概要
ロシア語では「鎌と槌(Серп и молот)」。ドイツ語や英語では「槌と鎌」とも。ロシア「十月革命」以後に広まり、各地の共産党や共産党に統治される国家がその記章の中に用いた。単一の単語表記は「☭」。
由来
西洋では、ハンマーは中世以来、手工業者のシンボルとして一般的になり、様々なエンブレムに用いられるようになった。西ヨーロッパのプロレタリアート運動は19世紀後半に始まり、階級の象徴としてトンカチを選んでいた。ロシアでも1905年の第一次ロシア革命以前から、いくつかの革命運動の中で一般的な認知を得るようになっていた。
鎌は1917年までのロシアでは農民のもっとも一般的な農具で、いくつかのロシアの都市では収穫や豊作を表す農民の象徴として都市の紋章に用いられていた。
ちなみにこのような形状の鎌は月鎌、山鎌と呼ぶ。
描写
ソ連の紋章学では、「鎌」は常に「槌」に被せて描かれた。これが意味するのは、「槌」が象徴としては「鎌」に先んじ、「鎌」よりも古い意味を持つということだった。しかし多くの場合、「鎌と槌」の順番で読まれた。ソ連の構成国の国章にも描かれたが、その順番は時として入れ替わっている。
後に「鎌と槌」の上に、革命において流された人々の血を表す「赤い星」も描かれるようになった。
ソ連における使用
革命後、モスクワのザモスクヴェリェーチエ(モスクワ川南部)地区における1918年のメーデー式典の装飾として、画家イェヴゲーニィ・カムゾルキンが制作した。それまでは「犂と鎌」が用いられていた。同年7月18日、第5全ロシア・ソヴィエト大会において承認を受け、以後、ロシア社会主義連邦ソヴィエト共和国(当時)の、そしてソ連の国璽として、各地のソヴィエト諸共和国にも用いられるようになった。赤い星を伴う「鎌と槌」は1923年に現れ、1924年には憲法の中でも言及された。1937年、1978年には憲法に国章として明記された。
「鎌と槌」は、公式書類、赤軍の軍服、いくつかの国家事業の建築物、官庁、組織、輸送手段、紙幣、ソ連最高会議の議席、連邦及び自治共和国の最高ソヴィエトの議席、最重要書類、ソ連のいくつかの勲章やメダル、胸章その他にも用いられた。
「鎌と槌」は事業や組織のエンブレムとしてもたびたび用いられている。ロシアの航空会社アエロフロートは翼のある形の「鎌と槌」を紋章として採用している。
ソ連国外における使用
ソ連以外のヨーロッパのワルシャワ条約機構加盟国では、比較的「鎌と槌」の形では使われず、各地のアレンジした形をとった。
ハンガリーでは1957年まで類似のシンボル「槌と麦穂」が使われた。ドイツ民主共和国の国章では、ハンマー(労働者階級)、コンパス(知識人)、鎌の代わりに麦穂の冠(農民)を当てはめたシンボルが用いられていた。これは“労働者、農民、国家”の連帯と“知識人”を象徴したものだった。
イギリス労働党もかつて「シャベル、筆、鶴嘴」を類似した意匠で党のシンボルに組み込んでいた。
イギリス共産党は「槌」を労働者階級、「鳩」を平和の象徴として取り込んでいる。フランス共産党は2013年、「鎌と槌」を党員証から削る決議を出した。
アジアやアフリカでは、後に親ソの立場を放棄した中国共産党やポル・ポトの「クメール・ルージュ」も含め、「鎌と槌」が多用された。中国共産党の場合は「鎌」の柄がソ連のオリジナルより短く、黄色がより暗い色合いに変えられている。
朝鮮労働党の場合、主体思想の紋章は槌、草刈り鎌、伝統的な朝鮮半島の筆(文学者、知識人のモチーフ)から組み立てられている。
日本共産党の党旗では歯車で労働者を、稲穂で農民を表している。
ナチ党左派のオットー・シュトラッサー率いる「黒色戦線(Schwarze Front)」は、「鎌と槌」に影響を受けた「槌と剣」を記章として取り入れていた。
1920年から1934年、そして1945年以降、帝政から共和制へ移行したオーストリアの国章の鷲はその足に「鎌と槌」を伴っていた。マルクス主義に関連する思想の残存物ではなく、鷲の頭の上に位置する「ブルジョワジー」のシンボルとしての城壁冠とともに、「鎌と槌」で労働者と農民を表し、その上に国家が基づく三つの伝統的な身分への言及としての機能のみを持つ。
冷戦後
以前の東側ブロックにおけるいくつかの国々では、「鎌と槌」は「全体主義・犯罪的イデオロギー」のシンボルとして定義され、「鎌と槌」や赤い星のようなその他の共産主義のシンボルの公共の展示は刑事上の犯罪と定義される。グルジア、ハンガリー、ラトヴィア、リトアニア、モルドヴァ(2012年10月1日から2013年6月4日まで)、ウクライナは、「鎌と槌」を含む共産主義シンボルを禁止した。同様の法がエストニアでも定義されたが、議会の承認を得るには失敗している。
現在鎌と槌を国旗に採用する国は未承認国家である沿ドニエストルのみとなっている。