ヒアリを見つけてヒヤリ...などとは言えない状況である。(2017年6月の天声人語より。)
曖昧さ回避
概要
アカヒアリとも呼ばれ、南アメリカ原産のアリ。学名「Solenopsis invicta」の種小名「invicta」は「無敵」の意味。働きアリのサイズは2.5mmから6mmまでという連続的な変異(兵隊アリなどという特別に大きいクラスの区分はない)。赤茶けたつやつやな体表をしており、腹部は濃い黒茶色。
腹部の末端に毒針が格納され、人間が刺された時の激痛は凄まじい。その痛みはまるで火傷のようであり、「Fire ant」(ファイアーアント、火蟻)の名の由来となっている。
生態
一般のアリと異なり、森よりも草地など開けた環境を好む。地面の上からでも見える円錐形のアリ塚を巣とする。地上部分と地下部分を合わせるとラグビーボールのような形状である。
周りの水位が高くなると、巣の仲間が集まって一面の筏となり、洪水の災いを乗り越えるという独特な生態行動を持つ。
攻撃性が強く、死んでいない小型の爬虫類すら集団で襲い餌食とする。
一匹の女王蟻が一日に100個の卵を産み、繁殖力は凄まじい。「一度交尾さえすれば女王アリ単体で産卵可能」という特徴は外来種騒動(後述)で度々取り上げられるが、これは別にヒアリ特有ではなく、アリ全体として一般的な特徴である。
自然下の天敵は同じ南アメリカのアマゾンなどに棲息し、ヒアリに寄生するノミバエである。
毒性
そのアルカロイド性の毒は傷みだけでなく、最悪の場合は各種のアレルギー症状を引き起こす。
痛み、痒み、じんましん、発熱、強い動悸といった症状が知られており、アナフィラキシーショックによる人間や家畜の死亡例もある。
時々に「殺人アリ」とも呼ばれるが、人間はヒアリの毒で直接に死ぬ可能性は低い。
とは言え、その毒の危険性は事実である。これは針を何度でも刺す生態によるところも大きい。ヒアリは刺す前に噛み付いて自身を固定するため振り払うのも困難である。
外来種問題
アメリカ合衆国での害は有名であるが、貿易の積荷などに混ざってオーストラリア、ニュージーランド、マレーシア、タイ、フィリピンなど海の向こうの国々にも拡散している。日本の近くでは中国と台湾で既に定着されている。
日本のヒアリ騒動
日本では2017年6月に中国から兵庫県尼崎市に運ばれたコンテナにて発見される。環境省は繁殖している可能性は低いとしつつも、侵入を否定もできない、と発表している。その後、周辺を念入りに調査している。
その後、神戸港、名古屋港、東京品川区の大井ふ頭でも発見されている。
神戸港でも発見された時点で、国交省は全国の自治体に港にヒアリが侵入していないか調査するよう求めた。
これは一時騒動となり、情報が錯綜している中で周りの虫にヒアリがいるではないかと心配の声が多い一方、これによりヒアリでない在来の虫が誤って駆除されることも懸念される。
しかしそれ以降でも、ヒアリの侵入は港で食い止められているため、一般市民がヒアリに遭遇する可能性は非常に低い。メディアに煽られて過剰に騒ぐことは抑えるべきである。
見分け方
日本在来のアリの中にはヒアリと似たものもいる。ヒアリを完全に食い止めるほど強いとは言えないが、万が一ヒアリが知らずに侵入した場合、その進出をある程度まで抑止できるのは縄張り意識の強い在来アリであるため、誤って駆除され過ぎるとヒアリが入り込み易くなるので要注意。
「赤茶色の体と黒い腹部」「腹柄(胸部と腹部を繋ぐ部分)に2つのコブがある」「毒針を持つ」という特徴がよく取り上げられるが、これは多くの日本の在来アリにも当てはまり、特に毒針はどのアリも常に隠れてあんまり役に立たないポイントである。
実際、アリ全般から見ても、ヒアリの外見はかなりの没個性であり、一線を画すほど目立つ特徴は一切ない。大雑把に言うと、大きい・黒い・色が薄い・姿が特徴的などのアリはだいたいヒアリではない。
肝心な特徴は「触角先端2節が膨らむ」「口元(頭楯)に3本の突起がある」だが、いずれも肉眼ではほぼ確認できないものである。
肉眼でもある程度確認できる見分け方は、上記の「赤茶色の体と黒い腹部」「腹柄に2つのコブがある」に加えて、「体長2.5~6mm」「つやつやな体」「速い動き」「体に棘など一切ない」という手がある。
一部ではなく、上記全ての特徴を揃っているものがヒアリである可能性が高い。
また、「蟻塚を作る」という特徴もよく指摘されるが、日本の在来種エゾアカヤマアリも蟻塚を作り、しかも希少種であるので見間違いに要注意。
日本にはトフシアリというヒアリと同属(トフシアリ属 Solenopsis)ほどの近縁が分布するが、こちらは無害な在来種であり、体色も薄黄色いので区別は容易。