独島級揚陸艦
とくときゅうようりくかん
独島級揚陸艦とは、韓国海軍が運用している揚陸艦である。他国ではヘリコプター揚陸艦やドック型揚陸艦、あるいは強襲揚陸艦とも認識されている。同海軍の揚陸艦を集めた第5戦団第53戦隊に配備されている。
同型艦は2隻。
- 『独島』:1番艦。読みはドクト。艦番号LPH-6111。2002年10月に韓進重工業において起工、2005年7月に進水、2007年7月に就役した。建造コストは3260億ウォンだとされる。艦名は、韓国が不法占拠している竹島の、韓国側の自称に由来する。
- 『馬羅島』:2番艦。読みはマラド。艦番号LPH-6112。2014年8月に建造が正式承認され、2017年4月27日に同じく韓進重工業において起工、2018年5月14日進水、2021年に就役した。艦名は、韓国最南端の島に由来する。
艦のスペックは全長199m、全幅31m。1番艦では基準排水量14,300t、満載排水量18,800t。2番艦では基準排水量14,500t、満載排水量19,300t。
韓国軍は、アメリカ海兵隊に次ぐ規模を持つ両用戦部隊として韓国海兵隊を組織していたが、彼らを運ぶ輸送力の不足が問題になっていた。そこでそれを補うために計画されたのが本級である。当初は戦車揚陸艦のような船体を計画していたが、途中で方針変更され、LPH(強襲揚陸艦)として建造されることになった。計画にあたってはインヴィンシブル級軽空母を建造したイギリスのBAe SEMA社の技術者の協力を受けている。
当初は3隻の建造を計画しており、これは将来的に3個の機動艦隊を編成し、1つの機動艦隊に1隻ずつ配備することを構想したからである。しかし予算不足で機動艦隊が1個に削減されたことや、韓国海軍が保有したことのない艦種だったため、まず1隻を建造して運用経験を長期間積んだ方がよいと判断された。
そのため1番艦「独島」は実験艦としての傾向も強く、配備先も当初予定していた機動艦隊である第7機動戦団(2025年に機動艦隊へと拡大改編)ではなく、掃海艇や既存の戦車揚陸艦を始めとする支援艦艇を集めた第5戦団となった。
ようやく2隻目が建造されることとなったものの、予算の都合や海軍の行う計画の優先順位が調整されたため、2番艦建造の優先順位は下がっていき、2番艦「馬羅島」が起工したのは「独島」の就役から10年後であった。しかし「馬羅島」では改良も図られており、航空機発着管制所を艦橋前部から艦橋後部へ移動、防空能力の強化、飛行甲板の補強などの設計変更が行われている。
航空運用機能
最大の特徴は全長199mの全通式飛行甲板である。飛行甲板にはヘリコプター用の5つの発着スポットを有し、最後部の5番スポットは、V-22オスプレイやCH-53、CH-47などの大型機も着艦可能である。
前部と後部に面積17m×9.75m、容量19tのエレベーターを有しており、艦載機や車両を艦内格納庫に移動させることができる。ただし艦内格納庫は艦載機専用ではなく、車両用格納庫と兼用であり、車両の搭載数によっては艦載機を減らすか、艦載機を飛行甲板に野ざらしで係止する必要がある。
艦載機としては主にUH-1、UH-60P、スーパーリンクスを運用しているが、当初「独島」は上陸作戦専用のヘリコプターを予算問題で保有しておらず、就役時から陸上型のUH-1とUH-60Pをその用途に充てていた。だがこれらは陸上型であり防塩処理がされておらず、メインローターの折り畳み機構が存在しないため、不便を強いられることとなった。
後の2017年12月27日、上陸作戦用ヘリコプターとして韓国国産のMUH-1マリンオンが海軍と海兵隊に引き渡されたことで、問題は一応解決した。これは国産のKUH-1スリオンをベースに2013年7月から開発された機体であり(後述)、独島級には7~12機が搭載される。
また、2024年11月にはアメリカのゼネラル・アトミックス社と協力し、同社製のUAV「グレイイーグルSTOL」の発艦試験を行った。同機はアメリカ陸軍への納入実績もあるMQ-1Cの発展改良型であり、当然武装も考えられ、本級の新たな運用の可能性を見出すこととなった。ただし韓国海軍は関心を寄せつつも、同機やそれに相当する無人機を今すぐ導入する予定はない。
改造してF-35B戦闘機を搭載できるという主張も内外に多少あるが、飛行甲板を船体ごと延長する必要性やエレベーターの昇降力不足など、新造に等しい大改造が必要ともされ、韓国海軍でも本格的な検討すらしていない。
輸送揚陸機能
艦後部にはウェルドックがあり、ここから水陸両用車や上陸用舟艇を発進させる。ウェルドッグの広さは長さ26.4m、幅14.3mになり、KAAV7水陸両用車12両、またはLSF-Ⅱソルゲ型エアクッション艇2隻、もしくはLCU(汎用揚陸艇)2隻を収容することが可能である。
車両甲板にはKAAV7なら最大17両、K1主力戦車なら最大16両を搭載可能。さらに上陸作戦のための兵力として最大1個半大隊分である720名の海兵隊員を艦内に乗せられる。基本的に上陸作戦を行う場合、以下の装備を搭載する。
個艦防御機能
1番艦では近接防空のため艦橋前部にRIM-116 RAM近接防空ミサイルを、艦首と艦橋後部にオランダ製のCIWS「ゴールキーパー」を装備している。
なお、艦橋後部に設置されたゴールキーパーは俯角をつけて射撃した際、甲板上に係止されているヘリコプターを誤射する危険性が指摘されている。これについてはヘリの係止位置を変えたりして暫定的に対処しているが、ゴールキーパーの位置を変更するなどの根本的な対策は採っていない。
しかしながら「独島」などの揚陸艦は味方の駆逐艦、フリゲートに護衛されながら行動するのが基本のため、そもそもCIWSを使う機会がほぼない、使うときが来るとしたら「独島」を護衛する機動艦隊と潜水艦司令部が壊滅したときである、との意見も見られる。
2番艦ではCIWSを米国製の20mmファランクスに変更。1番艦で問題視された後部のCIWS設置位置を下げることで、甲板上のヘリへの誤射を防止している。さらに防空ミサイルも韓国国産のK-VLSに搭載するK-SAAMへと変更している。
電子装備
揚陸艦としては高度な電子装備を搭載する。3次元対空レーダーとしてオランダのシグナール社(現タレス・ネーデルランド社)が開発した「Smart-L」を艦橋中央部に設置しており、この黒色で横長の長方形の外見をしたレーダーは毎分12回転で、ビームを最大仰角70度まで振ることが出来る。その性能は大型航空機を最大400kmで、戦闘機などの小型航空機を220kmで、小型ミサイルを65kmで探知可能とのこと。
さらにマスト上部には同じくシグナール社が開発した3次元多目的レーダー「MW-8」が設置されているが、こちらは設置場所が悪かったために就役時からノイズが酷く、後に改善はされたものの完全には治っていない。電子戦システムは国産の「SLQ-200(v)5K SONATA」を装備する。
2番艦からはレーダーを刷新。対空捜索レーダーを「EL/M-2248 MF-STAR」に、水上捜索レーダーを韓国国産の「SPS-550K」に変えており、ノイズの問題を解消している。
機関
機関はフランスのSEMT Pielstick社製の16PC2-5ディーゼルを4基搭載している。最高速力は強襲揚陸艦としては標準的な23ノット(43km/h)である。航続距離は巡航速度19ノット(33km/h)で8000海里を航行し、これは約15,000km程の距離である。
また電源として主発電機4基搭載するが、これは本級への「欠陥」の槍玉に挙げられやすい。というのも2013年9月10日、航海中に発電機1機で原因不明の火災が発生。すぐに消火されたが、消火用水を浴びてもう一つの発電機が停止し、海上で航行不能となる事故を起こしたからである。
ただしこれは艦の欠陥とも言い切れない面がある。というのも、その前の4月に乗員の誤りで機関室全体を浸水させる事故を起こしており、これ自体は純粋な人為的ミスだったが、この際に浸水した発電機2基を陸揚げしており、あろうことか残る発電機2基だけでの運用を続けていたのである。
それが最終的に上記の火災事故で航行不能という事態を招くこととなった。つまり欠陥ではなく人為的ミスの積み重ねによる事故といった方がいいだろう。無論それはそれで問題だし、発電機が火災を起こした理由も不明な以上、欠陥ではないとも言い切れないが……。
艦内施設
韓国海軍最大の艦であるため、艦隊指揮のための施設が非常に充実している。現に2010年の天安艦沈没事件や2014年の韓国フェリー転覆事故などで指揮本部としての役割を担ったこともある。また、被災者を1,100人乗艦させることができ、総合病院レベルの医療設備もあるので、大規模災害時にも対応できる。
乗員330人のための施設としてはPX(売店)、ジム、約1000人が1時間以内に食事可能な食堂、コインランドリー、衣類滅菌システム、図書館なども備え付けられている。女性兵士区画には28人分のベッド、シャワールーム、トイレ、洗濯機がある。
独島級に搭載される上陸作戦用のヘリコプター。韓国国産ヘリコプター「KUH-1スリオン」をベースに開発された。生産数は40機で海兵隊に32機、海軍に8機が導入される。
2005年から上陸作戦用ヘリの導入計画が進められ、ロシアのKa-32、海外から新規のヘリコプターを導入するKCH、そしてスリオンが候補に挙がっていた。最終的にはスリオンが勝利し、2013年7月から開発が開始され、2017年12月27日に引き渡された。
スリオンからの変更点は、従来4つであった補助燃料タンクを2つ追加し合計6つの補助燃料タンクを搭載したこと、機体に腐食防止のための防塩処理が施されたこと、メインローターの折り畳み機構が追加されたこと、そして戦術航法装置(TACOM)の搭載である。
가상 함정체험 : 독도함(LPH) 편 [네이비위크2020] (Virtual Tour : ROKS Dokdo) - 大韓民国海軍
韓国海軍公式の「独島」艦内の散策動画。日本語翻訳は無いが、格納庫やPX、食堂などの様子が細かく映されており、大雑把な艦内の様子を巡ることが出来る。
Pixivでは、艦そのものより艦船擬人化系のイラストの割合が高い。