「今日お前の番だな? 10分で出すぞ!」
「昔、ちょっとな」
演:橋爪淳
概要
『ウルトラマンZ』に登場する対怪獣ロボット部隊「ストレイジ」整備班のリーダーを務める老年男性。黒縁眼鏡がチャームポイントのロマンスグレー。
セブンガーを初めとした、特空機の整備を担当。昭和気質の寡黙な人物だが、ストレイジメンバーや整備班からの信頼は厚く「バコさん」の愛称で親しまれている。
ストレイジの仲間や特空機は彼にとって家族のようなものらしく、ウインダムのことは「次男坊」と呼んでいる。また、メンバーのことは基本下の名前で呼んでいるが、隊長のヘビクラは「ヘビちゃん」と呼んでいる。
筋金入りの枯れ専(=年上好き)であるヨウコにとってかなりタイプらしく、彼にはデレデレであることも多い。
整備業務以外にも、空手の腕前が相当なものだったり、巨大なマグロを調達して解体したり、手品を披露したりするなど、かなり器用な人物であるのが伺える。これらの描写から、それなりに波乱に満ちた半生を送ってきた事が推測されるが、イナバ本人はいずれの件も「昔ちょっとな」と何処か意味深な表情ではぐらかしている為、彼の詳しい過去は不明。
活躍
- 第2話
第2話にて初登場。
直接の描写はないが、整備班を主導しゲネガーグとの戦いで、機能停止状態となっていたセブンガーを修理したものと思われる。
ハルキやヨウコが居たメンテナンスルームに姿を現し、ヨウコに「(戦いの影響で)セブンガーのスタビライザー(=揺れを軽減して姿勢を安定させる装置)に0.25%の誤差があった」事実を報告。その最中にネロンガ出現のアナウンスが発令、整備班に出撃準備の発破を掛けると共に、セブンガーに搭乗するハルキに「今日お前の番だな? 10分で出すぞ!」と檄を入れた。
- 第3話
2号ロボの開発が一旦ストップになってしまった事を受け、クリヤマ長官に予算を出してもらうよう頼んでいたらしい。また、ハルキが事前にリクエストしていた新兵器「硬芯鉄拳弾」をセブンガーに搭載したことを報告するとともに、「すごい威力だから気をつけろ」と忠告している(だが、直後の戦闘でハルキは、早速観測所破壊と言う大失態を犯しており、危うく予算が出なくなるところだった)。
- 第4話
追加予算により2号ロボ・ウインダムは完成したものの、当初の設計構想から外れ各部のパーツを別々の企業に発注した事で、接続不良による電力ロスが発生し、起動の充電には4日を要すると言う有様だった。その事もあり、残業しながら電力問題の解決を図っていた。
休憩中にウインダムの電力問題で悩みを抱えていたユカと会い、焼き芋をご馳走する。彼女とのやり取りの中で、「ウインダムのダイエット=機能削減」による消費電力の節約を提案されるも、「自分の理想を簡単に捨ててはダメだ」と諭した上で「物には意外な使い道がある。それを利用して理想を叶えるのが自分たちの仕事だ」と忠告し、彼女を勇気付けた。二度目のテレスドン出現の際には、ネロンガの細胞による充電を思い付いたユカの作戦に整備班一丸となって協力し、ウインダムの充電および出撃に成功する。その後は、ユカや整備班メンバーと一緒にゼットの戦いを見守った。
- 第8話
冒頭で行われた武道錬成大会に登場。
ヨウコとの組み手を終えたハルキに声をかけ、「今の技を自分にかけろ」と促す。
ハルキが力を入れても「痛くない」「肩コリが治りそうだ」と平然としているばかりか、逆に右腕一本でハルキを床に倒れ込ませてしまう。
ハルキからどこでその技を習得したのか、と問われるも「昔ちょっとな」とはぐらかすだけだった。
- 第10話
統先研およびストレイジに回収された、キングジョーの復元作業で指揮に当たっている。
その未知のテクノロジーに胸を躍らせる整備班メンバーに対し、「人間は欲が深い。この技術はまだ我々人類には早すぎるのかもしれない」と憂慮していたが、産業革命や蒸気機関を例に挙げ「この技術もきっと人類の未来に役立ちます!」と力説するユカの話を聞き、「そう願いたいね」と、ややシニカルに応えている。
その後、キングジョー奪還を目論むバロッサ星人襲来の警告を聞き、整備班の面々に退避するよう促すが、その直後に星人の攻撃を受け負傷させられる。しかし、土壇場で星人にハッタリ(※)をかけて水(或いはお茶)を浴びせ、そこをハルキに電極で電流を流すよう促し、感電を誘発して星人を怯ませることに成功した。
※昼食の自分の弁当箱を『キングジョーの最終起動装置』だと言って投げ捨てている。盗品なので内部構造を理解していなかった、バロッサ星人だったからこそひっかかった嘘であり、これがペダン星人だったらハッタリだと気付かれていたことだろう。そう考えるとイナバのこの行動は正に賭だったと言える。
その後はまだ傷が完治していないながらも現場に復帰。「防衛ロボットを生かすも殺すもパイロットの腕次第」だとした上で「整備は俺たち整備班に任せとけ」とハルキとヨウコを激励した。
- 第11話
工事現場にレッドキングが出現した為、キングジョーの出動可能時間をヘビクラに問われ「最終チェック中だ! 10分で終わらせる!」と返答し、整備班に発破をかける。その後、キングジョー発進成功に整備班の面々が歓声を上げる中、唯一人感慨深そうにその初陣を見守っていた。
- 第14話
本来は有給休暇の予定だったらしいが、ストレイジ基地での祝賀パーティー開催を聞きつけたのか、何処からか調達したマグロを片手に「マグロ、ご賞味ください」と、どっかで聞いたことのあるフレーズを発し、堂々とメンバーの下に駆けつけた。その後、調達したマグロを解体してメンバーに振る舞ったり、手品を披露したりする等、持ち前の器用さを発揮した。また、基地内がブルトンの能力の影響で四次元空間に閉じ込められて、体が浮き上がる事態に遭っても平然としており、ベテラン故の肝の座った様子も見せている。ゼットによるブルトン撃破後は、普段通り整備班の指揮に当たった。
- 第20話
娘であるイナバ・ルリが登場。彼女が育てていたM1号が巨大化して暴走した際にはヘビクラが提案した「一定地点を越えたら即刻駆除」という条件付きでM1号を元に戻す作戦が失敗に終わりかけたまさにその時「全ての責任は俺が取る」と豪語し、ヨウコに頼み込みキングジョーSCに乗せてもらい、巨大化したM1号の口めがけて「俺の娘を…これ以上悲しませるんじゃねぇぇぇえ!!」と娘を想う父の本音か、はたまたハルキ達に説得されて考えを改めたのか、あるいはその両方を込めて叫びながらワクチンを発射、無事にM1号を元に戻した。
- 第21話
「異次元壊滅兵器D4をキングジョーSCのペダニウム粒子砲に搭載する」という地球防衛軍日本支部作戦部長ユウキ・マイの指示に対し「例えペダニウムでできた砲身でもなぁ、D4レイを撃ったら、そんなもん保たねえんだよ!!」と激しく反発したが、ケルビムの出現により出撃の決まったヨウコに説得され、指示通りD4を搭載させ出撃準備を行った。
- 第22話
ストレイジ解散に伴い広報部に異動。ピエロのお面を被って博物館来場者に風船を渡していた。
その傍ら展示が決定したセブンガーを動態保存しており、バロッサ星人の巨大化に対して打てる手のないヨウコにセブンガーに乗ることを提案した。
また、襲撃された際にはキレのあるキックをバロッサ星人にお見舞いし「ハルキ、ヨウコ!考えるな、感じるんだ!」と某映画スターの言葉を引用しつつカンフーの構えを見せた。
そして、新設された第一特殊空挺機甲群へと転属するかしないかについて部下同士の諍いが起きると、それを宥め、転属組に特空機のことを任せて基地から去っていった。
- 第24話
冒頭のファイブキングとの戦いで病院に運ばれたハルキのお見舞いに来たが、ハルキが突然ヨウコの心配をし始め取り乱したのに対し、落ち着いて事情を聴くためにドライブを申し出る。
そのドライブ中にヨウコが搭乗したウルトロイドゼロが暴走したことを聞き……
「……俺、行きます」
「行くってお前……」
「…………そうか。フッ……行ってこい!」
「……押忍」
ハルキの「行きます」という言葉とその時の目や態度から、彼がウルトラマンZの変身者であることを確信し、最低限の言葉だけを交わすとハルキを送り出した。
ゼットが敗れた後、ヘビクラ、ユカなど旧ストレイジメンバーと合流し反攻作戦のメンバーに加わる。
- 最終回
基地を奪還し、キングジョーとウインダムの整備を仕上げた。ヘビクラの演説の「全員生きて帰って、バコさんのマグロで打ち上げするぞ!」という言葉には思わず苦笑していた。
そして……
なんとセブンガーに搭乗して自ら現場に急行。分離エラーが起きたハルキのキングジョー、バッテリーが切れたヘビクラのウインダムに対してデストルドD4レイを撃とうとするデストルドスに硬芯鉄拳弾を発射してピンチを切り抜けると「骨董品だってなぁ、まだまだ役に立つんだよ!」ということを証明してみせた。
ウインダムに追加バッテリーを渡し、自機に新装備の超硬芯回転鉄拳を装着させると、ハルキ、ヘビクラと共にデストルドスに立ち向かった。
ハルキの変身時には機体を降りてご唱和に加わり、ゼットとデストルドスの戦いを見守った。決着が付いた後はヘビクラとがっちり握手を交わした。
そしてハルキが宇宙へ旅立つ日、ヨウコとユカに宇宙用ロボットの開発の話を振られると「簡単に言うな」と返しつつも開発への決意を固め、ハルキを見送った。
考察
イナバの過去が謎に包まれている事から、彼に関する考察もなされており、演者の件(後述の余談を参照)も相まって、「昔は彼自身もロボット(或いは戦闘機)のパイロットだったのではないか?」とする説が有力視されている。
最終回でセブンガーに乗って出撃したこと、ハルキやヨウコといった現役パイロットにも劣らぬ技量を見せたこと、被っていたヘルメットに「TEST7」と書かれていたことなどから、セブンガーのテストパイロット説まで浮上している。
また、特空機が地球とは本来縁のない、M78星雲のメカニック等に酷似している事から、「特空機のオリジナルと関係が深いある人物が、地球人に擬態した姿である」と言った説や、キングジョーを使用可能レベルまで修理した上に、第10話で負傷させられながらも、バロッサ星人に上記のハッタリを込めた啖呵を切った事から、「何らかの事情で地球に友好的になり、自分の星の技術をストレイジに提供してくれた異星人なのでは?」との説を考察するファンも居る(従来では侵略者側だった星人が、悪意無しに防衛組織の一員になっている例は数作前にもあった)。
但し、第12話にて特空機の誕生にある存在が関わっていた事実が判明した為、宇宙人説は若干揺らぎつつある。
余談
ウルトラシリーズにおいても定着しつつある、特撮作品ではお馴染みの所謂おやっさんポジションの人物。一応、クリヤマ長官も同ポジションであるが、主人公たちと接する機会は彼の方が圧倒的に多い。
直近のシリーズでは、『オーブ』の渋川一徹や、『R/B』の湊ウシオ等に近い立ち位置となっている。
劇中ではヨウコがメロメロになっていたが、作中の整備班としてのプロフェッショナルな姿勢に加え、ハルキ達に対する父親に似た温もり、演者である橋爪淳氏の渋みにやられた視聴者も多く、イケオジ枠として隠れた人気があるらしい。
演じる橋爪氏は過去に『ゴジラVSスペースゴジラ』で主人公・新城功二役を務めており、ゴジラファンにとっては嬉しいキャスティングとなった。これは『Z』の田口監督が『スペゴジ』のファンであったことから実現したキャスティングと考えられる。
尚、橋爪氏演じる新城は対ゴジラ兵器「MOGERA」に搭乗してスペースゴジラと戦っており、ストレイジとは不思議と共通点がある。こうした演者ネタも、上記の元パイロット説を補強する一因となっているようだ。
そして、最終回ではなんと自ら特空機に搭乗して怪獣と闘う(しかも腕にドリルまでつけるというおまけつき)という『スペゴジ』へのオマージュに溢れた展開が用意され、ファンを熱狂させた。
ちなみに、ヘビクラとハルキを助けた後の「間に合ったんだからいいだろう」という台詞も、『スペゴジ』で新城の上官である結城晃が発した「間に合ったからいいじゃないですか」という台詞へのオマージュとなっている。
そうしたことを反映したのか、ビックカメラ京王調布店ではさらっとムービーモンスターシリーズのMOGERAもウルトラマンZのコーナーに置かれている。
橋爪氏は他にも『ゴジラ FINAL WARS』、『ウルトラQ_darkfantasy』にも出演しており、特撮ファンにとっては何気に馴染み深い人物と言える。
また、橋爪氏の身長は178cmであり、偶然にも語呂合わせで「イナバ」となる数字である。
第14話(2020年9月26日放送)のマグロネタについて、元ネタである渡哲也氏の訃報(2020年8月10日死去)が記憶に新しかったことから、一部視聴者の間では「渡氏への追悼の意味を込めてマグロネタを採用したのでは?」という推測も立っている。しかし、特撮ドラマの撮影は少なくとも本放送の2、3ヶ月以上前に行われることが多いため、第14話撮影の時点で渡氏はまだ存命であり、訃報と第14話放送の時期が被ったのは単なる偶然の可能性が高い。また、撮影に使われてたマグロは本物だが、新型コロナウィルス感染症対策で実際にはキャスト陣は食べる事ができなかったらしく、「食べている演技をしていた」「生殺しとはこの事か」と当然キャスト陣も残念に思っていた様で、直接食べているシーンが本編にないのはこれが原因と思われる。
橋爪氏は演技プランを練るにあたって「かつて自分が作ったロボットで若者を死なせてしまった過去がある」という裏設定を作った。ペダン星人のテクノロジーを人類が使うことへの憂慮や、D4レイ搭載の突貫工事に対する強い忌避感も「いつも死と隣り合わせなストレイジの若者たちの命を守りたい」という信念に裏打ちされたものだと推測できる。
キャラクターのイメージは『プライベート・ライアン』のトム・ハンクス。トランプマジックのシーンは橋爪本人が演じている。「昔、ちょっとな。」というセリフはニュアンスを意識して変えている
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石室章雄:『ウルトラマンガイア』での防衛チームXIGのコマンダー。渡辺裕之氏が「過去にガイアの光に出会ったことがある」と考えて演技しており、訳アリな裏設定繋がり。