概要
『月刊少年マガジン』(講談社)で2016年4月号から連載されている。
正式名称は『龍帥の翼 史記・留侯世家異伝(しき・りゅうこうせいかいでん)』
舞台は史上初めて統一された秦代の中国。漫画『キングダム』(原泰久)の直後に当る。
中国史でも諸葛亮と並び称される天才軍師・張良の活躍、秦朝打倒と楚漢戦争を描く。
川原は学生時代に読んだ『項羽と劉邦』(司馬遼太郎)がきっかけと語っている。
あらすじ
刻は紀元前、秦の始皇帝により中国大陸が統一される。「皇帝」を称する男の力は、大陸全土に及んでいた。その大陸を東に…東夷と呼ばれる蛮地に向かう男がいた。名を張良、字を子房…後に軍師として知られる男の物語が始まる――
登場人物
三虎
- 張良:本作の主人公。通称「白虎」。天才的な頭脳と軍略の才能を持つが身体が弱い。太公望からもらった兵法書のお陰で戦術の知識を身に着けた。韓の宰相であった張家の末裔であり、韓の再興、始皇帝の殺害、始皇帝の死後は秦の打倒を目指して行動し、劉邦の配下となる。道教の健康体操である導引術(黄石曰く「変な踊り」)のお陰で実年齢より容姿が若く見え、今日まで生きながらえているという。
- 窮奇:張良が東の地で会った、国すら討てるという「倉海の一族」最後の生き残り。通称「玄虎」。四凶(舜帝により中原の四方に流された四柱の悪神)の一柱「窮奇」の名を名乗る。大柄で矛を用いて戦い、戦闘能力も高い。
- 黄石:張良が東の地で拾った幼児。通称「黄虎」。初登場時は赤子であったが、成長してみると幼女であった。時々先を見通すような発言をし、一言で相手の本質を見抜き評する能力を持つ。
劉邦陣営
- 劉邦:沛生まれの不良中年。黄石曰く「愚(ばか)の龍」。普段は無能で尊大(黄石曰く「愚」の時)だが、器が大きく時としてカリスマ性を見せる(黄石曰く「龍」の時)。人を見る目、ここぞという時に人に任せる能力、耳の良さだけは異常に高く、配下たちからは愛されている。
- 蕭何:劉邦の部下で、温和で礼儀正しい。戦争における「兵站」の重要性をよく理解しており劉邦軍の補給の仕事に携わる。
- 樊噲:劉邦軍一の勇将で剛勇の人。
項羽陣営
- 項羽:楚の名門、項氏の出で楚軍の総大将。劉邦のライバル。一騎当千の武人だが、「兵糧が減る」という理由だけで降伏した兵数千人を生き埋めにするなど狂気を併せ持つ。瞳に「重瞳子」を持っている。
- 范増:項羽の軍師を務める老人。張良と同じく高い智謀を持つ。張良によると「己の才…謀を振るい…史に刻みたいというだけの奇人」。
- 項伯:項羽の叔父。黄石曰く「大丈夫(だいじょうふ)」(※1)。義により人を殺め、秦から追われているところを張良たちに匿われる。後に劉邦が最大の危機に直面した時には…?
(※1)中国語で「立派な男性」という意味。
- 項梁:項羽の叔父。項羽と共に打倒秦の挙兵をする。
- 韓信:項羽軍の執戟(しつげき)(※2)。黄石に「国士無双」と称される。当時から「韓信の股くぐり」で知られている。軍を指揮したいという願望があり、張良に対し「1000人を指揮したら自分が勝てる」と喝破した。
秦
- 章邯:秦の将軍。元々は文官であったが、秦の大軍を指揮し反秦の反乱勢力を討伐する知将。
- 趙高:始皇帝の末子・胡亥(二世皇帝)に仕える宦官で奸臣。権力をほしいままにし、自分に反対するものは全員処罰する独裁を敷き、秦の衰退を招く。
時代考証
数ある同時代を扱った漫画でも特に時代考証が正確である。
その忠実ぶりは甲冑や冠などの服装や主要人物の行動の経緯や時系列はもちろん、登場人物が食べているもの、「重瞳子」の解釈、挙句の果てには単語に当てる漢字や登場人物の一人称に至るまで徹底的に考証を重ねている。
特に甲冑の描写に関しては、古代中国を専攻する学者からも少しの間違いを除いてはほとんど正確なものと評価されている。
この時代を扱った漫画は吉川英治、司馬遼太郎、横山光輝などの作品を基にしているものが多いのに対し、川原は『史記』の張良についての記述が主となっている「留侯世家」の原文を基本とし、大胆なアレンジを加える、という方針で描いている。
この漫画には監修がおらず、作者の川原のみで全ての時代考証をしている。
そのため、単行本の「作者あとがき」では時代考証に四苦八苦している様子がよくわかる。