※当記事は、『鬼滅の刃』単行本23巻(最終巻)のネタバレを取り扱っています。
概要
「私の血も力も全て注ぎ込もう」
「もしも即死を免れ生きることが出来たなら」
「炭治郎お前は 陽の光をも克服し 最強の鬼の王となるだろう」
「お前は死なない 私は信じる」
「私の夢を叶えてくれ炭治郎」
「お前が お前が滅ぼせ」
「私の代わりに 鬼狩りを」
『鬼滅の刃』第201話のサブタイトルであり、更に同話で鬼化した竈門炭治郎の便宜上の仮称。
名前の由来は劇中での鬼舞辻無惨の台詞から。
既に存在する「鬼化炭治郎」タグは数百近くのオリジナル設定の作品が投稿されており、更に「201話ショック」名義だと第201話を題材にした作品以外では使い勝手が難しいなど諸々の理由から本タグが作成された(アニメ派や単行本派などで、まだ未読の人達に対するネタバレ防止のための棲み分けも、目的の一つである)。
これらの事情から、今後、公式設定の関連イラストや関連作品には上記のタグではなくこちらの「鬼の王」タグを使用することを推奨。
誕生の経緯
無限城での最終決戦を経て、場外での決戦に持ち込んだ無惨と産屋敷一族率いる鬼殺隊と彼らに協力した珠世達。
新たに当主となった産屋敷輝利哉の指揮の下、柱を始めとした鬼殺隊士達は一丸となって立ちふさがる障害を乗り越えて無惨を追い詰め、ここに至るまで数多の犠牲や代償を払いながら、辛くも夜明けまで持ちこたえる事が出来た。
鬼殺隊との長い一晩の激戦の末、組織を壊滅させられ追い詰められた怨敵・鬼舞辻無惨は、終ぞ克服することは出来なかった朝日の下に磔にされ、日の光の中で焼滅する事となった。
恥も外聞も無く「己の永遠なる生存」のみに執着してきた生命体たる無惨であったが、遂に訪れた死の間際、なんと自らが敗北した結果を潔く認めるに至った。
人間は鬼とは違ってあっけなく死んでしまう弱々しい生物だが、死者の想いを後世の者たちに絶えず継承し続けることができれば、鬼舞辻無惨である私さえも倒せる時が来るのだという事実に、涙を流しながら感動していた。
自分の強さに自惚れていたかつての無惨では、このような心持ちになることはあり得なかった。
無惨は死の直前に至って、自分の夢を他人に継承させる尊さを心の底から理解したのである。
無惨を倒すという目的を死んでも諦めずに想いを継いできた鬼狩りたち。その姿は尊く憧れるべきものだと素直に受け入れた無惨は、自分も彼らと同じく他者へ継承していくことで永遠となれると確信する。
だから、自分も鬼狩りを殺し尽くすという夢は死んでも諦めてはいけないのだと。その夢を他人に託すべきなのだと。無惨は、それが本当に正しいことなのだと心の底から信じるに至った。
無惨は死ぬ直前に、肉の鎧に取り込んでいた炭治郎に自身の血液全てを流し込んだ。
無惨は、何もかも悟りきった慈悲さえ感じさせる穏やかな心持ちで、炭治郎に全ての力を与えた。
最強の鬼である自分を追い詰めた炭治郎こそが、鬼の力を託す「継承者」に相応しいと信じて。
自分には出来なかったことも成し遂げられると祈りという呪いを込めて。
「私の想いも また不滅なのだ 永遠なのだ」
「私はこの子供に 想いの全てを 託すことにする」
戦闘終了後、消えた無惨の身体から出てきた炭治郎の亡骸を前に悲しむ冨岡義勇らであったが、直後に死んだと思われていた炭治郎が覚醒、さらに千切れていた筈の腕が再生し、その場に居た隠の一人に襲いかかろうとした。
本来、呼吸を極めた剣士の身体は鬼にはなり難いのだが、無惨は己の全ての血と細胞を流し込む事で炭治郎を強引に鬼化させた。そしてさらに本来であれば、無惨の細胞を大量に流し込まれた者は変化に耐えきれずに肉体が崩壊して死亡するのだが、炭治郎は無惨の期待通りその大量の血に順応してみせて、その結果無惨の言っていた「鬼の王」として蘇った。
無惨によって作られた全ての鬼は、無惨が死ねば残らず死滅するのだが、「鬼の王」は無惨の全ての力を継承してそれに順応して生まれた「新たなる鬼の始祖」である。故に無惨が死んだ後も独立して生き残り、「無惨の意思を継ぐ者」として活動とさらなる進化を続ける。
かつて産屋敷耀哉は、自分が死ぬ直前に無惨に対して、人の想いは継承できるからこそ永遠だと告げた。無惨がこのような最後の手段を取るに至った理由が、産屋敷の言葉を無惨が心の底から認めたからだ、というのは何と皮肉な事であろうか。
実際は相手の意志を無視して問答無用で鬼にしている今までと全く同じ行動でしかなく、もはや継承というより炭治郎の遺体をウイルスに感染させてゾンビにしたのも同然で、その思想を認めはしても甚だしく自己本位に曲解しているあたり無惨らしさが滲んでいる。
能力
鬼化して間もないせいか、理性もなくただ捕食本能の赴くままに、かつての禰豆子と同様に四つん這いになって素早く動きながら爪を振り回すという獣じみた野性的な戦い方をする。
それからしばらくすると無惨が使ったものと似たような背中から伸ばす複数の触手(ただし血管状だった無惨のものと違い、こちらは生物の脊椎骨のような形状になっている)や全方位に拡散する衝撃波、果ては口から撃ち出すエネルギー弾のようなものといった人間離れした鬼らしい攻撃も少しずつ見せるようになる。いわゆる無惨の全部の技の使いまわしであり、最終的な能力も元の無惨とほぼ同じ強さになると思われる。
何より恐るべきは、無惨の期待通りに太陽を克服し、鬼の始祖たる無惨さえ凌駕した絶対的不死性である。あくまで対峙した義勇の推測でしかないが、太陽光はおろか、赫刀の日輪刀さえこの時の炭治郎には通用しなかった可能性が高い(本来、太陽光は鬼に対する絶対的なる殺傷力を持っており、日輪刀はそもそも太陽光の力を借りたものなので、この推測は間違いないだろう)。そのため、この鬼を倒す方法はほぼ存在せず、細胞ごと破壊する強力な毒か、集団で細胞を一つ残さず完全に消し去るリンチ攻撃程度しか考えられないのも絶望するポイントである。
しかしまだ鬼として未熟な為か、しのぶが調合した藤の花の薬には効果があった。
愈史郎によると、炭治郎が人間に戻れたのはしのぶの作った薬に加え、最初に噛んで血を飲んだ相手が珠世の人間に戻る薬を服用して人間に戻った事で、鬼化への抗体を得ていた禰豆子だったからであり、しのぶの薬と禰豆子の血、どちらか一方が欠けていても人間には戻れなかっただろうとの事である。実際鬼になった炭治郎が禰豆子を噛んだ後は、触手攻撃を除いて身体の行動を停止しており、禰豆子の血液に含まれた抗体を飲んだことで動きが鈍っている。
また、竈門家の中で、鬼化に対する最も高い適性を持っていたのは本当は禰豆子ではなく炭治郎の方であり、それは無惨の血を全て注がれても順応してみせて短時間で日光をも克服した事からも明らかである。故にもし第一話で鬼になったのが禰豆子ではなく炭治郎だった場合、そのまま無惨に日光を克服する力を齎して、そこで物語は最悪の形で終わっていた可能性もあった。
活躍
VS鬼殺隊
鬼になった直後で飢餓状態に陥って理性を失い、涎を垂らしながら義勇や隠の面々に躊躇なく襲いかかる炭治郎に対し、義勇は悔し涙を浮かべながらも「炭治郎が人を殺す前に」「炭治郎のまま死んでくれ」と彼の抹殺を即断。自分を含めて無惨および上弦との戦いでもはやまともに戦える者がほとんどいない今の鬼殺隊の戦力ではその頚を斬って殺すことは困難と判断し、無惨と同じように太陽の光で焼き殺そうと炭治郎を日向で拘束する。
本作のキャッチコピーである「日本一慈しい鬼退治」が、『日本一慈しい鬼』退治へと変わった瞬間だった。
しかし、炭治郎に太陽は効かなかった。
最初こそ日光で皮膚が焼け付いていたが、それもほんの数秒で停止。
無惨は後に太陽光を克服して見せた禰豆子と血を分けた兄にして、「日の呼吸(≒ヒノカミ神楽)」を体得した炭治郎ならば、自身が鬼となっても妹と同じように陽光を克服できるだろうと目算していたが、その予測は見事に的中。
まさかの戦友の変貌に善逸は為す術もなくただ絶望の言葉を零し、伊之助も現場に駆けつけ状況を即理解し炭治郎の頚を斬ろうとするが、彼との過去のやり取りを思い出して剣が鈍り、泣きながら「斬れねえ」とその悲痛な心情を吐露した。
しかし炭治郎が伊之助に襲い掛かる寸前で、遂に人間へと戻った禰豆子が駆け付ける。禰豆子は兄にしがみ付きながら「家に帰ろう」と必死に呼びかけ、これ以上皆を襲うのを喰い止めようとした。
そんな禰豆子や善逸と伊之助の叫びも虚しく、炭治郎は禰豆子を傷つけ仲間達に襲い掛かるが、その状況を見た義勇は禰豆子に噛み付いて人の血肉の味を覚え、なおかつ目の前に血の滴る食い物(禰豆子)があるにも拘らず喰おうとしない事で、炭治郎もまた禰豆子と同様に抗っているのではないかと気付く。
その時現れたカナヲが、義勇が炭治郎の足止めをしている隙をつき、残された左目で「終ノ型・彼岸朱眼」を使った。カナヲは顔を狙った炭治郎の攻撃を回避し、傷を負わされながらも、しのぶから万が一に備えて預けられていた「鬼を人間に戻す薬」を炭治郎に注入(この薬は珠世が作った3つの「鬼を人間に戻す薬」とは別に、しのぶが藤の花から作った物である)。
動きを止めた炭治郎は、カナヲの「禰豆子ちゃん泣かせちゃ駄目だよ・・・」という言葉に反応を見せた。
鬼の王の最後
「お願いします 神様」
「家に帰してください」
「俺は妹と家に帰りたいだけなんです」
カナヲの活躍によって、鬼の肉体の奥底に閉じ込められた炭治郎の意識が目を覚ますが、ただただ家に帰る事だけを望む炭治郎に無惨の肉片が語りかける。
「帰ってどうなる」
「家族は皆死んだ」
「死骸が埋まっているだけの家に帰ってどうなる」
炭治郎は家族との「幸せな日々」の思い出が残っている、そしてそれらは自分と禰豆子が生きている限りは消えないのだと無惨を振り切ろうとするが、無惨は「禰豆子は死んだ お前が殺した」と炭治郎を引き留めようと嘘を吐く。
しかし失った両親や兄弟たちに背を押されながらなおも無惨の支配から逃れようとする炭治郎に、さらに無惨は心を砕こうと辛辣な言葉を投げかけ続ける。
「血の匂いがするだろう、仲間たちの。お前がやったのだ」
「恨まれているぞ 誰もお前が戻ることを望んでいない」
「謝っても許されない」
それでも「みんなが俺を心配してくれてる 匂いでわかる」と決して折れない炭治郎に無惨は業を煮やし、痣の寿命の話を持ち出して炭治郎を説得しようとする。
「黙れ お前は私の意志を継ぐ者」
「前を向くな 人を信じるな 希望を見出すな」
「鬼でなくなれば数年の内に死ぬのだぞ 痣の代償を払わねばならぬ」
「自分のことだけを考えろ 目の前にある無限の命を掴み取れ」
だがそれすらも炭治郎は「無限の命なんか少しも欲しくない いらない」と撥ねのける。
そんな炭治郎に無惨は吐き捨てるようにこう言った。
「屑め」
「お前だけ生き残るのか?大勢の者が死んだというのに」
「お前だけが何も失わずのうのうと生き残るのか?」
炭治郎の自責の念に訴えかけようとした無惨の言葉は、炭治郎の心を挫きかける。
その時だった
炭治郎の背中を押す7人の腕。かつて炭治郎を救い、あるいは救われ、共に戦い、そして命を落とした勇敢な剣士達が、今再び炭治郎を支えていた。
「こんなものお前の妄想だ 恥を知れ!やめろ」と焦る無惨を尻目に、炭治郎は懐かしい匂いを感じとる。
「しのぶさんの匂いがする いや…これは…藤の花の匂いか…」
いつの間にか炭治郎の頭上一面に咲き乱れていた藤の花。そこから差し伸ばされる手は人間に戻った禰豆子の手、そして善逸、伊之助、義勇ら多くの仲間達の手だった。
「お兄ちゃん 帰ろう」
天上へと引き上げられていく炭治郎にしがみつきながらなおも叫び続ける無惨
「手を離せ こっちに戻れ!」
「太陽すら克服したというのに!」
「死んだ者達の憎しみの声が聞こえないのか‼︎」
「何故お前だけが生き残るんだと叫んでいるぞ 何故自分たちは失ったのにお前だけが…」
だが炭治郎はそんな無惨の自分勝手な言葉を「(みんなは)自分ではない誰かのために命を懸けられる人たちなんだ」と一蹴する。
もはや無惨は炭治郎にしがみつく事すら出来ず、取り残されてただ懇願する事しか出来ない。
そしてそんな無惨の言葉にもはや炭治郎は応える事すらなく、そのまま藤の花から差し出された幾人もの手に引き上げられていった。
「炭治郎待て‼︎ 待ってくれ頼む‼︎ 私の意志を思いを継いでくれお前が‼︎」
「お前にしかできない‼︎ お前は神に選ばれし者だというのがわからないのか‼︎」
「お前ならなれる‼︎ 完璧な…究極の生物に‼︎」
「炭治郎 炭治郎行くな‼︎」
炭治郎が目を覚ますと、そこにいたのは人間に戻った禰豆子、そして死闘を共に戦い抜いた仲間達だった。
自身が鬼になってしまい禰豆子を、そして仲間を傷つけてしまった事を謝る炭治郎に、やっといつもの炭治郎が戻ってきてくれたのだと歓喜に沸く禰豆子と仲間達。
こうして炭治郎に自身の歪んだ意志を押し付け鬼の王にしようとした無惨の目論見は潰え、全ては終わり平和が訪れたのだった。
余談
- 実は、炭治郎が鬼と化する展開は予想したものが全くいなかったわけではなかった。その考察の一つの根拠となっていたのが『鬼滅の刃』で随所に見られるキャッチコピー「これは日本一慈(やさ)しい鬼退治」というものである。これは作品を読んだことがある人なら「日本一慈しい」+「鬼退治」という単語の繋がりだと通常読み取れるが、他の読み方が出来る。「日本一慈しい鬼」+「退治」というものである。そして、『鬼滅の刃』で特に優(慈)しさが強調されているキャラクターこそ炭治郎なのである。つまり「日本一慈しい鬼」=「炭治郎が鬼化した姿」として退治される。それこそが『鬼滅の刃』の終盤の展開なのではないか、これが「炭治郎鬼化」の考察であり、実際の展開として炭治郎は鬼と化した。だが、幸運なことに退治されるまでには至らず、完全な的中とはならなかった。この考察が的中したことが偶然なのか正解だったのかはわからないが、この展開に対しての本キャッチコピーが、一部のファンたちにとって特別な意味を持っていたのは事実である。
- 今までもpixivを始めとした二次創作界隈にて、炭治郎が鬼化した作品は幾度となく創作されてきたが、あくまでクリエイター達の妄想、if展開創作にとどまっていた。しかし今回、最終決戦の直後という全員が体力を使い果たし「これ以上戦えない」という状況で公式が実行。しかもそれは、登場人物にも読者にとっても考えうる限り最悪の展開を超えた何かであった。
- 自分の夢を他人に継承させる尊さに感動した無惨は、「鬼狩りを滅ぼす」という想いを他者に受け継がせようとするも、それを無惨自身が殺害し亡骸となった炭治郎の体に 感染させるという自己中心的で真逆な行動をとった。このおぞましい所業に自身の意志を押し付け、この時点では勝ち逃げのように死んでいった無惨へ、どうしようもない気持ちを吐露する読者が多数いた。(これを目撃した愈史郎も日陰に隠れながら「無惨め…!死んで尚これ程他人に不快感を味わわせるとは…!」と激情を露わにしていた。)しかし、そんな勝ち逃げが許される筈もなく、その後の無惨は意思を託そうとした炭治郎に拒絶されて、全てに見捨てられて何も残せないまま一人地獄に堕ちるという、名前通りの無惨な末路を辿った。
関連イラスト
関連タグ
鬼滅の刃 日本一慈しい鬼退治 真のラスボス 究極生命体 みんなのトラウマ
鬼(鬼滅の刃) 竈門炭治郎 鬼舞辻無惨 竈門禰豆子 栗花落カナヲ
鬼化炭治郎←同話よりも先に作成されたオリジナル鬼化。非公式設定用のタグ。
201話ショック…pixivにて絵を探すには使えるが、記事としてはもう使われていないので注意。
私を置いて行くなアアアア!!(実質203話)
鬼のいない世界(204話) / 幾星霜を煌めく命(205話)…第204話と第205話の更なるネタバレ防止用のタグ。
最後の余談
※以下、第205話の重大なネタバレを含みます。閲覧注意。
第205話幾星霜を煌めく命にて、戦いの終結から100年以上が経過し、平和な世界でかつての登場人物たちの子孫や生まれ変わりの人々が幸せに暮らす姿が描かれた。
しかし、鬼として登場した人々の姿はそこにはなかった。
厳密には鬼となり、「人を殺した」経験のある人々は誰一人として存在しなかったのである。
上述の「地獄の存在する世界観」や「地獄の刑期(最も軽いものでも数万年単位)」から逆説的にではあるが、このことは
「人を食い殺した鬼はみな例外なく地獄に堕ち、100年以上が過ぎてもなお罪を償い続けており、また償いきれていない」という証左でもあるといえる。
彼らが「鬼舞辻無惨の犠牲者」という側面を有していながらである。
あの時
もし、義勇の判断が遅かったら
もし、善逸・伊之助の必死さが足りなかったら
もし、しのぶ製の薬がなかったら
もし、カナヲの決死の覚悟がなかったら
そして
もし、禰豆子の悲痛な叫びが兄に届かなかったら
炭治郎もまた、地獄に堕ちていたのである。