概要
映画ドラえもんの第11作目の作品。上映は1990年3月10日。
原作にあたる大長編ドラえもんでは『のび太のパラレル西遊記』の制作がなかったため第10作目。
後に舞台化されてもいる。
童話のような動物が住む星での冒険というメルヘンチックな作風だが、その一方で自然環境の保護と人間による環境破壊の批判が物語の題材となっており、原作者の藤子・F・不二夫は「少し露骨だったかもしれない」と語っている。
また、謎の靄の中を彷徨う冒頭や地獄星の情景、靄の中から現れるニムゲの描写など、表面的な印象に反して、子供にとってはトラウマになりかねないホラー演出が目立つ作品でもある。
他には『ジャイアンが「物語が成立するのに必要なレベル」以上に臆病になり過ぎていてキャラ崩壊している』『ゲストキャラの関係が狭過ぎる(チッポとゴリ郎が友人ではない等)』と指摘するファンもいる。
ストーリー
ある夜、のび太は不思議なピンクの靄を通って不思議な森に辿り着いた。そこで人間のように言葉を話す動物たちを見たのび太は夢の世界だと思い込んだが、翌朝目を覚ますと夢の中で拾ったはずの花が枕元に落ちていた。
翌晩、家の中に靄が発生している事に気付いたのび太はドラえもんと共に靄の先を探検し、川で流されかけていた犬の少年のチッポと出会う。靄の先の世界は動物たちが平和に暮らす、アニマル惑星というべき星だったのだ。
後日、裏山でゴルフ場開発を進める業者を追い払ったドラえもんたちはそこで再び靄を見つけ、しずかと共にアニマル惑星へ向かう。ジャイアンとスネ夫も後を追うが、靄の中を彷徨った挙句、荒れ果てた廃墟の世界に辿り着いてしまう。
アニマル惑星での生活を堪能したのび太たちはジャイアン達と合流し、地球に戻る。
しかし、チッポからの連絡で大昔に動物たちを虐げた悪魔のニムゲが攻めて来たことを知ったドラえもんたちは、チッポを救うべく再びアニマル惑星へ向かう。
レギュラーキャラクター
当初はのび太の夢の話を幼稚だと笑っていたが、彼を追ってアニマル惑星へと向かう。動物ごっこ帽子を被って猫耳を得るが、相変わらずタヌキ扱いされてしまう。
偶然にもアニマル惑星に辿り着き、チッポと友達になる。
動物ごっこ帽子を被って熊に変身したが、特に能力は使っていない。
動物ごっこ帽子でうさぎに変身する。高い聴力を活用する。
動物ごっこ帽子でゴリラに変身する。廃墟の世界やゴリ郎の父がトラウマとなり怯えるシーンが目立つが、自分も体力が尽きかけていたのに溺れたスネ夫を助けようとしたり、ニムゲの襲来を知った時には躊躇わずアニマル惑星に向かう事を決断するなど男気は今作でも健在(とは言っても溺れた後にゴリ郎の父に散々殴られたのが今作のジャイアンのトラウマなのだが…)。
動物ごっこ帽子でキツネに変身。嗅覚を活用する。
裏山が強引にゴルフ場にしようという業者に町民達と抗議に乗り出す。
その過程で環境問題を勉強し、のび太とドラえもんに解説(説教)した。
ゲストキャラクター
好奇心旺盛な犬の少年。アニマル惑星に伝わる伝説を調べるため無茶な冒険をして父親に叱られている。のび太たちと友達となり、彼が異星人でも構わないと思っている。行動力は恐らくメインの5人以上だと思われ、作中では父だけじゃなく、ドラえもんやのび太からも窘められたり止められるシーンもあるが、中盤から合流したジャイアンからは「いい度胸だ。」と一目置かれるシーンもある。ただし従姉妹のロミが絡むとその冒険心も収まるあたり相応の少年でもある。
チッポのパパ(CV.キートン山田)
町内唯一の警察官。無茶なことをする息子に気苦労が絶えない。
チッポのママ(CV.佐々木るん)
家族を愛する良き妻にして良き母。
ロミ(CV.西原久美子)
チッポの従姉妹。コックローチ団に連れ去られて人質にされたが、のび太に救出される。
ウータン(CV.川久保潔)
町長であるオランウータン。神への信仰心が特に強く信託を受けてニムゲへの対抗策を練る、
ゴリ郎の父(CV.広瀬正志)
ゴリラの船長。近眼のためか、ジャイアンのことを何度も自分の息子と間違えていた。
ゴリ郎(CV.峰あつ子)
船長の息子。ジャイアンに似た体格だが、性格は大人しめ。
実はチッポとは知り合いなだけで友人関係ではない。
タヌキ
本物のタヌキ。タヌキと間違われてばかりで怒っているドラえもんに対し「タヌキといわれてそんなに腹立つか」と発言している。
連邦警察の職員。コックローチ団に潜入捜査をしており、のび太に協力した。
警察隊長(CV.加藤正之)
連邦警察の隊長。コックローチ団逮捕の指揮を執った。
コックローチ団
秘密結社「コックローチ団」の指導者。各組長を配下に置く。その素顔は若い美青年。
ニムゲ組長(CV.小杉十郎太)
コックローチ団の一グループを率いる組長。
ニムゲ団員(CV.西尾徳)
舞台
アニマル惑星
人間のような二足歩行と五本指の手を獲得している動物たち(魚や完全水棲の亀も知能を持ち合わせている)が暮らす平和な惑星。
自然エネルギーによる発電や水・光・空気による合成食物の生成、汚水処理施設など自然に配慮した科学技術を持ち、これについてはドラえもんも22世紀の地球以上かもしれないと驚くほど。
その一方で神の争いを禁ずる教えにより平和が基本であったため戦争も武器もなく、国という概念もなく、そのためにニムゲの攻撃には何の抵抗もできなかった。宇宙船の技術も同じ理由で実現されていない。
かつてはニムゲが暮らす星で虐げられていた動物だったが、星が滅びかけた時に科学者がどこでもドアのような道具であるピンクの靄を生み出し、それを使って動物達を別の惑星へと移住させ、そこでの文明を発達させた。
このことは今を生きる者たちに神話として伝わっており、その科学者は神として祀られ、信仰心もかなり強い。
地獄星
アニマル星との二連星で、アニマル星のすぐそばにある星。動物たちはこの星を「月」と呼んでいる。
かつて地球人型種族「ニムゲ」による文明が栄えていたが、文明の発達による環境破壊や核戦争で惑星は荒廃し、生き残った者達は衰退した生活水準となっている。
自力での機械生成はままならず、古代のゴミ(ロストテクノロジー)をリサイクルして日用品から宇宙船まで賄っている。
地球における22世紀のひみつ道具レベルの科学技術を持った科学者(現アニマル惑星の神話の中の『神』)が過去に存在したことを考えると、荒廃する前は相当に科学が発展していたと考えられる。
現在では1000年の時を経て文明再建の目処が立っているが、「宇宙は人間のために存在する」と考える一部の過激派達が秘密犯罪結社「コックローチ団」(原作では「ニムゲ同盟」)を結成してアニマル惑星を侵略して乗っ取ろうとした。
全身防護服を着用しているニムゲ一味が汚染された地域の廃墟にアジトを構えている反面、警察組織である連邦警察が身綺麗であることから、現在では惑星全体が汚染されていて荒廃しているわけではない様子。
舞台装置
ピンクのモヤ発生装置
製作者が過去の人物で故人であることから作中では正式名称は出て来ない。
光るピンク色のモヤ(ガス)も『ピンクのモヤ』や『光るモヤ』などと呼ばれる。
どこでもドアのように、二点間を繋ぐピンク色のモヤ(ガス)を発生させる装置。
その正体はアニマル惑星の動物達に神話として伝わる、『神様が動物達の先祖を移動させた』とされる『光の階段』そのもの。
動物達の先祖を現アニマル惑星に移住させた神(科学者)が作ったモノと作中で推測されている。
禁じられた森の地中に埋められていた。
地球の22世紀にも『どこでもガス』という名の似たようなひみつ道具が発売されていたが、そちらは欠陥が多く発売中止になったらしい。
これに関しては「同じような効果の似たようなひみつ道具が22世紀の地球に存在した」だけであり、この装置の開発者は地球の未来人などでもなく、あくまでアニマル惑星の隣の星にかつて存在した優れた科学者(神)であることに注意。
星の船
上記の科学者が隣の星と現アニマル惑星との移動に使用していた船。
アニマル惑星の神話の中では『神が乗った星の船』とされているが、その正体は乗員1人から2人程度の小型宇宙船(シャトル)。
作中ではのび太がアニマル惑星と隣の星を行き来するのに使用した。
ツキの月
3時間の間、運が上昇してツキまくるひみつ道具。
小さな錠剤であり、経口摂取をする。
幸運を付与する超強力なドラえもんにとってもとっておきのひみつ道具。
この効果の運の変動具合(振れ幅)は普段の本人のツキ具合に反比例するため、普段の運が悪いのび太が使用すると運の上昇具合がとんでもないレベルで上昇する。
のび太が星の船を使ってニムゲのアジトに侵入して捕らわれのロミちゃんを救出する際に使用した。
余談
のび太ママの環境活動
本作品は歴代の映画ドラえもんを見てもとりわけメッセージ性が強い作品であり、特にのび太のママの言動が話題になることが多い。
いつもの裏山が切り崩されてゴルフ場にされるという話を耳にした際、近所の人と一緒になってゴルフ場建設反対の署名運動を計画する、のび太の部屋の机を占拠して自然環境の本を漁りながら「机に向かうと気分が出る」「地球のためなんだから我慢しなさい!」と怒鳴る、などの行動がこの話題においてよく指摘される。
裏山のゴルフ場計画に関して、ゴルフ場建設を計画している会社の社長と思われる人物が作中で「この山は我が社が大金を出して手に入れた」といった発言をしている。
そのため作中での社長の欲深そうな性格描写はともかくとして、企業が金銭をもって購入した裏山をどのように開発しようと、その行為自体は正当な権利かつ正当な経済活動である。
上映当時が環境破壊問題が世間で取りざたされるようになって来た時代であることと、概要でも述べられているように作者である藤子の「少し露骨だったかもしれない」が本作品ののび太のママの言動に集まってしまっている。
なお、公開当時(1990年)はバブル景気の最中であり、全国各地で地上げが横行し、ゴルフ場の乱開発が行なわれていたことも背景にはある。
ニムゲ総長の素顔
映画版のみ、最終盤にニムゲ一味が駆けつけた連邦警察に全員逮捕され、連行中のニムゲ総長がマスクを外すシーンがある。
マスクの下から現れたその素顔がまさかの若いイケメンであった。
上映当時はもちろん現代においても、「ドラえもんのイケメンキャラは?」の話題で必ずと言っていいほどに取り上げられる、歴代ドラえもんで最上位クラスのイケメン。
関連タグ
ハーバー・ボッシュ法:現実世界に存在する技術。「空気からパンを作る」と比喩されることもある。