概要
日本の小説家・小松左京が1973年に刊行したSF小説。
1973年と2006年に映画化と漫画化が行われた。また、1974年にはテレビドラマ化されて降り、2021年に再びテレビドラマ化される予定。
さらに1973年10月から1974年3月にかけて毎日放送・ニッポン放送ほかにて、1980年にはNHKFMにて、それぞれラジオドラマ版が放送されている。
2020年7月にはサイエンスSARUによりアニメ版が製作され、Netflixで「日本沈没2020」と題して配信された。
小松氏は「日本人が国を失い流浪の民となったらどうなるか?」というテーマを掲げており、日本が沈没するというのはあくまで舞台設定に過ぎず、当初は地球物理学への興味を理由に小説を書き始めたわけではなかったが、書いていくうちに興味が湧いてきたという。
当時最先端科学であった「プレートテクトニクス」が駆使され、社会的に大きな反響を呼ぶこととなった。
また、本作が発表された当時は高度経済成長が一段落したばかりで、太平洋戦争の敗戦から約30年が経ったばかりであった。このため、当時の社会を担っていた戦前・戦中世代や団塊の世代にとっては国家の滅亡というワードは決して絵空事ではなかったことも本作が注目された理由であった。
2006年のリメイクに際し、小松氏は谷甲州との共著という形で沈没後の日本人達を描いた後日談物語『日本沈没 第二部』を執筆。ちなみに第二部の構想自体は第一部を書き上げた当初から存在しており、単行本の最後には「第一部完」と書かれていた。
漫画化は'73年の映画化の際にはさいとう・たかをが、'06年の映画化の際には一色登希彦が行っている。
あらすじ
地球物理学者の田所博士は日本列島の地殻に異変が起こってると感じ、助手の小野寺とともに調査を進め、「近い将来日本列島が大規模な地殻変動で全て海底に沈没する」と結論付けた。当初は信じなかった政府も日本人の脱出計画を進めるが、異変が予想を上回る早さで進み、各地で地震や火山噴火が連発し、人々は必死に生き残ろうとする。
映画
- 1973年版
当時の特撮技術の粋が集められ、有名なパニック映画として、なにより国家滅亡に際しての焦燥感を克明かつリアルに再現したものとして映画史に異彩を放っている。
ちなみに作中登場する深海探査艇「わだつみ」の模型はゴジラVSキングギドラの冒頭でそのまま流用されている。
製作期間は約4か月と短かったが、約880万人の観客を動員し、配給収入は16億4000万円(1974年邦画部門配給収入1位)を挙げる大ヒットを記録した。
- 2006年版
『前作の映画のリメイクというよりも原作小説の再映画化』というスタンスで制作された。
監督は樋口真嗣、脚本は成島出・加藤正人、そして主演は草彅剛。
豊富なCGと従来の特撮技術でリアルな描写で作られた。本作は『前作に欠けていた一般市民の視点を意識して取り入れた』というところを制作側は推していたが、対照的により上層の危機感(上記の国家滅亡に関する諸々)については意図的に排除・変質された部分が多い。
例1:1973年版は関係者がとにかく右往左往するが最終的に「最後まで諦めずにこの国を見捨てずにいこう」という展開を地で行くものであったが、本作では逆に政府首脳が「難民受入交渉」と称し我先に海外逃亡している。
例2:原作では南関東直下地震で250万人、73年版では360万人の死者・行方不明者が出る。それに対し、2006年公開版では東京は終盤までに全ての住民の退避後に津波が襲来している。
例3:日本全国に被害が出るのは同じだが、今作では本当に沈没するのは日本の約半分に止まり別に日本が消滅するわけではなく終息する。
このような内容から、初登場ランキング1位となり興行53億4000万円の大ヒットとなったにも関わらず前作を骨太たらしめていた要素が削られたと評価されることも多く、「ただのパニック映画」や「もう平成の時代になっているし、無理に国家滅亡云々を演出する理由もないしねぇ」と辛口にいわれることもある。
※画像はイメージです。
皮肉なことに、この5年後に本当の、しかもシャレにならないレベルの地震災害が発生し、リアルに国家の危機すら生起することになる。
なおこの時は、後述のテレビドラマ版を手掛けているTBSが制作に一枚かんでいた。
テレビドラマ
- 1974年版
1974年10月から1975年3月にかけて、日曜夜8時台のプログラムという形で、TBS・朝日放送系列局(放送当時朝日放送は関西地方におけるTBS系列局であった)および福島テレビ(放送当時はTBS系列局だった)にて放送された。
1973年版映画を手掛けた東宝が作者の小松との間に交わした取り決めの中に、「映画化の後テレビドラマ版を、TBSで放送してもらう」という条項があり、それに従って放送されたもの。映画版と平行して制作されたため、映画版から拝借したシーンも少なからず存在した。また、キャスティングの一部は映画版と共通している(田所博士役の小林桂樹はその一例)。
さらに、内容に関しては原作とは結構異なる部分があったりする(例えば原作なら中盤で地震によりかなりの被害を被った東京がドラマでは終盤まで何とか持ちこたえていた)うえ、原作や映画とはまた違ったオチとなっていた。
- 2021年版
2021年10月からTBS(・毎日放送)系列局(に加えて日本テレビ系列局約3局)にて放送される予定。
設定を2023年の日本に置き換えた上で制作されるとのこと。
香川照之が田所博士を演じる。
アニメ
2020年7月にNetflixオリジナルアニメとして配信。「日本沈没」のタイトルでこそあるものの、原作・映画版で画かれた『国家滅亡への克明な描写』とは全く異なる『現代日本の一家族の災害からの逃避行』といった展開で進められ、原作とのストーリー上の関連は無い独自の物語となっている。
内容は、『突然の大地震で日常を奪われた家族(父(日本人)と母(フィリピン人)、姉弟の4人)が錯綜する情報のなかで「西は安全」という噂を信じて逃避行をはじめる』というもの。
監督は湯浅政明。配信時期的に「映像研には手を出すな!」と並行して作られていたと思われる。一応、今までのにもテーマとされてきた『日本の再生』を含みつつ、現在巷にあふれている『日本スゴイ』への痛烈な風刺が根幹を成す、といった考察もされているが・・・
- 素手でイノシシを捕まえる主人公の父親。その後山芋を掘ろうとしたら不発弾を掘り当て爆死
- 「山から毒ガスが漏れている」と叫びながらグライダーに乗ったYouTuberが飛来。「そんなこと頼んでない!」と逆切れして進んだ先でその毒ガスで同行していた女性が怪死。
- 弟のゲーム機が壊れたので半田付けで修理したら割れた液晶まで直っていた。
- 全10話中4話を割いて描いた琵琶湖のカルト教団が大麻を栽培、収穫した大麻をカレーの具材にしてそれを食べた引きこもりの青年が「母さんのカレーの味」と涙を流す、その後ヤク中で狂乱した老人に射殺。
- 自衛隊が特定の思想の国民だけ脱出船に乗せる。その後突然始まるラップバトル。
- 第1話で主人公武藤歩が足に怪我を負うが、なぜか一切誰からも治療されない。最終話で救出されるが、この怪我が原因で足を切断。数年後、パラリンピックの陸上選手として主人公が活躍。
等々、総評としては左右のイデオロギー云々を飛び超えた 無茶苦茶な展開(=超展開)が賛否を呼んでいる状態にある。
脚本を担当した吉高寿男(『ドラゴンボール超』他)は本作へ色々な意見が寄せられていることに対して同年7月15日付けで
「ツッコミどころ満載は褒め言葉です。だってそう作ってるから。」
とツイート。続く17日付けで
「リアリティを追求した作品もあれば、リアリティより意外性を選んだ作品もある。どちらも好き嫌いあって当然。ツッコミやケチもつくだろう。それで構わない。賛否両論はエンタメで最高の勲章なのだから」
と発言し意図的なものであることを暗に認めた。
配信されるや絶賛の声も出てはいるが酷評の声が大きく、
「『東京マグニチュード8.0』を見る方がいい」
「カルト教団や大麻カレー辺りからの下りは完全に『ミッドサマー』のパロディで原作関係ない」
「色々な要素が盛りだくさんだけど、意味不明と胸糞の連続すぎてストーリーにも登場人物にも感情移入する余地がない」
といったコメントだけでなく、「ギャグアニメ」「令和のチャー研」というある意味で不名誉なあだ名をつけられることになった。
(ちなみに、なぜか伊集院光は絶賛していて、吉高は自信の根源にしていることを仄めかしている。)
この他、震災時の人の死や負傷といった描写にリアリティがあると評されるが、一方で災害の影響で各インフラが破綻しているにも関わらず、
●自動車での移動でガス欠描写が1回ある以外は問題なく『西へ』の逃避行を続ける( こんな状況下でガソリンスタンドは営業してるのか…? )
●途中から主人公がスマホにアプリをダウンロードしている&一度も充電せず使用し続ける。
↓
しかし、最終局面で件のYouTuberが電波受信用の気球を飛ばしてSOSを発信したことで一家も救助される描写があり、通信システムの麻痺具合に矛盾が生じている。
●そもそも『日本が沈没』しているという描写が(少なくとも中盤前後は)はほとんどされない。(このため、件のカルト教団編あたりでは視聴者から『焦燥感ゼロ』と評される)
…といった部分から、文明崩壊ものとしては考証レベルからして杜撰すぎるといった指摘もされている。
パロディ他
現在まで影響は残っており、様々な作品に「日本沈没」をもじった点が多い。筒井康隆は原作者公認の『日本以外全部沈没』を書いており、2006年に映画化もされた。
ただし、本作の内容や意義をどう解釈するかで作品の内容が大きく左右されやすいネタ…民族・国家意識、日常・共同体の破滅、自然科学、リスクマネジメント、人間の本性ectといった作り手のイデオロギーや社会・科学知識に大きく左右されやすい事柄の集合体でもあり、上記のようによほど脚本や設定の整合性に気を付けないととんでもない結果になることが多い。
余談ではあるが日本が没落する様を表現する言葉として使われることもある。(とある国の新聞が東日本大震災のスクープでこれをやらかして自国民からもマジ●チ扱いされた。こちら)
関連タグ
小説 SF 映画 特撮 小松左京 日本列島 地震 火山 災害 沈没 水没 終末 大麻カレー
太陽の黙示録…大地震をきっかけに全国規模の未曾有の大災害に見舞われた日本列島と日本人が災害やアメリカ合衆国と中華人民共和国の思惑による分断統治からどのように立ち直るかを描いた作品。かわぐちかいじによるオマージュ作品。
東京マグニチュード8.0…都心で大地震に巻き込まれた姉弟が家族との再会をめざして行動していく物語。政治思想に関する描写はほとんどなく、あくまで姉弟が日常へ復帰するまでの道程がメイン。
コッペリオン…お台場の原発が大地震によってメルトダウンを起こし、東京は放射能に覆われゴーストタウンとなった世界を描いた作品。展開が東日本大震災にもろ被りするため、2010年にアニメ化が決まっていたが2013年まで持ち越された。