・格之進を交互に操作し各地で起こった事件の手がかりを捜し、悪党の悪事を暴いていく。アイテムを使用することでうっかり八兵衛や風車の弥七などおなじみのキャラクターを一定時間操作する事ができる。
続編『水戸黄門Ⅱ』では、光圀はなんと海を越え世界漫遊の旅に出ることに。
アメリカ・ドイツ・イタリアなど世界各国を廻りながら、各地で起こる事件を解決していく。
一応、前作の諸悪な根源であった「あんどう」を捜索するという名目はあるものの、本来鎖国中であるこの時代に海外に赴くことはご法度である。そもそも外国で徳川家の権力が通用するはずがないのだが(一応敵は「あんどう」の手下が変装していたりする)。また、イタリアではレオナルド・ダ・ヴィンチ、インドではゴータマ・シッダールタに出会うなど時代が等号しない人物が出てきたり、挙げ句の果てに人外の怪物をお裁きしようとしたりと、その内容はかなりぶっ飛んでいる。
ちなみに、プラットフォームはファミコンでありながら、音声が入っているという驚愕の演出がある。さすがにかなり濁り気味ではあるものの、それでも何を言っているのかは聞き取れるレベルである。
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2000年度NHK大河ドラマ『葵徳川三代』:語り手として中村梅雀演じる徳川光圀が登場、介さんのモデル・佐々介三郎、格さんのモデル・安積覚兵衛も登場した。
2013年度NHK大河ドラマ『八重の桜』:長年『水戸黄門』で渥美格之進を演じた伊吹吾郎氏が徳川斉昭役で出演、「水戸の御老公」と呼ばれている。